長い一日だった気がする。
いつもの夢を見て、うなされて。
いつものように、死にたくても死ねなくて。
太陽が昇って明るくなり、暗くなって月が昇る。
由菜を失ってから色も意味も無くなった回数だけが重なっていくだけの無限ループ。
永遠に続くと覚悟していたそれは、やっぱり香澄由菜という存在が全部壊してくれた。
夜、布団に入る時に僕は思った。
生きててよかったと。
─いや、随分大袈裟だね...─
「大袈裟なものか。意味もないこんな命、とっくに投げ出しってたっておかしくなかったんだ。それでも、由菜の言った通りに生きてきた。それが報われたら、意味があったって思えたら、それはとても嬉しいよ。」
布団に寝っ転がり、傘型の電灯の中のランドルト環の形をした蛍光灯の隙間を眺めて僕は言う。
─禍月は、さ...そんな視点だけど、やっぱり息苦しくない?生きづらそうとは思ってたけど、ここまでくると生きるのが嫌ってレベルだよね。─
「そうだよ、由菜。僕は生きてるのが嫌だ。早く死にたい。いなくなりたい。誰にも必要とされず、されたとしても誹謗中傷の的だ。命を誰かにあげることができるなら、僕は喜んで由菜に...」
「やめて!」
由菜が僕の身体を使って制止する。
窓から射し込む月明かりは僕の身体の半身を照らし、入ってくる微かな風がレースカーテンを揺らして影を踊らせる。
─やめてよ、禍月...そうやって卑下し続けたら、また自分を追い込んじゃうだけだよ...─
その通りだと思う。けど、他人に当たるよりかはいい。他者に対して力をひけらかして服従させたり、暴言の限りを尽くして傷をいくつも作り出すような愚行をするよりかは、断然自分を痛めつけた方がいい。
「他人を傷つけるよりかは、よっぽどマシさ。」
─...優しすぎるね、禍月は。─
優しい、か。
「優しさってなんだろうね、由菜。」
─わかんないよ、そんなの...─
由菜の声音は少し重かった。
言いたいことを隠して、ニュアンスだけを言葉に乗せて重くする。コミュニケーションの技術だ。
だけど由菜の言いたいことはわからない。
聞くのは...きっと怒られる。
だから何も言葉が流れない無の時間が生まれた。
─ねぇ禍月。学校、行かないの?─
そんな時間を耐えられる由菜ではない。
そして、藪から棒に出されたその問に耐えられる僕でもなかった。
「行かない...行けないよ。それに今の僕が行ったら、死んだ友人の幻覚を見ているただのヤバい奴扱いが目に見えている。」
─私と会話しなきゃいいじゃん。─
「由菜なしで生きれると思うかい?この僕が。」
我ながらこの返しは酷いものだとは思うけれど、もう学校というものに価値を見いだせない僕は割となりふり構ってないのだなと思う。
─この3ヶ月ちゃんと生きてたのによく言うよ...─
だけど、由菜の方が上手だった。
「うっ...」
─まぁでも、行きたくないのはわかるかな。禍月の記憶によると...結構禍月的に相性悪いウェイ系が多いクラスだし...─
そう、僕のクラスはお調子者が多い。
つまりはノリがいいのだけど、それは同調圧力が強いということも意味している。それは一人を好む僕には苦痛以外の何者でもない。
「だから、行かないでいいんだよ。僕はもう、これでいいと決めたんだ。」
逃げと言われたっていい。逃げる前に取り返しがつかなくなるよりかは断然いい。
─そういうとこは、譲らないよね。─
「あぁ、譲れない。」
クスッと笑った後大きなあくびが出た。
そうか、眠いのか僕は。
「じゃあ、おやすみ由菜。」
─おやすみ、禍月。いい夢見てね。─
夢、か。もうきっと、あんな夢は見ないと信じて僕はようやくゆったりとした眠りについた。