ニ不二のじゆう帳(一発ネタや未完作品)   作:二不二

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[ネタ]鬼滅の刃で剣キチオリ主(6)_2020年1月

 **

 

 

 玉砂利の敷きつめられたおおきな庭。

 まっしろな玉砂利は、よく角が取れてつるんとしていたけれども、石であるから触れば硬い。膝をつけば、とうぜん痛い。

 にも関わらず、身じろぎひとつせず膝をついて、じっと面を伏せる八つの人影があった。

 

 もしも鬼殺隊の一般隊士がこの景色を見れば、なにごとかと驚き目を剥いたにちがいない。片膝ついて居並ぶ人影は、鬼殺隊の頂点たる「柱」の面々だったのだ。

 隊服の上のまっくろな羽織には、赤くおどろおどろしい「鬼滅」の二文字。腰に提げた日輪刀のおおくは、ふつうの日輪刀とはまったく形状を異にする異形の刀。なにより、彼等のまとう気配には、辺りを払う圧倒的な暴力のにおいがつきまとった。

 

 見かけも発する雰囲気も、もちろん実力も、十把一絡げの平隊士とはまったく異なる鬼殺の修羅たち。

 彼等はまた、その扱いづらい人柄でも知られていた。鬼を殺すことが至上の目標で、その他のことにはほとんど気を掛けぬ、人格と強さとをひきかえにしたとさえ揶揄される連中である。

 それが、揃いも揃ってじっと庭先に伏せている。

 

 このあり得ざる光景を実現させる権威――

 それは唯一人しか持ち得ぬ。

 

「やぁ、よく集まってくれたね」

 

 きらめく陽光のような、やさしく美しい声音。

 屋敷の縁側に立つその女は、姿もまた美しかった。

 腰まで流れる鴉の濡羽色の艶髪。まっしろな肌は、黒髪を背景にいっそう白く儚く。長い睫毛をたくわえた瞳は、睫毛から雫のようにきらきらこぼれる陽光をまとった宝玉である。

 

「御館様……」

 

 と呼ばれた女は、その名を産屋敷(うぶやしき)耀夜(かがや)といった。

 

「此度こうして集まってもらったのは、他でもない。ひとつの吉報と、ひとつの重要な情報が手に入った」

 

 縁側に立つその姿は、太陽を背負って神々しい。

 まるで日輪を背負った仏のようなその姿に、仰ぎ見る者は自ずから頭を垂れて膝をつく。

 

「まずは吉報からだね。『下弦の参』が斃された」

 

 声もまた、聖行基の唱える経文のように耳にやさしい。

 その声にしばらく聴きいっていた面々は、理解が追いつくや、喜びの声をあげた。

 

「なんと」

「十二鬼月を斃したか!」

「喜ばしいことにね。これを成したのは丙の隊士、首塚持暇(もちやす)だ」

「丙ぇ? 最下級じゃねェか」

 

 足から顔まで全身傷だらけの男が、ぎょろりと三白眼を剥いた。

 それは他の「柱」たちの胸中の代弁でもあったので、耀夜はにこりと笑って言葉を継いだ。

 

「彼は『藤の山』を出たばかりの新人だからね。他の『乙』隊士二名と協力して、これを討った」

「なるほど」

 

 と「柱」たちは頷いた。十二鬼月の相手は、平隊士ひとりには荷が勝つ。十二鬼月が出現したとなれば、すぐさま「柱」を呼びつけるか、ありったけの隊士たちを投入して、この討伐に当たる手筈になっているのだ。

 

「さて。『下弦の参』を斃した持暇くんだけど、彼は、その後現れた鬼と交戦し、返り討ちにあってしまってね」

 

 この報告に対する反応は、個性的なものばかりだった。

 

「あァ? なんだァ、せっかく『下弦』を斃したのに、やられちまったのか。だっせぇヤツだな」

 

 と吐き捨て、三白眼をぎょろりとする男もいれば、

 

「可哀想に……」

 

 哀れみの涙を流して数珠をこする巨漢がおり、

 

「愚かな」

 

 言葉少なに冷たい視線を地に投げる、無愛想な青年もいた。

 だが、続く耀夜の言葉にたいする反応は、どれも同じだった。

 

「相手は『上弦の壱』だよ。それを相手に辛くも彼は生き延びて、貴重な情報を持ち帰ってくれたんだ。これまで謎に包まれていた敵の正体が分かった」

 

 その報告に一同は息を呑む。

 例外はひとりの女性。艶やかな長髪を揺らして、その女性は桜色の唇にくすりと笑みを浮かべた。

 胡蝶カナエである。彼女だけは持暇のことを知っていたので、このサプライズに驚くことなく、他の「柱」達の反応を楽しむことができた。

 

(やっぱり、皆さんびっくりしてますね。不死川さんは目をギョロギョロさせてますし、宇髄さんは派手に驚いてますね。煉獄さんも……あれは驚いてるのかしら)

 

 風柱・不死川(しなずがわ)実弥(さねみ)

 傷だらけのこの男は「マジか!?」とでも言わんばかりに三白眼をギョロリと見開いて驚きをあらわにし。

 

 音柱・宇髄(うずい)天元(てんげん)

 元忍びとは思えぬ派手な格好をした彼は「派手な功績じゃねぇか」と喜んでいた。

 

 炎柱・煉獄杏寿郎(きょうじゅろう)

 燃える炎のような髪をしたこの青年は、どこを見ているのか、空に視線を投げて「そうか! これは有り難い!」といつもと変わらぬ調子で笑っていた。

 

(相変わらずなのは、悲鳴嶼さんと冨岡さんですけど)

 

 岩柱・悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)

 この元仏法僧の巨漢は、めしいた瞳から滂沱の涙を流しつつ「きっとひどい手傷を負ったのだろう。可哀想に……」と手を合わせて数珠をこすり。

 

 水柱・冨岡義勇(ぎゆう)

 寡黙なこの青年は、無表情にだんまりを決め込んでいたので、何を考えているのかよく分からない。

 

(その分だけ、表情豊かな水木さん、貞子ちゃんは見ていて楽しいわ!)

 

 木柱・水木枝ケ縷(しげる)

 四十がらみのこの壮年は「ギョギョー!」と大口を開け、手を振って大仰に驚きを表現し。

 

 墨柱・幽忌(ゆうき)貞子(さだこ)

 長い前髪で目許をかくした、幽鬼のような不気味ななりをしたこの少女は、「うひひひ……鬼の情報……鬼の頸……」とケタケタ嬉しそうに笑っている。

 

 そんな一癖も二癖もある「子ども等」を愛おしげに見やり、耀夜は蕾のような唇を開いた。

 

「皆も気になるようだね。それじゃあ、さっそく『上弦の壱』の情報を伝えよう」

 

 その言葉は、「柱」たちをたいへん喜ばせた。

 十二鬼月の頂点『上弦の壱』は、その情報が秘匿の簾のむこうに隠されている。それというのも、彼の鬼と出会った隊士は、ことごとく殺されてしまうからである。

 鴉だけは、遠くから戦いを見守り、隊士が死ねばさっさと逃げおおせて、ちゃっかり『上弦の壱』の存在を伝えてはいたけれども、鳥類の知性には限界があったから、詳細を伝えることは不可能であった。

 

 数百年もの間、対峙した鬼殺の隊士をことごとく葬ってきた最強の鬼の、頸へといたる道標。これを得られると聞いて、滾らぬ「柱」はいない。

 しかし彼等は、縁側に現れたひとりの青年を見て、眉を寄せることとなった。

 

「首塚持暇(もちやす)。彼こそがこの度『下弦』を斬り、鬼殺隊史上はじめて『上弦の壱』の情報を生きて持ち帰った、(くだん)の剣士だ。彼には見たことをそのまま伝えてもらう。……良いかな、持暇くん」

「是非もなく」

 

 耀夜は親しげに持暇の肩に手をかける。

 その瞬間、「柱」達からいっせいに殺気が持暇めがけて放たれた。

 

 産屋敷耀夜はまごうことなきカリスマである。

 彼女を知る隊士は、一人の例外もなく彼女に惹かれ、その願いの成就「鬼の根絶」に命を燃やすことを誓う。

 それは「柱」とて例外ではない。彼等は、一人ひとりが鬼狩りに命を賭ける理由をもっていたけれども、もしそれが無くとも、耀夜のために死力をふりしぼることを誓っただろう。

 

 隊士を「我が子」と呼ぶ耀夜は、一人ひとりの隊士の名前から活躍までを詳らかに覚えていて、機会があれば直接言葉をかわしてその労をねぎらった。

 その瞳にはたしかな愛情が満ちていて、それは、家族を鬼に殺された者がひさびさに得る「親からの無心の愛情」なのだった。

 

「むぅ。そのように怒られても……」

 

 怒る「柱」たちに、持暇は呆れの視線を返す。ようするに、それは、「親」を取られた子どもが起こす癇癪なのだった。「アイツ、御館様になれなれしい!」というワケである。

 

「ふふ、どうだい。私の自慢の子どもたちは」

 

 そんな彼等が可愛くてしかたがないのだとばかりに、耀夜はあたたかく微笑んだ。それで、「柱」たちもすっかり毒気を抜かれてしまう。

 その瞬間を見逃さず、耀夜は言葉を継いだ。

 

「さぁ、挨拶はこれくらいにして、『上弦の壱』の貴重な一次情報を聴こう」

 

 

 **

 

 

 持暇は一生懸命に語った。

 ところが、である。

 

「『上弦の壱』とか呼ばれる剣士殿の技は、それはそれはすごかった。こう、するりと動いたかと思えば、ピシャリと駆け抜け、ズバァッと刀をふるうのだ。とにかく疾い! のみならず、ズオッと飛ぶ斬撃や、三日月の斬撃が刀身からフワッと飛び出して、アレはまこと『剣理』を極めた至高の剣士と言えようなぁ」

 

 その語りはあまりに拙かった。

 事前に話を聴いていた耀夜とカナエ――いち早く戦場に駆けつけて血溜まりに沈む持暇を助けた「柱」は彼女だった――の二人は、おっとり微苦笑をたたえていたけれども、他の「柱」たちは眉間にしわを寄せた。

 

「御館様、コイツ口下手すぎてワケが分からねぇ! 義勇のバカとどっこいどっこいだ」

「俺は口下手ではない」

 

 怒声をあげる風柱・不死川実弥と、口数すくなく反論する水柱・冨岡義勇。

 

「きっと鬼にやられた衝撃で、頭がおかしくなってしまったのだろう。可哀想に……」

「くふふふ……バカだバカだ……」

「あわてるな。おちついて話を聞きなさい。――おっと、腹に力を入れすぎたようだ」

 

 岩柱・悲鳴嶼行冥はいつものように泣いて憐れんで。墨柱・幽忌貞子はケタケタ笑い。木柱・水木枝ケ纏(しげる)はブッと放屁した。

 そんな騒がしい連中に構わず、あくまでマイペースに持暇は続ける。

 

「ああ、そういえば、剣士殿は『月の呼吸』と自らの技を呼んでおったよ」

「なに! 『月の呼吸』だと!」

 

 これに反応したのは炎柱・煉獄杏寿郎である。

 彼は、どこを見ているのか不確かな瞳を持暇の方へ向け、大声をあげた。

 

「知ってんのか、杏寿郎」

「ああ! 実家に伝わる、代々の炎柱の記録を記した本に、記述があった! それは『日の呼吸』と対をなす、はじまりの呼吸だったはずだ!」

「はじまりの呼吸ゥ?」

 

 すぐ隣で大声をあげる杏寿郎に顔をしかめ、耳を押さえる風柱・不死川実弥。

 その疑問に答えるべく、耀夜が口を開く。

 

「その通り。戦国時代に現れた、いちばん最初の呼吸。それが『日の呼吸』と『月の呼吸』だ。すべての呼吸はこれらから派生したと言われているが、たしか、これら二つの呼吸は誰にも受け継がれず、以降の鬼殺隊の歴史のなかにも現れなかったはず」

「ということは、『月の呼吸』の隊士は醜い鬼になり果て、もう何百年もこの憂世を彷徨っているというのか。可哀想に……」

「くふふ……正体不明の『呼吸』を操る最強の鬼……濡れる……」

 

 滂沱の涙を流す巨漢に、もじもじ股を揺する不気味な少女。

 そうした強烈な面子をまとめる耀夜もまた、ただものではない。彼女は、くすりと微笑むと、何事もなかったかのように持暇に目配せをした。

 頷きを返して、持暇が口を開く。

 

「百聞は一見に如かずという。どれ、ここはひとつ俺が剣士殿の技を再現してみせよう」

 

 縁側から素足のまま、玉砂利へと降りる持暇。

 彼は、腰に提げた木刀を抜き放つと、すっと正眼に構えた。

 

「おや? 『月の呼吸』は受け継がれなかったのではありませんか?」

「まずはご覧あれ」

 

 大仰に両腕を開いて懐疑のポーズを取る木柱・水木枝ケ纏(しげる)に、持暇はカラリと笑う。

 木刀を上段に掲げ、剣気を篭める。そのまま振り下ろせば、木刀は、青白い月のような燐光を軌跡にふりまいた。

 

 三日月の形状をした斬撃。

 それは、さんさんと地面に降り注ぎ、敷き詰められた玉砂利をいくつも斬り裂いた。

 

「おい、なんだよその派手な技!」

 

 音柱、宇髄(うずい)天元(てんげん)が嬉しそうな声をあげる。

 だが、誰もが彼のように脳天気な反応を示したわけではない。

 

「お前、どうして『呼吸』も使わずに、そんな技が出せる」

「持暇さん! あなた、呼吸は使えないって言ってたじゃない

ですかっ」

 

 風柱・不死川実弥は、なにがそんなに気に入らないのか、ぎりりと奥歯を噛んで、呻くように声を絞り出し。

 花柱・胡蝶カナエは飛び上がって驚き、それからぷりぷり怒ってみせた。

 

「応とも。俺は『呼吸』など使えん。だが、こうして刀を振るうことができるのだ。『型』とやらも剣理に基づく以上、ある程度再現できるのは道理であろう?」

 

 なんたる才気であろうか。

 鬼狩りの隊士達が「呼吸」という身体能力増強術を用いてようやく実現可能なおそるべき剣技の、しかも上澄みともいうべき妙技を、彼は素の身体、腕の一本で再現してのけたのだ。

 

「俺は認めねぇぞ。そもそも呼吸も使えねぇような半端者だ。多少刀が振れたところでどうなる。鬼には近寄れねぇし、そもそもどうやってヤツラを斬るんだ。ヤツラは硬ぇんだぞ」

「……まがい物。一流では……ない」

 

 不機嫌な不死川実弥と、寡黙な冨岡義勇。

 ふたりの否定的な意見に、持暇は首肯を返し、

 

「その通り。こんな技は、たんなる猿真似に過ぎぬ。剣士殿の技はもっと疾く力強かった」

 

 だが、と言葉を継ぐ。

 

「それすらも、俺は斬った。次こそは、剣士殿のすべてを斬り裂いてみせよう。『斬撃』に斬れぬものはないのだからな」

 

 持暇は呵々と笑う。目はぐるぐると歓喜が渦を巻き、それは、斬ることが楽しくてかなわないのだと主張している。

 その瞬間を想ったのか、持暇は顔を上気させて、たのしそうに腰の木刀の柄を撫でる。抑えきれぬ剣気があふれ、それは、またたく間に辺りに(はし)る。

 

 ――おぞましい。

 ぬるりとした触手に背中を撫でられたような心地がして、柱たちはぶるりと背を震わせた。

 

 そんな折りである。

 闇を払うかのような、清々しい声音が割って入ったのは。

 

「彼の業はすごいんだよ。報告によれば、鋼鉄よりもなお硬化するという『下弦の参』血鬼術を、彼はこの業で以て真正面から斬ったという話だ」

 

 だから、と彼女は続ける。

 

「きみたちには、彼の『斬撃』を覚えてもらう。ほんとうは、一人でもおおくの子どもたちに、すぐにでも習得してもらいたんだけどね。彼は口下手なところがあるから」

 

 耀夜は、ちょっとだけ苦笑いして、持暇を見た。それから、居並ぶ柱たちを頼もしそう見やる。

 

「剣士として優れた才能を持つきみたちに、まずは習得までの道筋をつけてもらう。そうして見つけた教授法にもとづいて、他の子どもたちを鍛えよう。ああ、でも――」

 

 信頼に満ちた声に、柱の面々は頬をゆるめる。

 だ、それも一瞬のこと。

 続く発言に、一同はごくりと息を呑むこととなったのだ。

 

「――それまでに鬼殺隊が必要なくなっているかもしれないね」

「ええっと、御館様、それは一体……」

 

 花柱・胡蝶カナエが困惑の声を出す。それは一同の心の代弁であった。

 

「これまで『上弦の壱』は、相対した隊士を悉く屠ってきた。そういうふうにヤツ(・・)に厳命されているのか、それともそういう信条(ポリシー)があるのか。とにかく、持暇くんが生きていると知れば、絶対に殺しにくる」

「それは、御館様の勘ですか」

 

 産屋敷家当主の勘働きはすさまじい。

 数百人の隊士を養うどころか、その服やら刀やら薬やらをすべて用立て、更には鬼との死闘を世間一般に秘匿するための鼻薬を準備するだけの資金。それを、彼女は経済界で「勘」を振るうことで得ているのだ。

 それは、もう、未来を見通す神通力といっても過言ではない。

 

「うん。その戦いが、おおきな流れを引き起こすと、私の勘がささやくんだ」

「それは、つまり……」

鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)。ヤツが現れる」

 

 鬼舞辻無惨。それはすべての鬼を産みだし操る、おそるべき鬼の首魁である。

 

「総力を挙げて『上弦の壱』を討つ。そして無惨を斃し、産屋敷一千年の悲願を成就させる」

「悲願、とな?」

 

 この場でただひとり事情を知らないでいた持暇が、暢気に小首を傾げた。

 

「うん。鬼舞辻無惨は遠い昔、平安時代に産屋敷家に生まれた、一族の者なんだ。それが、とある外法によって鬼と化した」

「はぁ。そのようなことが」

「知っての通り、無惨はあまりに多くのひとびとを苦しめてきた。その行き場のない怨嗟に、産屋敷の当主は代々祟られてね。かならず病弱に生まれ、三十の齢を数えるより早くに病を得て亡くなるんだ」

 

 耀夜はそっと顔を伏せる。

 今にも足許の影に吸われてしまいそうな、儚げな様子に、柱の面々は顔を曇らせる。

 

「親方様……」

「ああ、可哀想に……」

「悲劇のヒロイン……泣ける……」

 

 騒がしい連中だなと、持暇は内心辟易する。

 そんな内心を見透かしたか、耀夜は困ったように微苦笑して、続きを語りだす。

 

「本当なら、死んでしまう前に跡継ぎを残すんだけれど。どうにも私の身体は、出産に耐えられそうにない。親子ともども亡くなってしまう。そんな予感がするんだ」

(くだん)の勘ですか」

 

 だから、と耀夜は持暇を見て言った。

 

「持暇くん。私はきみを振るいたい。きみという刀で以て、すべての鬼を、鬼舞辻無惨を斬りたい」

 

 耀夜の瞳が、持暇を見つめる。

 春の太陽のようなあたたかな瞳の、しかし奥底には、黒い執念がぐるぐる渦巻いていて、それは、触手を伸ばして持暇に絡みつく。

 

「きみは刀だ。でも、残念なことにこれまでは担い手がいなかった。これからは私がきみを振るおう。――持暇。きみはすべてを私に委ねなさい。親のことも師のことも、義理も人情も道徳もなにもかも、もう気にするフリをする必要はない。それらは担い手である私がすべて引き受ける。きみはただ、私が引き合わせる鬼を斬れば良い。きみで、無惨を斬らせてほしい」

 

 情熱的な告白だった。

 首塚持暇というひとふりの刀にとって、それは、なにより魅力的な殺し文句である。

 果たして、持暇は受け入れた。

 

「――輝夜殿。いや、主殿」

 

 持暇は、ここへきて初めて跪く。

 玉砂利に膝を突き、上体を投げ出して、平伏して宣言する。

 

「あなたこそが俺の鞘、俺の担い手、俺の主。どうか存分にお使いください」

 

 だが、それに待ったをかける者がいた。

 風柱・不死川実弥である。水柱・冨岡義勇も続く。

 

「こいつも総力戦に参加させるのかよ。呼吸も使えねぇのに、どうやって『上弦』を斬るってんだ」

「『下弦』は……まぐれ……やめておけ……」

 

 その言葉に、いかなる感情を抱いたか。

 持暇はゆらりと立ち上がる。

 

「俺の実力が信じられぬのは、まぁ良い。だが、『斬撃』を馬鹿にされるわけにはいかぬ」

 

 彼は、するりと歩いて、庭の端にある木へと歩み寄った。

 

「お前にも見せてやろう。――おい、お前だ。さっきから木の上から主殿を見下ろす、そこな不敬者(ふとどきもの)よ」

「あ?」

 

 そこに居たのは、蛇柱・伊黒(いぐろ)小芭内(おばない)である。

 彼は、「柱」の面々が驚いたり怒ったりあれこれ騒いだりしている間も、じっと木の上に潜んで高みの見物を決め込んでいたのだ。

 

 持暇は、枝を手折ると、これをふるって調子を確かめた。

 枝はムチのようにしなり、ヒュオンと風切り音を響かせる。力をこめれば、すぐにでも折れてしまいそうな、それは弱々しい枝であった。

 

「主殿に対して無礼であろう。疾く地に伏せよ」

 

 それを刀のように構え、そのまま木の幹めがけてふるった。

 いったい何を、と訝しむ「柱」たちの面は、次の瞬間には驚愕に彩られることとなる。

 パキンと音をたてて、枝が折れる――

 という予測は、裏切られた。枝はするりと、水中を泳ぐように幹を通りぬけたのである。

 

「斬った」

 

 果たしてその言葉どおり、木は両断された。

 幹に斜めの筋が生じる。その文様を境目にして、木はずるりと二つに分かれ、重力にひかれてズズンと崩れ落ちたのだ。

 

 居並ぶ七人の柱と、不条理を前にした驚きで地面に腰をつく蛇柱。

 彼等を前に、この凶刀は生涯でただ一度きりの誓いを立てた。

 

「主殿。ここに誓いましょう。俺はあなたの刀となり、あなたの望むまま、相対するすべてを必ず斬り裂くと」

 




7,923文字


時系列で言えば、甘露寺蜜璃や時透無一郎が柱になる前です。炭治郎の修行中に、無一郎が霞柱に就任したとのことなので、原作開始前。
だと思います。きっと。多分。願わくば。

次回は柱たちとピクニック(鬼狩り)。


義勇さんの圧縮言語 解凍講座
「愚かな」:
「(こんな優秀な隊士を丙のまま放っておいたとは、我々は)愚かな(ことをしたものだ)」

「……まがい物。一流では……ない」:
「(呼吸こそ使ってはいないが)まがい物(ではない)。一流(の剣士とは、呼吸などなくとも技を成すものだ。事実、おおくの強者がいた戦国時代)では(呼吸など存在し)ない」
「その通り。こんな技は、たんなる猿真似に過ぎぬ。剣士殿の技はもっと疾く力強かった」
「(´・ω・`)カンチガイサレタ」

「下弦は……まぐれ……やめておけ……」:
「下弦(を斬ったのは)まぐれ(なんかじゃない)。(不当な物言いは)やめておけ」
「俺の実力が信じられぬのは、まぁ良い。だが、『斬撃』を馬鹿にされるわけにはいかぬ」
「(´・ω・`)マタカンチガイサレタ」


オリ柱の元ネタ
水木枝ケ縷(みずき・しげる):
 水木しげる先生が元ネタ。

「ギョギョー!」と大口を開け、手を振って大仰に驚きを表現し:
「水木しげる先生ポーズ集」で画像検索してみてください。

「あわてるな。おちついて話を聞きなさい。――おっと、腹に力を入れすぎたようだ」:
 ニセ鬼太郎のセリフ。

幽忌貞子(ゆうき・さだこ):
 リングの貞子が元ネタ。
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