ニ不二のじゆう帳(一発ネタや未完作品)   作:二不二

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[ネタ]鬼滅の刃で剣キチオリ主(7)_2020年1月

 鬼の首魁、鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)は怒っていた。

 

「先日、『下弦の参』が殺された」

 

 無惨が根城とする異界の城「無限城」。その座敷に居並ぶ五体の鬼、すなわち『上弦』の鬼たちに、不機嫌な声を投げつける。

 

「それ自体はどうでも良い。お前たち『上弦』と違って、『下弦』の愚図どもは情けないことにころころ入れ替わるからな。あの鬼殺隊とかいう煩い羽虫ごときにやられて」

 

 それは八つ当たりに他ならない。

 しかし、鬼達は黙って跪き、理不尽な怒りの波動をやりすごす。おそろしいことには、彼等の胸中には、いらだちや困惑といった負の感情はいっさい浮かんではいない。無惨は配下の鬼の心や視界を盗み見ることができるので、きびしく己の心を律する技能を、努力の果てに彼等は会得した。

 

「どうしてヤツラはこうも無能なのだ? 『青い彼岸花』を見つけることもできず、それどころかこうして私の手を患わせるばかり」

 

 そんな部下の健気な努力をつゆほども知らぬ無惨は、何の気なしに、話題を居並ぶ『上弦』に関する事柄へと転がした。

 

「その点、お前たち『上弦』は良く努力している方だ。童磨は『極楽教』の教主として人間どもをつかって資金調達や情報集めをしているし、他の面々は日本全土をその脚で歩き、情報集めや煩い羽虫(鬼狩り)どもの駆除をしている」

 

 気むずかしい鬼上司が褒めてきたので、鬼たちは、ひそかに困惑する。

 

「先日も、『下弦の参』を殺した羽虫を、近くに居合わせた黒死牟が倒した」

 

 話の転ぶ先を見極めようと、『上弦の壱』たる黒死牟(こくしぼう)は六つの目を見開いた。

 そんな黒死牟を冷たく見下ろして、無惨は言う。声音に、あからさまないらだちの色を滲ませて。

 

「だが、抜かったな。生きているぞ、あの羽虫は」

 

(あーあ、やっちゃったねぇ)

 

 という『上弦の弐』童磨の声なきからかいの声が、満面の笑みから放たれる。

 といっても、その面はそっと伏せられ、誰からも窺うことはできない。鬼上司の顰蹙を買うようなマヌケに、生きて『上弦』まで上り詰めることなどできよう筈もない。なにせこの鬼上司ときたら、ちょっとしたことですぐ機嫌を損ね、ちょうど子どもが玩具に当たり散らすように、鬼どもを殺して気を晴らすのだ。

 そんな鬼上司と戦国時代以降、数百年の付き合いの黒死牟である。寡黙な彼は、いっさいの感情を面にのぼらすことなく、しずしずと頭を垂れる。

 

「……申し訳……ござらん」

「ほぅ」

 

 鬼舞辻無惨は感心した。黒死牟の姿勢は、じつに潔く彼の目に映ったのだ。

 

 ――いっさいの申し開きはありません。我が頸をもってお詫び致しましょう。

 

 そう聞こえてくるかのような、それは誠意ある姿だった。

 実際、彼の胸裏には強い自責の念が浮かんでいる。だが、それだけではない。その底には、刀すら一瞬で融解せしめる獄炎が渦を巻いていたのである。

 

「此度は許す。だが黒死牟よ、分かっているだろうな」

「はっ」

 

 黒死牟は短く肯んじて、ギリリと拳を握りしめる。

 

「かならず……ヤツを殺す」

 

 黒死牟は静かに怒っていたのである。

 

 

 **

 

 

「だぁぁ、どうやってこんなので斬れってんだァ!」

 

 満月の夜である。

 月明かりのなか、木刀を振りまわして風柱・不死川(しなずがわ)実弥(さねみ)が慟哭した。

 

「黙って……斬ろ」

 

 無愛想なのは水柱・冨岡義勇である。彼もまた、使い慣れた日輪刀ではなく木刀を携えている。

 

「その通り。ただひたすら斬ることに集中するのだ。さすれば斬れる。こんなふうにな」

 

 持暇は、逃亡を図った鬼を木刀でひと撫でする。

 たちまち鬼は脚を斬られ、もんどり打って地面に転がった。

 

「だいたい、刃もない木刀でどうやって斬るんですか? 私、理屈がわかりません……」

 

 と尋ねたのは、花柱・胡蝶カナエである。

 ひらひら揺れるスカートから伸びた太腿を、おおきく動かして刀をふるう。おっとりとした、いかにも清楚な美人の見せるむきだしの太腿に、持暇はご機嫌で答える。

 

「理屈を斬るのだよ、カナエ殿。なにがなんでも斬るというつもりで、刀をふるってみるのだ」

「なるほど! とにかくやれば良いのか!」

「派手に斬るぜ!」

 

 果たしてその屁理屈を理解したのか、それとも何も考えていないだけなのか、炎柱・煉獄杏寿郎(きょうじゅうろう)と音柱・宇髄天元は元気に木刀をふるう。

 もちろんそれで何か斬れるわけでもなく、地面に転がされた鬼は、あちこち殴られて目に涙を浮かべた。

 

「くひひ……そんな理屈で斬れたら苦労しない……」

「御仏への祈りのようなものか。いくら念じ続けたところで、衆生すべてが応えてもらえるわけであるまい。可哀想なことだ……」

「人生とはどこまでも苦戦ですからな。ま、とにかくやってみましょう」

 

 木柱・水木枝ケ纏(しげる)が木刀をふるい、岩柱・悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)と墨柱・幽忌貞子もこれに続いたので、またたくうちに鬼はボコボコにされた。

 

「卑怯だぞお前ら! こんなに寄ってたかって、恥ずかしいとは思わないのかっ」

 

 柱たちに囲まれて死刑(リンチ)にされる鬼が泣きごとを吐いた。可哀想な彼は、「斬撃」の練習台にされていたのだ。

 不幸は重なるもので、彼が挑発的な泣きごとを吐いた相手は、鬼を憎んで止まない鬼殺隊のなかでも指折りのキチガイたちだった。

 

「あァ? 黙れよ、鬼にンなこと言う権利なんざネェんだよ」

「こんなに苦しんで可哀想に……いま楽にしてあげよう」

 

 風柱が三白眼に怒りを滾らせ、腰の日輪刀を抜刀。鬼の頸を落とせば、それを瞬時に岩柱の鉄球が粉々に砕いた。

 さすがの鬼も、こうなってしまえば即座の消滅は免れない。

 

「これ、勝手に殺すでない。『斬撃』を習得するには、とにかく色んなものをたくさん斬らねばならん。人を斬る機会など、滅多にないというのに」

 

 もったいない、と持暇はため息をつく。

 そんな持暇を、花柱がやんわり宥める。

 

「まぁまぁ、持暇さん。悪い鬼はいくらでもいますから。……仲良くなれる鬼もいれば良いんですけど」

 

 花柱・胡蝶カナエ。

 彼女は鬼殺の修羅筆頭ともいうべき「柱」であったけれども、このようなことを本気で言うことができる程、穏やかな心根をしていた。

 あるいは、その矛盾を指さして狂人であるとの(そし)りを向ける者もいる。しかし、この光景を見れば、そう言われてしまうのも仕方のないことなのかもしれない。

 彼等は鬼を斬りながら、和気藹々と笑い合っていたのだ。

 

「まぁまぁ、持暇さん。理屈を斬るとは言いますが、具体的にはどうやるのですかな?」

 

 カナエの真似をして、水木枝ケ縷(しげる)がしなをつくってたおやかに話しかける。

 

「……水木さん、それ、私の真似のつもりですか」

「おや、これは失礼。……オホン。それで、持暇くん。きみの業のコツというのはあるのかしらん」

 

 いつもおっとりしているカナエに青筋が浮くのを見て、わざとらしく咳を払う水木であった。

 

「そうさな。柱の各々方は、まこと剣術に長けていらっしゃる。普通に斬るのであれば、斬鉄も容易かろう」

「ええ、まぁ」

「……当然だ」

「…………」

 

 カナエを筆頭に柱たちは頷いた。……ただ一人、棘付きの鉄柱をふりまわす豪快な僧、岩柱だけが無言で数珠をこすっていたが、それはそれ。

 持暇はそれならばと理を語る。

 

「俺はな、とにかく斬ったのよ」

 

 とにかく斬った。

 剣理に則れば、斬ることは容易い。たくさん斬って斬って。そうするうちに、「斬る」ということが身体に染みついた。

 あとは、理を捨てれば良い。身体に染みついた「斬る」ことだけを成せば良い。

 絶対に斬れる。なぜなら「斬る」ことをこの身は既に知っているのだから。

 

 そんな理不尽を大まじめに聞かされた一同は、しばし黙して、

 

「きひひ……このバカの言うことは無茶苦茶……」

 

 墨柱・貞子の言葉に、一斉に頷いた。

 

「なるほど! 斬ることだけを成せばよいのだな!」

 

 と焦点の定まらぬ目で、あさっての方向を見つめる炎柱を除いては。

 そんな折、水木の腹がぐぅと唸りをあげ、弛緩した空気が一同を包む。

 

「しまった、腹が鳴った」

「可哀想に……」

「あらあら。お夜食にでもしましょうか。ちかくの『藤の家』が、お夜食を用意してくださっているはずです」

「……鮭大根」

「うわっ、お前なんて顔しやがる!」

「食事も良ろしいのですが、飯盛り女なんかも手配していただければ」

「きひひ……助平オヤジは黙れ……」

 

 などと微笑ましく帰路に着いた、その時である。

 

「……なにを腑抜けた……それが、剣士の(かお)か……」

 

 六つ目もつ異形の剣士、『上弦の壱』黒死牟が現れたのは。

 

 

 **

 

 

 いらだたしげに見開かれた、六つの瞳。

 そこに『上弦』『壱』の文字を見てとった柱たちは、いっせいに臨戦態勢をとる。木刀を放り投げ、各々の獲物を構えた。

 ただひとり、持暇を除いては。

 

「おお、剣士殿ではないか! 久しいなぁ、息災であったか。剣士殿にはもうずっと、ひとこと礼を申したいと思っておったのだ。剣士殿のおかげで、俺はついに頂に手を掛けることができた。あの『斬撃』をふるうことができるようになったのだ!」

 

 まるで久しく(まみ)えた友か、あるいは、同じ学問を究める学友とでも親しく語らうかのように、彼は熱っぽく話しかける。

 それは、とうぜん黒死牟の神経を逆撫でした。

 

「……黙れ」

 

 黒死牟は右手を払う。

 その手には、いつの間にかひとふりの禍々しい刀が握られていた。

 枝のように、ちいさな二本の刃を側面にそなえたその刀。古代の祭具「七枝刀」にも似たそれは、太刀のように長くおおきい。

 

「……今度こそ、殺す……」

 

 刀を構えて殺気をたぎらす黒死牟に、持暇は弾ける笑顔で応えた。

 

「あの日の続きをするのだな。願ってもない! 柱の諸兄、どうか手出しは無用。我らふたり、これより存分に死合って業を究めますゆえ」

 

 もちろん、そのような世迷いごとを聞き入れる柱たちではない。

 

「あなたは善い鬼ですか?」

「……鬼は殺せ」

 

 柱のなかでも優れた俊敏さを誇る花柱・胡蝶カナエが黒死牟に肉薄し。

 水柱・冨岡義勇がこれを援護する。

 

「あったり前だァ。鬼がいたら、殺すに決まってンだろうがよォ!」

「噂の『上弦の壱』だ! さっそく新たな『斬撃()』で刻んでやろう!」

 

 頸を取るのは自分だとばかりに、風柱・不死川実弥が割って入り。大声で笑いながら、炎柱・煉獄杏寿郎が日輪刀を素振りする。

 

「おや。杏寿郎くんも『斬撃』の習得は未だだったはずではありませんか?」

「くひひ……ほんとバカ……」

「ああ、不瞋恚の教えがありながら、あんなに憎しみにとらわれてしまって。可哀想に……」

「八人も柱が集うと、ほんとに派手だな。俺は、離れた位置から隙をうかがうぜ」

 

 冷静なのはこの四人。

 大仰に腕を広げて呆れを表現する水柱・水木枝ケ纏と、悪霊のように嗤う墨柱・幽忌貞子。いつものように憐れみの涙をこぼす岩柱・悲鳴嶼行冥と、派手好きな元忍者の音柱・宇髄天元である。

 彼等は、持暇を差し置いて黒死牟を取り囲んだ四人に加わることなく、まずは様子見を決め込んだのだった。

 

 実際、黒死牟を四人で取り囲んでしまえば、それ以上の加勢は邪魔にしかならない。

 それが分かっているので、持暇もしょうことなしに木刀を降ろして、待機の姿勢を取った。

 

「これはあんまりであろう。指名されたのは俺だというのに」

 

 もっとも、ずいぶんと不満そうではあったが。

 不満といえば、黒死牟もまたそうである。

 

「お前らに、用は無い……下がれ……」

 

 戦国武士たる彼は、さらに数百年の修練を経て最高峰の剣士に至った。その威を発して、群がる羽虫を威嚇する。

 けれども、それで引き下がる柱ではない。彼等はいっせいに技を放った。

 

「――風の呼吸・伍ノ型『木枯らし(おろし)』」

「――炎の呼吸・弐ノ型『登り炎天』」

「――水の呼吸・壱ノ型『水面(みなも)斬り』」

「――花の呼吸・肆ノ型『紅花衣』」

 

 

 風柱が渾身の振り下ろしを放てば、炎柱が対となる攻撃を放ち。水柱が退路をふさぐように横に薙いで、さらに側面から花柱が斬りかかる。

 攻撃は四方を囲み、黒死牟にもはや退路など残されてはいない。

 

()ったぜ、『上弦の壱』!」

 

 しかし、彼は逃げる必要などなかったのだ。

 

「――月の呼吸・肆ノ型『月魄災渦(げっぱくさいか)』」

 

 いっさいの予備動作無しで放たれる、超高速の横薙ぎ。

 それは、しかも、前後左右へ飛ぶ三日月型の斬撃を伴った。

 

「きゃっ」

「うおっ」

 

 柱達の攻撃は、真正面から叩き返された。

 のみならず、軽傷とはいえ手傷さえ負ってしまう。

 

「こいつは派手だな……」

「しかしですよ。予習(・・)していたお陰で、重傷は免れています。持暇くんのお陰ですな。いやはや、『月の呼吸』とはじつに厄介です」

 

 後方でのんびり、音柱と木柱は寸評する。

 「月の呼吸」は、刀の軌跡に三日月型のちいさな斬撃がつきまとう。それは、おおきさも出現位置も、飛んでくる速さもバラバラなので、対応が非常に難しい。対応に慣れを必要とする、初見殺しの必殺技なのだ。

 それを、未熟な猿まねとはいえ、持暇は扱うことができる。

 柱たちは「斬撃」の指南を受ける傍ら、「月の呼吸」の対処法を稽古していたのだ。

 

「いける、『上弦の壱』を倒せるぜ!」

 

 風柱が気炎を上げる。

 だが、彼は黒死牟の腕を計り損ねていた。

 

「……この俺を、あなどるか……!」

「ぐうっ!?」

 

 黒死牟の剣技には、まだまだ上があるのだ。

 なんとなれば、彼もまた「呼吸」を扱う剣士。

 より呼吸を深くすればするほど、細胞に注入される酸素という名の燃料は多くなる。すなわち、剣閃はますます疾く力強くなる。

 

「一人で攻めてはいけません! 四人でタイミングを合わせないと」

「……下がれ」

「うっせぇ、俺に指図するんじゃねェ!」

「はっはっは! まだまだ元気そうでなによりだ!」

 

 重傷を負いはしたが、彼は不死川(しなずがわ)。その名の通り頑丈さ(タフネス)、生き汚さには目を見張るものがある。

 

「お前たちこそ、俺に合わせやがれェ!」

 

 鮮血を振りまきながら、それでも黒死牟へと肉薄する。

 渾身の一撃を見舞う風柱。

 しかし、黒死牟は異次元の速さを持つ。

 

 

「なっ――」

 

 風柱は目を剥いた。風柱の刃が繰り出された瞬間には、黒死牟の刃は風柱の頸元へと迫っていたのだ。

 

「ふっ!」

 

 それを、すんでのところで水柱の刃が防ぐ。

 黒死牟の恐るべき剣速を見せつけられ、それでも冷静さを欠かさなかった彼は、その凶刃の向かう先を予測し、日輪刀を割り込ませたのだ。

 

 しかし、それで終わる「月の呼吸」ではない。

 刀自体は弾かれようとも、その軌跡には三日月の斬撃が舞う。風柱と、それを守った水柱のふたりは体中を切り刻まれた。

 それでも、運が良かったと言うより他にない。彼等は、四肢を落とされたわけでも、指を失ったわけでもない。

 

「まだだっ、まだやられてねェぞ。俺はまだやれるぞ!」

「……当然だ」

 

 二人はふたたび正面から突貫する。

 

「煩い、羽虫が……」

 

 それを、黒死牟は弐の太刀で返り討ちにしようとして、

 

「っ、後ろか……!」

 

 咄嗟に後ろに斬閃を放つ。

 

「これはすごい! 後ろに目でもついているのか!」

「付いているのは正面に六つですよ、杏寿郎さん!」

 

 炎柱、花柱の攻撃を察知したのだ。

 

「はっはっは! いくぞ!」

「はいっ」

「……黙って……いろ」

「いちいち指図するんじゃねェ!」

 

 四人はいっせいに黒死牟に刃を振るう。

 それを黒死牟は、あるいは打ち払い、あるいはいなし、あるいは一歩だけ前後左右に動いて身を躱す。

 その度に、彼の六つ目はそれぞれギョロリと別の場所を向き、なるほどそれは、異形の鬼と呼ぶにふさわしいおぞましい姿であった。

 

「フム。すさまじい腕ですな、あの鬼は」

「ああ。おそらく、歴史上もっとも優れた遣い手であろうよ、あの剣士殿は」

 

 持暇は不機嫌そうに答えた。

 用も無いのにぶんぶん木刀を振って、気を紛らわす。

 

「だが、柱四人がかりとあっては『上弦の壱』でも分が悪い。……憐れな魂をもうすぐ救済できる」

 

 岩柱の言うとおり、黒死牟はだんだんと不利になっていく。

 柱たちは、ふだん徒党を組んで戦うということをしない。日本各地に分散し、それぞれが他の隊士の精神的支柱として、その絶大な戦力をふるっているのだ。ときには偶然いっしょになって任務に当たることもあるけれども、基本的には、柱同士で共闘することはない。

 それが、ここへきて初めての、四柱での共闘である。

 はじめこそ連携に戸惑ったものの、彼等はそれぞれがずば抜けた戦闘の才覚をもつ剣士である。じょじょに歯車がかみ合い、四つの刃は一柱の阿修羅がふるう刃のように、息つく間なく黒死牟を攻めたてる。

 

 もちろん柱たちも無傷ではすまない。あちこち斬られ、滲みだす血を吸って服は重くなっていたし、あるいは耳が千切れ、あるいは頬を裂かれている。なかには、攻撃を受け損ねて指を落とす者さえいた。

 それでも、致命の攻撃だけは他の柱が横から防いでいたので、絶命にはまだまだ遠かったし、刀を握ることは支障なかった。むしろ柱たちは、傷つけば傷つくほど発憤するようであった。

 

「……剣士の風上にもおけぬ、卑怯ものどもめ……因縁の一騎打ちの、邪魔立てするに飽き足らず……!」

 

 さすがの『上弦の壱』でも分が悪い。これはひょっとすれば、ひょっとするかも知れない。

 誰もがそう思った、その時である。

 

 ベベン――

 

 と、どこからともなく響く琵琶の音。

 それは、あらたな脅威の生じる音である。

 

「やぁ、これはこれは。鬼狩りの顔ともいうべき連中が勢揃いだね」

 

 軽薄な声音の、涼しげな風貌をした青年が、どこからともなく現れた。

 頭には黒い帽子を戴き、手には(しゃく)のようなものを携えた、地獄の閻魔大王のような格好。

 何から何まで巫山戯(ふざけ)た出で立ちの男は、自らをこう名乗る。

 

「どうも、『上弦の弐』童磨だよ。短い付き合いになるだろうけど、ヨロシク」

 

 

 **

 

 

「新手の鬼だと」

「いったいどこから!」

 

 敵の増援と見るや、黒死牟を取り囲んでいた四人の柱は一斉に飛び退いて距離を取る。

 四対一でようやく有利に戦えていたのだ。敵が増えれば、趨勢はひっくり返る。

 

「ウーム。おそらく血鬼術というヤツでしょうなぁ。あの鬼は、どこからともなく現れました」

「瞬間移動が、あの鬼の血鬼術というわけか」

 

 そんな四人合流する、持暇と他の柱たち。

 九人の鬼狩りを前に、それでも余裕たっぷりで軽薄な調子を、童磨は崩さない。

 

「あー。なんか勘違いしてるみたいだけど、僕の血鬼術はもっと別のモノだよ。ほら」

 

 と腕を振るうと、異変は起きた。

 

「なんだ、急に霞がかってきたぞ」

「空気が凍っていく……」

 

 きらきら月光を反射してきらめく、微細な氷の粒。

 

「そぉら」

 

 童磨が手にした笏のような扇を広げ、ひと扇ぎ。

 おそるべき鬼の腕力で以てくりだされる風が、凍結した空気を送り込む。

 

「ウワーッ、凍える!」

「ひぃぃい……寒いぃ……」

 

 吹き付ける空気は、底なしにどんどん冷えていく。隊士たちの吐き出す息は白く、まるで雪国の冬のようである。

 

「ぶるぶる……。どうやら、ヤツの血鬼術に影響を受けた空気は、放っておいてもどんどん冷えていくようです。ウーム、面妖な」

 

 震えながら、木柱は技の正体にあたりをつけた。

 それを、黒死牟の反応が肯定する。

 

「やぁ、黒死牟殿。助けにきたよ」

「童磨……だと……」

 

 暢気に手を振りながら駆け寄ってくる童磨から、彼は飛び退いて距離を取ったのだ。

 

「離れよ……呼吸が、使えぬ……」

 

 その言葉を聞いて、柱たちは口許を抑える。

 あまりに冷たい空気は、肺に甚大な障害をもたらす。ましては童磨の鬼血術は、際限なく熱量を奪う。いつまでも空気を吸っていれば、肺はやがて凍傷を患い壊死してしまう。

 

「ちょっと、人の鬼血術を勝手にバラさないでくれるかな」

「すぐに、知れることだ……」

「ま、それもそうか。隠していても、どうせすぐに分かることだしね。――というわけで、皆も出ておいでよ」

 

 その童磨の言葉をうけて。

 暗闇のなかから、四体の鬼が現れた。

 そのいずれもが瞳に『上弦』の刻印を刻まれている。

 

「あの御方からの命令でね。キミたち柱は、ここで一斉に駆除しちゃうんだって」

 

 こうして、『上弦の鬼』と柱たちの総力戦が幕を開けたのだった。




8,113文字


<義勇さんの圧縮言語 解凍講座>

「……黙って斬ろ」:
「(集中しないと斬れるものも斬れない。大変なことだが、)黙って(一緒に頑張って)斬ろ(う)」

「……下がれ」:
「(大丈夫か。一人で無茶をするな。危なくなったら一歩)下がれ(。俺たちが居ることを忘れるな)」

「黙っていろ」:
「(覚悟しろ、鬼。俺たちが力を合わせたいま、お前に勝ち目は無い。)黙って(倒されて)いろ」

<オリ柱・水木枝ゲ纏のセリフの元ネタ>
人生とはとこまでも苦戦連続ですからな:
 鬼太郎のセリフ「人生とはどこまでも苦戦だよ」より。
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