ニ不二のじゆう帳(一発ネタや未完作品)   作:二不二

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<登場人物>

邑久村正:主人公。子供時代に逆行した。ホワイトな人生を目指す。小3。
西大寺マドカ:ツンツン娘。小3。

<あらすじ>

主人公が逆行。
俺TUEEEE! してツンツン娘に目を付けられる。


小学生からやり直してツンツン娘や金髪幼女と仲良くなる話(2)_2019年10月

~深まる仲、育む友情~

 

 

 **

 

 

 正がうっかり高校数学の知識を披露してから一週間。マドカはすっかり正をライバル視していた。

 

「テストがかえってきたわね。あたしはもちろん百点だけど、アンタはどうだった? ……もう! また同点じゃたない!」

 

 テストの点数で競い合い。

 

「それじゃあ、この問題に答えてくれる人は――」

「はい」

「はいっ!」

 

 正がめずらしく手を挙げれば、その声をかき消すように己を主張し。

 

「ペアでいっしょに問題をとけですって? だれがアンタなんかと! それより、どっちが早くとけるか勝負よ!」

 

 ときには授業指示さえ無視して張り合い。

 

「こら、逃げるんじゃないわよ!」

「だって、そういうゲームじゃないか」

 

 体育でドッヂボールをしたときは、執拗に正をつけ狙った。

 授業だけに留まらない。給食の時間でさえ、なにかとマドカは正に突っかかる。

 幼いマドカの正に向ける対抗心は、留まるところを知らないように見えた。

 

「ひょっとして納豆キライなの?」

「苦手なんだ、においとか食感とか。見るのもイヤになるくらいでさ」

 

 心底イヤそうに目を背ける正。

 これに喜んだのはマドカである。彼女は、鬼を首を取ったかのようにはやしたてた。

 

「へぇ~、日本人なのにヘンなの! 日本のだいひょう的な食べ物でしょ? それに、お残しはダメだっていつも言われてるのに」

「いいだろ、好き嫌いくらい。それに、魚は皮まで食べるし、日本人らしい日本人だよ」

 

 うんざりした様子で、投げやりに答える正。

 マドカの目には、白旗を揚げたように見えた。

 

「ふっ。あたしの勝ちね。あたしなんて、骨まで食べるんだから」

「いや、喉に刺さるといけないから、小骨はやめときなよ」

「ふん。まけ犬のとおぼえね! キャンキャンかわいい声が、耳に心地いいわ! あはははっ」

 

 このときのマドカの喜びようときたら大変なものだった。

 それというのも、正はいつもテストでは百点だったので、いくらマドカが百点を取ろうがこれを打ち負かすことはできなかったし、授業に積極的でない彼と競う機会は稀で、その貴重な機会でさえ正に勝つことはできなかったのだ。

 

「あははは…………ハァ」

 

 ひとしきり高笑いして冷静になったマドカは、ため息をつく。

 

「こんなことで勝ってもイミない。勉強はゴカクだし、なにか頭の良さとかノウリョクとかで、アイツにビシッと勝てるものはないかなぁ」

 

 静かに闘志を燃やすマドカに、チャンスは唐突に訪れた。

 

「班ごとに調理台に着きましたね? それじゃあ、はじめましょう!」

 

 それは調理実習の時間であった。

 牛窓教諭の号令で、子供らはいっせいに作業にとりかかる。役割は班内で割りふられている。正は食材を切る係だ。

 

「よっと。そーっと……」

 

 たどたどしい手つきで、おっかなびっくり食材を切り分ける。それは、見ている方がハラハラするような拙い包丁さばきだった。

 人参の皮をなるべくうすく剥こうとするのだが、厚かったり薄かったりで不格好になる。力の入れ方がへたくそなのだろう。ときおり包丁がグッと進んで、手を切りそうになるのだ。

 

「うっわー、邑久村くんってブキヨーなんだね! ちょっと意外かもー」

 

 クラスメイトの底抜けに明るい声が、正に飛んでくる。すぐ傍にいるのに、不必要なくらい声がおおきい。

 

「そりゃあ、経験ないからね。それこそ調理実習しかしたことないってレベルだよ。ずっと総菜かコンビニ弁当だったし。……ひょっとして、これが死因の遠因なのでは?」

「よくわかんないけど、家じゃあぜんぜんってことだね」

 

 無邪気なクラスメイトに、バカ正直な正は、身体ごと向き直って答える。そのうえ、瞳はどこか遠くをぼんやり見ているのだから、危なっかしい。

 

「ちょっと待った! よそ見しながら手を動かさないの。ほら、いまにも指を切り落としそうじゃない」

 

 マドカの悲鳴のような制止の声がかからなければ、大惨事となっていたにちがいない。

 

「まさかアンタに、こんなニガテがあるとは思わなかったわ。――はい、アンタの出番は終わり。後はあたしにまかせて、料理ができるのをまってて」

 

 マドカは、正が余計なことをしないように見張りながら、器用に調理をしていく。

 ボウルに浸していた鰤の切り身をとりだして、フライパンに乗せる。じゅうと音がして、酒醤油の香りが立ち上る。

 その合間に、沸騰した鍋の火力を弱火に落とすと、味噌を溶かして、味噌汁を完成させる。

 ひととおりの作業をすませたマドカは、「ふぅ」と一息ついて、正に向き直った。

 

「でも意外ね。こんなこともできないなんて」

 

 マドカが心底おどろいた顔で言ったので、悪意がないことは正にはよく分かった。

 正は、綺麗に盛りつけれた料理を感心した様子で眺めながら、生真面目に答えた。

 

「僕にだってできないことぐらい、たくさんある。やり慣れてないことまで、器用にこなせるわけじゃない」

 

 マドカは目をぱちくり瞬いた。

 彼女の思う邑久村正は、なんでもできるし、できて当然だと考えている、自信過剰のふてぶてしいヤツだったのだ。

 

「その点、西大寺はすごいと思う。勉強も運動もできるし、料理も上手だ」

「そ、そうかしら?」

 

 その正が、手放しでマドカのことを褒めている。それも、憎たらしいほど馬鹿正直な正の口から出た言葉だ。心からのものだと、はっきり分かる。

 予期せぬ出来事に、マドカは戸惑いつつも、頬が緩むのを止められなかった。

 

「そうだよ。ウチの親なんか、こんな美味しい料理つくったためしがない」

 

 正の額が陰る。

 その変化に気づかぬまま、マドカは、すっかり有頂天になって、得意げに宣うた。

 

「じゃあ、あたしが教えてあげる! 自分の分くらい、自分でつくらなきゃ。いまの時代、料理のひとつもできないんじゃ、こまったことになるってお母さんも言ってたし」

「確かに困ったことになったなァ……。それじゃあ、お願いしようか」

「うん。任せて!」

 

 こうして、マドカは正に料理の手ほどきをすることとなった。

 これは、マドカの自尊心をおおいに満足させた。

 マドカは勉強に運動にと、学校生活に全力で取り組んできた。にも関わらず、いつもボーッとしてばかりの正は、(少なくともマドカの認識では)マドカと同レベルの能力を示してみせた。マドカにとって不本意なことに、正の背丈は、常にマドカとおなじ高さにあったのだ。

 それが今や、正を見下ろして、あれこれと世話を焼く立場にある。マドカはすっかり夢中になって、手本を示し、指示を出した。

 楽しい時間はあっという間で。正の前には、鰤のてりやきと、味噌汁ができあがっていた。

 

「信じられない。俺が、こんな綺麗で美味しそうな料理を作ったなんて……!」

 

 眼前の成果物にほれぼれする正に、マドカが柳眉を逆立てる。

 

「ちょっと、サラッとてがらを取らないでよ。ほとんど、あたしがつくったんだから」

「確かに、その通りだ……。他の料理だって、西大寺の見本が無いと作れないだろうし」

 

 神妙な顔をする正に、マドカはぎょっとして声を上げた。

 

「なにもそこまで落ちこむことないじゃない。なんか、こっちまでチョーシがおかしくなる……。ほら、また教えてあげるからっ。冷めるまえに食べなさいよ」

「分かった」

 

 マドカに促されるまま、正は料理を口に運ぶ。そして、しみじみと呟いた。

 

「うん、おいしい。料理って、いいものなんだなぁ」

 

 

 **

 

 

 それ以来、二人の距離は縮まった。

 正の見せた弱さに、マドカは肩の力を抜くようになったし、正もまた、マドカの面倒見の良さに評価を改めた。二人は、単なる同級生という枠を越え、級友ともいうべき間柄へと関係を深めたのだ。

 もっとも、二人の認識はおおきく異なる。

 

「邑久村ってさ、西大寺とよく喋るけど、あんな怖いヤツとよく喋れるなよなぁ」

「確かに言葉はキツイいし、自分勝手だけどな。でも、面倒見も良いし、良い()じゃないか」

 

 と語る正は、近所のヤンチャ坊主に向けるような生暖かな瞳をしていたし、マドカなどは、

 

「マドカちゃんてさ、さいきん正くんとよくお話するよね~。ひょっとして、なかよし?」

「そ、そんなことない! アイツはライバルなんだから。敵よ、敵! なかよくするワケないじゃない!」

 

 と唇を尖らせるのだった。

 けれども、同級生は訳知り顔で、

 

「ふふふ~。ホントのホントーにそーかなー?」

 

 とニマニマするばかりである。

 それも無理からぬ話で、二人はなにかと行動を共にしていたから、ちょっと以上の仲良しさんに見えたのだ。

 たとえば、理科の授業で、生物の自由観察を行ったときのこと。

 校庭の片隅で、スケッチブックに筆を走らせる正の隣には、当然のようにマドカの姿があった。

 

「こんなジメジメしたところで、なにしてるの?」

「誰かと思えば、西大寺か。……別に。ただ、蜘蛛を描いてるだけだ」

 

 そこは、敷地の最奥のちょうど角ばったところなので、用務員の手入れも滅多にされないのだろう。いくつもの木々が身を寄せ合い、枝々は重なり合い、葉々が空に蓋をして薄暗い。

 そのような人知れぬ場所にやってくる物好きの姿は、ほかには見受けられない。ひとりでこそこそしている正を、マドカがめざとく見つけ、追いかけてきたのだ。

 

「なんだ。アンタのことだから、またズルいことでもするのかと思った」

「いい加減、その濡れ衣やめてくれないかな。そもそも、観察してスケッチするだけなのに、ズルも何もないじゃないか」

「むぅ」

 

 マドカは唸った。彼女も、正が「ズル」をしていないことは、頭では分かっている。ただ、それを素直に認めることができないでいるのだ。

 そんな子供らしい情動を斟酌する正ではない。彼は「ま、いいけどさ」と軽く流して、言葉を継いだ。

 

「おもしろい発見をしたんだ。蜘蛛には、巣にかかった獲物の補食の仕方が二通りあるみたいなんだ」

 

 おや、とマドカは目を丸めた。

 マドカの知りうる限り、正は学業に対してやる気がない。授業中はぼんやりしているし、積極的に挙手することも稀で、何の為に学校に来ているのかわからない。今回にしたって、人気のないところでサボろうとしているのだと思ったくらだいだ。

 ところが、その正が、目を輝かせて発見を語っている。

 

「こっちのは、巣にかかった獲物をおおきな脚で掴んで、ぐるぐる回して糸を絡める。こっちのは、逆に、自分が獲物を周りをぐるぐる回って、糸を巻き付ける。ちいさな大発見だ! ファーブルになった気分だ」

 

 嬉しそうに語る正とは対照的に、マドカは背筋を粟だてて叫んだ。

 

「きもちわるいこと言わないでよ、思わずソウゾウしっちゃったじゃない!」

「そんなに怒るなよ。食物連鎖は自然の営みだって、授業で習っただろ?」

 

 キンキンする耳を押さえて、正が弱ったふうに言う。

 

「……ふんっ」

 

 と鼻を鳴らしつつも、罪悪感が芽生えたのか、マドカは黙りこくって正の様子をうかがった。

 そんなマドカのことなど目に入らぬ様子で、正はぼそりと呟いた。

 

「知らなかったんだ……料理のことも、蜘蛛のことも。小学校生活(こういうこと)は初めてじゃないのに、初めてのことばかりで。なんていうか、俺の人生、いろいろ見過ごしてたんだなぁって思って」

 

 どこか遠くを見やる正に、マドカは、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「おおげさね。そんなのフツーのことじゃない。いかにアンタが、フツーに学校生活してないかってことよ」

「おっしゃる通りで」

「はんせいして、キチンと学校生活を送りなさい」

 

 腕を組んでお姉さん気取りのマドカに、しかし、正は気を悪くした様子がない。

 それどころか、いいことを思いついたとばかりに目を輝かせる。

 

「そうだな! そうやってどんどん新しいことを見つけていくうちに、理想のホワイトな仕事のヒントが見つかるかもしれないし」

「へ? ほわいと?」

 

 困惑するマドカに、満面の笑みを浮かべた正が歩み寄る。

 

「ありがとう、西大寺! 西大寺のおかげで、幸せな人生が拓けそうだよ!」

「ひゃっ!? わ、わかったから放してよっ」

 

 興奮のあまりマドカの手を握りこむ正と、顔をまっかにして狼狽するマドカ。

 二人は、傍から見るにおいて、仲良しこよしのペアなのだった。

 

 

 **

 

 

 この一件をきっかけに、正は新たな目標を定めた。

 

(今生は、前回ではしなかったことをたくさんしよう。そうすれば、視野が広がって、理想のホワイト職が見つかるはず)

 

 机上に広げた『人生計画帳』に、次のように書き綴る。

 

「前回しなかったことに挑戦する。具体的には、小学校生活に全力で取り組んだり、新たな趣味をつくったりする」

 

 ノートを閉じて、机に仕舞いこむ。すると、机上にあるのは国語の教科書とノート、筆記用具だけになる。

 これに喜んだのは担任の牛窓教諭である。正を見てにっこり微笑むと、いつもより幾分か弾んだ声で、授業の指示を出す。

 

「みんな準備ができたね。それじゃあ、今日は一人ずつ順番に音読をするよ。呼ばれた人は立ち上って、合図があるまで読んでね」

「はい!」

 

 最初に指名された男の子が、元気良く起立する。

 

 つっかえながらも懸命に声をしぼりだして、それは、一生懸命なのがよく分かる朗読だった。牛窓教諭は(がんばれ、がんばれ!)と胸を熱くした。

 けれども、誰もが同じような、あたたかな心の持ち主ではないのだ。

 

「ぷぷっ」

 

 と誰かが笑った。

 悪気の無い、無邪気な笑いだった。

 だからこそ性質が悪い。笑いがまたたく間に教室中に伝播する。

 

「くすくす」

「やだー、おもしろーい!」

 

 朗読していた子は、まっかな顔を机に伏せて隠した。困ったことには、子供たちは面白おかしく笑いあっていたので、彼の様子に気づく子は稀だった。

 もしもこれが悪意ある嘲りだったら、こうはならなかっただろう。子供というのは敏感で、悪意と好意を敏感にかぎ分ける。なればこそ、やさしく純粋な子供らは、いっしょに笑うようなことはしなかった筈だ。すくなくとも、牛窓教諭はそう信じていた。

 

「あのね、皆――」

 

 牛窓教諭が口を開きかけたそのときである。

 

 ひとりの少年が、朗々と声を張った。

 正である。

 それは見事な朗読だった。一言一句に感情を込め、しかも、それはめまぐるしく流転するものだから、聞く者は感情のうねりに呑まれるような心地さえした。

 じっくりと地の文を読みあげ、かと思えば、ため込んだ抑揚をいっきに解放し、場面を盛り上げる。登場人物は感情豊かで、文章の裏に秘されたはずの、各々の想いが掌を指すがことくに読みとれた。

 

「すげぇ……」

「邑久村くんだもんなぁ」

 

 すっかり教室は静まりかえって、いんいんと響く正の声と、嘆息する子供の声がしわぶきが

 

 が、そのときである。

 

「――うぎょ!?」

 

 正の口から奇妙な声が漏れた。舌を噛んだのだ。言葉にならぬ声をだして、机上でもんどりうって悶える。

 

「なにしてるのよ!」

 

 驚きと心配とを瞳ににじませて、こちらをのぞき込んでくるマドカに、正は涙目になって答える。

 

「あちちっ。……失敗だ、失敗。朗読は得意な方だったんだけど、練習が足りないな」

「練習って、アンタそんなことしてるの?」

 

 不真面目に見える正の、意外な努力に目を丸めるマドカ。それは、クラスメイト一同の心の代弁でもあった。

 正は、そういう目で見られているという自覚があった。たしかに、大人の精神と学力をもつ正は、小学生の基準に照らせば「天才」の部類に入るだろう。

 けれども、それは本来はおかしいことなのだ。

 

「練習くらいするさ。僕は天才とは違うから、うんと練習して、失敗しながら積みあげないと上達しない」

 

 正は語る。

 はじめから成功することは稀である。失敗という槌でしつこく土台を打ち固めて、はじめてその上に華々しい成功を築くことができるのだと。

 

 パァン――

 と空気の裂ける音がした。牛窓教諭が柏手を打ったのだ。

 一同の意識を引きつけたのを認めて、彼女は、にっこり微笑んだ。

 

「そうね。誰だって、最初から上手にできるわけじゃないものね。だから、失敗するのは恥ずかしいことじゃない。大切なのは、前向きにがんばることよ。だから、先生は、今回いっしょうけんめい朗読してくれた二人のことを、ほんとうに誇りに思うわ」

 

 子供たちは恥いって面を伏せた。自らの浅慮な行いが、他人を傷つけたことに気づいたのだ。

 牛窓教諭はうれしそうに微笑んだ。しゅんとうなだれる子供たちの姿が、彼らのやさしさを物語っていたのだ。

 

「それじゃあ、次を西大寺さん」

 

 牛窓教諭は、とびきりのやさしい声で続きを促した。

 恐る恐るという様子で顔を上げた子供らは、牛窓教諭のおだやかな笑顔に迎えられる。それで、ほっとして、授業に取りかかることができたのだ。

 

「はい!」

 

 マドカは力いっぱい声を張って、朗読する。

 

「うん。ステキね」

「ありがとう、ございます……」

 

 照れくさそうにマドカが礼を言う。

 この一連の流れに感化されたのか、子供らは、喉も裂けよと大声で教科書を読み上げる。

 

「あらあら。皆いっしょうけんめいでいいわねぇ」

 

 子供らの声は、隣の教室まで響き、それは、しばらく職員室の話題となったのだという。

 

 さて、そうして迎えて休み時間である。

 さっそく次の授業の準備にとりかかる正のもとに、ひとりの男子が現れた。先ほど笑われていた少年である。

 彼は、もじもじと身をゆすっていたが、やがて、

 

「あのさ、その……さっきはありがとっ!」

 

 と言うなり、教室を飛だし駆けだした。

 正はぽかんとして、それから、うっすら微笑んだ。

 

「どういたしまして――なんてね。こういうのも、気分が良いもんだな」

 

 正は、机から一冊のノートを取りだして、何ごとか書き足した。

 そこには、このように綴られていた。

 

「前回しなかったことに挑戦する。具体的には、小学校生活に全力で取り組んだり、新たな趣味をつくったり、人の役に立ったりする」

 

 それは、誰にも関わらずひとり気ままに生きてきた人間の、ちいさくおおきな成長の証であった。

 




7,113文字。


ツンツン娘との仲が深まった(お互いに自覚なし)。
雰囲気読めないヤベーやつが、他人と仲良くすることを覚えた。
という話。
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