ニ不二のじゆう帳(一発ネタや未完作品)   作:二不二

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誰もが一度は憧れる(と思っています)DQのノベライズ。
プロローグを書いて、心が折れました。
DQ作品のノベライズを最後まで書ききってる方々は偉人だと思います。


[ネタ]DQ4プロローグ_2015年10月

**プロローグ**

 

「モシャス」

 

 魔法のまじないを唱える。

 瞬きひとつのうちに、美しいエルフの姿は幻だったかのように消え去り、代わりに、そこにはまっすぐな瞳をした少年が立っていた。

 

「あなたの姿を借りるわね、ソロ」

 

 声だけは、美しい少女のそれだ。

 

 モシャスはシンシアの得意とする呪文のひとつだ。炊事から魔物退治までなんでも役に立つ「万能の呪文」のがメラなら、こちらはきわめて無能な「宴会芸」である。これが活躍するのは、もっぱら宴会や悪戯のときであった。以前シンシアがソロの剣術指南役に変身したときは、大いに村人を笑わせた。野太い中年オヤジが、可憐な少女の声で甘い恋の歌をうたったのだ。

 その呪文が、思いもよらなかった方法で使われようとしている。

 

「あなたは勇者。この世界に残された、最後の希望。私たちの未来。だから、ね?」

 

 シンシアは、なにごとか重大な決意を固めているようだった。

 ソロの背中に焦燥が駆けめぐる。

 

「やめろよ、そんな呪文で何をするつもりなんだ」

 

 シンシアは姉であり恋人であり、そして師であった。

 こと魔法にかけては、ソロはその足許にも及ばぬ。魔法を打ち合えば、同じ回数だけ打ち負かされていた。

 そして、今もまた

 

「ラリホーマ」

 

 頭に霞がかかる。魔法のもたらす夢魔の霧だ。

 

「ソロ、あなたはこれから辛い思いをすることになる。その時のため、出来ることは全てしてきたつもりだけれど、それがどの程度あなたの助けになるかは分からない。これが私のできる最後の手助け。愛しいソロ。せめて今この時だけは、幸せな夢にまどろんで。そして――」

 

 それは優しい毒。じわじわとソロをむしばんでいく。

 

――おい、やめろよ。俺を一人置いていく気か。俺を半人前扱いするつもりか。俺はお荷物なのか。

――たのむ、俺にも戦わせてくれ。俺もみんなと一緒に戦いたいんだ。

――みんなを守りたいんだ。シンシア、君を守りたいんだ。

 

 必死の抵抗もむなしく、ソロの意識は闇に落ちていく。

 深い深いまどろみのなか、大切な誰かの声を聞いた気がした。

 

 *

 

 ソロは目を覚ます。

 堅く閉ざされた扉をなんとか押し開いて地上に出だときには、すべて手遅れだった。

 夕日は巨大な円盤となって、その大きな面で地上をのぞきこみ、けたたましく夕日を浴びせかけている。建物は崩れ、花は千々に踏み荒らされ、あたりは狂ったように赤い黄昏色に染まっていた。

 ひょっとしたら、それは、精霊神ルビスの慈悲深さの示しだったのかもしれない。

 瓦礫の下にはものいわぬ屍となった人々が転がっていて、そこから流れる血液があちこちに地溜まりをつくっていたし、村はずれにある池もまた、水底に転がる屍の血でまっかに染まっていた。その残酷な光景を、夕日の燃えるような赤はすっかり覆い隠してくれていたのだ。

 ソロは、しかし、その慰みを振りはらう。

 

「そんな、嘘だろ、なぁ。誰か、誰か生きてる人はいないのか、なぁ、おい!」

 

 生存者を求めて村をさまよった。地溜まりを踏みこえ、瓦礫を押しのけ、そうして変わり果てた村人の姿を目の当たりにした。歩くたびに残酷な現実をつきつけられた。優しかった者、口うるさかった者、イヤミだった者、厳しかった者、そっけなかった者、おせっかいだった者ーー彼の知る全ての者の、生まれもつかぬ見るも無惨な姿が、あちこちに転がっていたのだ。師と仰ぐ者や、年の離れた友人に、両親。そして、

 

「ああ、そんな、この羽帽子は……ああ、シンシア!」

 

 もっとも愛しい者。

 彼女はその身に受けた剣で壁にぬいつけられ、こときれていた。

 胸を貫く刃の一振り。その他に傷らしい傷はない。モシャスの切れた本来の姿は、生前の美しさをなにひとつ失っていなかった。

 すきとおった白磁の肌。さらりと流れる髪。陽光の転がる長い睫毛。だが、ソロの大好きな翡翠の瞳は、もう二度と見開かれることはないのだ。

 眠るように穏やかな表情をしていたのがせめてもの救いであったが、それは、何の慰めにもならなかった。

 彼の愛した者は全て喪われてしまったのだから。

 

 

 

**木こりの奇妙な夜**

 

 奇妙な夜だった。

 思い返してみれば、昼間から森の様子がおかしかったのだ。

 鳥たちは何かに怯えるようにしんと静まりかえり、いつもはあちこちでガサガサやっている動物もまた、その日に限って気配をあらわさぬ。

 何か、森の奥深くの暗がりをねぐらとする妖魔どもが、よからぬ企てをたくらんでいるのではなかろうか――

 

 と思った矢先のことである。

 無限につづく山々の連なりのはるか向こうから、もくもくと黒煙が立ち上った。と同時に、鳥獣はいっせいに悲鳴をあげ、次から次へと陰から飛び出してはいずこかへと逃げ去った。

 

 ――何か悪いことが起きている。

 

 初老の木こりは、せっかくの薪を放っぽって、一目散に小屋へと逃げ帰る。

 ようやく人心地つくと、まっしろな髭をしごいて、どうしたものかと思案した。

 こうして山に留まるのも危ういように思われたが、といって、山の中を出歩くのはいっそう愚かである。もし、得体の知れぬ異変の元凶と出くわしたら――

 

「おお、恐ろしい、恐ろしい。こんなときにゃ一杯やらにゃな」

 

 とっておきのエールをひっぱりだす。

 木こりは、年にほんの数度だけ街に降りる。その滅多にない機会に買っておいた秘蔵の酒だ。

 くんせい肉――火を使うことは躊躇われたので――をそのままガジガジしながら一杯やっていると、いつしか、時は移っていた。

 あたりはすっかり夜のしじまにつつまれ、しんと寂しい。

 それは、野生の生命にあふれた森にとっての異常事態である。

 まるで、死の支配する永劫の常闇に閉じこめられたかのような静寂。

 木こりは、急に一人でいるのが心細くなった。

 

「誰か……」

 

 誰か。誰でもいい。獣のひと鳴きでもかまわない。命あるあたたかな声を届けて欲しい。人であるなら、この扉を叩いて、隣にそっと寄り添そってほしい。

 と思ったそのときである。

 

 コツン、と。扉が鳴った。

 思わず身をすくめた木こりを急かすかのように、二度三度と音は鳴る。

 

「だ、誰だ」

 

 声を張り上げる。重い腰を持ち上げれば、足は自然と動いてくれた。

 大股に扉に歩み寄り、ひとおもいに扉を開け放つ。

 

 あっ、と声が出そうになった。

 

 そこに居たのは、青白い顔をした幽鬼だったのである。

 まるで地獄の底から引き連れてきたかのような、おどろどろしい黒雲が青白い顔をくもらせている。手足は泥にまみれて、墓場から這いずり出てきたかのよう。髪をふり乱し、瞳は無限の恨みをたたえてじっと地面を睨む姿は、幽鬼そのものであった。

 

 だが――

 よくよく見れば、それは、たしかに生ある人の子だった。

 赤く泣きはらした目は、血のめぐりのあかしであったし、かすかな汗の香を認めることもできた。

 そして、死者の怨念もかくやというような、少年の顔をくもらす陰気。これもまた、木こりには相感ずるところがあった。若くして唯一の家族たる一人息子を亡くした木こりは、まったく同じ眼差しを毎日鏡に映していたのだから。

 要するに、この幽鬼は、とんでもなく陰気なだけの人の子だったのである。

 

「おい、どうした。何があった。どうしてこんな山の中をほっつき歩いてやがるんだ」

 

 だが、少年は黙して答えぬ。

 というより、木こりの声が届いておらぬ様子であった。

 地面を睨みつけているかに見えた瞳は、よくよく見れば、じつは当て所なく虚ろをさまよっているのだと知れた。

 彼は、茫然自失の呈で森をさまよっていたのだ。

 

「ちっ、陰気なガキだな。お前のようなやつぁ、一晩泊まっていきやがれ」

 

 少年は、導かれるまま成すがままに、ふらふらとベッドに倒れ込む。

 そして、しばらくもしないうちに眠りに落ちてしまった。

 

「奇妙なガキだなぁ」

 

 木こりは、陰気な少年を眺めやった。

 少年というよりも、立派な若者といった方がよいかもしれぬ。背丈は大きく、手足もたくましく、大人の体格ができあがりつつあった。だが、頬のラインには柔らかさを、表情には幼さをそれぞれ残していた。

 容姿は、さらりと流れる緑の髪に整った目鼻立ちの、なかなかの男前だった。もっとも、それは、おどろおどろしい陰気さで見る影もなくなっていたが。

 

「どうしてこんなトコをほっつき歩いているんだか」

 

 山は、木こりのようなよく知った人間でなければ、おいそれと出入りするようなところではない。かんたんに方角を見失ってしまうし、いつなんどき魔物が襲ってくるか分からぬ。年端もいかぬ若者が、それもたった一人で、こんな山奥をほっつき歩いているのだ。なにか、事情があるに違いない。

 そう思って観察すれば、ちょっと変わった格好をしているのに気づく。

 剣を背負っているのは、別段珍しいことではない。魔物に抗する術をもたぬまま森をさまようのは馬鹿のすることだ。木こりも、弓矢と斧を持ち歩いている。ただ、あの剣は若者が扱うには大仰に過ぎた。もしやと思って掌を見てみれば、見事な剣ダコができて、ごつごつとたくましい、立派な戦士の手をしていた。

 ひょっとしたら、騎士の家系に生まれついたのが、なにかの政争に巻き込まれてこんなところに放り出されたのかもしれない。あるいは、最近ことに活発になった魔物を狩って名をあげようとした若武者で、軽率にも山に挑んではみたものの、哀れ仲間を喪って這々の体で逃げだしたのかもしれない。

 

「ったく、面倒くさそうなヤツを拾っちまったもんだぜ」

 

 もちろん、心細かったのもある。だが、

 どうしてそんな者に、こうして宿を与えているのか。

 ふと、あるひらめきが走った。

 雷に打たれて死んだ息子に、どことなく似ている気がしないでもない。

 

「はっ、俺も歳を取っちまったのかねぇ」

 

 きっと弱気になっているからだ。だから、とうに忘れたはずの昔のことを思い出す。

 この奇妙な客人との一夜が明ければ、いつもの一人きりの日々が帰ってくる。

 そう信じて、木こりは椅子に深く腰掛けた。




3,972文字

個人的にはシリーズの中でも3・4・5が好きです。
ゲームシステムは6ですけど、こちらはストーリーが好きです。
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