ニ不二のじゆう帳(一発ネタや未完作品)   作:二不二

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[ネタ]鬼滅の刃で剣キチオリ主(2)_2020年1月

 持暇(もちやす)は軽く刀をふるって血糊を飛ばすと、そのまま鞘に収めた。

 

 陽光をたくわえた特殊な鉄から鍛えられた日輪刀。この特殊な刀に頸を断たれた鬼は、いかな強い生命力を持とうとも、たちまち朽ちてしまうらしい。

 日光と、日輪刀による頸狩り。それが鬼の唯一の弱点なのだ。

 

 現に、頸を落とされた鬼の身体は、みるみる灰になって朽ち果てる。

 と同時に、持暇の日輪刀についたはずの血糊もまた、大気に溶けるようにして消え去った。

 フゥと小さく息を吐くと、持暇はふり返って気安く話しかける。

 

「何度でも斬ることができる。斬っても、刀の手入れが楽にすむ。これが鬼の良いところだ。そうは思わぬか?」

 

 とつぜん水を向けられた二人の隊士は、ぎょっとして顔を見合わせた。誰がこの気狂いの相手をするのかと、お互い牽制し合う。

 

「……知るか。鬼を殺せるなら、他のことなんか知ったこっちゃない」

 

 結局口を開いたのはリーダー気質の、あれこれ指示を飛ばしていた少年だった。

 損な役割を押しつけられた彼は、よせば良いのに、好奇心をから余計なことを尋ねた。

 

「お前だってそうじゃないのか? 鬼が憎くって、だから鬼を斬りたい。殺したい。そう思って鬼殺隊に入ったんじゃないのか」

「俺は――」

 

 持暇は、刀を掲げて楽しそうに笑った。

 

「コレを極めるために、鬼殺隊に身を寄せたのよ」

 

 すべては斬るため。

 斬閃の極地を手にするため。

 いつか見たあの業を、この手で振るうため――

 

 そう語る剣士の瞳には、ぐるぐると狂気が渦巻いていた。

 

 

 **

 

 

 持暇は思い出す。

 忘れようもない、あの立ち会いを。

 

「肉のあいだを刃が通って、その結果、肉が斬れる――などと思い違いをしてはおらぬか」

 

 朝霜の降りた、しめった地面。

 土のにおいのぷんと香る地面に横たわった初老の男は、それすら塗りつぶす濃厚な血のにおいをまき散らしながら、息も絶え絶えに持暇に語りかける。

 

「そうではない。斬ったから斬れるのだ。斬るからこそ斬れるのだ」

 

 自らのつくった血の湖に身を沈め、老人は、斬撃のなんたるかを語る。

 

「たしかに、刃を通したからこそ物は斬れる。それが道理よ。だがのぉ、真に極まった斬撃は、斬ることなくして斬っておる。道理すら斬りすてるのよ。儂はそれを成した。成したのだ!」

 

 道理を斬る修羅の剣。

 そのように、老人はその一閃を語った。

 

「二度。人生で二度だけ、儂は真なる斬撃をくりだすことができた。お前もそれを見たはずだ、小僧」

「はい、師匠」

 

 持暇は、血に濡れるのもかまわず、老人の身体を支え起こす。そして、涙をこらえ、今際の言葉を交わそうと口を開いた。

 

「覚えておりますとも」

 

 忘れようはずもない。目の前で親を斬られたその瞬間。涙をうかべてこちらに手を伸ばす親の姿なんぞ(・・・)より、親を寸断するその斬撃にこそ、持暇は魅入っていた。一目惚れだった。

 それから、持暇は己の親を斬った下手人に弟子入りした。その業に憧れて。

 そして今。持暇の刀を斬ったのは、たしかにそのときの斬撃だったのだ。

 

「儂はお前に負けた。だがな、儂はたしかに斬ったぞ!」

 

 口から血を噴き出すのもおかまいなしに、呵々と大笑する。

 

「小僧よ。お前は儂に勝った。刀を斬られながらも、儂を斬った。その歳にして剣客としてすでに儂より上じゃ。なんたる才気よ」

 

 老人の表情はくるくる変わる。瞳に嫉妬の炎を宿して、持暇をねめつける。

 その炎は、しかし次の瞬間には消えさり、代わりに、喜色と陶酔の色とが浮かんでいた。

 

「だが、真なる斬撃をくりだすことができたのは儂だ。儂だけだ! お前ではない。儂こそが、世界最高の剣士なのだ!」

 

 ひとしきり哄笑した老人は、しかし、今度は口惜しそうに歯噛みする。

 

「それだけに儂は悔しい。この斬撃を極めることができぬのが」

 

 ギリギリ軋む歯間から、怨嗟の声をしぼりだす。

 そんな師をなぐさめるべく、

 

「ですが、師匠」

 

 持暇はとびきり残酷な真実を告げる。

 

「俺はもうソレを知ってしまった。俺には時間も才もあります。だから、俺が師匠の跡を継ぎましょう。師匠が生涯で二度しか為しえなかったソレを、俺が極めてご覧にいれます。師匠が生涯をかけて追いかけ、ついには手をかけるに至ったソレを、俺は手中に収め、息をするように、手刀をふるうかのように自在に出せるようになってご覧にいれます。ですから――」

 

 ――安心してください、師匠。

 

「おのれ、おのれ、おのれ……!」

 

 老人はボロボロ涙をこぼす。恨みごとを言い募ろうとするが、しかし、もう言葉を発する力も老い枯れの肉体にはのこされてはいなかった。

 

「ああ、師匠……」

 

 師の涙につられ、持暇もポロポロ涙をこぼす。それが老人にはこの上なく腹立たしかったが、もうどうすることもできない。 老人は、たいへん不本意なことに、己の斬撃(全て)を奪った若き鬼才の腕に抱かれて、そっと息をひきとったのだった。

 

 

 **

 

 

「へぇ。それじゃあ、首塚さんは師匠の技を継ぐための武者修行の一環として、鬼殺隊に入ったのですか」

 

 飯台を囲んで、首塚持暇と二人の隊士は語り合う。

 鬼を討ってからまだ半刻。

 三人は、隊士のひとりが身を寄せる宿へと集まり、宿の主に頼みこんでささやかな酒宴をひらいていた。

 卓上の鶏肉や魚、あるはそれぞれの口から語られる半生を肴に、一杯やっている。

 

「ああ。斬閃を極めるには、実際にモノを斬るのが一番だからな。もう半世紀も前ならいざ知らず、いまや文明開けた大正の世の中だろう? そうそう人を斬って闇から闇へ、というわけにもいかぬので、代わりに、鬼を自由に斬れるという鬼殺隊の門をたたいたのだ」

「え…………」

 

 顔をひきつらせる隊士の少女――そう、少女である。軍服のような西洋ふうの隊服を、それも袴でもなくズボンを穿いている。まさに文明開化の時代である。

 言葉を失った少女の代わりに、少年が話題を転がした。

 

「見ていて気になったんだが、首塚は『呼吸』を使わないのか?」

 

 それは皆が気にしていたことだった。

 鬼殺の隊士はだれもが何らかの『呼吸』を使う。『呼吸』によって大幅に水増しされた身体能力で以て、『型』と呼ばれる人外の剣技を見舞う。そうすることで、はじめて人は鬼に抗うことができるのだ。

 にも関わらず。

 持暇は、常人とかわらぬ慎ましい身体能力と、威力に欠けるはずの「棒振るい」で鬼を斬った。

 

「俺は、『呼吸』は使えん」

 

 その言葉に、隊士たちは顔を見合わせた。 

 

「水の育手の世話になったのだが、どうにも俺に『呼吸』の才は無いらしくてな。いつまでたっても芽が出ず、とはいっても『呼吸』は鬼殺の技の土台だからということで、そればかりさせられた」

「わたしもそうでした。呼吸が身につくまで、ひたすら走り込みと呼吸の修行ばっかり。……ああ、あんなシンドイ思いはもうしたくありません!」

「仕方ないだろ。身につけてわかったが、『型』というのは、呼吸で増幅された身体能力を前提としたものだからな。……それがわかるまでは、ずいぶん師匠を恨んだもんだ」

 

 隊士たちは、口々に修行の思い出を語る。

 それを持暇は、微笑ましく眺めつクイっと一杯傾けてから、話を続けた。

 

「そのようなわけで、肝心の剣の修行がはかどらん。そこで、こっそり抜け出して、『試し』に加わったわけだ」

「つまり、『呼吸』も『型』も使えないまま、鬼のはびこるあの(・・)藤の山で生き残ったと……」

 

 鬼殺隊の見習いは、その免許皆伝の認定試験として、鬼を閉じ込めた『藤の山』に放りこまれる。

 鬼は藤の花を嫌う。藤に囲まれ、逃げ場のないその山には、年中腹を空かした鬼がたむろしている。そこで一定期間を生き延びることが、最終試験なのだ。

 とうぜん鬼は、貴重な人間(食料)をねらって次から次へと襲いかかってくるので、これを生き延びることはたいへん難しい。鬼を葬るたしかな腕と、修羅にふさわしい精神力とが必要になる。

 それを、体力を増強する「呼吸」や、鬼殺の基礎にして奥義ともいえる「型」もなしに成し遂げるなど、にわかには信じがたい。

 

「ああ。十ほど鬼を斬った。斬っても斬っても再生するので、つい夢中になって夜を明かしてしまった。おかげで頸を斬り損ねた。いやいや、失敗失敗」

 

 ワハハと笑う青年に、隊士の少年は絶句した。

 この青年は、異常である。

 剣にかける執念もそうであるが、『呼吸』もなしに純粋な剣技ひとつで鬼とわたりあえるのが、そもそもおかしい。いや、『型』という剣技すら彼にはない。あるのは、帚星がごとき一閃だけ。それで鬼を斬れる道理など、ありはしないのだ。

 

 畏ろしい。

 少年には、眼前の少年が、鬼よりもよっぽどおぞましい異形を人形に押し固めた「化け物」のように思われた。

 

 けれども。

 その畏れも、ほんの一瞬のことだった。

 眼前の青年は、ころころ笑う。

 

「この酒は旨いな。どこの酒だろうか」

「ああ。このお酒はですね、新潟の朝日山とかいう酒蔵の酒らしくって。なかでも十月のお米で仕込んだものは絶品だそうですよ」

「新潟といえば、先の合併でひときわおおきな都市になったと伝え聞く。新たな港もできて、それはもうにぎにぎしいのだとか。いつか訪れてみたいものだな」

「へぇ。それは素敵ですね。わたし達も、こうして日本全国を歩いているのですから、いつか観ることができると良いのですけど」

「……あくまで鬼を狩るついでにな」

「おお、そういえば俺たちは鬼殺隊であったな!」

「もう、首塚さんったら」

 

 お猪口を片手にあれこれと世間話をする青年は、こうして剣の話をしないぶんには、ふつうの気の好い青年なのだった。

 

 このようにして、偶然くつわを並べて戦った三人は――といっても持暇以外の二人は眺めているだけたったが――出会いを祝して酒をくみかわし、また別れを惜しむように、みじかい夜をともに楽しんだ。

 鬼と刃を交えることを生業とする彼らは、いつどこで果てるとも知れぬ。それがわかっているから、こうした出会いを大切にするのだ。

 

 そうして一夜明け、また昼が暮れ、夜が訪れた。

 

「では、達者でな」

「またどこかでお会いしましょう」

「今度は首塚だけに手柄は渡さないからな」

 

 しっかり身体を休めた彼らは、それぞれの旅路へ踏み出した。

 まさに、その時である。

 

「カァー! ○○町ニ鬼ガ出現。鬼ガ出現。近クノ隊士ハ全員、急イデ向カッテネェ!」

 

 鬼の出現を知らせる、鴉の声。

 三人はいっせいに駆けだした。

 

「首塚!」

 

 呼吸のつかえぬ持暇は、どうしても移動速度で二人に遅れる。どんどん引き離される持暇に、少年は先に行くぞと声を掛けた。

 

「俺にかまうな。先に行け」

 

 持暇の頷きを受けて、二人はいっそう深く息を吸う。

 そして、ひときわおおきく地面を蹴って、矢のように飛び出した。

 みるみるうちに、持暇の姿がちいさくなる。ガス灯の薄明かりが、煙のように尾をひいて後方に流れ去る。

 隊士の少女はぐっと拳を握って意気込んだ。

 

「さっそく好機(チャンス)到来ですね。これで、首塚さんを見返すことができますよっ」

「……そうだな。借りを返させてもらおう」

 

 ぎゅっと日輪刀を握りしめ、気合いをたぎらせる。

 そんな少年の脳裏に、ふと疑問が兆した。

 

「しかし、『全員』で当たれときたか」

 

 それ自体はおかしい話ではない。

 相手は人知を越えた、超常の存在。人ひとりの手には余る。だからこそ鬼殺隊という組織が生まれた。

 鬼を相手取るのに、潔い武士道などは不要だ。あらゆる手を尽くして殺し尽くさねばならない。可能な限りおおぜいの隊士を差し向けるは、道理である。

 だが、指示の出し方に違和感があった。

 

「おかしい。先日の伝言では、『甲』の隊士『三人』で対処にあたれという、明確な指示があった。ところが、今回は階級はおろか人数さえ不明。漠然とした『全員』という指示だ」

「へぇー。細かいところに気がつくんですね。どっちでも良いような気もしますけど」

「バカ。そういう大ざっぱなトコがあったから、直弼公は欧米相手に痛い目を見たんだ。文言に曖昧を残してはいけない。開国時の教訓だぞ」

「じゃあ、それならどうして。『全員』だなんて大ざっぱなことを言ったんですか」

「それは……」

 

 憮然とした少女の問いに、少年は言葉を詰まらせる。

 鴉の伝える指示は、日の本のどこかにある「産屋敷」という鬼殺隊の本拠地から送られてくる。彼らの考えなど、わかろうはずもない。

 

「わからん。焦っているのかもしれん」

 

 上のことなぞ知ったことかと、少年はかぶりを振った。

 自分たちにできるのは、ただ鬼を斬ることだ。その為に生きている――

 などと思考を打ち切った途端に、皮肉なことにも、答えはもたらされた。

 

「カァー! 相手ハ十二鬼月。十二鬼月! 現場ノ隊士ハ、柱ガ到着スルマデ持チコタエテネ!」

 

 こうして、永い夜がはじまった。




5,100文字

井伊直弼のくだりはテキトーです。
雰囲気優先。
歴史的にどういう評価されてるんでしょうか。

なお、この頃の大衆は豚肉のことをあまり知らず、「寄生虫に寄生されるから」ということで、豚肉は普及していなかったとか。
そんななか「どんぐり与えてればブランド豚ができるじゃん! 超お得じゃん!」と豚の飼育を始め、後の一大産地を築いた、鹿児島をはじめとする全国各地の豚農家の先見の明よ……。
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