ニ不二のじゆう帳(一発ネタや未完作品)   作:二不二

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[ネタ]鬼滅の刃で剣キチオリ主(3)_2020年1月

 持暇(もちやす)が現場にたどりついたときには、すでに争いの火蓋は切って落とされていた。

 

「首塚……遅かったな」

「やっと来たぁ! もう、ほんとうに大変だったんですから」

 

 二人の隊士は、あるいは口から血を吐き、あるいは血まみれの腕をだらんと垂らしている。おおきな手傷を負っていた。

 

 十二鬼月というのは、力ある十二体の鬼の総称である。

 日の本にはびこる鬼のなかでも、屈指の力をそなえた、いわばこの世の頂点に座する強者。いくら鬼殺の修羅とはいえ、これを相手にするのは荷が勝ちすぎる。

 だが、持暇は気狂いである。彼の目には、斬りごたえのある鬼がまた一体やってきたようにしか映らなかった。

 

「ああ、良かった。まだ鬼は死んではいないようだな」

 

 それを、少年は頼もしい冗談だと受け取った。二人が鬼ごときに負けるはずがないと。さぁ、三人で鬼を討とうと。

 

「……こんなときに冗談か。頼もしいヤツだ」

「なんだか、冗談じゃない気がするんですけど……」

 

 真意を察した少女が、ひきつった笑みを浮かべる。

 それは、昨夜の会話の焼き直しだ。

 持暇がズレた発言をし。少年が真面目に返せば。少女が苦笑いする。酒を片手にそんな話をして、初対面だった三人は縁を紡いだのだ。

 楽しい一時を思い出して、二人の隊士は肩の力を抜いた。

 すると、こわばっていた肺がほぐれて、自ずから呼吸が深くなる。

 

「ふぅ。呼吸がもどってきました。これならなんとか戦えます」

 

 少女は、自らを鼓舞するように言う。

 それを見て、少年は刀を構えて気炎を発した。

 

「さぁ、仕切り直した」

 

 

 **

 

 

 時はわずかに遡る。

 

 駆けつけた隊士の眼前には、ひとつの人影。

 その人影は、痩せ(じし)の男であった。

 額と両頬にはおおきな十字の傷跡があって。つり上がった三白眼がぎょろりと足許を睨んでいる。

 すこしだけ怖ろしい顔つきをした、和装の男。先程の鬼のような異形とは程遠い。どこにでもいる、強面の、ふつうの男のようにしか見えなかった。

 足許の、血の池に沈む女の骸さえなければ。

 

「美味い。やはり、美しい女は血も美味いな」

 

 鬼は、身をかがめて血だまりをズゾゾと啜る。

 血液が喉をとおり、胃に落ちる。その瞬間、痺れるような快楽が背筋を貫いた。

 鬼になって良かったと心底思う瞬間である。

 彼は、阿片でも(あお)ったかのように、目を白黒させて夢見心地で呟いた。

 

「ああ、たまらねェ。つるんと喉を滑るのどごし。鼻腔をくすぐる芳香。すっと消える上品な後味。カッと胃を熱くする血のあたたかみ。人間だったころにずいぶん酒を呑んだが、これに勝る美酒はねェ。……こんなに美味いのに、数分もしないうちに、みるみる鮮度が落ちて不味くなるんだ。まだこんなに血が残ってるのに、もったいねェ」

 

 男は――いや、鬼は心底かなしそうに呟きながら顔を上げた。

 口許は、どす黒い血にまみれ。顎からしたたる血の雫が、和装におどろおどろしい染み汚れをつくっている。

 いったい誰が見紛おう。そのおぞましい姿は、悪鬼そのもの。人狩る鬼畜の外道者である。

 

「だから、俺はうれしいんだ。こうして、美味そうな血袋がまた来てくれたからよォ!」

 

 鬼は、いきおいよく血を蹴った。

 パシャと血が爆ぜて、四方に飛沫をしぶかせる。

 その血飛沫が地面に落ちるよりはやくに――

 

「こいつ、速い!」

 

 鬼は隊士に肉薄していた。

 するどく伸びた鉤爪で、隊士の少女に斬りつける。それを、少女は剣で受け流す。

 

「ちょっと! 綺麗だって褒めてくれるのはうれしいですけど、粉かけて(アタックして)くるのはありがた迷惑ですよっ」

「いいぞ、そのまま引きつけておけ。――水の呼吸、漆ノ型『雫波紋(しずくはもん)突き』」

 

 攻撃をいなされ隙をさらした鬼を、少年の突きが襲う。

 スゥゥとおおきくを息を吸ってからの、全霊をこめた一撃。

 剣気が滾り、それは、波紋のように周囲にほとばしった。

 大気という水面をゆるがす、強烈な一撃。

 

「へっ、トロいぜ」

 

 それを、鬼は跳び退さって避ける。

 つい先程まで、攻撃をいなされ体勢をくずしていた。それを利用して、そのまま後ろに倒れるように、跳び退さったのだ。

 身軽な痩躯と鬼の筋力が、その常識はずれの挙動を可能にしている。

 

 それだけではない。

 

「まだまだ行くぜ。オラオラ、オラァ!」

 

 鬼は、ひと瞬きのうちに、間合いの内側に飛び込んでくる。

 そこから、十指から生やした鉤爪で、五月雨のような連撃を見舞う。目にもとまらぬ速攻である。

 

「きゃあっ」

 

 いなしそこなった鬼の爪が、少女の四肢を切り裂いた。

 と同時に、少年に雨あられと攻撃を降らせ、その動きを封じてくる。鬼は、ふたりの隊士を相手取るに十分な速さを有しているのだ。

 

「くっ――水の呼吸、壱ノ型『水面斬り』!」

 

 苦し紛れに、少年は横薙ぎを放つ。

 それは、幾度となくくりかえし、身体に刻みこんだ得意の『型』だ。追い込まれたこの状況を、この刹那だけは忘れて、少年は剣に集中することができた。

 

 ――絶対に斬る。

 

 その執念が殺気となって、宙空に水面がごとき軌跡を描きだす。その水面を、少年の刀がするりと滑る。

 

「おおっとぉ」

 

 鬼は、両手の鉤爪を交差させて、これを受ける。

 押されるがままに飛び退こうとした鬼を、

 

「今だ――風の呼吸、壱ノ型『塵旋風(じんせんぷう)()ぎ』」

 

 風纏う少女の突進が切り裂いた。

 

「やったぁ!」

 

 少女が歓声をあげる。

 とっさに身をかばった鬼の腕が、くるくると宙を舞っていた。 のみならず、胸には穴が穿たれ、人であれば致命の重体である。

 

 もちろん、鬼にとってそれは、すぐに癒える軽傷にすぎない。

 あと数分もしないうちに穴はふさがり、腕はくっつき、お返しとばかりにいっそう苛烈に攻め立てるだろう。

 

 けれども今。

 胸を穿たれ、心臓を破壊された今だけは。

 鬼の行動は鈍る。

 

「今が好機(チャンス)だ。頸をねらうぞ!」

「はいっ」

 

 コォォォと息を吸う二人の修羅を前に、鬼はうろたえる――

 

「ま、待ってくれ! どうか見逃してくれェ」

「問答無用。死にさらせ!」

 

 ――演技を止めて、ニヤリと嗤った。

 

「なぁーんてなァ!」

 

 それは超速の妙技だった。

 くるくると宙を舞う腕をひっつかみ、腕の分だけ伸びた間合いで、鉤爪をふり回す。そのいきおいを利用して、蹴りを放つ。すべては一息の寸間になされた。

 技を出すために構えをとり呼吸を練った、一瞬の硬直。これを突かれた隊士たちには、なす術がない。

 そこを鬼は突いた。少女を切り伏せ、少年を正面から蹴り飛ばしたのだ。

 

「うぅ……。心臓を突いたのに、ちっとも効いてない。さすがは十二鬼月、生命力も抜群というワケですか」

 

 もう隊士たちは死に体である。

 少女は、肩を深く抉られ、うまく刀が振るえない。

 少年は、破れた内臓からあふれる血が喉がふさぎ、呼吸が練れない。 

 

「……お互いやられたもんだな。まだやれるか?」

「見ての通りです。でも、差し違えてでもアイツは討ってみせます」

 

 少女は無限の恨みを瞳に宿し、ぎろりと鬼をねめつけた。

 とはいっても、気力をふりしぼれば道理が覆るというわけではない。

 二人は、鬼のずば抜けた速さと生命力に翻弄されていた。重傷を負い戦闘力を下げた今、鬼にかなう道理はない。

 

「くそっ、万事休すか……」

 

 少年の瞳に諦観の色が浮かびかけたその時。

 

「ああ、良かった。まだ鬼は死んではいないようだな」

 

 そんな軽口と共に、その気狂いは現れた。

 

 

 **

 

 

 持暇は、散歩でもするかのような気負いのない様子で。二人の隊士の前に出た。

 

「なんだァ、追加か? もうおかわりは要らないぜ。美味そうな女もいることだしよォ」

「なんだ、お前美食家か? それはいかんな。好き嫌いをしていては伸び悩む。俺も、木やら石やらにはじまり、動物、鬼とかたっぱしから斬ってきた。……ん?」

 

 面倒くさそうにごちる鬼に、持暇は説教をする。じろりと鬼をねめつけ、そして、おやと首をかしげた。

 

「ほぅ。お前、変わった目をしているのだな」

 

 男の眼球には、奇妙な文様が刻まれていた。

 よくよく見れば、それは『下』『参』と読むことができる。

 

「なるほど。お前は所謂『下弦の参』というやつだな。実にわかりやすくて感心だ」

「……それがどうした」

 

 十二鬼月。それは、上位六体の「上弦」と、下位六体の「下弦」とで構成される、鬼の頂点である。

 十二体の稀人(レアもの)を前に、持暇の声は上擦る。

 

「十二鬼月を斬るのははじめてだ。昨夜の鬼はいろんな『斬撃』を俺に教えてくれた。さあ、お前は何を教えてくれるんだ?」

「…………殺す」

 

 鬼の殺気がふくれ上がる。

 すぐれた剣士である三人には、鬼が攻めてくるのが分かった。

 ましてや持暇は、よく見える「目」を持っている。

 鬼が腰を落とし、爪を振り上げ、地面を蹴って肉薄してくる――

 その一挙手一投足がよく見えた。

 にも関わらず、反撃ができない。斬撃のなりそこないを爪にあてて、身を守るのが精一杯であった。

 

「くそっ。振り抜くことさえできんとは、なんたる恥さらし!」

 

 持暇は恥じ入る。

 目指す「斬撃」にはほど遠い、振りかけの刃。そんなものを振るう中途半端な自身が許せなかった。

 

「んなこと言ってる場合か!」

「まだまだ来ますよっ」

 

 鬼は疾い。

 持暇が次の一閃をくりだそうとする間に、次々と爪が迫ってくる。

 それを、二人の隊士が横から防ぐ。右の爪を少年が捌き、左の爪を少女がいなす。

 持暇が稼いだ時間をつかって、特殊な呼吸法で血を止めたり、気道に詰まった血を吐きだしたりして、戦線に復帰することができたのだ。

 

「ハァッ!」

 

 左右から同時に斬りあげ、鬼の腕をかち上げる。

 がら空きになった胴体に、独楽のような横薙ぎの一撃が左右から同時に放たれ――

 

「しゃらくせェ!」

 

 鬼がトンボを切って宙返り。振り抜かれた腕を、左右の足で切りつける。草鞋から飛び出た足爪が、隊服ごと腕を刻んで血飛沫を上げた。

 それらの動きがよく見えていながら、持暇にはどうすることもできなかった。

 

「なんという速さだ! まさに韋駄天。これが鬼と『呼吸』の遣い手の戦いか」

「なんだテメェ、『呼吸』も使えねぇのに鬼殺しなんかやってるのか」

「だがしかし……何かあるはずだ、疾い敵を斬る術が」

 

 敵を前に棒立ちになってぶつぶつ呟きだした持暇の両脇から、二つの怒声が飛ぶ。

 

「バカッ、棒立ちになるな。そもそも一人で敵うような相手じゃない。コイツは『下弦の参』。生命力と速さは、鬼のなかでも頭二つも三つも抜けている」

「そうなんです。二人で相手をしてやっと互角の手数になるくらいの速さですし、心臓を潰しても変わらず元気いっぱいに動くんです! この鬼を倒すには、いっきに頸を斬るしかありません」

 

 三人で連携して戦おう。

 そう提案する二人に、持暇は首肯を返す。

 

「そうか。ならば、そうしよう」

 

 持暇は一対一の果たし合いだとか、純粋な技の比べ合いに興味がない。斬ることができれば、それで良いと思っている。

 果たして三人は、雄弁な目配せを交わし合った。

 

「へっ。三人並んだところで無意味だぜ。俺にとっちゃ、的が広がっただけのことだ。――ほら、こんなにトロい!」

 

 その声を聞いたときには、鬼がすぐそこに迫っていた。『呼吸』で水増しした身体能力すらをもしのぐ、韋駄天のごとき脚力。

 

「決して離れるな。一対一になったら、速さと手数でヤツに負けるぞっ」

「攻撃がきます! 防いでください。あとはわたしがっ」

「わかった――全集中・肆の型『打ち潮』!」

 

 コォォォとおおきく息を吸い、全身全霊をかけて技をくりだす。次々と打ち寄せる、潮のような絶え間ない連続攻撃。飛沫のように火花が散る。

 死力を尽くしてくりだされるそれは、ひときわ激しく鬼の爪を弾き、一時的な硬直をつくりだした。

 その寸間に、少女が飛びこむ。

 

「ここ! ――全集中・伍ノ型『木枯らし(おろし)』」

「遅いぜェ」

 

 全身全霊の振り下ろし。それは、少女の有する最大威力の攻撃手段であった。刃とともに放たれた剣気が、大地を削るつむじ風となって吹き荒れる。

 にも関わらず、十字に組まれた鬼の豪腕は、それを受けきってしまう。

 がっしり腰を落とし、痩せ肉の見た目にそぐわぬ怪力で以て、正面から押し返す。

 

「お前らの強さ、なかなかだ。だが、下弦の俺には及ばねェ。速さも、力もな」

「そんなことはわかっている。俺の水の呼吸もコイツの風の呼吸も、お前に致命傷を与えることはできない。だが持暇なら、あの鋼鉄の鬼を斬った持暇なら!」

「応」

 

 二人の陰から、剣鬼が飛び出した。

 

「ここまでお膳立てしてもらっておいて、斬らぬわけにはいかぬ。是が非でも斬る」

「バカが。呼吸も使えないお前に俺が斬れるかッ」

 

 鬼はケタケタ嗤って、頸を両手で守った。

 けれども、

 

「無駄よ。お前の腕ごと、斬ってくれる」

 

 鬼を見据える鈍色の瞳は、そのように語っていた。

 首筋を粟立たせる、冷ややかな剣気。

 

(ダメだ、殺られる!)

 

 死を直感して、鬼は、とっさに反撃に転じた。

 

「死ぬのはお前だ! 鬼血術『牙穿爪(がせんしょう)』」

 

 指先から爪弾がほとばしる。それは、少女の全力の一撃すら跳ね返した、おそるべき硬度の凶弾である。

 四方八方に放たれた爪弾は、あるいは地面を抉り、あるいは道べりの並木に大穴をあけ、あるいは持暇へと迫る。

 

 持暇は、迷わず刀をふるった。

 まっすぐに刃を立てて、するりと舐めるように刀身全体を滑らせる。対象にたいして常に垂直になるよう、刀の反りに合わせて。

 一連の動きは、瞬きの寸間に行われた。

 それは、剣理を極めた一閃であった。いともたやすく爪を裂き、鬼の頸を腕ごと斬りとばしたのである。

 

「斬った」

 

 

 **

 

 

「しっかし、ひどいことになったもんだ……」

 

 町の惨状に、少年はため息を吐いた。

 地面はあちこちえぐれていたし、道べりの木はいくつか倒れてしまっている。

 運の悪いことには、倒れた木がガス灯を直撃して、さっそく引火してしまっていた。

 

「これ、鬼殺隊が修繕費を出すんだろうか……。と言うか、さっさと逃げなきゃならないぞ」

 

 少年は、頭上にある月のように顔をまっさおにした。

 あれだけ派手に戦ったのだ。

 いくら夜とはいえ、騒ぎを聞きつけた人々が目を覚まし、すぐにでも駆けつけるだろう。そうなる前に逃げなければならない。

 

 だが、それはもうしぼらく先になりそうだ。「影部」と呼ばれる、鬼殺隊の裏方連中。鬼の存在を秘匿し、混乱と恐怖から人々を守ることを生業とする彼らが、せわしなく動きまわっている。

 戦闘痕の残る街路をひと目見ようと起きだした人々を、軒先で押しとどめている。あるいは言葉巧みに言いくるめ、あるいは鼻薬をかがせて追い返し、またあるいは暴力をちらつかせて家へと押し込んでいる。そうする傍ら、とうとう火を上げだした木を消火したり、すばやく瓦礫を片付けたりと、じつにせわしない。

 そのような献身の甲斐あって、傷つき疲れはてた隊士たちも、勝利に余韻ひたって一息つくという贅沢を味わうことができていた。

 

「つ、疲れたぁ~」

 

 少女がストンと尻餅をつく。

 後先考えない全力の「呼吸」で、体力を使い果たしたのだ。

 すぐ隣りに転がっていた鬼の身体が、ピクリと動いた。

 

「きゃっ、動きましたよ!」

「十二鬼月の生命力というのは、とんでもないな。こうして頸を斬られたのに、まだ生きている」

 

 頭部を失った鬼の身体は、もう起き上がることができない。

 けれども、まだ消滅を先延ばしにするだけの力はあるようで、帰らぬ()を求めるかのようにヒクヒクと震えていた。

 そんな己の身体を視界の端におさめて、頸だけとなった鬼は、悔しそうに自問する。

 

「ちくしょう……。どうして負けたんだ。こんなの絶対にオカシイぜ。俺の方が速かった、俺の方が強かった。お前ら鬼殺しの全力の攻撃だって、俺の爪を斬れた(ため)しはねェ。なのに、どうして……!」

 

 その言葉に喜んだのは持暇である。

 

「ほう。ということは、俺の斬撃も捨てたものではないな」

 

 彼は、嬉しそうに腰の日輪刀を撫で、けれども、つぎの瞬間には満足いかぬとばかりにため息を吐いた。

 

「しかし、剣の頂には届かぬ。まだまだ精進しなくては。もう一歩のところまで来ているような気はするのだが……」

「まぁ、持暇さんたら呆れた人。あんなみごとな腕前を披露して、そんなに不満そうにするだなんて」

「実際、俺は不満だ。俺の知る最高の斬撃は、あんなモノではない。俺の師匠は折れた刀で――存在せぬはずの刀身で、俺の刀を斬ったのだ」

「なんだそりゃ」

「やっぱり持暇さんは、お師匠様もイカれてますね……」

 

 などと和気藹々とする三人に、鬼の声が水を差す。

 

「……いい気になるなよ、お前ら。所詮、俺なんか下弦にすぎねェ。上弦の連中は、俺なんかじゃとても手の届かねぇ、本物のバケモンよ」

 

 その嘲笑は、しかし、二人の隊士の心に火をつけた。

 

「上弦がなんだって言うんだ。おなじ十二鬼月を倒したんだ。俺たちなら、俺たち三人なら勝てないはずがない」

「そうです! わたしたちは最強です。ね、持暇さん」

 

 たしかに、彼らは新人としては傑出した腕を持っている。

 あの「藤の山」を出てわずか二年足らず。津々浦々をわたり歩いて鬼を討ち、ついには協力して下弦の鬼を打倒した。これは、鬼殺隊幹部「柱」就任に迫る功績である。

 彼らは強い。その才能は、歴代の隊士のなかでも上澄みに位置するだろう。

 だが、しかし。

 

「――月の呼吸、参ノ型『厭忌月・鎖り』」

 

 上には上がいるのだ。

 

「えっ」

 

 それは、誰の声だったか。

 気がつけば、二人の隊士は、己の腹からズルリとこぼれる(あか)いものを目にしていた。

 (はらわた)である。

 二人は腹を斬られ、こぼれ落ちる己の腸を茫然と見送った。

 びちゃりと地面に落ち、湯気をあげるソレを見て、はじめて自らが斬られたことを知ったのだった。

 

「あ……あ……」

 

 少年は、あわてて腸を掴んで腹へと押し込む。

 少女は、茫然と膝をつき、垣間見たその光景をうわごとのように呟いた。

 

「三日月が、三日月が降ってきた……!」

 

 青白い満月から、さんさんと三日月が降ってきた――

 それは人を斬る不吉の月である。

 

「おい二人とも、おいっ!」

 

 持暇が悲鳴をあげる。

 誰の目にも、彼らの命がもうすぐ失われるのは明らかで。

 

「お前、いった何をしたッ。今の斬撃は何だッ」

 

 そんなこと(・・・・・)よりも、その惨劇を成した技にこそ持暇は夢中になった。彼は鼻息も荒く、熱い吐息をこぼして、その人影をねめつける。

 狂気をやどした鈍色の瞳の見つめる先。

 六つの目を持つ、異形の侍。

 上弦の壱、黒死牟という名の剣鬼がそこにいた。

 

 ――今宵、二人の剣鬼が邂逅を果たした。




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