深夜。闇夜を切り裂くような叫び声が、
「澪美、どうしましたか?失礼します」
トントンとドアをノックし声をかけるも返事はない。そのためセバスは澪美の自室へと足を踏み入れた。そこには、ベッドに蹲り頭を抱える彼女の姿があった。
またですか。全く…
そう呟くと、セバスはゆっくりと近づいていった。
頭を抱えたまま、意味を成さない言葉をブツブツ呟く澪美。
「澪美」
「セバス…?セバス!ねぇ、私ここにいるよね…?私はまだ生きてる。あいつらは死んだ。なのに部屋にあいつらが…!!」
「澪美、それは幻です。幻覚に囚われないでください。あなたはまだ生きてここにいる。私が魂をいただくのですから、その前に死なれては困りますよ」
自分に縋り付き、肩を弱々しく震わせる少女。なんと脆い精神か。こんなにも脆い精神の持ち主が、よくもまぁ自分を呼び出せたものだ、とセバスは思った。同時に、頬を伝う涙を美しいと感じた自分に、少しばかりの驚きを覚えた。
浅ましく、愚かな人間を美しいと思うなどどうかしている…。
「この部屋にはあなたと私、2人しかいませんよ。さぁ、もう気は済みましたか」
「うん…ごめん、セバス」
セバスに抱えあげられ、ようやく視点がはっきり定まると、力なくベッドに腰掛けることができた。
「すっかり体が冷えてしまいましたね。ホットミルクをお待ちしましょうか?」
「いや、いい。それよりもセバス、私が寝るまで手を握っていてくれない?」
「わかりました」
ベッドに横になり手を繋ぐと、ほっと息が零れた。
「セバス、私ね、『お母さん』を知らないんだ。母親は元々水商売をやってたらしくて、私を身篭って父親の男と結婚したはいいけど、産んですぐにまた別の男とどっか行っちゃったんだって」
「父親は、自分一人で私を育てようとは思わなかったみたい。今は多分、別の女の所に住んでる。月に1度生活費をくれる時だけここにくるけど、普段はどこに住んでるのかも知らない。すごく歪だよね。顔もよく覚えてないくらいだから、全然親って気がしないんだ」
「体調崩して心細い時も、夜眠れない時も、いじめられて泣いていた時も、誰も私に優しくしてくれた人なんていなかった。傍に誰かいるってだけで、こんなに安心するんだね…」
セバスの手はひんやりと冷たかったが、澪美にはとても温かく感じていた。
その冷たくも温かい手を優しく握りしめると、やんわりと握り返され思わず驚いてしまう。
「私は、ここにいます。あなたのお傍に最後まで」
「うん、そうだね。セバスがいてくれて良かった。1人で死ぬのは怖かったんだ。だけど今は、セバスがいてくれるから怖くない。なにも、怖くなんてないよ」
程なくして、ベッドからは安らかな寝息が聞こえ始め、繋がれていた手もダラリとその場に垂れ下がった。ゆっくり立ち上がり、主人である澪美を見下ろす。
月の光が冷たく降り注いでいた。
「私がいるからなにも怖くない、ですか…。おやすみなさい、my lady….」