少女の手のひらに降り立った悪魔   作:双葉蓮華

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12話

その日の朝、春夏風(はながさ)高校に到着した生徒達はざわめいていた。

下駄箱の目の前にある掲示板、各クラスの黒板、机の中、廊下、あちこちに貼られた大量の写真。そこには、顔が隠されていてもなお分かるほどに幼い少女と、その肩を抱きニヤついた笑みを浮かべる風間が写し出されていた。

ハタハタと風が吹くたびにはためく写真が、新たに学校に到着する生徒達の視線を奪っていく。

 

「こ、これは一体…」

「あ…ねぇ、これ風間先生だよね?」

「え、これとこれ違う女の子と写ってない?」

「ロリコンかよ、きもっ」

 

写真を手に取り口々に話す生徒。そんな生徒から写真を回収しに走る教師達。誰もが混乱していた。そんな中、澪美(れみ)だけは教室へと真っ直ぐに足を進めていた。

 

「すごい数。さすがは悪魔だな。仕事が早い」

 

呟きは、誰にも拾われずにこぼれ落ちる。

教室のドアが勢いよく開かれ、パシッと乾いた音が響いた。

 

「斎藤!!お前…!!お前がやったんだろう!!こんな…!誰にも言わないって言ってただろう!?」

 

ドアを開けた勢いそのままに、教室にいた澪美に掴みかかってきた風間。その顔は蒼白とし、慌てて出てきたのか髪型も乱れていた。

 

「私、誰にも言ってはいませんよ?持ってた写真をうっかりばらまいちゃっただけですから。それよりも…」

 

囁きで返すと、ゆっくりと辺りを見回す。教室の外からは、駆け込んだ風間に驚き、遠巻きに見つめる多数の生徒達がいた。

 

「現行犯アウトー、ですね?センセ。……キャー!!」

 

そう。風間は勢いそのままに澪美の胸元を掴みあげていたのだ。周りから見れば突然生徒に掴みかかり、何事か喚いただけの教師でしかない。誰かが他の教師を呼んだのか、バタバタと走る音が聞こえる。澪美の悲鳴を聞き、勇気ある男子生徒が風間と澪美を引き剥がした。

 

「淫行教師!!」

 

見渡せば、肩を抱く女子生徒と、女子生徒を守るように立ちはだかる男子生徒達の姿。冷ややかな視線に気が付き、風間はその場に立ち尽くした。

 

「ち、ちがう!これは!!」

「風間くん!こんな所にいたのか!!何をしている、こっちに来なさい!!」

「そこの女子に掴みかかってたんです!!教頭先生、現行犯です!!」

「せ、生徒の諸君は自分の教室に戻りなさい。担任が来るまで静かに自習をしているように!」

 

風間を連れ教頭が去っていくと、静かだった教室が徐々に生徒の話し声で埋め尽くされていく。話題は当然風間と写真のこと。教室には、取り残された写真が散らばったままだった。

 

「皆さん、風間先生は一身上の都合により、先程休職なさることに決まりました。本日より、副担である私が皆さんの担任を努めさせていただきます。どうぞ、よろしく」

 

生徒のざわめきを打ち破ったのは、教室に新たに入ってきたセバスの声だった。

動揺する生徒を落ち着かせるかのようなその笑顔と穏やかな声が、ざわめきを静寂へと変えていた。風間のことに興味はあれど、その笑顔がまるで問うなと言っているかのように感じられ、セバスに話を聞こうとする生徒は現れなかった。

 

風間が休職して数日ー

 

その朝は、セバスが珍しく澪美に新聞を渡したことから始まった。

 

「澪美、おはようございます。朝食の準備が整うまでこちらでもどうぞ」

「ありがとう、珍しいね」

「えぇ、澪美が喜びそうな記事がありましたから」

 

『人気教師、その実態は児童買春に明け暮れる淫行教師!?』

 

その記事はそんな見出しから始まっていた。

 

『9月某日、春夏風高校にショッキングなニュースが飛び込んできた。とある人気教師の実態を写したその写真には、その教師が児童買春を何度も繰り返し行っていた証拠が写し出されていた。その事実に、生徒達が受けたショックは計り知れない。それまで信頼のおける教師として慕われていただけに、保護者もショックを隠せない様子。当該教師の名は風間秀樹(以外、風間氏)、高校内外から人気の高い教師だった。事件が発覚して以降休職していた風間氏であったが、27日、連絡が取れないことを不審に思った同僚が自宅を訪ねたところ、自殺をしているのが発見された。遺書は残されていなかったが、当局がこの事件を調べていたこともあり、警察は事件発覚を苦に自殺したものと見て捜査を進めている。また…』

 

そこまで読んだところで、澪美は新聞をパタリと閉じた。

 

「セバス。つまらない記事だよ、こんなもの。捨てておいて」

「わかりました」

 

セバスが腕を振るうと、たった今まで澪美が読んでいたその新聞に火がつき、あっという間に燃えカスになってしまう。

 

「さぁ、今日は日曜日。せっかくだから朝食はゆっくり食べようかな」

「本日はエッグベネディクトとサラダボウル、ほうれん草のポタージュをご用意しています」

 

澪美の日常はまた始まる。これまでと何一つ変わらないままに。

季節は秋に変わろうとしていた。

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