ガチャッ
唐突に開けられた家の扉の音に反応したセバスは、入ってきた男へとナイフを向けた。しかし、それは主である
「っ澪美!」
「大丈夫だから」
男は虫けらを見るかのような視線を澪美に向け、ついでセバスを見た。
男の口がゆっくりと開かれる。
「男を連れ込んだのか」
「…そんなこと、あなたには関係ないでしょう」
「俺の金で生活している以上、関係あるに決まっているだろう」
「残念ながら。こいつは自分の食い扶持は自分で稼いできてるし、私だってあんたからの金には最低限しか手をつけてない」
「ふんっ、娘のくせに相変わらず生意気な口を聞く奴だ」
父親でしたか…そう呟いたセバスに、嫌そうな顔ながら軽く頷き返す澪美。
「父親だなんて思ったこと、1度もないけどね」
「はじめまして、私は澪美の
「こいつに異父兄?そんな嘘をつくな。どうせお前もあのアバズレの母親と同じように男を連れ込んだんだろう」
「おや。アバズレと言われるのなら、その彼女が澪美以外に何処ぞで子を成していたとしても不思議ではないと思いますが」
「ふんっ、どうでもいい。ほら、今月の生活費だ。今月も父親としての義務は果たした。くれぐれも俺に迷惑かけるんじゃないぞ」
バサッと音を立てて放り出された分厚い封筒から、札束が顔を覗かしていた。これが、澪美を生かすお金。保護者サインがもらえない以上、澪美はアルバイトで生活費を稼ぐことができないでいた。セバスが来てからは金銭に余裕が出てきてはいたが、
いずれ死にゆくと思えばこそ、お金というものに未練の気持ちは芽生えなかった。
封筒を放ると再度冷ややかな視線を2人に向け、男は足早に去っていく。
扉の奥へと姿が消えたのを確認すると、澪美は止めていた息をようやく吐き出すことができた。
「ごめんセバス、油断してた。いつもはポストに放り込まれるだけなんだけど、なんで今回に限って…」
「いえ、私の方こそ失礼しました。洋梨とプラムとブラックベリーのオーチャードフルーツケーキをご用意しています。気分転換にお茶にしましょうか」
「そうだね。紅茶はあれがいいな、この間の…」
「リッジウェイのアールグレイですか?」
「うん、多分それ」
「わかりました」
ケーキを食べる澪美の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「澪美?」
「ごめん、気にしないで。時々寂しくなる時があるだけだから」
「寂しく、ですか?」
「うん。どうして私は誰にも必要とされなかったんだろう、誰にも愛してもらえなかったんだろうって。でも、このケーキを食べたらなんかほっとしちゃって」
「セバス、いつもありがとう。あんただけは私のそばにいてね」
涙を拭うと、また1口ケーキを食べる。優しい甘みが口の中に広がっていくと同時に、緊張していた体から力が抜けいていくのを感じた。
「アレもターゲットの1人。だから手加減はいらない」
「強くなりましたね、澪美。1人ターゲットを消す度に動揺していたあなたが懐かしい」
「茶化すなって。でも、先に母親の方を仕留めようかな。命令だよ、セバス。あの女が今どこにいるのか、何をしているのか、突き止めて」
「Yes, my lady」