数日後、集められた調査書が
「時間がかかってしまって申し訳ありません。容姿がかなり変わっていたようで、突き止めるのに少々時間がかかりまして」
「かして」
渡された書類は、澪美が思っていたよりもやや分厚いものだった。
「あなたのお母上の男性遍歴は華麗なものでして、その分枚数も増えてしまいました。あなたを身篭るまではクラブ『レファリア』で働いていたようです。そこでお父上と出会い身篭り、それを期に入籍。しかし、昼よりも夜の方が相性が良かったようですね」
「出産後、レファリアで親しくしていた他の男性の元へ転がり込み、次はキャバクラ『TSUBAKI』にて3ヶ月ほど働き、別の男性と共に大阪へ向かわれたようです」
「本当に華麗な男性遍歴だこと。男男男…顔も覚えてないけど、あの女は男がいなきゃ生きてけないのかと思うと反吐が出る」
大阪へと行った以降、しばらく資料はそこで途切れていた。母親はその後再度東京へと舞い戻っていたが、その時傍にいたのはまたも違う男だった。
「何店かキャバクラを転々とし、その後はスナックで働くようになり、現在はソープで働いて生計を立てているようです。今は男性の影もなく、独り身かと。容姿も全盛期とはかけ離れてしまい、なかなか次の男性が見つからない様子ですね」
そう言われ差し出された2枚の写真には、明らかに容姿が違う女性が写りこんでいた。同一人物と言われなければ分からないほどに容姿は変貌していたが、事実、それが血の繋がった母親であると証明するかのように、面影だけは澪美とそっくりだった。
「まぁ見事なまでの転落っぷり。こんな女と血が繋がってるってだけで顔が似てるなんて最悪。この女には思い入れもないし、捨てて行ったことを恨んでただけだから」
「では、次の休みにでも行くとしましょうか」
10月になり肌寒い日が続くようになった頃、2人はとある建物の前に立っていた。
「ここは一体…」
「猫カフェです、澪美」
「いきなり!?というかなんで猫カフェ!?」
「実は私、猫だけには昔から目がなくて。あなたと契約してもう2ヶ月、その間猫と触れ合うことが1度もありませんでしたから。たまにはこういうお休みも良いかと思いまして」
「いや…別にいいけど、それなら出かける時に言ってくれない?行きましょうかっていうから、てっきりあの女のところかと思ってた」
「それは失礼いたしました。それよりも、あぁ…なんと愛らしい猫達。天国には縁がありませんが、ここはまさしく私にとっての
2人が立っていた建物。そこは女性・子供に人気の高い猫カフェだった。このセバス、もう何百年もの間猫を偏愛し続けていた。前主に仕えていた間は主の猫アレルギーによりあまり大っぴらに触れ合うことはできなかったが、澪美には猫アレルギーがない様子から、猫カフェに主諸共乗り込むという暴挙に出たのだった。
「セバス…あんた、そんなに猫が好きだったんだ」
「えぇ、とても。この世界はくだらないことで溢れていますが、その中でもこの猫というのは本当に素晴らしい存在です。猫だけでなくネコ科のトラ・ライオンなんかもいいですね。肉球はぷにぷにと柔らかくまた愛らしい顔でこちらを見つめ返すその瞳は宝石のようにいたずらに輝く。以前サーカスにてライオンに頭を噛まれましたが、その噛まれ心地もとても良かったです。また噛まれたいものですね。ぷにぷに…ぷにぷに…あぁ、なんと愛らしい肉球でしょう。この艶やかな毛並み、いい餌を食べているのがわかりますね」
「わかった!セバスが類を見ない猫好きってのはわかったから!ちょっと落ち着いて」
猫カフェを
「おや、そんなつまらなそうな顔をするのはおやめください。せっかくの
「だ、誰がデートよ!!」
突然のセバスの発言にブハッと紅茶を吹き出した澪美。そんな彼女をキョトンと見つめると、セバスは猫達を手で指し示した。
「猫達とのデートですが…澪美、まさかとは思いますが私とあなたのデートと間違えましたか?」
自分の勘違いを悟ると、澪美の顔は真っ赤に染め上がった。
「う、うるさい!あんたが紛らわしいこと言うからでしょ!」
ツンとそっぽを向く顔を見たセバスの口角が釣り上がる。
「あぁ、たしかに…。休日に男女が2人で出かけるとなるとデートと思ってしまっても無理はありませんね」
「か、からかうのもいい加減にして!」
そう怒鳴ると、周りの視線に気が付き咳払いを1つ。
「とにかく、今日はあんたに1日付き合ってあげる。だけど帰ったらすぐ紅茶を入れてもらうから」
「おや、こちらのものは気に入りませんでしたか?」
「あんたが作る料理もデザートも紅茶も、無駄にレベル高いから他じゃ満足できないの。悪い?」
まだ照れているのかそっぽを向きつつ答えた少女に、セバスは若干の驚きを覚えていた。と同時に、胸の奥がほんのり暖かい感覚に囚われたことにも気がついていた。
悪魔である自分がこんな感覚に囚われるなんて、想像もしていなかった。その暖かみはまだ蕾だった。