その夜、
「失礼します。今日はなかなか眠れないようですね」
「セバス…」
静かに部屋に入ると、ホットミルクを差し出す。例え違う部屋にいようとも、澪美が眠れないでいることはお見通しだった。
「レミーブラックプレステージって、どんな味なんだろう…」
眠れないからか、ベッドに腰掛けホットミルクに舌鼓を打ちつつボソリと呟いた。
「先日、柏原氏が言っていたシャンパンの名ですね」
「うん。お酒なんてまだ飲んだことないからわからなくて。名付けに迷って酒の名前つけるなんて、だいぶおわってるよね。父親は知ってるんだか」
飲み終わったカップを返すと、再度ベッドへと潜り込む。
「セバス、今日も寝るまで手を繋いでいてくれる?」
「かまいませんよ。それよりも、寒いのでしたら暖めてあげましょうか?」
からかうようにそう言ったセバスだったが、言われた澪美が挑発的な眼差しで自分を見ていることに気が付き、音もなく息を飲んだ。
「暖めてよセバス。さむい…寒くてたまらない」
伏し目がちなその睫毛に誘われるように、セバスは澪美の体を抱きしめた。体が小刻みに震えるのを押さえつけるように、しっかりと胸へと包み込む。
長年の栄養不足からか、セバスと契約してから正常な体型へと少し太ってはきたものの、未だその小柄な体躯はすっぽりと腕の中に収まっていた。
「あぁ、本当に。随分と冷えていらっしゃる」
顔色を伺おうと覗き込んだその頬に、澪美の唇がぶつかる。悪魔の甘い誘惑、その先を止めるものはこの家の中にいなかった。
「イケない子ですね。こういったことは嫌いなのでは?」
「嫌いでも、縋りたくなる時だってある。誰もいない人はいるけど、私にはセバスがいる。セバス、どこにも行かないで。あんたは誰にも渡さない」
力強く抱きしめる澪美に応えるように、セバスも体を抱きしめ返す。澪美の目には以前はなかった狂気が見え隠れしていた。その視線の先には何も無い。しかし、澪美だけには何かが見えているようだった。
いつしか衣服は脱ぎ捨てられ、ひんやりとした肌が重なり合う。普段はしっかり付けられているはずの手袋も、今ではサイドボードへと投げ出されていた。契約以降毎日のように付けられていたリストバンドがベッドの傍に軽い音を立てて落とされる。
「よろしいのですか?本当に」
「いいよ。でも誤解しないで。これは、あんたに流されてるからじゃない。私自身の意志だよ」
囁きを返すと同時に、澪美はガブリと目の前の耳朶に噛み付いた。冷ややかな眼差しとは反対に優しい手が体の上を這っていくのに合わせ、知らず、呼吸が昂っていく。
頭の中が真っ白になるほどの快楽に思考がスパークする。高みへ上り詰めるのと同時に、澪美は大きく息を吐いた。
気だるい体と、ユラユラ海を漂っているかのような微睡みとの狭間の中、セバスが横に寝転がるのを感じた。セバスの左手が右腕の契約書をなぞり、それによりカラッポな体が引き戻されていくのがわかる。
澪美はようやく自分の命を実感することができていた。
「あなたが眠るまでここにいます。手を繋いだまま、ずっと…my lady」
そうして今日も、主は悪魔の手を握ったまま夢の中と堕ちていく。
セバスにイケない子ですね、と言われたい人生だった。
どうも、双葉です。
ちなみに私、レミーブラックプレステージがどんな味かは存じ上げません笑
お酒飲まなくなって3年近く経つため、ぶっちゃけお酒の味も覚えてませんw
早くまたお酒飲みたいな〜…
シャンパンは飲んだことありませんが、梅酒は大好物です。