変な幻覚を見た。自殺しようとしていたら、悪魔とかいう男が出てきて、私の望みを叶える、と言っていた。
あんなにズタズタにしたはずの腕の痛みがない。
ようやく死ぬことができた!
この目を開くと、視界に入るのはどんな世界なんだろう?もしや病院ではあるまい、と多少不安にはなったが、意を決して目を開くことにした。
目を開くと、そこはいつもの、1人で住むにはやや広めの部屋。
「え…?どうして…」
「お目覚めですか、お嬢様」
声が聞こえ、ビクリと肩を揺らす。慌てて部屋の出入口を見ると、そこにはあの男がいた。
「ど、どうして!なんで部屋に…!あれ幻覚じゃなかったの!?」
「落ち着いてください、レディがあまり大きな声を出すものではありませんよ。先程私と契約したことを、もうお忘れになりましたか?」
「けいやく…?」
「えぇ。右腕をご覧なさい」
そう言われ、澪美は自分の右腕を見た。腕の内側には、見たこともないような紋様が黒々と刻まれていた。ハッとして左腕を見る。あれほど包丁で切り裂いたはずの腕の怪我が、一遍の傷痕も残さずきれいさっぱり消えてしまっていた。
「これ…」
「あなたが仰ったのでしょう?この血を止めてどうにかしろ、と。これからも生きていくのならば、あのような大きな傷は邪魔でしかない。僭越ながら、傷痕諸共消させていただきました」
「あ、ありがとう…えっと…セバス?」
澪美がそう声をかけると、男ーセバスーはニコリと微笑み、ベッドに近づいてきた。
「寝ていらっしゃる間に、部屋の掃除も済ませております。
見ると手には澪美の服。澪美は、慌ててそれをひったくった。
「ちょ、ちょっと!契約は確かにしたかもしれないけど、仕えるってなに!?執事気取り!?そんなのこの時代にいるわけないでしょう!中世ヨーロッパでもあるまいし。着替えくらい1人でできるからさっさと出ていってよ!!」
「おや、執事気取りかと申されましても。私は
「だから!執事なんかいるような時代じゃないの!え?もしかして、ずっと傍にいる感じ?なにそれ…」
「なにそれ、と仰られましても。困りましたねぇ。魂をいただくためにはあなたの傍についていなければいけませんし。以前の主人は名門伯爵家のご当主であられましたから、執事で良かったのですが。執事がいるような時代ではないとなると…」
「わかった!わかったわよ!親戚もいなかったし…異母兄とでもしておくわ。どうせ、私に興味がある人間なんていないんだし。今更兄の1人や2人、出てきたところで誰も不思議に思わないでしょ」
セバスが一礼して部屋から出るのを見届けると、軽くため息をついて着替え始めた。
これからこの
早まったかもしれない…その思いは、再度ため息となって吐き出された。