リビングに行くと、そこにはセバスが立っていた。
「暖かいココアをご用意致しました、ご主人様。で、
今まで経験したことの無いエスコート。自分に丁寧に話しかける男。
「ひとまずご主人様はやめて。それ外で言ったらどんなプレイだよって2度見されるから」
「かしこまりました」
「それからその敬語も。実際兄がいた事ないからよくわからないけど、多分、敬語使ったりなんてしないでしょう?普通でいいよ」
「わかりました。では、なんとお呼びすれば?」
「澪美でいいよ。その硬い喋り方もなしで」
「わかりました。ですがこの喋り方は今更変えられそうもありませんから、このままにさせてください。改めまして澪美、よろしくお願いします」
セバスは対面に腰掛けると、にこやかに手を差し出してきた。澪美もそれに応えようと右手を伸ばす。と、その腕をぐっと掴まれセバスに引き寄せられた。突然のことに驚きで目を見開く澪美。机にあったマグカップが倒れ、ココアの染みが広がっていくのが視界の端に映っていた。
「この腕。ここに逆ペンタクルが刻まれているでしょう?これは黒魔術の印で、私との契約書でもあります。私の左手の甲にあるものと同じです。この印が目に付くところにあるほど、結び付きは強くなり、強い執行力をもたらします。あなたはただ私に命令すればいい。ただそれだけで、望みを叶えられるのです」
セバスの手がゆっくりと印をなぞり、それに従って印の部位が少しずつ熱を帯びる。紅く怪しく瞳が光り、その光に飲み込まれそうになったその時、澪美の意識が戻ってきた。
「あっ…」
「まったく。この程度の誘惑に負けてどうするのです?あなたは復讐するのでしょう。あなたを苦しめてきた人間達に。これしきのことで動じるようでは復讐など夢のまた夢。我が主たるもの、このくらいのことで動じてどうします」
「ご、ごめん。…ていうか、この机どうすんの!ココア零れちゃったじゃん!!」
「それは失礼致しました。ああ、その印、普段は隠していてくださって構いませんから」
そう言われ、印を自分でもそっと撫でてみる。先程のようなじんわりとした熱は感じない。
「さっきの、あれは悪魔の力?」
「えぇ、まぁ。そのようなものです。それで澪美、あなたが復讐したいのは誰ですか?」
「私が復讐したいのは…みんな。私を産んで逃げた母親も、私を見捨てた父親も、私をいじめたアイツらも、私を裏切ったあいつも、見て見ぬふりしてた担任も、みんな」
「でも復讐なんてどうするの?確かに、殺したいほど憎んでる奴らばかり。だけど、殺してしまえば私は捕まるし死刑になる。アイツらの為に死刑になるなんて真っ平だ。何度も思った。アイツらみんな死んじまえ!って。でも…」
「澪美、私のことをお忘れですか?私は悪魔。あなたが望むなら、あなたを苦しめてきた人間達を皆、殺すことなど容易い。しかし、あなたはそれを望むのですか?」
そう問われ、思わず言葉に詰まった。確かに死んでほしい。だけど、それ以上に、自分の手で殺してやりたかった。
「自分の手で、地獄に突き落としてやりたい。自分は幸せです!って面を吹き飛ばして、絶望に変えてやりたい」
「ならば私は、そのお手伝いを致しましょう。my lady」