泥人形の高校生活   作:スティックシュガー

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愚痴と転生

「どうも今日は、それでは早速転生のご案内をさせていただきます」

 

そういったのは目の前に座るサラリーマン風の男。

真っ白な部屋の中でポツンと一つだけある事務机に大量に積まれた書類に半分埋もれるように佇むその男は、少し前までの自分とさほど変わらない顔色でそういった。

つまりはほとんど死にかけのような顔なのだが、何故目の前にこんな光景が広がっているのか、少なくとも医者ではないだろうし、そもそもこの部屋だって変だ。

病室よりも白くて影がない部屋なんて初めて見た。

一つもないのだ。

事務机の下にだってない。

これはいよいよおかしくなってきたと感じた時

 

「すいません、聞こえていますか?聞こえているなら返事を」

 

と再び声をかけられた。

 

「あ、はいすいません聞こえてます」

 

弾かれたように返事をして、誤魔化すように首を掻く。

つい自分の思考に飲まれていたようだ。

入院生活が長いと一人でいることがあまりにも暇で、いつの間にか身についていた悪癖が出てしまっていたらしい。

二度も恥ずかしいところは見せられないと姿勢を正す。

 

「そうですか。では改めて転生のご案内を」

 

「はあ、転生ですか。あの、じゃあやっぱり僕って死んだということで間違い無いんですかね」

 

転生

その言葉には割と理解がある方だった。

何せ病院からは出られない身だ、もっぱらネットでサーフィンどころがクルージングの毎日だった。

そんな中で知った作品の中には転生設定のものもたくさんあったし、境遇的にもたらればの妄想をしたことは一度や二度では無い。

毎回その後に死ぬことを認めてしまっていた自分に自己嫌悪を抱くのだが。

そんなわけで転生という言葉は僕にとっては少し特別というか複雑な意味を持っていた。

 

「はい、間違いありません。こちら側の不手際により死亡させてしまい申し訳ありませんでした」

 

「そうですか。……不手際って何ですか?」

 

「あなたの死因についてです。覚えていませんか」

 

「死因も何も僕は、あれ、僕って、?」

 

そういえばなぜ思い出せなかったんだろう、そうだなんか病院の天井が崩れて、それで。

 

「あなたの死因はこちらが不注意に落とした氷に潰されたことによるものです」

 

「氷?氷ってあの?なんで?」

 

「説明させていただきます。まず、あなたがたが住む宇宙は私たち、あなたがたがいう所の神が管理しているのですが、私の直属の上司である最高神のご子息が少し、いえ不祥事を起こしてしまいまして」

 

「はあ、もしかしてその人が、いやその神様が何か関係が?」

 

なんか色々すごい情報がさらっと出てきてるよ。

でもなんかこの神様?すごい顔色が悪くなっていってるんだけど、話止めたらまずいよなコレ

 

「理解が早くて助かります。実はそのばっご子息、業務中であった私どもに顔を見せにいらっしゃったのですが、尋常では無いほどに酔っ払っておりまして、散々管を巻き暴れた挙句、唐突にアイスバケツチャレンジをやると言い出しまして」

 

「あのyoutubeの?」

 

「ええyoutubeの、結果氷が派手に飛び散りそちらの宇宙に入ってしまい、急ぎ対応を試みたものの、等のご子息が心臓マヒを起こしましてそちらの対応にも追われ、処理仕切れずこのような事態に、本当に申し訳ありませんでした」

 

「……………そうですか」

 

しばらく絶句していた。

くだらない。

そもそもなんでアイスバケツチャレンジなんだ。

あれ何年前の流行りだ。

なんというか神様というのはくだらなさもやっぱり違うものなのかと思う。

それでも4回転ぐらいして冷静になってみると、こと僕にとってはあまり関係がないことに気づいた。

 

「そうですか?あなたはその不祥事の被害者で、あまつさえそのもみ消しの為に転生させられようとしているんですよ⁉︎」

 

「ああいや、そもそも僕は死ぬはずでしたし、僕の最後が癌によってじゃなかったっていうの少しスカッとしたというか」

 

ずっと癌と戦ってきた。

死ぬギリギリまで僕の死因なんて癌以外考えられなかった。

それが誰も思いつかないようなビックリすらできない死に方をするだなんて、僕の思惑なんて全く関係ないけれど最後の最後に癌に一泡吹かせてやったみたいで少しだけ嬉しかった。

僕の頑張りが少しだけ報われたような気がしたんだ。

 

あの大きさだと少なくとも近くにいた看護師の桜井さんは巻き込まれちゃっただろうから不謹慎だとは思うけど。

 

「あなたは、変わってますね」

 

「あはは、初めて言われました」

 

「それでいいんですか」

 

呆れたように言われる。

やっぱりこの神様はいい人だな、だいぶ苦労してそうだけど。

最初の事務的な対応と違ってこちらを気遣うような態度に少し笑ってしまった。

 

「経緯はなんにせよ、もう一回チャンスがもらえるのはありがたいですよ。心残りはたくさんあったので」

 

「ふう、わかりました。転生のご案内に入らせていただきます。残念ながら世界はあなたがいた世界と異なります。言語の違いや環境の違いについては適応した体になりますので心配は要りません。転生に際し一つに限り要望を受け付けますがいかがいたしますか」

 

「要望ですか、それなら健康というか頑丈な体にしてほしいです」

 

「それは標準で備わっていますが、他にありますか」

 

「え、そうなんですか。どうしようかな」

 

自分が見てきた漫画やアニメを思い出す。

伝説の武器、尋常じゃない身体能力、人知を超えた超能力、人間じゃないものになって見ようか、すっごい美人になってみるとかもいいかな、動物と喋ったりとかも面白そうだ。

色々な選択肢が浮かぶがなんとなくピンとこない。

僕がほしいもの、やりたいこと……

 

 

 

「あの、どんな世界に行くかとかって決められますか?」

 

「はい、最終的にあなたが行く世界の選考はこちらがやりますのでそれに条件をつける形になりますが」

 

「はい!それで大丈夫です」

 

「ではどのような世界をお望みですか」

 

「僕の世界と同じぐらいの時代とか、似たような文明の世界にしてください!」

 

 

そうだ僕はやりたいことがたくさんあったんだった。

僕は車に乗りたくて

僕はふわふわのパンケーキが食べたくて

僕は映画館に行きたくて

僕は山に登りたくて

僕は海を泳いでみたくて

僕は人の好意にちゃんとお返しができるようになりたかったんだ。

 

ならやっぱりもう一回挑戦しないといけない。

 

 

「ファンタジーや未来の世界ではなく現代ですか」

 

「はい」

 

「それでよろしいのですね?」

 

「はい」

 

「かしこまりました。それではそちらへお進みください」

 

「はい。あの、ありがとうございました」

 

一言お礼を言って真っ白な道を歩き始めた。

相手は違うけど、やっと僕は感謝の言葉を口にできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変わった人でしたね」

 

私は誰もいなくなった部屋で呟いた。

手元に残った一枚の紙に目を向ける。

そこには先ほどまでここにいた少年の情報が書かれていた。

この紙は彼そのものだ。

生前のことだけでなく、この転生の間に入ってからの思い浮かべたことまで書いてある。

ただ会話の中だけでなく、会話の中での心の動きを知らなければ思わぬ二次災害を生みかねない。

 

この転生の間で行うことも謝罪のためではなく問答を通して適した処理の方法を決めるためのものだ。

でなければ神が人に謝ることなどあるはずもない。

 

私は彼の前に何百人もの人間と同じようにこの問答をしてきた。

私は神も人間も嫌いだった。

 

神はどいつもこいつも身勝手で独善的だ。

マシな神だっているだろうが、立場が上になればなるほどにその傲慢さが際立ってくる。

最高神のジジイなんて女癖は最悪だし、若い時に兄弟総出で親を殺した話を誇らしげに語っているなど同じ神でも理解不能だ。

それに加え権力にものを言わせて好き勝手やっているくせに責任なんて取ろうともしない。

今回の転生の話だって顔を見せることすらせず丸投げだ。

 

バカ息子だってそうだ。

どうしてか知らないが親の悪いところばかり受け継いでいる。

今回の件も心臓マヒで死にかけたところをかろうじて医神の処置が間に合ったというのにまるで懲りずに戦車を乗り回しているらしい。

全くもって気が知れない。

 

 

人間だって同じだ。

問答の中で、こちらに罵倒を投げつけないものなど一人しかいなかった。

まあ、それは仕方がないことではある。

何せ神ですら同情するような死に様だ。

 

しかし誰もが足元を見た要求をしてきたことはさすがに不愉快だった。

通す要求の数を増やそうとするもの

世界そのものを自分の所有物として要求するもの

神として転生を要求するもの

まだ比較的好感を持てた、原因の神の抹殺を望んだものは魂の一片すら残ってはいない

全くどいつもこいつも勘違いしている。

 

そんな中で彼は憤ることもなく、恨むこともなく、悲観することもなく、投げやりになることもなかった。

何を求めるのかという問いには迷っていたようだが、最終的には誰も選ばなかったものを望んだ。

誰しもが無意識に価値はないと判断したものに価値を見出したから得た答えだった。

 

それが、私にとって嬉しい答えだったから、少し手を出したくなってしまった。

 

「おや、要望の問いにはいくつか思い浮かんではいたようですね」

 

手元の紙に書かれた膨大な文字の中にいくつかの箇条書きを見つけた。

 

「伝説の武器、身体能力に超能力、人外に美貌、動物と話す、ですか」

 

まあ無難というかありふれたものばかりではあるが随分まとまりのない候補たちだと思う。

そのまま紙に書かれた文字を流し読んでいると、一つの名前を見つける。

 

「ふむ、これなら条件を満たしますか。実行するとしたら高くつくな」

 

「…まああのバカどもなら気づきませんね」

 

手に持った紙を机の上に戻しハンコを振り下ろす。

 

『ダンッ』

「いい旅を、□□□□□」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い道を歩いているとドアノッカーのついた重厚な木製の扉が見えてきた。

周りが真っ白なのにこんな扉をつけるものだからなんだか二重の意味で浮いて見える。

 

「ここを開ければいいのかな」

 

真っ白な道だったものだから一本道だと思っていたけど、実は別の道があったのかもしれないと少し不安になる。

確認しようと振り返るもやはりそれらしいものは見えない。

仕方がないのでもう一度扉に向き合うと扉に神が貼り付けてある。

 

こんなのさっきはなかったはずなのにな

 

A4サイズほどの紙いっぱいに赤いハンコで『了承』と押してある。

これはここでいいということなのだろう。…多分

 

よし、よし開ける!

「こんにちは来世!」

 

 




めっちゃ態度の悪い奴相手の接客が続いた後に普通に愛想のいい人相手にすると天使に見えちゃう系神様
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