※聖杯違いです。 作:エタります
「はー……。ほんと、おかしくって腹痛いわー……」
今自分がいるのはあの夜にも引けを取らない、地獄のような真っ赤な都市。
消える様子のない燃え盛る炎。炎と混じり赤黒く染まった夜空。
こんな糞みたいな場所に放り出され、本当に笑うしかない。
現状といい、あの糞糞&糞な夜といい、我ながら呪われた人生としか言いようがない。
「これ生きてる奴いんの? ……いないんだろうなぁ」
そうなるとこの焦土と化した都市から一人で脱出しなければならないが……これなんて絶対絶命都市?
「てーかさ、てーかさ、てーかさ。見間違いじゃなきゃ、動く骸骨見ちゃったんだけど――あっ見間違いじゃねーわこれ」
徒党を組む骸骨から物陰に身を隠す。徒党を組み、各々がその手に得物を携えては徘徊する様に懐かしさを覚えるが……。
今の自分の手持ちやら何やらを確認する。
身に纏っているのはすっかすかの布きれにも等しいカルデアスタッフの制服。
仕掛け武器もねぇ。銃もねぇ。かの特殊な狩道具――は神秘がゴミカス程度だったからいいとして。カレル文字も今は何にも脳裏に焼きついちゃいねぇ。消耗品? 当然んなものありゃしない。
……………………。
………………。
…………。
……。
「いやほんと無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! 誰か、誰か助け――ゲールマーーーーーーン!(←映画冒頭の「ドラえもーーーん!」と叫ぶのび太のように)」
「っとに忙しそうなことで……。購買部担当でマジラッキーだったわ」
現在カルデア内は東奔西走と大忙しだった。
もうすぐレイシフト実験が始まるらしく、殆どのスタッフが現場にかり出されている。
レイシフト実験とやらが何なのかはよく分かっていない。というのも自分が雇われたのはつい先日のことだからだ。
標高ウン千メートルの雪山、その地下に作られた人理継続保障機関フィニス・カルデア。
その購買部担当として雇われたはいいが、しかしカルデアが何をしたいのかはさっぱりだった。
当然事前にカルデアがどんな所で、何をするのか、特に今回のレイシフト実験のことについては説明を受けているのだが……全く意味が分からなかった。
何だか頭の良さそうな、小難しい言葉ばかり並べられていたというのは覚えているが……。
「まあ、元々購買部担当ってことで雇われたんだ。そう詳しく知らなくても問題は無いだろ」
気付けばバタバタしていたカルデア内も落ち着き、今度は打って変わって静まり返る。
恐らくは既に現場にかり出されたスタッフは皆配置に着いているのだろうと、ここからでも予想がつく。
よほどスタッフの面々は優秀な人ばかりなのだろうが、そうなると何故自分が雇われたのかが分からない。購買部だろうが、カルデア内の施設なのだ。もっとちゃんとした……優秀な人間を置いておけばいいだろうに。
「あ゛ー暇だ。マジ暇。暇サイコー。このまま誰も来なければもっと最高なんだけど……」
あまりに人が来ないから、つい怠惰な独り言を漏らし――ていると、急に灯りが消える。
「おっ、おおっ? 真っ暗――ちょー!?」
暗くなったかと思えば、その直後に派手な爆発音。ここからでも大きく聞こえたということはかなりの規模の筈だ――ってこれマジやばくね?
『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください。繰り返します――』
「あわ、あわわ、あわわ……」
どどどどどどどどうしよう!? 第二ゲートってどこ!? さっきの独り言フラグだった!?
「……いやいや。廊下に出りゃ他の職員とかち合うだろ。それに着いて行けば――!」
だが、予想に反して廊下には誰もいない。だだっ広い円形の廊下は、依然としてだだっ広いまま。誰かが退避してくるような気配も無く、ただサイレンが鳴り響くばかり。
……しゃあねえ、場所は分からないけどとりあえず動くか。動いてれば退避している職員と合流できるだろう。死ぬような目に遭うのはまだ我慢できるが、しかし本当にはもう死にたくない。
口に出すのも憚られる、あの夜の時とは違うのだ。自分が今この世界でこうやって過ごしている以上、もうあんなとことは関係が切れているのだから。
だから、次なんてない。もしここで死ねば、本当に終わってしまうに違いない。
そんなのは絶対に御免被る。自分はまだ童貞なのだ。童貞のまま終わってしまう? そんなの無理無理。人形ちゃんレベルの美女と一発致すまでは、死んでも死にきれない。
「――見つけた」
遠目に見えるのはどこかに向かって駆けている二人の男女。
医療部門の職員であろう、白衣のような制服を着用している長髪を後頭部で縛った青年。マスター候補とやらに支給された白い制服に身を包んだ少女。
あの二人に着いて行けば何とかなるだろう。職員が迷うことなく一方向を目指しているのだ、きっとそこが第二ゲートか、はたまた安全な場所に違いない。
事実二人揃ってどこぞの部屋に入り込んだかと思えば、すぐに職員の青年だけは飛び出すように出て行ってた。
これはつまり、他の人間を助けようと青年は一人勇敢に探しに行ったのだろう。
まさか職員の人間が女の子を一人適当な場所にほっぽりだすわけないし? そうなるとあの部屋に入っとけば間違いない筈――
「間違いだったーー!?」
紅い、赤い、とにかく朱い。しかも熱い。
安心を求めて足を踏み入れた先は安全とは程遠い、炎と瓦礫に侵された空間だった。
あまりにも酷すぎる。どこを見ても瓦礫と炎が視界に入るし、今も尚天井から剥がれ落ちた巨大な瓦礫が降り注いでいる。
『システム レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木。ラプラスによる転移保護 成立。特異点への因子追加枠 確保。アンサモンプログラム セット。マスターは最終調整に入ってください』
「うーん、わからん」
再びアナウンスが流れるが、さっきのと比べその内容の意味がわからない。
避難勧告ってわけでもないみたいだし……とにかく、さっさとここから離れるとしよう。こんな場所にいるよりも、まだ第二ゲートを探し回った方が安全だろう。そう考え、踵を返そうとした、その時だ。部屋の中央に据え付けられた大きな地球儀が真っ赤に染まる。それと同時に――
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来百年までの地球において人類の痕跡は 発見 できません』
『人類の生存は 確認 できません。人類の未来は 保障 できません』
三度流れるアナウンス。だがさきほどと違い、その内容はシンプルでわかりやすかった。
人類にこれからは無いのだと、思い切り不安を煽るようなことを言っちゃってくれる無機質な声。しかし無機質な声は止まらない。
『中央障壁 封鎖します。館内洗浄開始まで あと 180秒です』
「はぁ――あっ、ヴェエエ!? うそ、戻れないんですけど!?」
閉まる障壁。目の前で退路が断たれ、数舜呆けてしまう。……これ、詰んだ? そういえば最初のアナウンスの中央区画の障壁を90秒で封鎖ってやつ……もしかしてこれのこと?
「いやだぁぁぁぁぁぁ! 出してくれぇぇぇぇぇ! 童貞のまま死にとうないっ!」
『コフィン内マスターのバイタル 基準値に 達していません。レイシフト 定員に 達していません。該当マスターを検索中・・・・発見しました。適応番号48 藤丸立香 を――』
爆発金槌さえありゃ! こんな障壁! ゴミクズのようにしてやれるのにっ!
『レイシフト開始まで あと3 2 1』
……と思ったけどダメだ! 筋力にあんま振ってなかった! 金槌あったってダメだこりゃ! はあ――まだ夢を見ていたあの頃に、せめて人形ちゃんにヌい――
『全工程