もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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prologue~運命を呪う少女~
プロローグ


 肩から腕にかけて精一杯の力で、自分の手首を抑える金具を引きちぎろうとする……が、びくともしない。その事実に少女は内心で舌打ちする。

 少女は、今、この何処とも分からない基地のある一室で拘束されていた。

 常人ならば一瞬で感電死しかねない電気椅子に座らされ、手足を金具で固定され、身動きを取れなくさせられていた。

 

「本当にうまく行くと思ったのかしら、“隊長(コマンダー)”」

 

 そんな自分を嘲笑うかのような皮肉で笑い、歩み寄ってくる金髪の女性。名はスコール・ミューゼル……少女にとっては最も嫌悪すべき……大人たちの一人だった。

 スコールの顔は表面上は笑顔を繕っているが、その眼はまったく笑っていない。少なくとも、少女のような子供に対して向ける目線ではなかった。

 少しでも、下手な真似をすれば殺す、とその眼は語っている。

 

「エム。貴方は本当に強くて、優秀な人材だわ。私達の目が行き届いていない所でも、必死にISの訓練をして、力を付けていたのは知っている。他の少年兵たちよりも先んじて任務に赴き、まもなくして私の部隊に配属された。私は貴女の事を買っていた」

 

「……」

 

 嘘か本心か分からない言葉に対して、少女は力無く俯く。その下にはどんな表情があるのかは、見えなかった。

 

「だから、こんな事をするのが信じられないの。確かに、ここに連れてこられたころの貴女の私達に対する態度は最悪だった。それこそ猛獣の檻に放り込んだ方がいいと思うくらいに。監視用のナノマシンを入れてからも、貴女が現在のように私達に従うようになるまで結構な時間もかかった」

 

「……」

 

「だから、教えて欲しいのよ。どのようにしてナノマシンの監視すらもすり抜けて、少年兵たちを扇動したのか……」

 

 先日……この『亡国機業』と呼ばれる組織が持つ基地にて、ある事件が起こった。亡国機業が将来の駒として育てていた少年兵たち……その彼らが突如として武装蜂起したのだ。きっかけとなったのは、基地に積まれていた機材が崩れ落ち、たまたまそこに居合わせた少年兵の一人が機材の下敷きになり、事故死したこと。

 それがきっかけで、基地の大人たちに不信感を抱くようになった少年兵たちを扇動したのが、いまここで電気椅子に座らされている『エム』と呼ばれた少女である。少女は拘束され、こうして尋問室にいた。

 

「お前達は……」

 

 力無く、唇を震わせながらエムは口を開いた。

 どれだけ取り繕おうと、所詮は子供であるのか、その様はまるで怒っている大人に対して怯える子供そのものだった。

 

「お前達に従えば、姉さんに会わせてくれるって……」

 

 怯えた様子を見せながらも、はっきりとした抗議の意を乗せて、エムという少女は言った。

 

「そうね。だけど、それは今じゃない」

 

 確かに、そんな約束もしたな、とスコールは言う。

 だが、彼女と少女を会わせてあげられるのはまだ先の事であり、今では現状不可能な事。だが、自分達に従っていればいずれ少女が姉に出会える事は必然だった。

 それでも、少女はその約束が信用できなかったのか、はたまた待ち切れなかったのか。

 

「みんな戻って来た……お前たちに、連れ戻されて……私だけじゃない……みんな、帰りたがっていたのに……」

 

 少女のすすり泣きが聞こえる。

 どうやらもう抵抗の意志はないようだとスコールも、そしてその様子をガラスの奥から見ていた茶髪ロングの女性……オータムもそう思った。

 

 ――――ハッ、ざまあねえぜ。

 

 子供の癖に、自分達に今まで見せていた太々しい生意気な態度だった少女が、今では嘘のように縮こまって、自分達に怯えながら尋問されている。

 

 ――――所詮、タダのガキだって事か……。

 

 いくらあの少女が優秀であろうが、所詮は子供。初対面の時、自分があの子供に散々苦渋を舐めさせられたのがバカバカしくなってくる。

 あの時味わされた屈辱が、溜欲が、自分の中で少しだけ下がるのをオータムは感じた。

 少なくとも、この瞬間までは……。

 

「子供たちは完全な監視下に置いた。武器も全部取り上げた。蹶起はもう不可能よ。これからあの子たちは今までよりもずっと厳しい躾と訓練を強要されるようになるわね。……貴女のせいで……」

 

「ッ、それでもッ……どうしてもみんな、帰りたいって……」

 

 『貴女のせい』という言葉にビクリと肩を震わせ、言い訳をする少女。もはや今までの態度など見る影もないように見えた。

 

「家が恋しかった……それだけなのね?」

 

「うん……ク、ククククク……」

 

 そう、この瞬間までは。

 少女は嗤っていた。その態度は180°豹変し、とても子供が出す笑いとはかけ離れたものだった。

 スコールも、ガラスの向こうから見ていたオータムも、少女のその豹変に訝しむ。いや、豹変というよりは、戻ったという表現が正しかったのか。

 

「部隊の将軍、反政府ゲリラ、親を殺した正規軍。いとこ、兄弟、両親……みんな殺したい相手がいたんだ」

 

 突如、部屋が揺れ動き、振動が鳴り響く。

 その音は徐々に大きく、強くなっていく、スコールも、オータムも異変を感じとり、辺りを見回した。

 そんな彼女らをしてやったり、というような表情で、少女は更に続ける。

 

「ク、ククク……だから言ったのさ。これが最後になるから悔いは残すなって」

 

「……最後?」

 

 訝し気にスコールが問う。

 

「連れ戻されたら覚悟を決めろって」

 

 そして、揺れはやがて衝撃と、音は小さな物から轟音へと変わる。

 間違いない、これは異常事態だと、スコールとオータムは冷や汗を流し、少女の方を睨み付ける。

 

「この世界中が敵になる!!」

 

 その宣言と共に、少女は高笑いする。

 最早電気椅子で電気を流そうが、新たに注入した監視用ナノマシンで少女を抑えようが意味がない。

 少女の背後で大きな爆発が起こり、後ろ側にあった壁が吹き飛び、煙が舞う。

 

 その衝撃は近くにいたスコールは愚か、安全地帯にいる筈のオータムにすら爆風が及ぶ。

 防弾ガラスが砕け散り、オータムの身体に襲い掛かるが、間一髪でしゃがみ込んで回避する。

 スコールも何とか部屋の端へ移動でき、身体をサイボーグ化している事も相まって無事だった。

 しかし、それでも突然の衝撃で二人ともすぐに立ち上がる事ができず、二人の視界に、煙の向こうから光が飛んでくるのが見えた。

 

 やがて、煙の中から、ソレは姿を現す。

 とはいっても、その巨体のあまりに、見えたのは一部だけだった。

 やがて、その一部にあるハッチらしきものが開き、少女はいつの間にかその隣にいた。

 

「私は貴様らとは違う!!」

 

 いつの間にか着替えたのか。

 彼女は既にコードの差し込み口のような物がついたISスーツを着込んでいた。

 やがて巨大な何かからのハッチの中身から複数のコードが触手のように飛び出し、少女のISスーツのコード口に差し込まれ、そのまま少女は中へと吸い込まれていく。

 

 ――――馬鹿な……。

 

 急に現れた巨大な何かがどういうものなのかを理解したスコールは、焦燥に駆られた。

 

(もしかして、試作型『エクスカリバー』!? そんな物をどうやって奪って……!!)

 

 完成機である攻撃衛星――というのは建前で、本当は生体融合型ISであるのだが――『エクスカリバー』は、既に宇宙に飛び、『亡国機業』が制御下に置いている。

 そしてあの試作機は、この基地で安置されていた巨大な人型兵器である。見た目こそ完成機はその特徴を受け継いでいないが、内部構造は受け継いでいる。

 その試作機を、いつの間にかこの少女がモノにしていた。

 明らかに子供に持たせてはいけない代物である。例え、高いIS適正とBT適正を兼ね備える少女であったとしてもだ。

 

 どうやって奪い、モノにしたのかはもう分からない。

 

 ただ言える事は一つ。

 

 自分達は、この少女にまんまと嵌められたのだ。

 

「私は、自分の足で織斑千冬(ねえさん)を葬りに行く。お前達はもういらない」

 

 試作型『エクスカリバー』と繋がり、コックピットに吸い込まれた少女の姿は、ハッチが閉じた事で見えなくなる。

 怪物の鳴き声のような駆動音を上げながら、巨人のコックピットが崩壊した部屋から離れ、煙の中へ消えていく。

 

 最早手遅れなのは分かっていても、スコールとオータムは慌てて立ち上がり、その後を追う。

 爆発による煙の中を駆け、やがて晴天の空が目に見えたと同時、此方を睨み付ける巨人の全体像が明らかとなった。

 

 更に、建物の下からヘリが、巨人に付き添うように現れる。

 パイロットは一体何のつもりなのかと、二人が操縦席の方を見れば、そこには少年兵たちに銃を突き付けられて脅されているパイロットの姿があった。

 

 巨人が遠ざかっていく。

 それに続くようにヘリも反転する。

 ヘリの中から見えた少年兵たちが、2人に手を振って別れを告げる。

 

 ――――その日、『亡国機業』の基地から、少女の駆る一機の巨大ISと、子供たちを乗せた一機のヘリが飛び去った。

 

 

     ◇

 

 

『この個体は失敗作だ。力が()()()()。だからこその失敗作なのだが』

 

 ある人物から、初めにそう言われた。

 何故だ。その力を与えたのはお前達だ。

 

『またD判定だ。千冬が同じ年の頃は、A判定だったというのに』

 

 そんな奴、私は知らない。

 

『IS適正を強制的に上げる処置も失敗した。どうなってるんだ』

 

 そんな物、私が知るか。

 

『きっと……愛されていないのよ』

『世界に愛されていないのよ』

『誰にも愛されていないのよ』

 

 自分に勝手に期待し、自分の身体を散々弄ってきた『大人たち』から、反吐の出る無責任な同情が降りかかる。

 

『終わりのない憎しみしかないのよ』

『約束された未来などないのよ』

『希望などないのよ』

『絶望しかないのよ』

 

 ああ、そうだ。当たり前だ。何故なら“お前達(大人たち)”が私をそうさせたのだから。

 私は生まれつきの敗者だ。負ける事を運命付けられた。誰よりも優れていながら、誰よりも劣った運命を押し付けられた。

 

 生まれ落ちた時から屑とみなされ続けてきたこの惨めさを理解するものは誰もいない。

 ああ、それでいい。

 お前達無責任な大人が私にそのような運命を押し付けるならば、好きにすればいい。

 

 

 

 

 

 

 ――――織斑千冬(ねえさん)も、お前達も、この世界も、いずれ地獄に叩き落としてやる。

 

 

 

 

 

 

 私を好き勝手弄った挙句、最後に無責任な同情を押し付けてきた大人たちから姿を晦ました私は、現在、アフリカのある村落の王座に座っていた。

 この村に大人たちの姿はいない。いるのは自分の部下である子供だけ。自分が支配するこの場所に、余分な大人たちなど不要だ。

 

 数か月も前の事だった。

 この村は元々ある反政府ゲリラがアフリカ中から誘拐した子供たちを少年兵へと育てるための訓練をしていたのだが、ある時期を境に、大人たちは突然と姿を消した。

 戦闘も、病の痕跡も一切なく。

 

 そうとも、この村に滞在していた大人たちは、自分が葬った。

 深夜の中、次々と銃を持った兵士たちを物音一つさせずに気絶させ、身ぐるみを剥ぎ、その体から肉を切り取った後に川に流すか、肥溜めにぶち込んでやった、全員。

 

 勿論、残された子供たちは途方に暮れた。

 村には、食料庫にわずかに残された食料しかない。銃の使い方も少し教わった程度で、野生の豚を狙い撃つ腕もない。

 森から取れる筈の野菜や木の実も、どれが毒でどれが摂取しても平気なのかの区別も付かず、そもそも外から取ってくるという発想さえもなかった。

 だが、その問題はすぐに解決した。

 大人たちを葬った私は、途方に暮れた子供たちの前に姿を現した。私と同じく、大人たちに人生を狂わされた子供たちの前に。

 

 ああ、やはり大人たちはダメだ。

 

 その認識を改めて再確認した私は、子供たちを部隊としてまとめ上げた。

 銃の訓練を施した、戦いの術を叩きこんだ、食料の得方、獲物の見分け方、組織の運営、役割の分担。

 みんな教えてやった。

 いつの間にか私は子供たちの王になっていた。

 

 王になった私がまず初めにした事は、この鎮まらない怒りを、他の子供たちともに、近辺の大人たちにぶつける事だった。

 私から全てを奪い去った『大人たち』から、今度は自分達が奪ってやった。

 大人たちに対して相次ぐ略奪、誘拐、殺害行為。

 これでいい、大人たちもやってることだ。自分達がやって何が悪いと、私は私の下に付いた子供たちに言い聞かせた。

 

 誰も私の言う事に反対する者はいなかった。

 

 いい気分だ。

 

 大人たちはいらない。

 

 やがて、このアフリカの地にて、私は『白黒狼(モノクロ)』という悪名で呼ばれるようになった。私がこのアフリカの地では珍しい白人であり、それでありながら黒一色の衣服を身に付けてる事から名づけられた悪名。

 噂を流した人間が日本通だったのか、モノクロの『クロ』と、黒狼(こくろう)を『クロウ』と読み替えて、その『クロ』をかけているらしかった……そんな事はどうでもいいのだが。

 

 私にそんな悪名が付いてから、私達は二つ名で呼び合う事にした。私も、彼らも、親からもらった名前に未練などない。

 いや、『織斑マドカ』という名前さえも所詮は識別ネームでしかない。大人たちから与えられた名を名乗るくらいなら、忌まわしき意味で名づけられた悪名を名乗った方がまだマシだった。

 

 もう、私達は大人たちに『支配』される『子供』じゃない。

 私達は(ジャッカル)になる。

 

 そして、私は王だ。

 

 この狼の群れの王だ。

 

 中東のジャッカル狩り(ロイヤル・ハリヒヤ)など知った事ではない。

 

 まずはこの地の大人たちを殺し、追い出す。

 そうすれば、この憎しみも少しは晴れるかもしれない。

 

 そう思いながら、今日は私も王座に居座る。

 打ち捨てられた幽霊船の奥に陣取ったプラスチックの王座。まるで王冠のごとく、目の前に据えられた、蠅の集る豚の生首。

 

 いつもと変わらぬ、狼たちの日々。

 

 だが、その日は少しだけ違った。

 

 ――――変だ、妙に騒がしい?

 

 この幽霊船の周りはほかの場所よりも厳重に警備が固い。少年兵たちはもはやただ銃の使い方を知っているだけの子供ではない。

 少女の子供離れした統率力によって、一個の部隊と化している。

 

 小銃を乱射するだけにはとどまらず、セミオート状態で遠くの獲物を狙い撃てるくらいには訓練させた。

 にも関わらず、銃声は未だに止まない。

 侵入者がいるとすれば、そいつ等は既に大勢の子供たちからの火の的になっているというのに、銃声が止まない。

 

 いや……少しずつ止んでいく。

 まるで一人一人を……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――――まさか……。

 

 そう思った矢先。

 

「おいガキ」

 

 突如、不快な呼び方をされると同時、奥の階段から物音が聞こえてくる。

 現れたのは、茶髪ロングの女性。

 明らかにこのアフリカの地には不釣合いで、上品な服装。

 

「テメエが白黒狼(モノクロ)か」

 

 その大人は、現地の言葉で話してきたが、明らかにこの大陸の人間でない事は明らか。そんな物綺麗な服を着ていいれば、自分達でなくともそこらへんの大人が奪いに来そうなものだ。

 

「あんなガキどもをまとめ上げてんのが誰かとも思えば、ただの“子供(ガキ)”じゃねえか」

 

 それは明らかに侮蔑を込めた言い方。

 この女は、『大人』として自分という『子供』を見下していた。

 その言葉は、少女に対しては言っていけないものだった。

 

 少女は、王座から立ち上がる。

 胸に晒しを巻き付けた半裸の上に黒コートという豪快な出で立ちをした少女は、愛用のマチェットを女性に向ける。

 

「殺す」

 

 亡国機業の蜘蛛(オータム)とは、そんな殺伐とした出会いだった。

 

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合
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