もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら 作:ナスの森
レインという少女は、エムと同時期にこの亡国機業の支部基地の少年兵居住区にやってきた少年兵だった。
エムに及ばないにせよ、居住区の少年兵たちの中ではエムの次に優秀な成績と能力を発揮、今居住区においてはエム派とレイン派の二つの派閥まである始末である。
レインは能力というよりは、その頼れる兄貴肌のような性格が周りの子供達を惹き付け、エムはただその能力とカリスマ性から同年代の心棒者が着いてきた。
レインの周りに集まるのは彼女の弟分や妹分、エムの周りに集まるのは大体が彼女の心棒者(周りは存ぜぬことだが、もしくは彼女に諭されて秘密裏に加わった者も含まれる)が集まった。
どちらにも属さない少年兵たちもいるが、戦闘訓練など以外の時間は大抵、エムかレインかの二人の中心人物のどちらかに集まり、それぞれグループを作って日常を過ごすのが少年兵たちの居住区での日々だった。
その中で、レインは自分の弟分や妹分、そしてエムの心棒者たちやその他の少年兵たちにも秘密にしている事があった。
……居住区の子供たちには、自分も身寄りのない子供であり、そこを亡国機業に拾われたと言ってあるが、実際の所は違う。
彼女は思い出す。
自分の叔母の言葉を。
――――レイン、少し頼みがあるのよ。
――――あの子を、エムを見張って頂戴。何か怪しい所があれば報告してちょうだい。
叔母の言葉はいつにもなく真剣であり、いつものような余裕の感じさせる笑みはより歪められ、どこか焦っているようにも見えた。
――――いい? くれぐれも気を付けて。
――――あの子は最近大人しくなったけれど、このままあの子が私達に従っている現状に甘んじるとは思えない。
まず最初に暴れた所をスコールに取り押さえられ、監視用ナノマシンを注入されて命の手綱を握られた状態でも、エムは尚大人達に反抗し続けた。
ただでさえ最初の暴走で基地の大勢の大人達が返り討ちにあったにも関わらず、その大人達の動きを掴み始めた事でさらに手が負えなくなり、いよいよ監視用ナノマシンで強制的に動きを押さえつけるしか方法がなくなったのである。
彼女の叔母が直接出ればまた話は違ってあろうが、彼女も亡国機業の幹部としての仕事で忙しく、いくら監視用ナノマシンがあろうと四六時中エムの行動を把握できる訳ではない。
現在では大人しくなったものの、それが逆に不気味だと思ったレインの叔母は、態々アメリカでISの訓練を受けているレインを呼び戻し、自分に変わってエムの監視を依頼した。
――――エムは頭が切れるわ。何を考えているのか分からない。
――――あの子は学んでしまった。感情を抑えずに反抗し続けては己の命がない事を。彼女は、自身が子供である事の劣等感を捨て去って、生来通りの頭脳を持って決起してくる。そんな気がしてならないの。
エムは私達に対する負けを未だに認めていない。私達大人に従う事を決して良しとしない。
クローンとして造られた運命を呪い、身勝手な大人達を恨み、自らのオリジナルである織斑千冬に憎悪したあの少女が、このまま大人しくしている筈がない。
叔母があそこまで言うのだ。きっと、そのエムという生意気な少女は、いつか仕掛けてくるのだろう。
そう思ったレインは、叔母から頼みを受け入れ、こうして叔母のいる亡国機業の支基地の少年兵居住区へと移住してきた。
今の所エムに怪しい動きはない。いや、疑心暗鬼になってみれば全てが怪しいという結論が出るが、それは早急すぎた。
レインとてスパイとして何か国語かの言語は話せるが、その数はエムのものと比べれば数段劣る。エムのように七か国語もの言語を完全にマスターし、流暢に操ってみせる領域には至らない。
それはレインだけでなく、この基地の大人達も同様だ。話せても精々三か国語。レインはその領域にすら至らない。
そもそも、レインよりも二つ下の身でありながら六か国語以上もの言語を操って見せるエムが異常なのだ。
何をもってレインから見てエムの全てが怪しく見えてしまうのかと問われれば、エムは他の少年兵たちといるときは決まって英語を話さないのだ。それぞれの少年兵たちの母語に合わせて話しているようで、それ故相手の少年兵たちからしてみれば有難いだろうが、監視している身としてはたまったものではない。
しかも大人しくなる前からソレは続いていたようで、エムは着々と他の少年兵たちからの信頼と崇拝を集めていた。
表面上怪しい所はないため、普段の少年兵たちとの会話から怪しい点を見つけようにも、会話の内容が分からないため、それすらもできない。
とにかく、それとなく監視する事しかレインにはできなかった。
既に自分が監視している事をエムが感づいてしまっている節がある。監視されていると分かった以上、エムもこれ以上尻尾を出そうとはしないだろう。
レインとて、居住区に住まう以上は他の少年兵たちとの交流も疎かにするわけにはいかない。
よって、今は表面上怪しい動きがないかを監視するしかなかった。
後々、レインの叔母はこう思った事だろう。
――――もし、あの任務に彼女を向かわせる事がなければ、ああはならなかっただろう。
――――彼女が私達の腹の中から蹶起しうるに足りなかった、最後のピース、それを埋めてしまう事もなかったであろう。
彼女がエムに言い渡した任務――――“試作型エクスカリバー奪還任務”。強奪ではなく奪還。その試作型エクスカリバーのコアは、もとはと言え自分達が向こうにもたらしたものなのだから。
その任務が、エムが再び
◇
その日、亡国機業の支基地は騒がしかった。
世間ではもうそろそろ民衆待望の第二回モンド・グロッソ大会が始まろうとする時期であるからだ。無論、元がテロ組織である亡国機業すらもその例外ではなく、基地の大人達は一斉に今大会はどの国の代表が勝利するかで密かに盛り上がっていた。
勿論、一番のやり玉にあがるのは前回の第一回モンド・グロッソ大会にて優勝し、ブリュンヒルデの称号を得た日本代表・織斑千冬である。
無論、そんな話を聞く度に、その千冬のクローンであるマドカことエムはいい思いなどしなかった。まるで……『大人達』の所にいた事に散々織斑千冬と比較され続け、彼女に追いつかんと体を弄られ続けた思い出が蘇ってしまうのだ。
つまり、再び織斑千冬がブリュンヒルデの座を維持するであろう日が段々と近づいて来るこの状況は、エムにとっては忌々しい事この上なかった。
この監視用ナノマシンさえなければ、今すぐにでも開催予定地であるドイツに潜伏し、モンド・グロッソ大会当日になってあの女の晴れ舞台を滅茶苦茶にしてしまいたいくらいだ。そして、オマエが王である時代はもう終わったのだと嘲笑ってやりたいくらいだった。
――――曰く、今回も日本代表である織斑千冬が優勝するだろう。
――――様々な火器を駆使する
大人達の間で飛び交う台詞はそんなものばかり。ここに連れてこられた当初と同じように、現を抜かす大人達に飛び掛かってしまい衝動に駆られるのを、エムは必死に抑えた。
いずれあの場に居座るのは自分だ。呪われた運命を自分に押し付けたまま楽をして王になったあの女を蹴落とし、いずれ押し付けられた運命を乗り越えた自分が、真に遺伝子に従い打ち勝った自分こそがあの座につく、そして『大人達』を全部殺す。
何度もそう言い聞かせ、何とか己の昂る心を押さえつけた。
……その時だった。
『エム、新しい任務よ。ブリーフィングルームまで来なさい』
ナノマシンを通し、いつものあの女からの不快な通信が入った。
「イギリスはどうやらもう懲りたようね。せっかく完成させた筈のエクスカリバーは制御を私達に奪われ、同時に凄まじいBT適正を持つ人材も手放してしまった。研究・開発に携わった大勢の有能な科学者、技術者たちも口封じのために始末する羽目になってしまった」
ブリーフィングルームにやってきたエムを前にして、スコールはモニター画面を開いてエムに現在のエクスカリバー関連の情報を説明していた。
「しかも多大な費用と人材を投資した割に、得られた収穫はせいぜい試作型エクスカリバーから取れたBT兵器のデータくらい。オルコット家を暗殺した事によりイギリスの各業界も軽い混乱に陥ってしまった」
哀れなものね、とスコールは嗤った。
結局、イギリスとアメリカ両国が得られた物は何一つとしてなかった。強いて言うのであれば、試作型エクスカリバーに搭載したBT兵器関連のデータを多少得られた程度であり、少なくともイギリスはもうISを兵器利用しようなどという考えは捨て去ろうとしているようだった。
アメリカは後に
「そう、懲りた彼らはもうエクスカリバー関連の資料や部品、その他もろもろを闇に葬る準備を始めている。開発に携わった技術者たちもその一つ」
一人の少女の人生を滅茶苦茶にしてしまった罪悪感におぼれた技術者たちの中には、その罪悪感から逃れるため、その自己防衛がためにイギリスの暗部を国内にばら撒こうと画策した者もいたが、それらも残らず闇に葬られた。
「ありとあらゆる関連するものを葬り、残るはただ一つ……完成型エクスカリバーとは別の禁忌の一品――試作型のエクスカリバーだけが残ったわ」
残るは、この試作型エクスカリバーという剣を背負った、この巨人のみ。
「彼らはとうとう、この試作型エクスカリバーすらも闇に葬ろうとしている。私達が秘密裏に流した未登録コアと共に、ね。けれど、完成機も含めて、上層部は試作型も手にしたいと言い出してきた」
欲しがりもいい所よ、とあきれた様子のスコール。
「本来ならば試作型のコアにも完成機のコアと同じ、機動と同時に制御を私達に移せるようにするプログラムを仕掛けていたのだけれど、彼らには完成型のためのデータ収集を行わせる必要があったから、あえて私達は試作型の制御を奪わなかった」
何故なら、それ以降も奪うチャンスは幾度となく訪れる筈であったから。
まずは彼らにデータ収集を優先させ、完成型の完成までに誘導させなければならなかった。
しかし、そうはならなかった。
「そう、私達に完成型の制御を奪われた一件で、イギリスはもう完全に懲りてしまった。モンド・グロッソ大会も近づいている今、これ以上投資しても無駄な産物に手をかけるわけにもいかない。彼らは、試作型エクスカリバーを起動させないまま、処分するつもりよ」
そう、イギリスはもう懲りて、試作型すらあれ以降起動させようなどと微塵も思わなかった。亡国機業上層部の予想に反して、イギリスはちゃんと学ぶ国家だったのだ。凝りもせずに別の軍事ISの開発に取り掛かろうとするアメリカとは違い、イギリスはもう完全に懲りた。
故に、直接奪う判断に出た。
「そこでエム。貴方にはイギリスのとある解体スクラップ倉庫に向かってもらうわ。諜報班の調査により、試作型エクスカリバーはそこで解体される予定だそうよ。目標物が解体される前に、それを奪ってここに持ち帰る事……それが今回の貴方の任務」
モニター画面を閉じ、スコールはエムへと向き直る。
「正確な場所は後で指示しておく。それと、今回は万が一に備えて貴方にウチのISを持って任務に出てもらうわ。
仮にもISの解体作業現場に行くのだから、重大な機密事項現場の警備のためにISの部隊が展開していてもおかしくはない。覚悟しておくことね」
◇
ここは打って変わって、既に廃棄された筈のイギリスのスクラップ置き場。
既に人は寄り付かない筈のその現場には、数多の兵士と、更にはISを纏った部隊までもが展開していた。
警備に当たっている彼らは、詳細は教えられていない。
ただある“目標物”が解体されるまで、誰も通すなとだけ命令されていた。
そのスクラップ置き場の屋内にて、その巨人は鎮座していた。
見た目は西洋の騎士を彷彿とさせ、その背中には巨大な剣を背負っている。そう――――この巨大な剣の名前こそ、『プロト・エクスカリバー』であり、巨人が冠する名前と同じものであった。
「コイツもいよいよお払い箱か」
「当然だろうさ。こんな負の遺産は、早々に消してしまうに限る」
二人の技術者たちが、巨人をゆっくりと見上げる。
かつては二人もこの巨人の開発・研究に携わり、その過程で一人の少女を犠牲にしてしまった。
しかも、この巨人ですらまだ通過段階であり、この巨人のデータを元に出来上がった完成型エクスカリバーは制御を離れてしまい、少女の犠牲を無駄に終わらせてしまった。
「本当、俺達は何をやっていたんだろうな……」
「……そうだな。本当に、何を……」
もうすぐ処分されるであろう巨人を憎々しげに見上げ、二人は呟いた。勿論、この巨人そのものに罪がない事ぐらいは二人も分かっている。
そう、罪人は自分達と、それを命じてきたイギリス・アメリカ両国の上層部だ。
「なあ、お前はこれからどうする? アメリカに帰るか?」
「……いや、もう何処に帰ろうが変わらない。お前こそ、
「それはあんたの国も同じだろう?」
「違いない」
男の内の一人はイギリス人、もう一人はアメリカ人だった。
お互い、こんな悪夢ともいえる兵器の開発に携わった縁で知り合ったが、なんだかんだ言って良好な関係を築けていた。
お互い、英語の訛りの違いに驚きながらも(というよりはイギリスの英語の訛りがひどいだけだが)、ある程度気も合った。
「この間、コイツの開発に携わった同僚たちが行方不明になった。後は俺達二人だけ。おそらく、両政府は残った俺達を口封じに消しに来るだろうな」
「じゃあ何でオマエはここに来たんだ。そんな奴等の指示を聞いて、何故ここに来た?」
「……ケジメをつけにな。お前だってそうだろ?」
「……ああ、お互い様だ」
お互い、政府の指示で、この巨人の開発に携わった開発者の一人として、この巨人の解体作業に立ち会うように命令されている二人であったが、それと同時に2人は己の死期を悟っていた。
お互い、言わずとも分かる故、それを口にしなかった。
――――この巨人が処分されるまでが、自分達の寿命だ。
開発に携わった者として、というのは建前。残った自分達を逃げられる前に、この表向きは破棄されたスクラップ置き場に誘い込み、人知れず闇に葬る気なのだ。
だが、もうそれでいいと二人は思っていた。
もう疲れてしまったのだ。
科学者として兵器開発として利用されるのも、最早技術者としていることすら苦痛になってしまった。
二人とも、とてもではないが善人な科学者とは言えなかった。どんな犠牲を払おうとも、それで結果が得られるのならばそれでいいと思ってしまう、そんな類の、何方かと言えば屑というべき人種だった。
しかし、今回は結果が得られなかった故に、その払った犠牲を、その代償だけを否が応でも見せつけられる羽目になった。
そして、元は何の関係もない一人の少女の人生を犠牲にした。
失敗して初めて、その重荷が彼らに圧し掛かった。
段階的な失敗ならそうは思わなかっただろう。
だが今回は違う。一度は完成した筈のエクスカリバーがどこかに消え去り、今までの段階的な成功も、失敗すらも全てが無駄になったのだ。
残ったのは、直視せざるを得ない犠牲だけだった。
もう、疲れた。
生きる気力すら削がれた。
そんな心境だった。
「間もなく、解体作業に入ります。お二人ともここから離れて。あちらの上階の管制室の席で御見届けください」
一人の作業員が二人の元に駆け寄り、そう言った。
態々特等席まで用意してくれてご丁寧なものだ、と。これがお前らにとっての最期の酒の肴だ、と死神が囁いているようだ、とイギリス人の方の男は考えた。
――――そうだ。自分達はこの負の遺産と共に天寿を全うする。
自ら作り出した兵器と共に葬られるとは、思ってたいよりはマシな最期ではないか。
上階の管制室へと移動した二人はさっそく、巨人の解体作業を眺めることにした。
巨人の前に集合した解体作業員たちが一斉に散開し、その作業を開始しようとしたその時であった。
『グ、ォ……』
何か、まるで怪物の鳴き声を彷彿とさせるような駆動音が、ひっそりと鳴り響いた。作業員たちは一斉に作業を取りやめ、何事かと当たりを見回し始める。
しかし、周りに異常はない。
そして――――
「お、おい!!」
上から見ていた二人の技術者がそれに気づき、巨人の足下にいた一人の作業員に呼びかけた。
『オ……オォ……!!』
そう、巨人が動いていたのだ。
その足を持ち上げ、足下にいた作業員を踏みつぶさんと振り下ろす。
「え?」
ぐしゃっ!
作業員は、その影を一瞬だけ認識した直後、己が何をされたのか分かる間もなく、ペシャンコになった。
『グ、ォ…!!』
巨人が足を上げると同時、潰れた肉片の血の跡だけが残った死骸を一瞥する事もなく、周りの作業員たちを次の標的に定める!
――――バカな!
周りの者達、全員がそう思ったことだろう。
そう、巨人は動いていたのだ。本来ならば操縦者なしでは動けない筈のISが、しかもBT適正というIS操縦者の中でも限られた適正しか持たない者しか動かせない筈の巨人が独りでに動いていたのだ。
『グ……オオォォッ!!』
巨人の頭部のバイザーの下からBTエネルギーが収束し、やがてそこから無数のレーザーが巨人の前方に向けて拡散してゆく。
『ウ、うあああッ!!』
『き、緊急事態!!緊急事たッ――――』
『た、助け―――』
巨人サイズのISから放たれた攻撃は、それも屋内で放たれればどうなるか。
衝撃が屋内中に、それは地面を通して轟音となって外にまで広がる。
やがて屋内の作業員だけでは飽き足らないのか、巨人は今度はこんな窮屈な所にはいられまいとばかりに周囲のモノを破壊し始めた。
「く、早く逃げるぞ!」
「ああ!!」
何が起こっているのかさっぱり理解できなかった技術者二人もここから抜け出そうとするが、既に一階へと続く階段は崩れており、飛び降りるしか選択肢がなくなってしまったのだが、その前に――――
『……』
気が付けば、巨人の攻撃は止み、いつのまにか上階にいる二人を覗き込んでいた。
「なッ!?」
その威圧感を受けた技術者二人は、途端に動けなくなってしまった。
(何だコイツは!?)
二人は思う。
これは本当に自分達が開発したあの試作型エクスカリバーで、BT適正の持つ操縦者でなければびくともしなかったあの巨人なのか?
バイザーの奥にあるその光はまるで、とてつもないなにか、言うなれば『報復心』を抱えているような、そんな気がしてならなかった。
実を言うのであれば、この巨人が暴走した例は確かにあった。国お抱えのBT適正者を試験的に搭乗させた時、搭乗者はまるで気が狂ったように、この巨人と共に暴れかけたのだ。
だが、その操縦者すらいない状態であるにも関わらず、その威圧感はあの時の比ではなかった。
まるで、その巨人が自分達を憎んでいるような、そんな錯覚にすら陥った。
『グ、オオ、ォ……!!』
金属の軋み音と生物の鳴き声の中間のような雄たけびをあげた巨人がその手の平を二人に向ける。
そこから、二人を滅さんとする砲門が現れた。
そして、二人はようやく、本当の意味での自分達の死期を悟った。
――――自分達はこの巨人と共に最後を迎えるのではない。
――――自分達が作り上げた、この巨人の手によって裁きを下されるのだ。
それはまさしく因果応報であり、予想していた最期よりも、何故かすんなり納得できるものであった。
砲門が光り出すと同時、二人の身体は悲鳴を上げる間もなく蒸発した。
◇
試作型エクスカリバー――その名の通り、エクスカリバーの試作型であり、その形状は完成体のモノとは程遠く、向こうが純粋な剣状の攻撃衛星ならば、こちらは西洋の騎士のような形をした巨人。
この巨人が装備する、背中にマウントしている巨大な剣こそが、試作型エクスカリバーそのものである。
しかしこの試作型、試験的にイギリスの開発部門がイグニッション・プランで提示したBT技術の初期武装を搭載しており、その操作方法は操縦者のイメージによる遠隔操作である。
この操縦者のイメージによる武装の遠隔操作――――すなわちマインド・インターフェース武装を搭載し、操縦者のイメージを投影する代物である。
しかし、まだBT兵器理論が確立したばかりの初期段階でこの機能が搭載されて試作型エクスカリバーは、それによりある欠落を抱えた。
操縦者のイメージばかりか、操縦者の感情にまで反応し、制御が効かなくなる点だった。
最初に試験的に登場したBT適正持ちの操縦者は、この巨人を稼働させる領域にこそ至ったものの、普段から抱える周りからの期待や厳しいスケジュールなどによるストレスがこの巨人に乗る事によって、巨人がそのストレスからくる『報復心』に反応し、周囲に対して八つ当たりをするような暴走をしかけた時があった。
その時は予め仕掛けられたセーフティにより、何とか事なきを得、その欠点ありのデータは完成体への糧となった。
つまり、イギリスはエクスカリバー関連のこのISを単純に処分したいのと他に、搭乗者の負の感情によっていつ暴走するか分からないこのISをとっとと解体したかったのであった。あまりにも危険すぎる代物だからだ。
だが、こうしてまた巨人は暴走していた。
今度は操縦者すらいない状態で、周囲の人間を虐殺し始めた。
否、巨人は単に独りでに動いているのではない。
『グ、オオ、ォ……!!』
巨人は感じ取っていた、あの時、自分に搭乗していた操縦者とは比べ物にならない程の『報復心』を。
自分に搭乗していないにも関わらず、まだ触れていないにも関わらず、搭載された過度なマインド・インターフェース機能は、その『報復心』を感じ取っていた。
本来ならば、搭乗者からでしか読み取れない筈の『報復心』が、何処か近くにいる人間から感じ取れていた。
いくら過度なマインド・インターフェース機能といえど、繋がっている搭乗者からでしか読み取れない筈のソレは、繋がっていない何処かの人間の、とてつもない報復心に反応していた。
その報復心はあまりにも強烈で、異常で、どす黒くて、そして、直接搭乗していなくても反応してしまうくらいに強いものだった。
巨人に、様々な情報が流れて来る。
いや、様々なというよりは、憎しみ一色の感情が一斉に流れてきた。
――――大人達が、憎い!
――――この運命が、憎い!
――――己自身さえも、憎い!
――――この世界が、憎い!!
何処だ、何処にいるのだと巨人のコア人格はその『報復心』の主を探し求めた、だがそれよりも先にその報復心によって行動が塗りつぶされ、周囲の大人達を殲滅せんと巨体が勝手に動く。
『緊急事態!! 緊急事態!!』
瓦礫で崩れた入り口が爆破により飛ばされ、憎き大人達が入ってくる。巨人自体はその大人達に恨みなどない。
しかし、まるで己の事のように、その大人達に対しての憎しみを爆発させた。
『グ、オォォ……!!』
搭乗者の不在により十全な性能を発揮できないにも関わらず、その巨体は強烈な憎しみによってのみ突き動かされていた。
バイザーの下に収束されたBTエネルギーが一斉に、無数のレーザーとなって拡散し、大人達を抵抗することなく片づけていく。
もはや歩兵では意味を成さない。
次に、二、三機のISが突入してきた。
搭乗者は……大人、つまり己の敵。
巨人は背中にマウントした巨大な剣を引き抜き、突入してきたISの搭乗者たちに凶刃を振るった。
圧倒的だった。
二機が落とされ、一機がかろうじて己の剣先を回避する。
しかし、距離を取った所で意味はなかった。
巨人の、剣を持った方の腕が切り離される。
そして、その腕はまるでロケットパンチのごとく独立稼働し、その凶刃を持ったまま操縦者に襲い掛かった。
「……ッ!?」
驚く相手のISパイロット。
時は遅し、独立稼働したアーム・ビットがその剣でISを床に叩き落とし、アームビットは剣を逆手に持ち替え、そのISを操縦者ごと突き刺した。
かろうじてシールド・エネルギーが残っていたのか、操縦者の息はまだあったが――――巨人は非常にも、その剣をアームビットで持ち上げた後、もう一度操縦者に突き刺した。
それを、何度も繰り返した。
「ッ! ……ッ、……ッ!! ――――ッ!!」
声にならない悲鳴が、何度も響く。
剣を逆手に持ったアーム・ビットに操縦者を突き刺ささせ、本体である巨人はそれを嘲笑うかのように見下ろす。
この行為が、この報復心の主が、世界中の大人達をこんな風にしてやりたいという願望を表しているのだと、巨人のコア人格はすぐに気付いた。
巨人のコア人格自身も興が乗っていた。
瞬く間にこの何処か近くにいる報復心に染められてしまったのもあるが、自身に直接搭乗していないにも関わらず、憎しみだけでここまで自身を動かしうる主に興味を抱いた。
今の光景に、恐怖を抱いた周囲の戦闘員たちが逃げ出していくが、この凄まじい報復心に支配された巨体がそれを見逃す筈もなかった。
再びバイザー下から拡散されたレーザーが大人達を跡形もなく吹き飛ばし、殲滅する。
大人達を殲滅し終わった巨人は――――ようやく己を支配する『報復心』の持ち主を探し出し。
物陰に、隠れている少女を見つけた。
――――見つけた! この少女で間違いない!!
離れているにも関わらず感じ取れるこの報復心と、そしてBT適正。
間違いない、この少女は別格だ!
コア人格がそう思ったのと同時――――その意図に反して、その巨体はその『報復心』の主にすら砲口を向けていた。
少女は、一体何が起こったのか分からない顔で巨人を見つめつつ、ISを展開して戦闘体勢に入っていた。
――――ああ、この少女はまだ気づいていない。他ならぬ、自身の報復心によってこの巨人が動いている事を。
――――己に対してすら憎しみを抱くその『報復心』に反応して、この巨体はその報復心の主にすら砲口を向けている事を知らないのだ。
――――早く、気付いてくれるといいな。
巨人のコア人格がそう思った直後、巨人の手の平の砲門が火を吹いた。
ちなみに、この試作型エクスカリバーの見た目はロックマンゼロのオメガ第一形態をイメージしてくれればいいです。というか、腕を切り離してでの攻撃とかまんまです。
どんな展開をお望み?
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マドカの身体のまま復讐完遂
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フォックス・・・・・・ダァイ
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からの他人の身体を乗っ取って復活
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クロエと百合百合