もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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報復のエクスカリバー 2

 ISスーツの上に皮革製の黒いポンチョという潜入するにしては些か目立つ服装でスクラップ置き場に潜入したエム。

 ISスーツは訓練で幾度と着用した事があったが、今回のISスーツだけは些かの違和感を覚える。

 

「……」

 

『いいエム?』

 

 忌まわしい女の声が聞こえる。

 自分がこの女の言う事を聞くたびに己は大人の言いなりになっているという敗北感を覚えてしまう。

 敗北というのはいつまでたっても慣れない味である。

 

『今回は貴女に着させたISスーツは、試作型エクスカリバー専用のものよ。スーツの所々にプラグのような物があるでしょう? そこは試作型エクスカリバーと疑似的な生体同期をするために直接接続する部位なの』

 

 コアと完全に生体同期した操縦者を()()する完成機とは違い、コアと操縦者と直接接続する。

 それが試作型エクスカリバーの特徴であった。

 

『貴女にはあのエクシア・カリバーンと同等のBT適正を確認する事ができたわ。おそらく、廃人に成り果てた前操縦者とは違い、貴女は大した負荷もなく動かせる筈よ』

 

 この女、前操縦者が廃人になる程の負荷をかけるISに、自分を乗せて奪わせる気なのだ。もし廃人になってしまったらどうしてくれる、と抗議したい所だったが、任務中においてそんな反抗的な態度は許されない。

 体内のナノマシンにより、自分は殺される結末しかないのだから。

 

『さあ、目標の解体の予定時間まで迫っているわ。任務を遂行しなさい、エム』

 

 一方的に話、一方的に通信を切っていったスコールに内心で舌打ちをしつつ、エムは工場内を進んだ。

 気配の気の字も感じさせない隠形により警備員や監視カメラの目をすり抜け、やがて解体現場であるガレージ広場に到着した。

 

 見つからないように即座に機材の陰に身を隠し、様子を覗き込んだ。

 

 ガレージには、巨大な剣を背負い、片膝を着いて鎮座している西洋の騎士のような見た目の巨人がいた。

 巨人の名は――試作型エクスカリバー。だが、本当に試作型エクスカリバーと呼ぶべきなのは、完成型エクスカリバーと形状が酷似した、巨人の背負う剣。

 自分はこれからあの巨人を奪い、あの剣も含めて亡国機業の支基地に持ち帰らなければならない。

 

 既に作業員が散開し、解体作業が始まろうとしている。更に上階の管制室から二人の技術者らしき人物がその経過を見守っているのが確認できた。

 

(時間の問題か)

 

 エムの心に、僅かの焦りが生じた。

 このまま一度も見つからずにあの巨人を奪い去っていくのはさすがに不可能だ。ならば全員気絶させてからアレを奪うに限るが、その場合、上の管制室で見守っている技術者二名の目も何とか欺かなければいけない。

 

 どうするべきかと思った、その時だった。

 

『グ、ォ……』

 

 突如、鎮座していた筈の巨人から、唸り声のようなものが響いた。

 幻聴かとエムは疑ったが、どうやら周りの作業員たちも聞こえていたらしく、辺りを見回していた。

 そして。

 

『オ……オォ……!!』

 

 二度目にしてようやく、それが幻聴ではないとエムが確信した途端、巨人が動き出した。

 まずは片足を上げて近くにいた作業員を踏みつぶした。更に身体全体を起こし、自身を拘束していた金具を引きちぎり、眼下の作業員たちを睨み付けた。

 

 そして、バイザーの下に収束させたエネルギーを拡散レーザーという形で放出し、作業員たちを次々と葬っていった。

 

『ウ、うあああッ!!』

『き、緊急事態!!緊急事たッ――――』

『た、助け―――』

 

 恐怖のあまりに逃げ惑う作業員たち。

 その衝撃で工場全体が衝撃により揺れ、轟音が鳴り響いた。ただでさえISという超兵器が、あのような巨人サイズにもなればどうなるかは想像するまでもない。

 

 作業員たちを一掃し終えた巨人は、今度は管制室の二人の技術者を睨み付け、手の平の砲門から放たれたレーザーでこれも一掃。

 次に騒ぎを聞きつけた警備部隊が次々と突入してきた。

 瓦礫により塞がれた入り口を戦車による突撃でこじ開け、それに続くように数台の戦車と装甲車が入り込む。

 更に後続から警備部隊の歩兵が突入し、それらが一斉に巨人に対しての射撃を行った。

 

『グ、オオ、ォ……!!』

 

 しかし、巨人の纏ったシールドエネルギーはそれを通さない。

 逆に拡散レーザーによる反撃を食らい、戦車部隊、および歩兵部隊は蒸発していく。一切の慈悲はなく、()()()()()()()()()()()一掃していく。

 

(何故だ。何故ISが無人で動いている? それにこの違和感は一体……?)

 

 現に、コックピットはむき出しのままであり、操縦者と接続するための複数本のコードがはみ出ているのが分かった。

 しばらくソレを観察している内、瓦礫が付き飛ばされた入り口から更に三機の英国製ISが突入してきた。

 最近になって配備され始めた第二世代、あの日オータムがまだ白黒狼(モノクロ)であった頃のエムを捕まえる際に用いたアラクネと同じ世代に分類される、イギリス製のISだった。

 

 三機のISは一気に散開し、それぞれの方向から量子変換(インストール)された武装を取り出(コール)し、弾丸を巨人に浴びせる。

 しかし、それを意にも介さない巨人は、その両腕を切り離した。

 切り離された両腕は独りでに稼働し、その手のひらの砲門から襲い掛かる三機のISに向けてエネルギーを放った。

 

(あれがBT兵器という奴か……)

 

 本体から独立し、操縦者のイメージに呼応して独立稼働する武装。

 まさか腕そのものを切り離してビットにするとは思わなかったが、それとは別に、ふとエムの頭に別の疑問が過った。

 

 ――――待てよ。操縦者のイメージに呼応して稼働する兵装ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの村落でオータムと初めて戦って敗れた時、自分は操縦者から独立して動くアラクネが敗因となった。……断じてオータム自身に敗北した訳ではない。

 だから、操縦者がいなくても動くIS、という事自体には今更驚かない。予め装甲にそういうプログラムを施していたという事ならば、あの操縦者なしでも尚動いたアラクネにも説明が付く。

 だが、BTだけは別だ。

 あれだけは、操縦者のイメージという媒介がなければ動かない筈なのだ。

 しかし、現にあのアームビットは操縦者なしでも稼働していた。

 ……謎は深まるばかりだった。

 予めプログラムされていた様子もなく勝手に動くIS、操縦者のイメージがなければ動かない筈のBT兵器が稼働している事実。

 とにかく、符に落ちない事が多すぎだ。

 

 二機のアームビットに翻弄されていた三機のISを、一機のアームビットを戻した巨人がその元に戻った腕で背中の(エクスカリバー)を掴み取り、横に薙ぎ払った。

 

 ビットに翻弄されていた隙を突かれ、一機は辛うじて剣の軌道が逃れる事に成功したが、もう二機は逃れる事ができなかったのか、一気に落とされいった。

 

 残る一機も抵抗するが拡散レーザーに撃ち落とされ、床に伏した。

 そして、巨人の剣を持つ方の腕が切り離され、剣を手にしたアームビットが剣を逆手に持ち替え、そのISを操縦者ごと、何度も突き刺した。

 

 ザクッ!ザクッ!ザクッ!ザクッ!

 

「ッ! ……ッ、……ッ!! ――――ッ!!」

 

 もう一度の突き刺しシールドエネルギーの大半を持っていかれているだろうに、それでも巨人がその剣の突きを止める事はなかった。

 アームビットが持つ剣が、まるで心を持たない機械がするとは思えない程の残虐性を持って、操縦者を甚振っていたのだ。

 

 不意に、エムはその光景に興奮してしまった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 己の手で出来ない事が残念だとはいえ、こんな状況でもこの光景に対して悦びと興奮を覚えてしまう自分は間違ってなどいないと。

 

 おそろしい事に、巨人はこれまで己の拘束を解いてから今に至るまで、切り離したアームビットを動かすだけで、本体は未だに一歩も動いていなかったのだ。

 自ら動かずに大人を死んでも尚甚振る、その尊厳を踏みにじる行為は、エムを更なる昂揚へと誘った

 

 やがて、操縦者が完全に息だえると同時――――巨人は、此方へと向かってきた。

 

「ッ!?」

 

 瓦礫に隠れて除き見ていたが、バレてしまったらしい。 

 ISの浮遊機能を用いず、まるで何かに興味を抱いたかのように此方に歩行してくるその姿は、見るものには恐怖感を、エムには機械離れした生物じみた不気味さを感じさせた。

 

 そして、巨人はエムを除き見るや否や、その手の平の砲門を此方に向けてきた。

 

「ッ」

 

 即座にスコールから受け渡されたIS――――打鉄を展開したエムは、スラスターを吹かしてその場から離脱した。

 その途端、自分が元居た場所は、エネルギー弾によって焼き付かされる。

 

 瞬時加速をしつつ曲線上に飛んで巨人の後ろに回り込むエム。

 

『エム、聞こえるかしら?』

 

 また、忌々しい声からの通信が入る。

 エムは意地でも大人に頼ろうとしない事を分かっているのか、彼女は強引に通信を入れてきた。

 

『試作型エクスカリバーのコアに仕込んだ制御奪取プログラムを作動させたのだけれど、受け付けないわ……!!』

 

 いつもの余裕に溢れた声は、少しばかりの焦りが伺えた。

 向こうに余裕な様子でいられるかよりかはマシだと思いつつも、エムはその告げられた事実に声を荒げそうになった。

 

(ふざけた奴らめっ!)

 

 ただでさえその存在が忌々しくて今にも消し去りたいくらいなのに、こういう肝心な時に限ってコイツラ大人は役に立たないのかと。

 お前ら上にふんぞり返っている事しか能がない大人の唯一の取り得は、文字通り上からある程度状況を操れる事ではないのかと。こいつらはそんな事すらできないのか。

 

『おかしいわ……そもそも操縦者がいないにも関わらず動いている時点で。エム! とりあえずそこから離脱しなさい。 イギリス側の援軍が来ると厄介だわ。 あの巨人――試作型エクスカリバーの狙いはどうやら貴女のようだし、まずそこから抜け出して山の方へソイツをおびき出して頂戴!』

 

「……了解ッ」

 

 それぞれの部位についたスラスターでの連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を連打しながらの華麗な方向転換を披露し、入り口から工場の外まで僅か1秒たらずで離脱し、山頂部をエムは目指した。

 

 しかし、その時、遠ざかっていく工場から――――一筋の光が、見えた気がした。

 

(やられるッ!?)

 

 ハイパーセンサーにより背後に見られたその光を認知したエムは、ハイパーセンサーにそのエネルギー反応が表示されるよりも早く、スラスターを吹かして機体を下方にずらした

 

 その瞬間、エムの元いた空間を、極太のレーザー砲撃が通り過ぎた。

 

 そのレーザーの表面とエムの距離はたったの数ミリ。あと一瞬でも避けるのが遅れていれば、エムは打鉄ごと跡形もなく消されていたに違いなかった。

 

 通り過ぎたレーザーの軌跡を追って空を見上げてみれば……そこには大穴の開いた雲があった。

 空を覆いつくす雲群の真ん中に、まるで抉られたかのようにすっぽりと大穴が空いていたのだ。それが、先ほどの砲撃の威力を物語っていた。

 

「ッ!?」

 

 その光景に圧倒されるのも束の間、続けてハイパーセンサーが今では遠くにある工場の映像を映し出した。

 そこは、先ほどのレーザー砲撃が飛んできた方角だった。

 そこには、肩に装着した(エクスカリバー)の刀身を展開させ、そこからむき出しになった砲身を構えていた巨人の姿があった。

 

『……高度エネルギー収束砲『エクスカリバー』……試作型で、しかも無人でこの威力……まずいわね。エム、今其方に応援を行かせているわ。何とか持ちこたえて――――』

 

『オ、オオオォォォッ!!』

 

(それをする時間を、向こうは与えてくれないようだ)

 

 スコールの通信が終わるよりも早く、聖剣を携えた巨人は、そのエネルギー収束砲を再び剣状(ブレードフォルム)に変え、此方まで飛んできた。

 そう、あの巨体故忘れそうになるが、あの巨人も立派なISなのだ。

 先ほどエムから離された距離を、スラスターを吹かして工場の地点から一気に縮ませてきた。

 巨大な剣を携えた巨人が、此方を上回る速度で飛翔して襲い掛かってくるという恐怖は、今まで感じたどの死の恐怖よりも、凄まじかった。

 

「チッ!?」

 

 こっちは連続瞬時加速まで多様しているにも関わらず、この性能の差だ。

 両肩のシールドをウィングスラスターに換装した程度の打鉄で敵う筈もない。

 

『グ……オオォォッ!!』

 

 巨人は容赦なかった。

 その巨体は、その長大な聖剣を容赦なくエムに振り下ろしてきた。その巨体に似合わず、その振り下ろすスピードはあまりにも凶悪なものだった。

 かろうじて機体を逸らして回避したエムであったが、巨人はそれを逃さんとばかりに頭部のバイザーの下から拡散レーザーを連射してエムを追い詰めた。

 

 拡張領域から近接ブレード《葵》を呼び出(コール)し、その拡散レーザーをスラスターを駆使して避け、避けきれないものは葵で切った。

 

 さらにむき出しになったバイザー下のレーザー砲門をもう一方の手に呼び出ししたアサルトライフルで横撃ちして狙い撃つ。連射した弾は全てエムの狙う箇所へ当たったが、僅かにしか損傷の跡が見えなかった。

 

 巨人は接近戦では仕留められないと悟ったのか、剣を背中に収め、今度は両腕を切り離し、アーム・ビットに変えて攻撃してきた。

 一つはエムの横に陣取り、もう一つはエムの真上に陣取り、その手のひらの砲門からレーザーを放ってきた。

 

 慣れないオールレンジ攻撃。

 その数はたったの二つであるものの、アームビットから放たれるレーザーは連射が効き、さらにはビット自身が高速移動し、エムに肉薄するため、苦戦を強いられた。

 さらに、アーム・ビット自身がまるでロケット・パンチを彷彿とさせるがごとく接近戦を仕掛けて来る。

 

 多角方面から迫りくるレーザーを躱し、隙のできたエムの真横から――――勢いよく飛んできたアーム・ビットによる殴打を食らった。

 

「くっ!?」

 

 機体が吹き飛ばされ、ぶつかった木々が次々とドミノ倒しのように倒されていき、機体が地面に接触してゴロゴロと横転した後に、ようやく受け身を取る事ができた。

 痛みに堪える暇はない。

 ふたたび切り離したアーム・ビットを戻し、普通の腕に戻ったソレで剣を握り、地へ伏したエムに振り下ろしてくる。

 

 体を捻じ曲げて回避。巨大な剣を振り下ろした事で隙のできた巨人の腕の関節部へ肉薄する。

 瞬時加速を駆使してそこへたどり着き、その関節――――丁度、アーム・ビットが切り離される所の、境目に、エムは葵を突き刺した。

 

 その瞬間、葵の刀身はエネルギー光に変わり、爆発した。

 それで終わらない、爆発した所に再度接近し、アサルトライフル《焔備》を至近距離から連射した。

 やがて弾切れになったと同時、エムはその焔備すらもそこへ投げ捨てる。

 それと同時、焔備もまた先ほどの葵と同じように、眩い光に包まれ、大爆発を起こした。

 

『オ、オオオ、ォ……!?』

 

 さすがに効いているようだった。

 しかし……それだけだった。

 

『グオオオオォォォォッ!!』

 

 これで片腕――――片方のアーム・ビットの無力化だけでも出来たらよかったのだが、あいにく傷を負わせた程度だった。

 その性能に、傷を付ける事は叶わなかった。

 

 

 

 

 ――――少女は憎んでいた。

 ――――自らを身勝手な理由でクローンとして生み出した大人達を憎んでいた。

 ――――少女は自らのオリジナルである織斑千冬に憎悪した。

 

 そして

 

 ――――そのオリジナルと同じ遺伝子を持つ少女自身すらも、例外なく少女の憎悪の対象だった。

 故に、その巨人は、その刃をまずは大人達に向け、次に少女に――――

 




次回『報復のエクスカリバー 終(予定)』

ちなみにエムが来ているISスーツは、原作11巻のキャライラストページに描かれているエクシアが着用している物と同じものです。

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合
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