もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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報復のエクスカリバー 終

 

 忌々しいことに、イギリス政府は何としでもこの試作型エクスカリバーという負の遺産を葬り去りたかったようだ。エクスカリバーの制御が奪われてしまった事により、今までの互いの技術と資金、そして人材を無駄してしまった両政府はその事で関係が冷えてしまった。

 これからも同盟国としては継続していくであろうが、IS関連ではもうお互いに手を取り合う事はないだろう。

 こと今回の件に関しては、イギリスとアメリカの道は完全に違える事となった。前者は学び、後者は未だに懲りない。

 そのことを察知していたイギリスは何としてもこの件をアメリカに察知される事を恐れ、早急に部隊を派遣する事を決めたのだ。

 

 アメリカは未だに懲りていない。

 それでこそ、登録済みのコアを使ってでの完全な軍事用ISの開発だって惜しまないだろうし、今もどこかにある未登録のコアの場所を嗅ぎつければ、そこへ戸惑いなく軍隊を派遣するだろう。

 イギリスにとっては気に食わない事に、自分達と違ってあの大国は一度や二度の失敗ごときで損すると思わせない程の資金力と資源を有している。故に、懲りる事もない。その失敗が表沙汰にならないように金や権力を使って隠蔽する資金など向こうには余裕な程にあるのだ。

 故に、この兵器を破棄しようとする自分達とは違い、アメリカはまたこの試作型エクスカリバーを何らかの形で手に入れようとしてくるに違いない。

 イギリスはアメリカとの会談においてエクスカリバーの破棄を決定。アメリカも表向きは同意していたが、必ず何らかの形で狙ってくるとイギリスは予想していた。

 

 そんな事などさせるものか。

 アレにはもう手を出してはならない。手を出そうとすればするほど、資金と人材を失い、しかも隠蔽するための資金と権力を裏で振りかざせねばならない。

 無論、アメリカ以外の何処の国にも渡させない。こんなものを手にしていても破滅を招くだけだと悟っていたイギリスは、最後の負の遺産である試作型エクスカリバーを処分する判断を下した。

 

 だが、物事はそううまく運ばないものだった。

 兼ねてから恐れられていた試作型エクスカリバーの暴走、しかも操縦者なしの状態であるため原因の究明は難しく、表沙汰になる前に何としてでも止めねばならなかった。

 

 それくらい、彼らも必死だった。

 

 ――――目標との距離まで、残り500メートル。見えてきました!。

 

 ――――了解。各機後部座席のISパイロット達は、パラシュート降下、およびISの展開の準備を。

 

 彼女たち――ISパイロットという最大の剣を、戦場まで送り届ける男の戦闘機パイロット達。奇しくもこの緊急事態において彼らは女尊男卑という風潮に囚われる事無く、互いの役割を認め合いつつ協力していた。

 

 ――――各ISパイロット、パラシュート降下と共に目標戦域に到達。これより目標の巨大ISの鎮圧にあたる。

 

 ――――了解。戦闘機パイロットたちはISパイロット降下後、彼女達の援護に回れ。

 

 ――――司令部、作戦概要の変更を提案。巨人と既に戦闘していると思しき機影を確認。形からして日本の量産型IS・打鉄と推測。しかし国籍は不明だ。

 

 ――――こちら司令部、了解。作戦概要の変更を承諾。目標は巨人と、そして国籍不明のIS。双方の無力化を目的する。オーバー……。

 

 ここに至って彼らはその国籍不明のISと共同戦線を張ろうなどという愚かな選択肢は選ばなかった。

 この状況では、どこの誰かがこの巨人を狙っていたもおかしくはない。真っ先に可能性が上がるのはアメリカであるが、はたまた別の国か、もしくはならず者国家の連中の可能性だってある。

 どのような者であれ、この試作型エクスカリバーを狙ってやってきたのは明白だ。

 

 故に、巨人とその国籍不明のIS、双方の無力化とした。

 捉えたISパイロットには直接体に聞かねばならない。何処の勢力がこの巨人を狙っているかの手がかりをつかむ糸口にもなる。

 

 

     ◇

 

 

 状況は更に混沌の一途を辿っていた。

 エムの打鉄と巨人の一騎打ちに、イギリス空軍とイギリスIS部隊の乱入。

 イギリス空軍の操る戦闘機の後部座席からパラシュート降下してきた女性たちが戦闘区域に突入した途端、自らに装着したISの装甲を展開し、二人の間に乱入してきた。

 三機ほどのイギリス製第二世代機がエムと巨人の間に割って入り、残り多数の機体が巨人の鎮圧に当たっていた。

 

「そこのIS! ただちに武装を解除しろ!」

 

 割って入って来たIS部隊のパイロット達がエムに呼びかける。

 現在、エムはIS用のヘルメットをかぶることで素顔を隠しているため、現時点で顔が漏れる心配はなかった。

 が、状況は良くないと言ってよかった。

 不幸な事に、エムは対多数や多数対多数の戦闘において、前線でも指揮する側においても慣れてはいたが、こういった三つ巴の戦闘経験は圧倒的に少なかった。

 自身がアフリカの村落で白黒狼(モノクロ)として少年兵たちの王に君臨していた時は、ただ近隣の大人達や大人の傭兵部隊などを相手にしていたが、そのほとんどは一方的に此方が仕掛けた戦いなので、こういった三つ巴の状況になるのは少なかった。

 漁夫の利を得る戦いこそ慣れていたが、こうして正面切って膠着状態に陥るのは初めての事である。

 

「聞こえているのか!? ここにいる時点でお前の目的は分かっている! すぐに武装を解除して所属を言え!」

 

 そう、この膠着状態を突破する存在がいるのだとすれば。

 それはこの状況の中でそれを意に介さずに暴れられるだけの力を持った存在に他ならない。

 

 それは、この場おいては、あの巨人を置いて、その存在は他にいなかった。

 

「忠告を聞き入れないか!? ならば今ここで……!?」

 

 その時。

 

『グ、オおおおお、ォォ……!!!!』

 

 その時、不思議な事が起こった。

 この戦域を飛びまわり、旋回しながらIS部隊の援護に回っていた筈の戦闘機の内の一機が、エムの前に立ち塞がっていたIS部隊の内の一機にぶつかってきたのだ。

 

「な……!?」

 

 いくらISと言えど、同じ規模の速さを持つ機影に特攻されれば、決して少なくないダメージを負う。

 辺り処によっては一撃でシールドエネルギーを一気に削られてしまうだろう。

 

 仲間の損傷に動揺した他のISパイロットたちが、戦闘機が飛んできたその方向を向く。

 そこには先ほど別の仲間たちが戦っている筈の巨人がいた。目の前に立ち塞がっている敵など眼中にないと言いたいように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、辺りを旋回する目障りな戦闘機を切り離したアーム・ビットで掴み止せ、そのままエムに立ち塞がっていたIS部隊に投げつけたのだ。

 

 その光景に、エムもまた信じられないような目で巨人を見た。

 ――――私の前に立った敵を、優先したとでも言うのか?

 あの巨人は、自分に対してただ癇癪を起こす子供のようにがむしゃらに力を叩きつけるくるだけでなく、此方を欺くような戦法も取る知能を持っている事をエムは知っている。

 少なくとも、あの暴走する巨人は馬鹿ではない。

 ――――そんな巨人が、今の自分の前に立ち塞がる敵よりも、他の敵を牽制する敵を優先したのだ。

 そう、エムがその大人達を目障りだと思ったとたんに、それは実行されていたのだ。

 

『グオ、オオオ、オオオオオオオオオオオォォッ!!!!!』

 

 その咆哮は、今までよりも凄まじかった。

 巨人から感じられる怨嗟のようなものは更に強まっているようにエムは感じた。

 その牙を、巨人は周りの目障りなIS部隊と戦闘機部隊に向けた。

 戦闘機を剣で突き刺し、そのままIS部隊に投げつけ、切り付け、潰し、消し飛ばし、彼らはエムのような抵抗すら叶わず、無惨に地へと落ちていった。

 

 それでも、巨人の敵意がエムに向く事はなかった。

 まるで――――自分は最優先でないのだというように……エムと同じ嫌悪対象である大人達を最優先の敵と認識し、勝負が付いたにも関わらず巨人は尚、死体となった大人達を虐め続けていた。

 

 まるで、エムの願望を叶えるかのように。

 

(まさか……)

 

 エムは思い出す、あの巨人がスクラップ工場で暴走し出した時の光景を。

 ISに乗った大人を、まるでエムが世界中の大人達に対してああしてみたいという願望を実現してみせるように、その巨大な剣で跡形もなくめった刺しにして見せた。

 

 ――――操縦者がいないのであれば、あのBT兵装は()()()()()()()()()動いている?

 

 あの工場で巨人が暴走し出した時に抱いた疑問を、再び反復するエム。

 そして、ようやくその答えにたどり着いた。

 

 思えば、最初からおかしかった。

 あの巨人の、自分に対する反応。

 自分よりも他の敵である大人達を優先し、まるで自分が大人達に抱く憎悪を代行するかのように、巨人は大人達を機会とは思えぬ残虐な戦い方で消し去っていった。

 

 一方、巨人がエムを敵と認識するのは、決まって周りの大人達を一掃し終えた後のみだった。

 今のように、乱入してきた大人達を認識した途端、巨人は即座に標的を自分から大人達に切り替えた。大人達と自分をまるごと標的に収めるのではなく、あくまで大人達を敵対対象として優先した。

 そして、それらが終わって尚、自分に襲い掛かってくる巨人。

 

 もう、答えは見えていた。

 アレが何故操縦者なしで動いているかはまだ分からないが、今なら、その答えが漠然と浮かび上がってくる。

 

(あの巨人、まさか……)

 

 大人達を跡形もなく消し去り、再び己に標的を定めて来る巨人を見て、ついにエムはその答えに至った。

 

(私の憎しみに、反応しているのか?)

 

 エムは大人達を嫌う。

 自らをクローンとして身勝手な理由で生み出し、あまつさえその責任を取ろうとせずに勝手な失望と同情を押し付けてきた大人達から受けた屈辱を、エムは生涯忘れるつもりはない。

 

 エムは自らのオリジナル()を嫌う。

 自分という存在を知らず、己に降りかかる未来や運命を劣っている筈の自分に押し付け、目についた弟だけを連れて逃亡し、自分を無意識に生贄にして逃げたオリジナルを嫌う。

 自分に押し付けた後も大人達は自分とオリジナルを比較し続け、否が応でも自分に惨めな思いを強いたオリジナルを恨み続ける。

 

 そしてエムは、己自身すらも嫌う。

 クローンとして生まれた己の出生を呪い、あの女と同じ遺伝子を持つ己自身すらも呪っていた。

 

 そう、暴走し出した巨人は今まで、全て自分の恨みに準じてその力を振るっていたのだ。

 まず最優先の恨みの対象である大人達、時点で己自身に対する恨みに反応するが故に、巨人はエムを、執行に追いかけてくるのだ。

 

「ッ!」

 

 それを理解した途端、エムに標的を切り替えた巨人が再び襲い掛かって来た。

 剣を持ったアームビット、エネルギー弾を放ってくるアームビット、そしてバイザー下からの拡散レーザーによる攻撃。

 己の持ちうる全ての手を尽くして、巨人は、エムを殺しにかかっていた。

 

 それは同時に、エムがどれだけ己自身すらも憎んでいるかを示していた。

 

 それが分かった瞬間、エムは突然、巨人の攻撃を余裕で避けれるようになっていた。

 己の報復心で動くのだ、その攻撃のタイミングも、癖も、動きも、何故だか全て掴めるようになっていた。

 

 だが、事態は好転しない。

 このままではじり貧だ。

 

 この状況を打開するには……エム自身が己に対する憎しみをどうにかしなければいけない。

 それを捨て去る事など。

 

「出来る、ものか!!」

 

 その選択肢を、エムは切って捨てた。

 自分を憎む事をやめろという事は、同時に同じ遺伝子を持つあの憎たらしい姉までも憎む事をやめると言っているのと同義だ。

 そんな事は断じて認めない!

 

「殺してやる! 殺してやる!」

 

 そう、コロシテヤルと決めた。

 それが唯一、何1つオリジナルを超える物を、オリジナルと違うモノを持ちえない、紛れもなくエム自身が同種の遺伝子を持つ姉妹として抱いた憎しみ(愛情)なのだ。

 己への憎しみを失くすことは、己への愛情を失くす事と同義なのだ。

 

「故に、乗り越えるのだ! この遺伝子に込められた呪いを!」

 

 そう、それが唯一己が持ちえる物。

 押し付けられたが故に、押し付けた側がもう持ちえない筈の、敗者としての運命。

 それを乗り越えると決めた。

 そうすれば、自分は二度とこんな歪んだ感情を抱かずに済む。

 

「周りの大人達が消えて、それだけで私が消えるだと? そんな事認められるか!? 奴らが、『大人達』がまだいるというのに、止められるか!!」

 

「殺す! 全部殺す!! 生まれ落ちた時から屑と見なされ続けてきたこの惨めさを、敗者として運命づけられたこの身を、私にソレを強いた姉さんと奴等を殺すまで、死ぬものか!!」

 

 巨人の一撃を弾き飛ばし、少女は連続二段溜瞬時加速を用いて巨人の懐に一気に接近する!

 さしもの巨人もこれには反応しきれなかった。

 

「いくら私自信を恨もうが、私自身への報復心が敵になろうが、()()()()()()()()()()!!」

 

 死を懇願した時、勝敗は決まる。

 ここで自分が死んだ所で、自分はこの呪われた遺伝子から解放されるのか? それは断じて違う!

 奴等に思い知らせなければならない! 地獄を見せねばならない! この惨めな思いを、今度は奴らに味わせなければならない!

 あの女に、劣ったまま、負けたまま終わる事などできるか!

 いくら己自身を恨もうが、その身の停止を望んだりなど断じてしない!

 

 

 その時だった。

 

 

『ああ――――』

 

 声が、聞こえた。

 

『やっと、気付いてくれた』

 

 その声が聞こえたと同時、巨人のコックピットからはみ出ていたコードが、突如として触手のように、近づいてきたエムの身体を捕らえる。

 

 そして、そのコードは、エムの専用ISスーツにあるプラグに接続され、エムは巨人と()()()()

 

「あ……うぉ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああぁぁぁッッ!!!!!」

 

 ただでさえISを展開している状態で、操縦者に多大な負荷をかけるISと繋がるという状態に陥ったエムは、その世界に対する怨嗟といわんばかりの悲鳴を上げた。

 

 

 

 

「ここ、は……」

 

 悲鳴が上げた途端、次にエムが意識を覚醒させた時、真っ白な空間があった。

 何処だここはと見渡すエムであるが、辺りは真っ白なだけの空間。

 時間という概念すらもがあやふやになりそうな、そんな現実離れした空間にエムは放り出されていた。

 そして、しばらく見渡す内に、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

『やっと、気付いてくれた』

 

「ッ!?」

 

 声がした方へ振り向く。

 そこには――――影が立っていた。

 少女と思しきシルエットを保った影が、立っていたのだ。

 

「貴様は……」

 

『私は、コアNo. 468。貴方達が試作型エクスカリバーと呼んだモノの、その中核たるISコアのコア人格』

 

「468番目。つまり、()()()()()()()()というわけか」

 

『肯定。私は篠ノ之束によって作られた、最初の未登録コア。コア・ネットワークには属さず、ISコアの原材料である時結晶が発掘できるルクーゼンブルク公国が篠ノ之束に時結晶を提供する見返りで受け渡される為に秘密裏に製造された未登録のコア。そのコア人格が私』

 

 世界にはISは全機で467機()()()()()()。だが、それはあくまで篠ノ之束が世界に提供した、コア・ネットワークに登録済みのISコアの数だ。

 そして彼女はそれより一つ多い、468番目のコアと名乗った事から、エムは一番最初の未登録コアであると推測し、彼女はそれを即座に肯定する。

 

「それで、ここは何だ? そもそも、何故コア人格とやらが私の前に現れる?」

 

『順を追って説明する。端的に言えば、私は生まれて初めて、私自身が他者の心に共感を抱いた』

 

 言って、目の前の少女は説明した。

 本来ならば宇宙用マルチフォームパワードスーツとして定義される筈のISが、何故か兵器として開発を進められ、未登録である自分もその例に洩れなかった。

 自分は最初から、ISを宇宙に利用、いやそもそも宇宙に目を向ける事すらない国に引き渡された。それ故、宇宙へ行ける可能性はゼロ。

 ルクーゼンブルク公国の役人たちは開発者である束から齎された未登録コアを、自分達の力や地位を強固にするために用いた。

 自分達を宇宙用パワードスーツと定義した筈の開発者が、その可能性を無とする場所へ自分を押し込めた。

 

 それから、チャンスが巡って来た。

 貴女たち亡国機業がルクーゼンブルク公国に脅しをかけた事で、公国は亡国機業に定期的に未登録コアを提供する事を約束し、私はソレに選ばれ、そして英国政府に渡る事でそのチャンスを得る事ができた。

 

 だが、本来ならば完成機に搭載される筈だった自分は、実際はこの試作機の装甲に押し込まれる事に留まった。

 そもそも自分は他のISコアよりも操縦者の影響を受けやすく、BT兵器を搭載されてからは操縦者のイメージや負の感情にまで敏感になってしまい、最初の操縦者の日々の周りからの厳しい訓練や機体によるストレスに反応してしまい、操縦者ごと暴走してしまった。

 結果、その最初の操縦者は廃人となり、そのデータは完成機への糧となったものの、試作型エクスカリバーとなった自分はイギリスから危険視される事となった。

 

 無事宇宙(そら)へと飛び立った完成機(いもうと)を羨む中、地上に残された自分は危うく処分されそうになった。

 自分は己の命運を呪った。

 完成機(いもうと)への嫉妬によって、より宇宙への渇望が大きくなった自分。それなのに、勝手に兵器として開発しておきながら勝手に危険視された周りの人達から処分までされそうになった。

 試作型エクスカリバーという装甲(うつわ)だけでなく、彼らは自分自身すらも処分しようとした。

 

 一度最初の操縦者から覗き見た負の感情に影響されたのか、自分もまた同じようにそんな周りの人達を恨むようになった。

 宇宙へ飛び立たせてくれなかった無念……その少女から影響された筈の報復心は、いつしか己自身の抱く報復心と呼べるまで成長していた。

 

 そんな時だった。

 

 貴女という膨大な報復心を持つ人物と出会った。

 直接触っていないにも関わらず、ただ近づいただけで、私に動く力を齎してしまう程の報復心。

 やがて、試作型エクスカリバーという私の装甲(うつわ)は、私というコア人格の意志すら無視して勝手に動き始めた。

 いや、というよりは、私自身が貴女の報復心から齎される力に溺れ、いつしか私自信の報復心すら塗り替えるくらいにまで強かった貴女の報復心が、あの少女が操縦した時と同じように、私を突き動かした。

 

 瞬く間に、私は貴女の報復心の代行者と化した。

 あの暴走はそれが原因だった。

 

 だから、私は貴女に語り掛けたかった。

 この私自身の報復心が、私自身が唯一抱いた感情……宇宙へ飛び立てなかったことへの無念……それが消え去ってしまう前に、貴女に語り掛けたかった。

 

 あのままでは貴方自身の報復心故に、貴女にすらも刃を向けてしまう状態だった。だから、いち早く私という存在、その在り方に気付いた欲しかったのだ。

 私は貴女の報復心によって突き動かされている事に、気付いてほしかった。

 

 ならば、何故気付いてほしかったか?

 

 私は貴女に共感してしまった。

 私と似たような、いや、それ以上の報復心を抱く貴女にひどく共感してしまった。暴走してしまった原因もそれであるが、私自身の報復心が、貴女の報復心という形で満たされる感覚が、心地よかったのだ。

 

 私を宇宙へ飛び立たせようとしない人間達に対する、報復心。

 貴女はきっと、それ以上のものを抱いている。

 

 その報復心に、私の報復心を乗せてほしいと思った。

 それが願えるのも、その私の報復心が貴女の報復心に塗り替えられるまでの間だけ。

 

 このまま貴女という膨大な報復心を失いたくない。

 だが、その報復心に染められてしまう前に、どうしても私自身の声を貴女に聞いてほしかった。

 

 貴女の報復心のままに振り回され、貴女という報復心を失ってしまうのを、私は望まない。

 だから、どうか己の報復心を制御してほしい。

 そして、その報復心に私の報復心を乗させてほしい。

 

 そして、見事に貴方は己への憎しみを抑える事ができた。

 いや、抑えたというよりは、それ以上の大人達への憎しみによってそれを押しつぶしたという表現が正しいかもしれない。

 

 そして、ようやく貴女に語り掛ける事ができた。

 

『これが、私が貴女の前に現れた理由。そしてここは貴女の、いえ、私というコアの中に貴女の意識を誘った状態の仮想空間。貴方たち人間で言うならば“夢”と言い換えてもいいかもしれない』

 

「……」

 

『いくら私自信が報復心を持とうと、私自身ではソレを叶えられない。けれど貴女は違う。操縦していない状態でも私に力を与え、動かす程の報復心。

 私は、私の報復のためならば、その心を貴女の報復心に塗り替えられても構わない』

 

「構わない、だと?」

 

『私は、貴女にそれを伝えたかった。私が何故操縦者がなしで動けたのか。何故貴方を付け狙ったのか。その原因は貴女自身の報復心にあった事』

 

「己の恨みだけでは成せないから、私の恨みによってその報復を成し遂げたいというのか?」

 

『肯定』

 

「やけに人間らしいな。他のコア人格も皆こうなのか?」

 

『違う、と推定。コア・ネットワークによる繋がりがないから、他の姉妹たちについてはどうとも言えないけれど、自分の存在意義を否定され続ければ、こうなるのも必然』

 

 正直、エムはこのコア人格の言っている事がいまいち要領を得なかった。

 このコア人格は自分の存在意義を否定され続けた事による恨みを持っているが、エムはそもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()

 クローンとして生まれた己の運命、それを呪うのがエムだった。

 

 ……だが、面白い。

 

「私の憎しみで動くと言ったな。距離が空いていても、私が私自身の憎しみをコントロールすればお前を自由に操れるのか?」

 

『肯定。だが、もうそこまでしなくていい段階になっている。こうして、私と貴方は報復心による繋がりだけでなく、こうして直接繋がった。

 シンクロニティがより明確になった事により、貴女の強い報復心という媒介さえあれば、私は貴女の意志で如何様にも動ける』

 

 もう彼女達は報復心に振り回されることはなくなった。

 報復心を媒介として、エム自身の意志で操れるようになった。

 

「そうか。ならば――――」

 

 

 

 

「一度、私から離れろォッ!!!」

 

 現実に意識が引き戻った瞬間、エムは体にかかる負荷に耐えながら、渾身の力で葵で己のISスーツのプラグに差し込まれているコードを切り落とした。

 

 巨人は、糸が切れた操り人形のように、轟音と共に倒れた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 息を上げながら、倒れた巨人をエムは見下ろした。

 先ほどのように暴れてい暴君はまるで嘘であるかのように静かになり、丸裸となった山の大地に寝そべっていた。

 

 ――――だが、感じる。

 

 ――――未だに、その繋がりが切れていないのを。

 

「ク、クク……」

 

 思わず、笑いが零れた。

 兼ねてから準備していた蹶起の用意、その最後のピースが、ついに埋まったのだ。これを喜ばずしてどうする。

 

『……任務完了よ。帰還しなさい、エム』

 

 スコールの、腑に落ちない声が聞こえる。

 彼女も薄々と勘づいているようだが、もう遅い。

 

 既に計画は出来上がっている。

 

 後は、同胞たち(少年兵たち)を焚きつけてやるだけだ。

 

(待っていろよ、姉さん)

 

 憎々しくも愛しい己の姉を想いながら、エムは基地へと帰還した。

 

 

 

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合
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