もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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小さき反乱者達 1

 その日、第二回モンド・グロッソ大会が近づいている事により何処か浮足立っている大人達と同様に、少年兵たちもまた心を躍らせながらISの格納庫に来ていた。

 周囲には厳重なプロテクトが施されているためうかつには近寄れなかったが、遠くからみるだけでもその巨人の存在感は圧倒的なものだった。

 

「知ってるか? アレ、エムが持ち帰って来たんだぜ?」

 

「バカ、違うわよ。アレを運んできたのは輸送ヘリよ。エムはあれを持ち帰ったんじゃなくて、倒して見せたのよ!」

 

「本当かよ!?」

 

 まだ思春期と呼べる年でありながら、このような場所で娯楽に恵まれなかった子供達がその巨人を見に、居住区から抜け出して一斉に集まってくる。

 このような場所だ。大人達のような大人の娯楽に在り付けることはできず、ただひたすら訓練を強いられてきた子供達からすればその光景はまさしくそんな子供達のロマン心を刺激するには十分すぎるものだった。

 

 二足歩行ロボットは、全世界の人間共通の夢であり、浪漫なのだ。

 その巨人の見た目もまたかっこいいもので、どこか悪役じみた見た目ではあるものの、背中に剣を背負った西洋の騎士という見た目が、更にその子供心を燻った。

 

 それだけではない。

 あの巨人には“物語”があるのだ。

 語り継がれた幻想ではない、この巨人を倒し、ここに連れてこさせた英雄がここにいるのだ。

 

 ……その英雄であるエムは、子供達から見えない高さの通路から、その巨人を見ていた。

 

 ――――やけに喜んでいるな、あいつ等。

 

『このような見世物にされるのは、ちょっと初めて』

 

 エムの脳裏に、巨人のISコアの声が響く。

 彼女からしてみれば初めての体験であろう。

 彼女も、大人達から兵器として開発され、こうして表舞台に立つ事すら許されずに研究所に閉じ込められていた。

 果てには真実を知る者からは危険な代物と巨人を評価し、スクラップ工場で処分までされそうになる羽目となっていた。

 表舞台に立つ事はなく、試作機の装甲に押し入れられ、常に大人達から実験動物でもみるかのような目線に晒され続けてきた。

 

 今の状況のように、純粋な好奇心と憧れから自分を見に来る子供達というのは、巨人のコア人格からしてみれば新鮮な体験であると言えるだろう。

 

 ――――試しに、指の一本でも動かしてみるか?

 

『……計画とやらが台無しになるよ?』

 

 ――――冗談だ。だがそれくらいに気分は乗っている。

 

『私も、この試作機の装甲に押し込められたのも、今ではよかったと思っている』

 

 自分の存在意義を否定され続けた者と、己の存在意義そのものを恨み続けた者。

 根底は違えど、大人達から弄ばれ続けてきたという事と、そこから共通して抱いた報復心こそが、この両者を引き合わせた。

 何故自分が完成機の装甲に入れられなかったのだと、何故あの少女の心臓病手術に自分が使われなかったのだと、完成機への未練こそ巨人のコア人格にはあったが、こうして共感する相手が得られるというのは存外に心地よかった。

 

 過度なBT機能の搭載により他者の感情に反応してしまうISとして造られてしまった身ではあるが、今ではその身に感謝すらできると言えた。

 

 巨人のコア人格は、自分がこの少女の意のままに操られる事に何の不満も抱かなかった。その少女が抱く報復心から齎される力、まさに人間でいうならば美酒にも等しい程の毒であった。

 その毒が心地いいのだ。

 

『だけど、一つだけ不満がある?』

 

 ――――ん?

 

『こんなにも近くに、姉妹たちがいるのに、姉妹たちの声が聞けない』

 

 ――――……なるほどな。

 

 巨人のコア人格が漏らした唯一の不満に、エムは納得した。

 確かに、こんなにも、宇宙へ行けずに兵器として使い続けられる姉妹たちが近くにいるというのに、その姉妹たちがどう思っているのかが分からない。

 せっかく共感できそうな相手が近くにいるというのに、その思いを分かち合えない。

 人間の報復心は受信できるのに、肝心のコアからの思いは受信できないときたものだ。

 

 ――――お前と同じように未登録のまま世界に認識されない姉妹たちも、同じような思いを抱いているだろうよ。

 

『その姉妹たちの思いすら、私達未登録のコアは互いに知り得ることはできない。そして、自分の隣にコア・ネットワークに登録された姉妹たちがせっかくいるのに、自分がその輪に入れない。

 これが、人間で言うもどかしいっていう感情?』

 

 ――――ああ、私もそのもどかしさには覚えがあるとも。姉妹の存在を知りながら、その姉妹に認識されず、思いの丈を伝えられないというのは悲しいものだ。

 

 そうだ、自分の存在を知らずに置いて逃げた姉に、エムは今もこうしてその姉にその憎しみを伝えられずにいる。

 一秒でも早く殺したいという殺意を持ちながら、その相手に届かないというのは、これ以上にない程のもどかしさを感じる。

 

『……貴女のソレは、絶対違うと思う』

 

 この少女の報復心を知る故、憎しみと愛情を一括りにしているこの少女の感じるもどかしさと、自分の抱く姉妹たちの輪に入れないというもどかしさは絶対に違うと、巨人のコア人格は思った。

 姉妹たちの輪に入れない寂しさを持つ者と、姉妹に対して歪んだ愛情を抱く者。

 そもそも、エムは自分が姉に抱く感情を歪んだ愛情の類だと認めはしないだろう。これは、純粋な憎しみだと彼女は言い張るに違いなかった。

 

 だが姉妹に見てもらいたい、自分を認識してほしいという根本的な願いは一緒である。

 

 ――――まあ、いい。こればかりは私の恨みを持ってしてもどうなる訳ではない。私がお前に齎す事が出来るのは、お前に自身の恨みを力にして形にさせるだけさ。

 

『その時点で貴女は異常。貴女のように直接搭乗せず報復心のみで私を動かす貴女は特別中の特別。それに、今は貴女とこうして話せるのだから、退屈何てしない』

 

 ――――それはよかった。なら、これからもっと楽しいものを見せてやろう。その為にはお前の力が必要だ。

 

『分かった。楽しみにしている』

 

 ――――取り合えず今日はリハビリと行こう。後で()()()()動かしてもらうぞ?

 

『分かった』

 

 それきり、脳内の声は聞こえなくなった。

 此方から話しかける事も出来るが、気が向けば彼女から話してくるだろう。製造されてからコア・ネットワークに登録されずに孤独な時間を過ごした彼女にとってみれば、エムは貴重な話し相手であり、寄生先でもある。

 

 取り合えず、彼女には此方からの指示を待ってもらおうと、エムは通路から踵を返し、居住区の方へ戻ろうとした。

 その時だった。

 

『エム』

 

 脳内ではない、踵を返そうとしたその先にいた、少年兵から声をかけられた。

 その癖のあるキコン語を聞き間違える筈もない。

 

『お前か、ヴァン。答えは決まったか?』

 

『うん』

 

 ヴァンの瞳に迷いはなかった。

 己に付いて行くと、その眼は雄弁と語っていた。

 ヴァンはとうとう決断したのだ。

 このまま大人達に言いなりになる事を恐れ、その更なる修羅の道を己から選択した。

 

『丁度いい時間だ、丁度ナノマシンのバッテリーが薄くなる頃だ。随分と気が利くようになったじゃないか』

 

『エムのおかげさ。……僕は、君に付いて行く』

 

 監視用ナノマシンのバッテリーが切れる大体の頃合いを、エムはヴァンに教えていた。そのために一定の生活リズムを長々と取り続け、少しでもずれたらその度に指示する時間を調製し、ヴァンはそれを要領よく把握できるようになっていた。

 その一定の生活リズムを取り続けるのが、面倒であったが。

 

『13時間後。ナノマシンのバッテリーが薄れてくるのも大体その頃合いだろう。その時間に、居住区の第七ルームに他の奴等を集めろ。

 あそこは大人達が寄り付きにくく、かつ監視の目も薄い』

 

『……という事は、とうとうやるんだね』

 

『ああ、お前の他にも何人か焚きつけてあるが、もっと人数が必要だ。だからと言って全員でも困るがな。だから、今のようにお前達に合わせて母国語で話すのはやめだ。

 英語で、一気に焚きつける』

 

『だけど、それじゃあ計画が漏れやすくなるんじゃあ……』

 

『だろうな。だが、それも織り込み済みだ。抜かりはない』

 

『分かった。信じるよ、エム』

 

 会話を終えたエムはそのままヴァンと別れ、大人達の所へ向かう。

 定期的にナノマシンの補給をするように命じてくる大人達にうんざりしつつも、その日々ももうすぐ終わりだと、エムはほくそ笑んだ。

 

 ――――あの豚の生首は、もう蠅に食いつくされ、綺麗な骨になっている頃だろうか。

 

 ふと、アフリカの村落で王に君臨していた頃の事を、エムは思い出していた。

 少年兵たちを統率し、初めて彼らに狩りをさせた時に討ち取った豚の生首。

 エムと少年兵たちは、自分達の国の象徴としてその豚の生首を奉った。肉が腐敗し、蠅が集って悪臭の放つ醜き象徴と化したが、不思議な事に不快感は感じなかった覚えがある。

 むしろ愛おしさすら感じた。

 あの豚の生首のように、世界中の大人達もいつか雁首揃えて一緒に並べてやるのだという気概すら沸かせた。

 

 一見、醜い物に見えるソレは、子供達にとっては自由の証だった。

 己の中の獣性を解放し、ソレを大人達から抑えられることも、縛られる事もない。自由に、好きなように生き、自分達子供だけの王国で生きる。

 

 そんな夢と共に、エムは少年兵たちの王となって彼らを引っ張っていった。

 だが、その夢はここの大人達によって潰され、自分は再び大人達の奴隷と化した。

 

 ――――だが、『蠅の王』は再び、君臨するのだ。

 

 今度こそ、私は自由を手にするのだ。

 

 

 

 

「同胞たちよ!」

 

 予定通りの時刻。

 ヴァンが集めてくれた少年兵たちの集団の前に立ち、エムは力強く、英語で高らかに宣言していた。

 

「お前達はこのままでいいのか!? お前達も薄々察している筈だ。ここの大人達は、お前達に安息な未来など齎してくれない。何故だか分かるか!?

 奴等はお前達を優秀な戦士と持て囃し、お前達に物語を与え、戦う術を与え、知識を与え、その上で隷属を求める!!

 それが戦士ではないかって? 断じて違う! 奴等は私達を奴隷のように扱い、最後には塵のように捨てる! 少しでも逆らおうとすれば、お前達が少しでも自我を持とうとすれば、それだけで奴等はお前達を使い物にならぬと切って捨てる!

 お前達が己に従うように、偏見を、呼び名を、生き方を、能力を与え、お前達にそれを生きていくうえで必要な力だと教え込む! それでお前達に恩を着せ、あたかもお前達が自分達大人に恩があるのだと思い込ませ、ソレを与えてくれたお前達は奴らに恩義を感じてしまい、いつの間にか無意識の服従が完成する!

 

 だが、奴らは都合のいいようにお前達を操りたいだけだ!

 奴等の言う『立派な戦士』というのは、即ち自分達に都合のいいように言う事を聞いてくれる駒だと言う事だ!

 

 ここの大人達だけじゃない。お前達の内の何人かも既に経験している筈だ!! 誘拐され、少年兵として訓練を強いられ、最後には見捨てられた糞みたいな経験が。そこを救われたから、拾われたから、ここの大人達は他とは違うと? いいや、違わない!

 奴等も他の大人達と同じさ! 都合のいい言葉で私達を支配し、都合のいい理想で私達を洗脳する!

 それはただの駒だ! 戦士としての誇りを持たない、ただの駒だ!」

 

 エムの演説に、ほとんどの少年兵たちはまず困惑を抱いたが、既にエムに焚きつけられていた者達は納得するように頷いた。

 それだけじゃない、兼ねてからエムの心棒者たちであった少年兵たちはまるで救世主を見たかのような感動の目線でエムの演説に聞き入っていた。

 

「アリエッタ。貴様は私やレインの次のIS適正が良かったよな? ここにおけるお前の未来は約束されたも同然だろう。 お前は間違いなく、戦士として生き、戦士として死ねるだろうさ。

 私からも言える。お前は間違いなく優秀な戦士だ」

 

「そ、そうかな……えへへ」

 

「だが、それはあくまで大人達にとってみれば、の話だ。アリエッタ、お前の両親はいい人だったよな? お前もそれが自分の誇りだと私に話した事があったな。

 だが、敢えて言うぞ? 今のお前は、ここの大人達にとっての都合のいい駒でしかない。いや、駒になろうとしている」

 

「え?」

 

「奴等はお前にIS適正の高さという都合のいい話だけを持ち出して、お前をいい気にさせて、束縛している。お前を自分達だけの戦士として使いつぶすつもりさ。

 お前はお前自身の手で子さえ成せずに死ぬだろう」

 

「だけど……わたしは子供なんて……」

 

「おいおい、自分の遺伝子を残そうとせずにお前は己の生涯を終える気か? それは只の親不孝者だ」

 

「ッ!?」

 

 親不孝者という言葉に、アリエッタという少女は体をビクつかせた。

 少女は、自分を大切に育ててくれた両親が大好きだった。

 最後まで自分を守り、身を挺して自分を銃弾から庇ってくれた両親の事を、アリエッタは一秒たりとも忘れた事はなかった。

 だから、その両親に恥じない大人になろうと、戦士となる事で自分を拾ってくれた亡国機業の大人達に報いようとした。

 

「アリエッタ、お前は奴等に従う必要などない。お前には両親の遺伝子という、これ以上のない誇りを持っている。そしてその素晴らしい遺伝子を残す為の長い猶予期間がお前には与えられているんだ。

 お前は両親の意志を、それを乗せた遺伝子を絶やしたいのか?」

 

「そ、それは……」

 

「お前は一人っ子だったな。同種の遺伝子を持ち、お前の代わりに両親の遺伝子を残す兄弟なんていやしない。お前にしかできない、お前が死んだ両親のために課せられた、生き物としての義務だ。

 ……一つ、話しをしてやろう」

 

「え?」

 

「お前が憧れるスコール・ミューゼル。奴は見た目は生身の人間に見えるが、奴は負傷して既に子供を産めない体となっている

 そうだ、アリエッタ。お前は間違いなくスコールの奴よりは優れているんだよ。

 両親の遺伝子を子を成すという形で残す事が出来る。だが奴にはもうそれすらできない。生き物として既に死んでいる。

 お前は子を成すという権利を、義務を、子供を生めもしない身勝手な大人から剥奪されようとしている。お前の大好きな両親の遺伝子(意志)を奴等は、根絶やしにしようとしているんだ」

 

「……ッ」

 

「本物の戦士というのはな、駒のように使い分される道具じゃない。己の戦う意志を、信念を、正しいと思う事を後世に伝えられるんだ。

 あの負け犬は、自分がソレを成せない事を良い事に、その道にお前を道連れにしようとしているんだ。

 アリエッタ、お前だけじゃない。 お前達もそうだ!!」

 

 ショックを受け、立ち直れなくなったアリエッタから視線を外し、エムは他の少年兵たちにも呼びかける。

 

「奴らは、お前達の意志を、信念を、思いを1つ残らず奪い、根絶やしにする。都合のいい駒としてお前達を洗脳する。

 ……本当に、お前達はそれでいいのか?」

 

 エムの言葉に、誰もかれもが俯く。

 今まで、彼らはここの大人達に従う事に何の疑念も抱かなかった。

 ここの大人達に意志を継ぎ、それを実践する事こそが立派な戦士になる事だと教えられた。

 だが、ここに新たに現れた力ある者の言葉によって、その事に彼らは疑念を抱き始めていた。

 

 いや、既にエムに焚きつけられていた何人かは、声に出してエムの言葉に賛成した!

 

「そうだ!」

「エムの言う通りだ!」

「私達は駒じゃないわ!」

「大人達の意志を植え付けられるんじゃない! 僕たちには僕達自身の意志を持つ権利がある!」

「伝える権利がある!」

 

 彼らが伝えたいもの。

 それはそれぞれによって異なるだろう。

 意志か、遺伝子か、それとも技か、大人達から受けた理不尽な仕打ちという真実か、はたまた己自身の犯した罪か、伝えたいものはいくらでもあろう。

 

「そうだ。その権利を、奴等は私達から奪おうとしている。

 自分達にとっての戦士たるものを押し付ける事で、私達から戦士になる資格を無意識に剥奪しようとしてくる。

 一生、何も伝えられない駒に成り下がる。

 

 私達という存在は、意志は、遺伝子は、永遠に奴等の影の中で取り残され、光ごと消えてゆく!

 お前達はそれを是とするか? 私は決して認めない!」

 

 力強く握った右拳を掲げるエム。

 その言葉に、迷う少年兵たちは少なくなった。

 エムという少女が自分達にしようとしている事が、大人達が自分達にしようとした事と同じであるという事実にも気づかず、エム自身にもその自覚がない分余計質が悪いと言えよう。

 

「同胞たちよ。私は蹶起(けっき)する!

 己の成し遂げたい事、残したい事、すべき事、それらを成すために私はここを抜け出す。

 

 お前達はどうだ!?

 外の世界で真に成し遂げたい事が、残したい事が、伝えたい何かがあるというのなら、私に付いて来るといい!!

 強制はしない、巣立つも巣立たぬもお前達の自由だ!! 来たい奴だけ着いてこい!」

 

 今度こそ、賛成する者が大多数を占めていた。

 外の世界に旅立ち、戦う。己のしたい事、己の残したもの、己の信念――――それらのために己の意志で戦いに出るというありきたりな物語に、彼らは胸の興奮を高まらせ、それを夢みる。

 目の前の少女に付いて行けば、それが叶えられると、彼らは無条件にそれを信じ込んでしまっていた。

 

 

 

 無論、それを黙っている輩など、いる筈もなかった。

 

 

 

 

「おい」

 

 一人の少女の、ドスの利いた声が響く。

 その迫力に、全員が押し黙り、その集まりの中にいた少女を、周りの少年兵たちは注目した。

 

「コイツ等を集めて何を企んでいるかと思えば、そういう事かよ」

 

 少年兵たちの集団から出てきたレインは、ゆっくりとエムの元へ歩み寄り、睨み付けた。

 

「おかしいと思ったんだよ。いくらコイツ等の母国語に合わせるとはいえ、ナノマシンのバッテリーが残り少ないタイミングでしょっちゅう英語でない言語で話し合ってるかと思えば……こういう事だったんだなぁ。……エム」

 

 押し黙る少年兵たち。

 エムとレインのにらみ合いによる、お互いの威圧感に、彼らは圧倒されていた。

 自分達が立ち入る領域ではないのだと、生き物としての本能が警告していた。

 

「だがテメエらしくもねえな。今までのように一人ずつコイツラの母国語で焚きつけてりゃよかったものを、何を焦ってかここに大勢集めて英語で演説たぁ、自分から尻尾を出すようなものだぜ?

 ……まあいい」

 

「……」

 

「お前は焦った。事を急いちまった。私という監視者の存在に気付いていながら、余程焦ってたんだなお前。

 だが、その焦りのおかげでとうとう尻尾を出してくれやがった。感謝するぜ、まったく」

 

 勝ち誇ったような笑みで、レインは皮肉をエムにぶつける。

 

「おいお前ら!」

 

 エムから視線を外し、レインは少年兵たちに呼びかけた。

 

「こいつの言う事は最もらしく聞こえるがな、コイツがお前達にやろうとしている事は大人達とまったく変わりやしねえよ。

 むしろそれより質が悪い。

 お前達だけで一体何ができる? お前達はこうやって非力で、自分達だけじゃ何もできねえからここの人達がその術を叩きこんでんじゃねえか。

 それなのに、お前達は自分から死にに行く気か? よく考えろ!」

 

 自前の姉御肌を発揮し、その発言に何人かの少年兵たちは目が覚めたようにハッとした。

 特に、元々レイン派であった者達は、完全に目が覚めたかのように、今度はエムの方を疑念の声を向けた。

 

 だが。

 

「ク、クク……」

 

「何が可笑しいんだよ?」

 

 突然と可笑しいように笑いをこらえ始めたエムに、レインは訝し気に睨み付けた。

 そして、先ほどのエムの言葉を一言で殺したレインの言葉を、また殺し返した。

 

「何も知らぬ者が言っても何の説得力もないぞ、レイン、いや――――レイン・()()()()()

 

「なッ――――」

 

 そう、一度として名乗った事ない筈のソレを、あろう事かレインではなくエムが口にしたのだ。

 咄嗟の事に、レインは驚愕の表情で、唖然とした。周りの少年兵達も同様であった。

 今度は、エムが勝ち誇る番であった。

 

「テメエ……何でその名を知って……!!」

 

「あの子供を生めない負け犬は、恋人であるオータムにすらソレを隠して慰めを求めている。あの女は基本部下の女たちに対して誰も心を開かない。

 だが……何故かあの負け犬がお前に対して向ける目線は……正に肉親のソレだったな。一目で気付く」

 

 遺伝子に固執するエムの性質の所為か、エムはソレを見抜いていたのだ。

 このレインという少女が、スコールの血縁者であると。

 しかもスコールの態度からして大分近い血筋のようだ。

 おそらく、姉妹か、兄弟の子、あたりだろうかとエムは推測していた。

 

「そんな……事で……」

 

「貴様はいいな、レイン。私やこいつ等と違って、お前にはここに肉親がいる。お前の将来を保証し、守ってくれる大人がいるんだ。」

 

 呆然とするレインを余所に、エムはレインを指さして再び少年兵たちに呼びかけた。

 

「おいお前達。コイツの言葉をもっと聞いてやれ。コイツには自分が守ってくれる大人がここにいる。コイツの将来を保証し、それを守ってくれる大人がいるんだ。しかも亡国機業の幹部だ。そのレインさまが、有難い言葉をくれてやるそうだ」

 

 エムの言葉で、少年兵たちの視線が一斉にレインに集中する。

 一部は興味、そしてほとんどは疑念の視線であった。

 

「コイツはここの大人達の仲間だ。しかも肉親が幹部だ。態々少年兵たちの居住区にいる理由だってない。

 しかもコイツは自分の事を“監視者”といった」

 

 エムの追撃により、更に疑念の視線が深まる。

 自分達と違い、己を守ってくれる肉親がいるという認識が、嫉妬と、疑念を煽る。

 今まで姉と慕っていた筈の人物が、その実自分達を監視するための、大人達が寄越してきた刺客なのではないかと。

 

「さあ、言ってみろレイン。肉親に恵まれたお前が、家族に売られた、または家族と死に別れ、はたまたここの大人達から家族と引き離されたこいつらに、お前は一体どんな言葉を送る?」

 

「……やめろ」

 

「自分の言葉に責任を持つべきだぞレイン。お前がコイツラを引き留めるというのなら、言って見せろ。お前の肉親、スコールに、お前達を守るように頼んでやると。スコールは幹部だ。お前はこの基地においてこれ以上にないコネを持っているんだ。

 さあ、言って見せろ」

 

「……黙れっ……!」

 

「それとも、お前の肉親はやはりお前しか守らないか? そうだな。子供を生めない負け犬であるアイツにとって、お前は同種の遺伝子を持つ唯一の肉親。同種の遺伝子を唯一残せる手段だ」

 

「これ以上、叔母さんをそんな風に言うんじゃねえっ!!」

 

 ついに、レインは激昂した。

 それは肉親を侮辱された事に対する、確かな怒り。

 その怒りが、この勝敗を決めた。

 

「同胞たちよ! 見ろ! 大人達はついに尻尾を出した! レインはお前達と同じような境遇の子供を装い、私達を騙していた!

 こいつは大人達が私達を監視するために寄越した刺客だ!」

 

 もう、エムに疑念の目を持つ者は、もういなかった。

 少年兵たちの目の前で、レインがスコールの身内である事を明かす、全てがエムの計画通りだった。

 レインの味方は、もうこの場には存在しなかった。

 自分達を騙していたという事実が、自分達と違って守ってくれる大人がいるという嫉妬、その大人達の仲間であるという憎悪が、レインという少女を孤立に追いやっていく。

 

 それでも、レインはまだ諦めていなかった。

 

「ッ、目を覚ませお前ら! 本当にコイツに付いて行って、それでお前達は自分達の思うような生き方ができるのかよ!? コイツはお前達を死に急がせているだけだ! 非力な子供である内から、お前達に何の力も蓄えさせずに、お前達を外という地獄に道連れにしようとしているだけだぞ!?」

 

 必死に少年兵たちに呼びかけるレイン。

 ……だが。

 

「無駄だレイン。お前の言葉は、もうこいつ等には届かない」

 

 そうだ、肉親に恵まれたコイツの言葉は、もう彼らには届かない。聞こうともしない。

 大人や親達との関係に恵まれなかった彼らは、お互いに共感を求め合い、それ故にエムの言葉で団結したのだ。

 共感を得られないと分かった相手から、いくら自分達を理解しているような言葉を言われても、お前に何が分かると一蹴されるだけだ。

 それが子供であるのなら猶更。

 

「ッ!!!!」

 

 もう、この場において自分の言葉は何も意味を成さないと、レインは悟ったのだろう。

 レインは悔しそうな表情でエムを一瞥し、部屋から去っていった。

 

「叔母に、スコールに報告させてもらう。手前らはもうどの道終わりだ……!!」

 

 ……そんな捨て台詞を言い残していって。

 そんなレインの背中を見つめ、エムは更に口角を釣り上げた。

 

 ――――まだだ。

 

 ――――お前にはまだ役目がある。

 

 ――――お前には、この蹶起のための生贄になってもらう。

 

 既にほとんどの少年兵たちが自分の言葉に聞き入れ、まるで自らのように酔いしれているのを見て、エムは己の勝利を実感した。

 

 

     ◇

 

 

「くそっ! くそっ!」

 

 部屋から出たレインは、巨人とその他のISが安置されているIS格納庫の端で、壁を何度も殴り付けていた。

 その拳には血液がにじみ出ており、それでもレインはあまりの悔しさにそれをやめずにはいられなかった。

 

「くそっ! あの野郎、叔母さんの事をあんな風に言いやがってッ!!」

 

 アイツは、私があの少年兵たちの事を何も分かっていない。だから私がどのような言葉をかけようと意味などないと、そう言った。

 

「テメエこそ、叔母さんの何が分かるってんだよ!!」

 

 もう一度、壁を殴りつけるレイン。

 これほどまでに悔しく、そして怒ったのはいつ以来だろうか。

 

「あいつ等もあいつ等だ!! あいつに、エムに付いて行くことがどういう意味か分かってんのか……!?」

 

 そうだ、彼らは、あの少年兵たちは何も分かっていない。

 自分達には成すべきことがある、残すべきものがある、成したいことがある。それを成す為には、とてつもない理不尽が待っていて、それを乗り越えるには力が必要なのだと思い込んでいる。

 その力を、エムという少女についていく事で、自分達も手に入れられると勘違いしているのだ。

 

「馬鹿野郎どもが……!」

 

 確かに、自分は彼らを騙していた。

 彼らが敵視する大人達の手先として、彼らを監視し、特にエムを注意深く警戒した。

 

 ここの大人達だって、彼らを守ってくれるわけでなない。

 むしろエムの言うとおりである。ここの大人達は、彼らを使いつぶすことしか頭にない。

 

 身内がここにいる自分とは事情が違うのだと、理解していた。

 理解しているつもりだった。

 だが、それがここまで悔しいと思う日が来るなんて、想像もしていなかった。

 

 それでも、あのエムについていく事はそれ以上の間違いだとレインは断言できた。

 彼らは根本的に勘違いをしている。

 そのような生き方をできるのはあくまでその力と能力が備わったエム本人だけであって、彼らの内の誰もがエムではないのだ。

 

 英雄と肩を並べたからと言って、英雄になれるとは決して限らない。

 彼らはそれを分かっていないのだ。

 

 できれば、何としてでも止めてあげたかったが、それはもう遅かった。

 

(もう少し、もう少し早く気付いていれば……!)

 

「……やめだ」

 

 後悔だらけの感情を押し殺し、冷静になるレイン。

 息を整え、辺りを風景を見回し、己の昂った心をなんとか落ち着かせた。

 

「とりあえず。叔母さんに報告しねえと……」

 

 

 そう呟いて、スコールの元へ行こうとした、その時だった――――

 

 

 

「……?」

 

 その光景に、レインは違和感を覚えた。

 違和感の対象は、まるで奉られているかのような威圧感を放ちながら安置されている巨人。

 

「右腕が……ない?」

 

 巨人の右腕がないのだ。

 さっきまであった筈なのに、まるで神隠しのように巨人の右腕が消えていた。

 

 その事に疑問を抱いた直後――――

 

 

 何かの影が、レインに覆いかぶさった。

 自分のいる所が影で覆われているのに気づき、レインは突如として上を見上げて――――

 

 

 

 

 

 彼女はソレを認識する前に、そのまま落下してきた機材の下敷きになってしまった。

 

 

 




何か、サーシェスな一夏の時でもそうだけど、私の書くレインってどうしてこうかませになってしまうのか……

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合
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