もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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小さき反乱者達 2

 遠く離れた所からその感触を感じ取ったエムは、ふと今もIS格納庫で鎮座しているであろう巨人のコア人格に問うた。

 

 ――――どうだ、かなり精密に動かせただろう?

 

『うん。まさかいきなり右のアームビットだけを動かしてくるとは思わなかった。やっぱり貴女は、すごい』

 

 ――――BT粒子の散布も怠らなかった。電波妨害を受けた監視カメラに映る事もあるまい。

 

『その前に、どうしてあの子を態々機材で潰そうとなんかしたの? 監視カメラの心配もないし、普通に私自身を動かしてもよかったのに……』

 

 ――――レインの死の原因を『試作型エクスカリバー』の暴走ではなく、あくまで大人達の不備であるように見せかける為さ。どちらにせよ向こうの不備である事に変わりはないが、此方の方がそれを強調できる。

 

『少年兵たちの大人達への不信を煽るにはもう十分だったんじゃないの?』

 

 ――――いいや。曲りなりにでもレインは私の次に少年兵たちに慕われていた奴だ。今となっては少数派でも、自分達が騙されていたとしってもレインを慕う奴はまだいる。

 

『……なるほど』

 

 ――――それに、あいつらはこう思うだろうさ。『ここの大人達は、自分の肉親ですら自分の管理不届きで死なせてしまう、不甲斐ない奴だ』、とな。ここの大人達が肉親の命すらろくに守ってくれないと知れば、あいつらは余計ここを私と一緒にここを出たがるだろう?

 

『あの子の本名をみんなの前で明かしたのも、それが狙いだったの?』

 

 ――――ああ。亡国機業の幹部の姪っ子であり、肉親であるレインは奴等のここの大人達の不信感を煽るのにこれ以上ないくらいの生贄だった。

 だから、ヴァンにレインも呼ぶように頼んだ。

 

『すべて計算づくだったんだね』

 

 ――――ああ。アイツはよく働いてくれた。露骨に自分も呼ばれる事に疑念も抱かずにな。これ以上にない生贄だった。これでレイン派の連中も焚きつける事ができるだろうさ……。

 

『もうすぐ、ここから出られる?』

 

 ――――出られるとも。その時はアイツ等も一緒さ。お前も吝かではあるまい。

 

『うん。あの子たちは、あの大人達とは違うから。あんな輝くような目で見られるのも、悪くないかも』

 

 ――――さらばだ、レイン・ミューゼル。大人達の奴隷、私達少年兵の裏切り者。お前の犠牲は決して無駄にはしない。

 

 エムの脳内では、そんな会話が続いていた。姉妹が近くにいるにも関わらず話せない反動であろうか。

 彼女はとりわけエムの話を聞きたがった。いや、もはやエムに依存していると言っても過言ではなかった。

 しばらく、スコールが慌てた様子で帰ってくるまで、エムと彼女は脳内で交流を続けた。

 

 

     ◇

 

 

 レインが、崩れてきた機材の下敷きになった。

 

 オータムからその報告を受けたスコールは直地に任務時に貸し切っていたホテルを破棄し、支部基地へと戻った。

 突如として疼き始めた失くした身体の痛み(ファントム・ペイン)に必死に耐えながら、着陸したヘリから降りたスコール。

 ヘリポートに迎えに来てくれたのは、彼女の恋人のオータムだった。オータムもスコールほどではなかったが、深刻な表情をしていた。

 最初は冗談だと思っていた筈のソレが、現実なのだと悟ったスコール。

 

「……報告は本当なの? オータム」

 

「ああ。IS格納庫で、落ちてきた機材に潰されて……それで……即死、だそうだ」

 

「ッ」

 

 拳に力が入る。

 もう、疼く事はないと思っていたのに、また、失くした身体の痛みが再発してくる。

 子供を身籠る事の出来なくなった子宮……その痛みに耐えきれなくなったのか、スコールは腹を抑え始めた。

 

「おい、しっかりしろ。スコール!!」

 

「大丈夫よ……ッ、少し、痛むだけ……」

 

 ここでオータムは、少しだけスコールに違和感を持った。

 スコールが抑えていたのは胃の部分ではなく、腹。まるで子供を身籠った事に対する痛みを抑えるような仕草だったのだ。

 ――――それは、ただ痛むだけではなく、まるで彼女の失われた願望を示しているかのような、そんな気がした。

 

「事故の、事故の状況を教えてくれないかしら? まだ、詳しい事は……聞けてないの」

 

「ッ、ああ。何故かその時の監視カメラの映像がない。明らかに妨害電波を受けた形跡がある……おそらく、誰かの()()()()()()()だ……」

 

「……」

 

「だが、現場証拠がまったくねえんだ。監視カメラの映像がねえ以上、残された現場から証拠を探すしかなくなる。だが……まったく証拠が見つからねえんだ! 機材の止め金具にも老朽化の跡はなく、あの時間にレイン以外に誰かが立ち寄った形跡もなかった! まるで、機材自身から落ちていったかのような……そんな風にしか……」

 

「……各スタッフに、調査班以外の格納庫への出入りの禁止を言い渡して頂戴。私も、行く、わ……」

 

 幻肢痛を振り切り、スコールはオータムの手を振りほどき、格納庫に向かおうと、降り向いたその先には――――いつものように、己に反抗的な目線を向けて来るエムの姿があった。

 いつもなら余裕で流している所だが、今のスコールには余裕がない。

 

「どけ、餓鬼」

 

 そんなスコールの心を代弁する。

 今はお前に構っている暇はないのだと、スコールも剣呑な目でエムを睨む。そんな二人にエムは動じた様子もなく。

 

「……」

 

 スタ、スタ、スタ

 

 不気味な位にあっさりと、そこから立ち去って行った。

 いつもならばしばらくは動かずににらみ続けるのに、今回だけは違うことに違和感を感じる暇もなく、二人はIS格納庫へと急いだ。

 

 ――――ざまあみろ。

 

 そんな二人の背中を見つめて呟かれた言葉は、二人の耳に届く事はなかった。

 

 

     ◇

 

 

「見たか、あの顔を」

 

 呵々、と笑いながら積まれた鉄パイプの上に座り込み、エムは眼下の6人の少年少女たちに問いかけた。

 

「あれが肉親を失った時の大人の顔だ。他の少年兵が同じ目にあってもあんな顔はしないだろう。奴は、自分は私たちと同じく身寄りをなくしてここ(亡国機業)に拾われたとか抜かしていたが、それは嘘だ。レインは、最初から私たちも、そしてお前達も裏切っていたという事になる」

 

「そ、そんな……」

 

「そ、それじゃあ、お姉さまは……」

 

「今までの姉貴は一体……」

 

「くそっ」

 

 エムの誘われるままに、帰って来たスコールの様子を見てしまった5人の少年兵たちが、三者三様の反応を見せる。

 嫉妬、憎悪、羨望、失望、呆然。それぞれ類は違えど、それらは明らかに自分達が今まで慕ってきた姉貴分への負の感情であった。

 

「無論、レインがお前達と過ごした時間そのものは嘘にはならない。いや、レインのお前達への態度も、全てが偽りという訳ではなかっただろうさ。

 だが、結局お前達はレインと分かり合えてなんてなかった。レインがお前達を理解しているフリをしていただけだ。私達少年兵の居住区に入り込み、裏切り者がいないかを監視していた。

 お前達を惹き付けたのも、信頼させたのもソレをしやすくするためだろう。だが、お前達と、いや私達とレインは根本的な所で違った。

 それはアイツには肉親がいて、私達にはソレがなかった。

 

 いずれは、アイツはああ言う結末になっていただろうよ」

 

 俯く6人。

 エムの言う“ああいう結末”というのは、レインが機材に押しつぶされて死亡した事を指しているのではなく、ついさっき、あの居住区の第七ルームでの出来事だった。

 エムの罠にはまったレインは自ら自分が大人達の刺客である事を、エムの蹶起に賛同した少年兵たちの前で認めてしまい、レインと少年兵たちの確執が起こってしまった事だった。

 その場では勝ち目がないと分かったのか、レインはすぐに退いたが、その直後、あの悲劇が起こってしまった。

 

「私の言葉に賛同した奴等ですら、あのような確執があったにも関わらず、レインの死をきっかけにここの大人達に対する敵意をより強めている。お前達は、いわずもがな」

 

 エムの目の前に集まった6人の少年兵たちは、元々レイン派の中でもとりわけレインの事を慕っていた者達だった。

 あの第七ルームで、レインがエムの発言に逆上して自分がここの大人達の刺客である事を暴露された時も、自分達が騙されたとその時知っても、彼らは最後までレインを信じようとした。

 信じようとした矢先に、これだった。

 

「レインはお前達と違い、ここに自分を守ってくれる肉親がいた。だが、その肉親ですらあの様。ここの大人達の管理不届き故にレインの命を守れなかった。

 ここの大人達は、己の肉親すら守る事の出来ない不甲斐ない奴等だ。お前達は……そんな大人達の下にいたいと思うか? 使い潰されたいと思うか?」

 

 エムの質問に、全員が首を横に振って否定する。

 あのような大人にはなりたくないと、誰もがそう意志表明した。

 

「アリエッタ。この間の話の続きをしようか」

 

「え?」

 

「お前はスコールの奴よりも遥かに優れていると、私はお前にそう言ったな」

 

「……うん」

 

「正にその通りさ。スコールの奴は、自らが子供を生めないからと、肉親であり同種の遺伝子を持つレインを大事にした。

 だが、結果はあの様だ。大事にしようと決心した姪っ子すら、アイツは守れなかった。

 そもそも奴が己自身の子さえ産んでいれば、もっと大事にし、本当に守れたと思うか? 違うね、あいつは元々ああいう星の下に生まれたのさ。自らの身体を失い、自身の遺伝子を残す方法を永遠に失うような奴が、仮にあいつ自身の子供を生んだ所で変わりはしない。

 レインのように、守れず死なせてしまうだけさ。自らの血縁の子の能力を過剰に信じ、期待し、相手の力量を推し量れぬ故にな」

 

「……」

 

「お前が仮に、己の遺伝子を世に残す為に子を成したとしよう。お前がスコールのような女であった場合、お前はその子供を真っ先に死なせてしまうだろうさ。

 だが、お前はそうはならない。何故だか分かるか?」

 

「それは……」

 

 言い淀みながらも、アリエッタは思い出した。

 あの時、自らの命も省みずに、自分を守ってくれた両親。あの時、両親が庇ってくれなければ、自分はここにはいない。

 

「お前は、お前の両親が己の遺伝子を、命のバトンを自分に渡してくれた事を知っているからだ。スコールは己の遺伝子すら失い、同性の恋人という幻想(ファントム)に逃避する事によってそれさえも忘れようとしていた。あいつ自身が親から渡された遺伝子(命のバトン)を、その心からも置き去りにしたんだ。

 だが、お前はまだ何も失っていない。両親から渡された命のバトンも、お前自身の身体も、失ってなんかいないんだ。いや、失ってもお前ならば逃避しないと私は思っている。

 お前は例え何もかもを失っても、それでも忘れられるか? 死んだ両親の意志を、その身に流れていた血を忘れられるか?」

 

「……忘れない、忘れられる訳ないッ!! 私は、絶対に忘れないもん!」

 

「ああ、そうだな。お前の中にそういった決心がある以上、お前はもう奴より上だ。奴を上に見る必要なんかない。

 お前は、十分に誇って良いんだ」

 

 エムの、心からの賛美の声が、アリエッタの中に甘く浸透する。

 

「私が言うよ、アリエッタ。お前はもう、間違いなく誰もが認める戦士だ。その血を、命のバトンを守ろうと、いつかそれを誰かに渡そうと努力している。

 ここの大人達の言う“立派な戦士”になるまでもない。

 お前は、誰もが認める立派な戦士だ」

 

 その言葉は、ずっとアリエッタがここの大人達から欲しかった言葉で、アリエッタはついに涙を流してしまった。

 アリエッタの心は、既にレインからエムへと傾いていた。

 レインは、ただ自分の言葉を聞いても頑張れよと励ましてくれるだけだった。

 エムは、己の努力を認めた上で、それでいて自分がずっと欲しかった言葉をくれたのだ。自分を認めてくれたのだ。

 

「……エ、エム……あ……ありがとうっ……」

 

 あまりの嬉しさに、アリエッタはついにすすり泣きをしてしまった。

 もう、アリエッタの中で決心は決まっていた。

 ――――この人に、付いて行こう。

 ここの大人達に使い潰される前に、この人と一緒に外を出て、力を付けよう。己の遺伝子を守り、受け継がせ、後世に残せるようになるまでに、生き残るための力を付けよう。

 その思いを、アリエッタは胸にした。

 

 元々はレイン派であった他の五人の少年兵たちも、羨ましそうにアリエッタを見つめた。

 

「そうだお前達。私がまだアフリカの村落で少年兵たちの隊長をやっていた時の話をしようか」

 

 唐突に、エムはそう言いだした。

 だが、6人は当惑することなくその話題に飛び付いた。

 元々、大人達顔負けの能力を持つ少女だ。一体どのような英雄譚を持ち出してくるのかと、そんな淡い期待を込めて。

 

「私の仲間に、ジャックという少年がいた。奴は私の隊の中でも優秀でな、私達が拠点としいたその村落での尊重として祭り上げていた豚の生首も、元々は奴の手柄だったんだ。無論、他の皆の協力もあったが、直接あの豚に止めを刺したのは奴だ」

 

 うんうん、と6人の少年兵たちは目を輝かせてエムの言葉を聞き続けた。

 

「奴はさっそく、その豚の生首を私に献上した。奴は豚の頭の部分が一倍うまいと勘違いしていたようでな、勿論。私はソレを食べなかった。だが私は考えた。これを私達の国の象徴にしよう、とな……」

 

「その次の日の事だった。私が村落から追い出した反政府ゲリラの大人達の仲間が、いつまでも連絡の取れない仲間を案じて村にやってきた。その時のアイツ等は、野生の豚を狩れるようにはなっても、まだ銃を持った大人達には敵わないからな。その時は、私が直接出て、全員生け捕りにしてやった」

 

「そして私は、豚の生首を奉った王座のある廃船の柱に、生け捕りにした大人達を括りつけて、一人ずつ公開処刑したんだ」

 

 ……それまで、目をキラキラさせていた筈の少年少女たちが、その顔を一斉に引きつり始めた。

 

「一人ずつ、愛用の山刀を一振りして首を切り落としていった。公開処刑を終えた後、私は奉った豚の生首を掲げて宣言した。

 私達はもう大人達に従わされる子供じゃない。大人達の都合で使いっぱしりにされるのは真っ平ごめんだ。私達はここに、私達の国を作る、とな」

 

 そう、誰もエムの言葉に反対するものはいなかった。

 略奪、襲撃。戦争だ、戦争だと子供の甲高い声で叫び、周囲の大人達に刃を向けた。

 

「それからだ、ジャックの様子が豹変した。あの公開処刑に触発されたのか、ある日ジャックは私にこう言ったんだ。

 “故郷に帰って、大人達を殺してきてもいいか?”とな。私はそれをOKした。私の嫌う大人達への殺意を、無為になどできなかったからな。

 それから、アイツはどうなったと思う?」

 

 顔を青ざめながらも、彼らはゴクンと息を飲み、エムの続きの語りを待った。

 

「奴は無事、帰って来た。弟を連れて、しかも手元に自分の父親の生首を抱えてな」

 

「「「「「「……ッッッ!!?」」」」」」

 

 6人は、あまりにもそのぶっ飛んだ内容に、絶句した。

 

「驚いた事に、あいつ自身は自分の両親に何の恨みも持っちゃいなかった。あの公開処刑でアイツは私が大人の生首を好むんだと勘違いしたようでな、私への覚悟を示すつもりで、その父親の生首を私に献上した。

 豚の生首の次は、自分の父親の生首だ。

 イかれているだろう?」

 

 最早、言葉にならないと言った様子の6人。

 実際、エムから見ても彼はイかれていた。

 エムでさえ、己の肉親に強烈な殺意を抱く理由にはそれ相応の強烈な憎しみが存在する。

 ジャックは、それさえもなく己の父親の首を自分に献上してきた。ジャックは、白黒狼(モノクロ)の事を病的にまで心酔していたのだ。

 

「私へ一生ついていく。そのためにその尾を引く存在を殺し、私へ献上する事で奴はそのいらない覚悟を示してきた。まったくもって狂っていたよ、アイツは。

 あいつが連れてきた弟は、親を殺した兄に対してひどく怯えていた。まあ、その弟もいつしか私達色に染められたがな」

 

「……」

 

「本当に面白い奴だった。つくづく、私をここへ連れ去ったここの大人達が憎々しい。あの日はもう、帰ってこない」

 

 最後に、惜しむかのように、そして呪詛のようにエムは話を終えた。

 6人の顔は未だに引き攣ったままだ。

 今までも思っていたが、この少女の大人達に対する嫌悪と憎悪は自分達の想像を超えていた。

 エムだけじゃない、かつて彼女に付き従ったという村落の少年兵たちもだ。

 

「まあ、何が言いたいのかと言うとな。お前達は、何か外にやり残した事はないか?」

 

「え?」

 

「ジャックは私に付いて行く決心を固める為に、その決心の尾を引く自分の親を後腐れなく殺し、私の元へ帰って来た。

 ……ああ、そもそもお前達からはまだ答えを聞いていなかったな。

 お前達は、私に付いて来るか?」

 

 真剣そうに聞いて来るエムに、6人の少年少女は押し黙る。

 アリエッタは既に覚悟を決めているようだったが、後の5人はまだ迷ったままだった。

 やがて……。

 

「……付いて行くわ」

「僕も」

「オレも」

「ここの大人達の下にいたって、何のいい事もない」

「肉親である姉貴さえ守ってくれない大人なんて、信用できない」

 

 やがて、残りの5人もエムに付いて行く決心を固めた。

 もう、散々分かり切っていた。

 肉親に守られながらも、間違いなく大人達の奴隷として準じたが故に、無くなってしまったレイン。

 その結末こそが、ここの大人達に従う選択をした末の先を物語っていた。

 

「ならば改めて聞くぞ。お前達、“外”でやり残した事はないか? 私に付いて行く前に、己の手で成したい事は? 例えばアンリエッタ――――お前の両親を殺した部隊の将軍とか」

 

「ッ!? それは……」

 

「お前達もだ。例えば、誰か殺したい相手とかいないか? 私に付いて行く前に、その尾を引かないために、どうしても殺したい相手とかはいないのか?」

 

「「「「「……」」」」」

 

 全員、顔を俯かせるものの、その眼は心当たりがあるといわんばかりに煌いていた。

 その反応を見たエムは、その口角を釣り上げた。

 

「なら丁度いい。お前達を、一旦外に出してやる」

 

「「「「「「―――――ッ!!?」」」」」」

 

 エムの信じられないような発言に、全員が顔を上げる。

 無理もない。

 帰る時はどうするのだ。そもそも、どうやって外に出るというのだ。大人達のヘリを借りようにも、自分達は操縦する事などできないし、そもそもその為に大人達をどうやって出し抜くと?

 

「後で私の部屋に行くといい。監視用ナノマシンのバッテリーが少ない合間に、ベッドの下に作っておいた隠し戸がある。ヴァンの奴に頼んでそこに面白い物を運ばせた。

 私からお前達へのプレゼントだ」

 

 そう言って、自分達に背を向けて去っていく少女の背中を見つめながら、6人の少年少女たちは、あの少女、エムについて考えを巡らせた。

 ――――監視用ナノマシンのバッテリーが薄い合間だとか言っているが、大人達が態々彼女にそんなタイミングを伝えるとは思えない。

 この時間も、おそらく彼女がナノマシンのバッテリーが薄れる頃合いを図って自分達と話していたのだと考えれば、あの少女は自力でナノマシンのバッテリーが薄れる時間を把握したという事になる。

 

 つくづく、自分達がこれから付いて行くであろう少女の規格外さを実感するのであった。

 

 

     ◇

 

 

 機材落下によるレインの死亡事故から数日が立ち、子供達の大人達への態度は一変していた。

 エムの演説による煽りと、更には自分達が慕っていたレインの、不慮の事故による死亡。

 大人達はレインの詳しい死因を特定できず、表向きは不慮の事故として扱った。それが余計に少年兵たちの大人達への不信感を煽った。

 

 特にそれが顕著であったのはレイン派であった少年兵たちである。

 

 エムの演説により迷いが生じ、未だ不信を拭えずも信じていたレインが、肉親の仲間である筈の大人達の不慮の事故によって抹殺された。

 彼らは大人達の言う「不慮の事故」を、大人達が責任を逃れるための言い訳と考え、無視、文句、遠くからモノを投げつけるなどの反抗が目立つようになってきた。

 

 最初は子供の癇癪でおさまるものと大人達は高を括っていたが、それは収まる様子はなかった。

 この支部基地の指令を務めるスコールでさえも、表向きは平静を装っているものの、レインを失った事にショックから立ち直れていないのが恋人であるオータムには丸分かりだった。

 

 そんなある日の夜。

 

 一人のヘリパイロットが、亡国機業のヘリポートからヘリを出撃させていた。

 理由はとある物資を別の亡国機業の支部基地を輸送するためであり、その類の任務を大抵任せられる男は、いつものようにその任務を引き受けた。

 

 だが、男の気分はいつもと違った。

 

(ったく、あの餓鬼ども……容赦なく卵を投げつけてきやがって……!!)

 

 そう、男は苛立っていた。

 ヘリのハンドルはいつもよりも容赦ない力で握られ、手は怒りに震えていた。

 

 最近、どうも基地の内部の様子が不穏だ。

 あのレインという少年兵の死亡以来、幹部であるスコールの様子がどうもおかしい。表情は平静を装っているが、どこか気が動転しているような気がするのだ。

 

(……まあ、あれだけ餓鬼どもが暴れれば、上も対処に困るってものか。大変だな、スコール様も)

 

 元々、女尊男卑の風潮を憎み、それ故周りに女性の部下を侍らせているスコールの事は気に入らなかったが、今回ばかりはヘリパイロットの男も同情していた。

 

 その時だった。

 

 チャキ。

 

 ふと、小銃が突きつけられる音が聞こえた。

 運転席の窓には、横から銃を突き付けられている自分の姿が写っているのを、ヘリパイロットの男は見た。

 

「なッ」

 

「動かないでください」

 

 いつの間にか、自分の隣の助手席に座っていた少女が、自分の横からアサルトライフルを向けていたのだ。

 動くなとはいっても、ハンドルを握り続ける以上、手を上げる訳にもいかない。

 

「そのまま、ハンドルを握り続けてください。……いいですよ、()()()

 

 少女――――アンリエッタがそう指示すると同時、男の背後から、更に5つの銃口が現れ、男の頭に突き付けた。

 

「お、お前達はッ」

 

「動かないでといった筈です!! ……死にたくなければ、ハンドルを握りながら私達の指示する場所へ行ってください!!」

 

「く、くそっ!」

 

 一人ならばどうにかなったかもしれないが、子供とはいえ銃を持った人間が6人も相手となれば、成す術もない。

 男は、ハンドルを握り続けた。

 

「お前ら、いつからそこにいた!? まったく気配も感じなかったし、何より姿が見え――――」

 

「今から、私達が指示する場所に進路を変更してください。さもなくば――――」

 

「わ、分かった! 行けばいいんだろう!?」

 

 男は結局、抵抗する術もなく、いつの間にかヘリに乗り込んでいた少年兵たちの要求に応えるしかできなかった。

 

 ――――さあ、故郷へ帰ろう。私達の報復を成し遂げる為に。

 

 

 

     ◇

 

 

「スコール様! その、調査班より報告が……」

 

「何か分かったかしら?」

 

 報告に来た調査班のスタッフを視界に入れた途端、スコールは即座に立ち上がってそのスタッフに歩み寄った。

 ――――レインの死因、いや、死に追いやったのは一体誰なのか?

 犯人の候補は一人だけ思い浮かぶが、ナノマシンによる監視状況からみる限りではどう見ても実行に移せる立ち位置にはいなかった。

 そもそも、誰かが立ち寄った、あの時間以降の形跡がまるでないのだ。

 

「その、レイン様についてはまだ何も……ですが、その、妙な事というか、気になる事がありまして……」

 

「何でもいいわ。報告して頂戴。

 

「では。レイン様が下敷きになったあの機材の中に、最近別の支部基地で開発された試作型装備がある事はご存知でしょうか?」

 

「試作型の光学迷彩装置、かしら? 最近アメリカの特殊部隊『名も無き部隊(アンネイムド)』でも、似たようなモノが実戦配備されてるいと聞いたわね」

 

「はい、その落ちてきた機材の中にあった光学迷彩装置の在庫数が、合わなくて……」

 

「……何ですって?」

 

「その、どう見ても、6着足りないんです。一体何処に行ったのやら……」

 

(誰かが、レインが潰された現場に行って持ち去った? いや、ならばレイン以外に人の立ち入った形跡がないのはおかしい……となると、あらかじめ崩れる前の機材から持っていったという事に……)

 

 考えがまとまらないスコール。

 監視カメラが妨害電波により機能しなくなったタイミングから、今回は明らかにレインに対して誰かが殺意を持ってやった事は明確。しかし証拠が見つからない。

 それと、その試作型の光学迷彩装置が持ち去られた事の関連性が、いまいち見えてこなかった。

 

「それと、もう一つ、いえ2つ報告が……」

 

「……何かしら?」

 

「……深夜、輸送任務に当たったヘリパイロットが、あれきり帰還していなくて……!」

 

 その報告を聞いた途端、スコールの目は思い切り見開かれた。

 

 

 

 

 ――――ついに、繋がったような気がした。

 

 

 

 

「今すぐ、調査班の人員を増やしなさい。それと、しばらくレインに関する調査を中止するわ」

 

「スコール様? 何を言って――――」

 

「今すぐに調査班の人員全員を少年兵たちの居住区へ送りなさい。今すぐよ?」

 

「は、はい! 了解しました!」

 

 スコールの鬼気迫る命令に調査班の班長は慌てて敬礼して出て行く。

 スコールは怒りのあまりに拳を握らせる。無表情であるが、彼女の心は既に怒りに支配されていた。

 

 ちらついてしまう。

 

 ――――私は、貴様らとは違う。

 

 あの時、いずれ貴女もこうなると視線で言った時、同じく視線でそう返してきた少女の言葉を。

 

 ――――要はお前達も、非力な子供でしかなかったんだ。だからそんな風になった。そう言いたいのだろう?

 

 己の幻肢痛を的確につついてきたあの言葉が、チラついてしまう。

 

 状況的にはどう考えても不可能だ。

 だが。

 

 ――――自らの監視役であるレインの抹殺。

 

 ――――ここ最近の少年兵たちの大人達に対する不信感。

 

 邪魔物であるレインを排除するだけでなく、逆に子供達の大人への不信感を煽るために生贄として利用しそうな人物。

 

 ――――NEVER BE GAME OVER(まだ終わっていない)

 

 どうしても、あの悪童の顔がチラつくのだ。

 

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合
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