もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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小さき反乱者達 3

 亡国機業のヘリのパイロットを脅し、無事故郷へとたどり着いたアリエッタは、自分の腰に身に付けている装置を見つめ、エムの言う事を思い出していた。

 

『こいつは亡国機業が開発した光学迷彩装置。正確には、アメリカの特殊部隊に実戦配備予定だった装置を盗み、独自に改良を加えて量産した試作品に過ぎないが、効果は期待していい』

 

 一体そんなものをどうやって盗み出したのか、という疑問が湧いたがエムならば何ができても不思議じゃないと割り切り、アリエッタは話を聞き続けた。

 

『いいか。復讐できるタイムリミットは、大人達がお前達を連れ戻す間だけだ。大人達は情報漏洩を防ぐ為にお前達を必死に生け捕りにしようとするだろう。試作品を持って歩くならば猶更な』

 

 大人達が自分達を連れ戻しに来るまで――――それが自分達がそれぞれ復讐を遂げるのに許された時間であると、エムは言った。

 つまり、それまでに自分達は自分が報復したいと思った相手……部隊の将軍やP(プライベート)F(フォース)、親を殺した正規軍、いとこ、兄弟、両親などを殺害しなければならない。

 

『いいか、後腐れのないようにしておけ。大人達に連れ戻されたらもう復讐の機会が訪れる事はないだろう。

 連れ戻されたら、覚悟を決めておくことだ』

 

 何に対して覚悟を決めろというのかは、アリエッタを含む6人の少年兵脱走者たちはその意味を察していた。

 エムが話してくれた、前に自分に付き従っていた少年兵の話から察するに、おそらく自分についていく覚悟を決めて置け、という事だろう。

 おそらくエムはこうして脱走した自分達を大人達が躍起になって探す間に、何か準備を進めるつもりなのだ。いや、準備自体はもう前々からしていたのかもしれない。あの第七ルームで集まった時、エムの言葉に何人かの子供達は既に聞くまでもないと言わんばかりにエムに同調していた。

 

 

 自分達が連れ戻された時、おそらくエムは大人達に対して本格的な蹶起を仕掛けると、アリエッタは確信していた。

 自分達はそのための囮か、もしくは……いや、考えるのはよそう。

 

 先に故郷にたどり着いた一番乗りはアリエッタだった。

 他の五人はまだヘリの中にいるか、もしくは故郷まで徒歩で歩いているか、どちらかであろう。

 ……今では、住民は誰一人としていない筈の故郷に、アリエッタは脚を踏み入れた。

 遠目から見て倒壊した建物が立て並ぶ廃町は、もはや自分の知っている故郷からはかけ離れていて、未だに自分の故郷だというのが信じられなかった。

 

 しかし、実際に足を踏み入れると実感してしまう。

 見た目ではない、空気ではない、踏み入った途端の震撼するような感覚が、ここが己の故郷であると教えてくれるのだ。

 

「あぁ……」

 

 あまりの懐かしさに、アリエッタは溢れ出そうになった涙を何とか堪えた。面影などない、それでも分かってしまう。生き物として帰省本能が、訴えて来る、ここが故郷であると。

 ああ、やはり亡国機業(あそこ)は自分の居場所などではなかった。

 あそこにいた時は、こんな感覚なんて一度たりとも感じた覚えがない。ここそが己の帰るべき場所であるのだと、アリエッタの本能はそう叫んでいた。

 

 本能の誘われるままに、アリエッタは走り出した。

 この何もない廃墟が立ち並ぶ中、一体どこを目指すそうというのか……それは当然、自分がかつて両親と一緒に暮らしていた“家”だ。

 そして、アリエッタはついにたどり着いた。

 

 他の家よりも比較的綺麗に残っていて、玄関の隣には自分が花を育てるのに使っていたボロボロの植木鉢があった。

 

「あっ」

 

 驚いたことに、その植木鉢から花が咲いていた。

 あの日、自分が両親から逃がされて以来、もう水をやった事はない。それなのに、鮮やかな色の花がその花弁を開き、元気に咲いていたのだ。

 ――――一体、誰が水をやってくれたんだろう?

 ここは滅多に雨が降るような地域ではない筈だ。花を育てるのであれば、定期的に水を入れることが必須である。

 

 そんな疑問を抱きつつも、アリエッタは家の玄関の扉を開けようと試みたが、びくともしなかった。内側から何かに押さえつけられているのだろうか?

 自分の家の玄関が内開け扉である事を呪いつつ、アリエッタは他に入り込める場所はあるかと模索する。

 既に割れ落ちた窓ガラスから入るのも手であったが、身体を怪我しかねない上に、飛び込んで入ったとしても、我が家ながら縁起が悪くなってしまう。

 どうしようかと探している内に、丁度家の玄関側の反対側に崩れ落ちた壁があるのを発見した。

 

(あれは……)

 

 あの時の記憶が、アリエッタの頭の中で鮮明に蘇ってくる。

 そうだ、戦車の突撃を受けて崩れ落ちたあの壁。両親が自分を兵士の銃弾から庇った際に、助けられた自分はあの穴を通って穴から抜け出した。

 何とか戦地から抜け出す事は叶ったものの、自分は町を出た後荒野を延々と彷徨い続け、やがて亡国機業の大人達に拾われた。

 

 ドクン、ドクン。

 

 胸の鼓動が知らずの内から高まる。

 あそこには、もう戻らないと思っていた。

 だが、その戻る機会を、エムは与えてくれた。自分を未練を感じる為に、そして後悔するためにここに来たのではない。

 それらを断ち切るためにここに着た筈だった。

 

 足を踏み入れるのを、躊躇してしまった。

 

(入りたくない、入ったら、もう……)

 

 入ったら、あまりの懐かしさと悲しさに、延々と泣いてしまいそうになる。いや、両親が散っていたこの場所で、自分もまた同じように散っていきたいという考えすら過る。

 それだけは、してはならない。

 

『いいか、後腐れのないようにしておけ。連れ戻されたら、覚悟を決めておくことだ』

 

「ッ」

 

 そんなアリエッタの迷いを、目の前に現れたエムの(ファントム)が断ち切るように言ってくる。

 

『私の予想が正しければ、お前の両親を殺した部隊はまだお前の故郷に駐屯している筈だ。お前の故郷の立地は根城にするには丁度いい。そう簡単に捨てる事はしない筈だ』

 

 そうだ、何の為に戻ってきたのだ。

 エムがせっかく作ってくれたこの機会を無駄にするわけにはいかない。

 今の所ここに人の気配は感じないが、仇を取るにせよ取らないにせよ、自分の両親と共に過ごしたこの時間を、守ってくれた両親の背中を、再びこの胸に刻み付けなければならない。

 決心するや否や、アリエッタはとうとう自分の家の床に足を踏み入れた。

 今も変わらぬ、懐かしい感触が足の裏に浸透する。そういった感触の一つ一つを噛みしめながら、アリエッタはようやくそこにたどり着いた。

 

 両親が、銃弾から自分を庇ってくれた場所。

 

 とうとう、涙を抑えきれなかった。死体は既に処分されているようだったが、床や壁にはまだその銃弾の後が残っていた。

 先ほどの比ではない、思い出の数々が蘇ってくる。

 

「あ……あぁ……!!」

 

 緊張していた体から力が抜けていき、アリエッタは涙を流しながら床に崩れ落ちてしまった。

 ――――もう、二度とこんな気持ちは味合わないと思っていた!

 亡国機業の少年兵居住区へ移住させられ、そこで高いIS適正を叩き出した彼女は、そこの大人達からその高い素質を見込まれ、将来では優秀な戦士になるであろうと持て囃されていた。

 それを嬉しく思っていた自分は、自分を拾ってくれた大人達に恩を返す為に、あそこで必死に大人達の言う『優秀な戦士』になるために、必死に頑張った。

 

 ――――勿論、両親の事を忘れた事は一度たりともなかった。

 

 だが、再びこんな気持ちになると思っていなかった自分がいる。

 それは、決して忘れてはいけない気持ちだ。両親の事はもう振り切れたつもりでいた。だが、再びこの場所に帰ってきて、その気持ちを思い出し、アリエッタはエムのある言葉を思い出した。

 

『奴等も他の大人達と同じさ! 都合のいい言葉で私達を支配し、都合のいい理想で私達を洗脳する!』

 

『奴等はお前にIS適正の高さという都合のいい話だけを持ち出して、お前をいい気にさせて、束縛している。お前を自分達だけの戦士として使いつぶすつもりさ!』

 

 そうだ、IS適正:A――――それを言われた当初、自分にはそれが何を意味するのか正確には分かっていなかったにも関わらず、何故かいいようのない安心感を得られた。

 あの両親のように無惨に殺される事などない、自分の将来は約束されたのも同然だという、洗脳にも近い安心感を得られた。

 IS適正の高さ、優秀な戦士――――あそこの大人たちは、そうやって、そんな都合のいい言葉だけを自分に言い聞かせ、自分を思うように束縛していたのだろうか?

 

 ……きっと、そうなのだろう。

 

 確かに、両親の事を忘れた事はなかった。

 だけど、両親を殺された事による悲しみや、怒りなどはいつの間にか忘却の彼方へ消え去っていた。

 両親を殺された怒りがないわけではないと、ずっと自分に言い聞かせてきた。

 

 だけど、エムの言葉で、再びそれに火が付いた。

 

 遺伝子を、命のバトンを授かった事に対する重み。

 それは、死んだ両親が自分にくれた掛け替えのないモノであり、己の存在証明であり、そして両親がくれたソレを残せるのは、自分しかいないのだと。

 

『そうだアリエッタ。お前は間違いなくスコールの奴よりは優れているんだよ。両親の遺伝子を、子を成すという形で残す事が出来る。だが奴にはもうそれすらできない。生き物として既に死んでいる。お前は子を成すという権利を、義務を、子供を生めもしない身勝手な大人から剥奪されようとしている。お前の大好きな両親の遺伝子を奴等は、根絶やしにしようとしているんだ』

 

 そうだ、大人達の都合のいい言葉で、自分は将来を約束されたんだという偽りの安心感に浸り、いつの間にかこの気持ちを忘れてしまっていた。

 両親の遺伝子を受け継いだ、ただ一人の人間であるという自覚。そしてその両親を奪われた事による悲しみと怒り。

 同種の遺伝子を継いだものとしての、当然の気持ち。

 いつの間にか、それを忘れていた。

 

 やっと、分かった。

 

 大人達の言葉というコード。無意識に自分達子供を隷属せしめる、絶対強者の言葉。

 都合のいい言葉だけを植え込み、そこには無意識の隷属が完成する。

 そこに自分の意志はなく、いつのまにか影の中に取り残され、光と共に消えてゆく。

 

 自分は、そんな影の中に一生うずくまっているつもりなのか?

 

「いや……そんな事、だめ……」

 

 やっと、エムの言わんとしていた事がアリエッタには分かった。

 きっと、彼ら大人達にも伝えたい遺伝子や、意志が存在するのだろう。だが、彼らのソレは自分達に無意識の隷属を強制するソレだ。

 自分達の思うような駒、都合のいい言葉だけを吐き、その闇を口にする事はない。

 

 そうだ、奴らは自分達を使い潰す。

 

 その肝心の、都合の悪い言葉だけが抜かれているのだ。

 実際、あそこの大人達、特に幹部であるスコール・ミューゼルは、自分の実の肉親である姪ですら、管理不届き故に死なせてしまったではないか。

 しかもその姪はアリエッタ自身も慕っていたレイン、いや、レイン・ミューゼル。

 そのレイン・ミューゼルという存在もまた、自分達少年兵にとっては、都合のいい言葉だったのだろう。

 より人を惹き付ける人材を混ぜ込み、その人物の上にいる者に対する無意識の隷属も出来上がる。

 

 実際、エムが暴いた通りに、レイン・ミューゼルは大人達の手先だった。

 自分達に、より都合のいい言葉を聞かせる為の駒だった。

 

 ――――ああ、あそこの大人達は、敵だ。

 

 自分達の意志を、遺伝子を、別の意志を押し付ける事によって打ち消してくる敵。

 だが、自分は思い出した、この気持ちを。

 

 両親から授かった遺伝子。

 両親を失った悲しみと怒り。

 

 そうだ、今こそ自分の意志を圧し潰そうとする大人達に、そして両親を奪った大人達に対して復讐せん時なのだ。

 だからこそ……。

 

「まだ、ここにいるんだよね。パパとママを、殺した奴等」

 

 未だ人影は見えないが、玄関前の植木鉢に水をやった後があったり、更によく外を見渡してみれば、新しい足跡までもが存在する。

 野生の動物では断じてない、人間の足跡だ。

 

「……いるんだ」

 

 そうと決まれば、まずはここの大人達に、私は報復せねばならない。

 両親を殺し、私とパパとママの遺伝子を根絶やしにしようとした奴等に、この遺伝子を持つ者として復讐せねばならない。

 

 少女は、懐にあった拳銃を手に取り、立ち上がる。

 

 この後、大人達に連れ戻される間までに、少女が報復を遂げられたか、遂げられなかったかは本人のみぞ知る。

 

 

     ◇

 

 

 大人達は、今頃大忙しな事だろう。

 秘密裏に開発した試作品を盗まれた上で、更に自分達が飼っていた少年兵たちが脱走したとあっては、情報漏洩を防ごうと大人達は躍起になって彼らを連れ戻そうとする筈だ。

 そして、エムには一つの確信があった。

 

 ――――大人達は、真相を掴むまではあいつらを殺そうとはしない。

 

 特に肉親を亡くしたスコールは。

 表向きは不慮の事故として片付けられているが、大人達はきっとどこかで悟っている筈だ。アレは不慮の事故では決してない、何者かの作為的なものであると。

 

 監視カメラに妨害電波を受けた形跡があり、しかも崩れ落ちてきた機材の中の重要な試作品がいくつか消えていたとあっては、証拠はなくとも誰かの故意によるものだとは察しが付く。

 

 当たり前だ。

 そのために態々、あの崩れる前の機材の中から、あの試作品をヴァンに盗ませたのだ。絶縁手袋で盗ませたため、痕跡が残る心配はなく、しかもレインがあのIS格納庫に訪れる前に実行させたため、万が一にもヴァンが犯人として特定される事はない。

 

 態々在庫の足りなくなった機材の群を落としたのも、単にレインを生贄として排除するだけでなく、大人達にソレを気付かせる目的もあった。

 それに連なる、少年兵たちの反抗、および脱走。

 

 “陽動”には、これ以上にないものだろう。

 

(それにしても、レインを失った時のスコールのあの顔。実に傑作だった)

 

 思い出し、ついエムは口角を釣り上げた。

 まずはここの大人達に対する復讐――その一環が達成されたといっても過言ではない。もう二度と子供を生めなくなった大人が、唯一の肉親を失うという悲劇。

 

(ざまあみろ。私をあろう事かあの名で呼び、更にはこの監視用ナノマシンで隷属させようとしたお前にはピッタリの報いだ)

 

 無様だな、と目の前に本人がいてくれればそう嘲笑ってやりたいくらいだ。

 あの女は己の遺伝子を残す方法を、今度こそ完全に失った。

 自分の姪の能力を過信し、奴が私に陥れられる事も予想できずに、このような結果を招いた。

 さて、あの女は果たしてどのような結論にたどり着くのだろうか。

 己の肉体と、肉親を何一つ残さず失った幻肢痛に苛まれながらも生きていく事を選ぶか、それとも未だにオータムという同性の恋人に縋って見苦しく逃避し続けるか。

 

 その結末を、最後まで見れないのかと思うと残念だが、まあいい。

 

 ――――もうすぐ、こことはおさらばだ。

 

(ついに、私はまた戻れる! エムでもない、マドカでもない、愛しき狼たちの王、白黒狼(モノクロ)に戻れる!)

 

 そうだ、『蠅の王』は、再び君臨するのだ。

 今度は、もうあの村落の比などではない。

 この基地中の少年兵たちが、自分の軍隊となる。

 大人達への隷属という殻を破った愛しき狼たちが、自分のもとに集って来る。

 

 エムは昂揚する胸を抑えきれず、あの時のように、プラスチックの椅子にドカンとふんぞり返った。

 ……あの廃船で、あの王座にいた時の事を思い出す。

 

 アイツらは、元気にしているだろうか?

 自分という王がいなくなった後のアイツらは、うまくやっていけてるだろうか?

 

 自分が従えるまでのあいつらは、大人達という隷属すべき存在を失い、自分達だけでは生き残る術を学ばないままに村落に取り残された。

 だが、あの時とはもう状況が違うだろう。

 

 何故なら、駄目な大人達に変わって自分がちゃんと教え込んだのだから。

 狩りの仕方、植物の見分け方、組織の運営の仕方、役割分担。

 そうだ、みんな教えた。

 きっとあいつらはあの時と違い、自分がいなくなっても自分達だけで生きていけるだろう。

 いや、そうでなくては困る。

 かつての同胞たちがまた身勝手な大人達に隷属させられるのを想像するのは辛いものだ。そうならないように、自分は彼らに教えたのだから。

 

 そう考えていたら、バタリと音を立ててドアが思い切り力強く開けられた。

 どう見ても、そのドアの開けられ方は冷静な人間がするものではなく、明らかに怒りに囚われた人間がするものであった。

 と、いう事は……。

 

(……ああ、そろそろ来る頃だと思っていた)

 

 エムはふんぞり返ったイスごとその方向に体を向け、その人物と対面する。

 

「相変わらず、偉そうな態度を取るものね、エム」

 

「……スコール」

 

 忌々しい大人を前にし、エムは相変わらずの敵意でスコールを睨み付けた。その敵意を、スコールは余裕で流す。

 ……ここまでが、いつもの光景だった。

 

「何の用だ」

 

 いつものようにぶっきらぼうに聞く。

 本当は察しているが、ここは敢えて知らないフリをしておいた。

 

「この間のレインの死亡事故、知っているかしら?」

 

「……それが?」

 

「単刀直入に聞くわ、アレは貴女の仕業?」

 

「何を根拠に? 単に貴様ら無責任な大人の不注意が招いた事だろう」

 

「そう。ならもう一つ聞くわ。レインを押しつぶしたあの機材、何故かその中にあった筈の試作型の在庫が足りないのよ。

 何か、心当たりはあるかしら?」

 

「ないな。とうとう耄碌したか?」

 

「いいえ、至って正常よ。ならもう一つ――――

 

 

 

 

 

 

 

 6人の少年兵たちの脱走を手引きしたのは、貴女かしら?」

 

「……」

 

 笑顔で聞いてくるスコールであったが、その眼はまったく笑っていなかった。

 少しでも回答を違えれば、殺されると錯覚してしまう程には、スコールは怒り狂っていた。

 

「確かに、状況的にはほぼ不可能よ。貴女の体に埋め込まれた監視用ナノマシン――このおかげで貴女の反逆行動はほとんど取り押さえられる。仲間を作る隙すらも与えない。

 だけど、その監視用ナノマシンも完璧じゃない」

 

「……」

 

「いくらナノマシンといえど、バッテリーが切れれば効力は消える。その都度私達は貴女の所にナノマシン補給班を派遣して、ソレを防いだ。

 だけど―――――」

 

 

 

 

「もし、貴女がナノマシン補給班がやってくる時間を目安に、常動するナノマシンのバッテリーが切れる時間を、常に把握していたとすれば――――」

 

 

 

 

「前々から、蹶起を企てていたとしていたら――――」

 

 

 

 

「私達の目から逃れるように、理解されないように、英語以外の言葉で彼らを諭していたとするのなら――――」

 

 

 

 

「もし、それが出来る人物がいたとするのなら――――」

 

 

 

 

「しかもそれが少年兵であるのならば猶更――――」

 

 

 

 

 一句一句強調するように、虚空に向けて言葉を並べた後、スコールはギョロリと蛇のような目でエムを睨み付けた。

 

「貴女にしか、私は行き着かなかった」

 

「……暴論だな。さすがは亡国機業の幹部。真実を語るは愚か、言葉も下手すぎる」

 

「あら、あながちそうでもないわよ。この一連の事件の真相――――それを掴むためならば、どんな事だってするわ」

 

 スコールがそう言うと同時、スコールの後ろのドアから、警備班のスタッフが次々と突入してくる。

 エムを一斉に包囲していく。

 

「悪いけどエム。貴女が潔白であろうとなかろうと拘束させてもらうわ。痛い目を見たくないなら、おとなしく大人の言う事を聞きなさい」

 

「……何だと?」

 

 まるで悪い事をした子供を諭すかのような言い方に、エムは憤慨する。

 取り押さえたいならばさっさと取り押さえればいいものを、こいつはあろう事か大人として子供である自分に“警告”してきた。

 

「子供扱いする、するなッ!!!」

 

 立ち上がり、エムはスコールに飛び掛かろうとする。

 その余りの反応の速さに、周りの警備兵は反応する事ができず、隠し持っていた鈍器を片手にエムはそのままスコールの脳天を突き刺そうとし――――。

 

「安心しなさい」

 

「ぐっ……!?」

 

 しかし、やはりその手は寸前で止められてしまう。

 スコールの手ではなく、監視用ナノマシンによって。

 

「子供扱いなんて、する筈もないわ」

 

「ガぁ、グぅ……ァ!」

 

 監視用ナノマシンにより体を蝕まれるエム。

 最早今までの比ではない。

 体内のナノマシンがエムの呼吸を抑制し、筋肉に負荷を与え、血流を遅らせ、思考を鈍らせ、そしてとてつもない苦痛を伴わせた。

 

「……ア……ァ……ガ……エッ」

 

 あまりの苦しみに耐えきれず、胃の中のものを口からぶちまけてしまうエム。

 もはや意識すら定まらず、それでも持ち前のしぶとさで抵抗しようとしてくる。

 

「取り押さえなさい」

 

 スコールがそう命令した瞬間、大勢の警備兵がマドカの体の上に圧し掛かっていく。もはや最初の頃のように丁寧に押さえつけようなどとは、ここの大人達はもう思っていなかった。

 ナノマシンによる苦しみだけではなく、さらに押しかかってくる重圧と、それにともなう熱量がさらにエムの体を蝕んだ。

 

「ハ……ナ……ゼ……!!」

 

 それでも未だに抵抗をやめようとはしないエム。

 体を鍛えた屈強な大人ですら既に何回と死んでいるのか分からない地獄であるにも関わらず、それでもエムは大人達に屈するのを認めんといわんばかりに、抵抗をするのをやめなかった。

 

 しかし。

 圧し掛かっていた大人達が、エムの首筋に麻酔銃を至近距離から7発撃ち込んだことにより、ようやくエムは意識を手放した。 

 標的の沈黙を確認した大人達はようやく乗りかかるのをやめ、スコールの命令を待った。

 

 

「フフ、さあ、子供達が全員連れ戻されるまで時間はたっぷりとあるわ。それまで楽しみましょう、エム?」

 

 

 獲物を舐めずるような笑顔でエムを睨み付け、スコールは部下達に気絶したエムを尋問室に連れて行かせた。

 

 

 それすら――――エムの計画の内であることに気付かず。

 

 

 

 

 

 

 そして、場面は“冒頭”に戻る。

 

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合
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