もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら 作:ナスの森
小さき反乱者達 終
連れ帰った一人目の少年兵から事情を聴いた結果、彼ら6人の脱走を手引きした首謀者がエムであることを掴んだスコールたちは、さっそくエムを気絶させた後、部下に命じて彼女を尋問室に監禁した。
手酷い拷問を行ったが、さすが織斑計画の産物というべきか、傷は瞬く間に再生していった。
そして三人目を連れ帰ったあたりで、少年兵たちの居住区を徹底調査した結果、面白い物がいくつも見つかった。
「ナイフやフォークを研磨した刃物。廃材から作ったボーガンや、組み立てなおされた銃器、洗剤や
「……へっ、器用なこった」
「しかも、どれもとてもお手製とは思えない程の仕上がりね。組み立てられた銃も、とても廃棄された銃のパーツから組み立てた者とは思えない程の出来、しかも独自にチューンや改修を施してスクラップ性能を補っている。
ボーガンの矢も先の言った爆薬を仕込んだものと、毒薬をふんだんに塗り付けた毒矢の二種類まで見つかった。
研磨した刃物の切れ味も職人技のごとく、と言うべきかしらね」
スコールとオータムの前には、そういった、子供達から没収したお手製の武器が大量に置かれてあった。
これ程の量の武器を、しかもこれ程のクオリティのお手製武器を、いくらナノマシンのバッテリーが薄くなる時間を把握していたとはいえ、子供達を焚きつける時間も考慮すると、とてもではないが作る時間は足りない。
「となると、アイツ、餓鬼どもに吹き込みやがったな」
「ええ、おそらく焚きつけた何人かにやり方を教えて作らせたのでしょう。元々戦闘訓練を強いたり、銃の組み立て方や戦術をあの子に教えてきたは私達よ。少し知識と腕を仕込んでやれば……それにしても過剰ではあるけれど、不可能ではない」
あくまで、不可能ではないだけ。
それを考慮しても、この質と量は異常であった。
瞬く間にあの村落の少年兵たちを一流の精鋭に仕立てた功績があったとしても、これはさすがに異常だ。
改めて、スコールとオータムはあのエムという少女の手腕と末恐ろしさを実感した。
「それだけじゃないわ。見て、この基地の手書きの見取り図までもが発見されたわ。何処が身を隠すのに丁度よいか、何処が狙撃地点に優れているか、どこが奇襲ポイントに奏でているか、詳細に書かれてある」
本当に、末恐ろしいものだった。
一体遺伝子をどのように弄れば、あのような能力を持った子供が誕生するというのか。一体どのような境遇にあえば、あのような執念を身に付ける事ができるのか。
監視用ナノマシンによる監視が薄れる時間すらも把握し、その合間に惜しみなくこのような蹶起の準備を着々と推し進め、しかも大人達から与えられた任務も正確に遂行しつつ、そんな疲労など知った事かといわんばかりに、少女はここまでの用意をしてきた。
こんな、一個部隊と戦争できる規模の量の武器を用意したのだ。
「本当に詳しく、明細に書かれてやがるな。ここなんか、お手製の罠まで仕掛けてやがる」
「そうね。けれど、この見取り図を入手したおかげでその罠も取り除くことは出来たわ。もう、彼らに武装蜂起する手段は残ってない」
「そうか。で、あの餓鬼はこの事を知ってるのか?」
「知らないでしょうね。あの部屋は外界からは完全に閉鎖された密閉型。外からの音は何一つとして聞こえはしない。此方から伝えない限りは、もう自分達に蹶起する手段がないなんて分からないでしょう」
「ざまあねえな」
悪だくみが成功したか子供のような笑みをオータムは浮かべる。
あの餓鬼は、この様を見てまだ蹶起などとほざくつもりだろうか、まだ自分達に楯突こうとでもいうのか。
それを分かる時がくるのが楽しみで仕方ない。
蹶起しようがないのが分かった時、諦めて服従するならばソレもよし、未だに見苦しく無駄な足掻きを続けるならば、逆に嘲笑ってやるのもいい。
「それで、結局あの餓鬼の要求は何だったんだ? 子供達はもう半数以上連れ帰った事だし、そろそろ吐く頃だと思うんだが……」
「まずは『姉さんに会わせろ』だとか、『少年兵たちを解放しろ』とか言ってきたわね」
「“姉さんに会わせろ”? 会わすにしても時期が早すぎるだろ」
あの餓鬼そんな事も分からねえのか、と呆れるオータム。
本当に、頭がいいのか頭が悪いのかよくわ分からないクソガキだなとオータムは思った。
「ったく、私達に従っていれば遅かれ早かれ会えるってのによ……」
「子供は我慢ができないのよ」
「所詮、ただの餓鬼ってことか。他には何か言ってないのか?」
「そうね……」
オータムに問われたスコールは顎に手を当て、思い出そうとするような仕草を取る。明らかにわざと気ではあるが、そんなお茶目なスコールをオータムは愛おしいと思った。
「『最後の一人が戻ってきたら、蹶起する』とも言っていたかしら?」
「はっ――――」
今度こそ、オータムは笑いを堪え切れなかった。
今更そんな事を言って何になる?
武器も全部取り上げ、罠も全て取り除いた。これ以上何があるのだというのだ?
いや、そもそもあの餓鬼はその事を知らないんだったな、とオータムは思い直した。
「終わりだな、あの餓鬼」
「ええ。けれど――――その前にレインについてきっちりと吐いてもらいましょうか」
「スコール……」
咄嗟に表情の消えたスコールの顔を、オータムは深刻そうに見つめた。
そうだ。亡国機業の幹部としてこの事態を収拾することも大事だが、スコール・ミューゼル個人にとっては、それこそが重要なのだ。
一体どのような手を使って、レインを葬ったのか。
エムが、あの少女がレインを蹶起に仕立てる為に生贄にした事はほぼ明白、だが肝心の証拠が見つからないのだ。
「一体……どんな手を使ったのかしら? 是非とも吐いてほしいものね……」
拳を怒りのあまり強く握るスコール。
それをオータムは慰めるように、スコールの震える拳を両手で優しく包み込んだ。
「ああ、是非とも吐かせてやろうじゃないか。場合によっては――――」
「ええ、もうあの子に用はないわ」
そうだ、今まで利用価値があるからと監視用ナノマシンを用いて従わせてきたが、その監視用ナノマシンの監視すらすり抜け、このような真似をする悪童をこれ以上生かしておく必要はない。悪童は感染する、これ以上放置すれば目も当てられなくなる。
事情を説明すれば、上も納得してくれる事だろう。
あの少女を手元に置くリスクは、その得を遥かに上回るものであると、ここの大人達はようやく実感した。
――――もう容赦はしない。洗いざらい吐いてもらった後に、処分する。
そしてとうとう、脱走した少年兵全員が、この基地に連れ戻された。
◇
『大丈夫?』
些かこちらを心配し、焦っているかのような声が聞こえた。
その声を聞き届けたエムは、ゆっくりと目を覚ました。
「……ここは、ああ。私は今眠っているのか」
見覚えのある場所であることを悟ったエム。
ここは、自分が前にあの場所で巨人、試作型エクスカリバーと繋がった時に来た空間だ。
自分はあの後眠らされ、こうして意識だけがこの空間に飛ばされたのだ。
『うん。今電気椅子に座らされたまま眠らされている。眠る前の事、覚えている』
「ああ。手痛い拷問を何度もされた。スコールめ、よほど姪を奪われた事が頭に来ていると見える」
『ッ、大丈夫……なの?』
「どうとでもなる。『大人達』の所にいた時と比べれば、あの程度屁でもないさ。それより、其方は大丈夫なのか?」
『……うん。大人達は全員格納庫から出払って、あの子たちの居住区の閉鎖に人員を割いているみたい』
「なるほど、計画通りだな。目が覚めた頃には、あいつらは全員連れ帰られている頃合いだろう。あいつ等には言ってあるが、お前も覚悟はできているな?」
『うん。貴女となら何処までも』
誰も知らず、認識できぬ空間で、そんな会話があった。
◇
そして、ついにこの時がやってきた。
エムが目を覚ました時、そこにはもう見慣れた殺風景な拷問室の光景があった。
電気椅子に座らされ、身動きが取れない。
力ずくで脱出するのはもう無理そうだ。
「目を覚ましたかしら?」
「……姉さんは?」
「貴女の姉さんはここにはいない」
「……みんな、戻って来た?」
「ええ、戻ったわ」
「ッ……」
その事実を聞いたエムは失望したかのように項垂れる。散々な拷問で痛めつけられ、少女の精神は既に疲弊しきっているのだと、スコールとオータムは思った。
少なくとも、唯の子供にやるような拷問でなかった事は確かだった。
「だけど諦めなさい。居住区は完全な監視下。武器も全部取り上げたわ。蹶起は不可能よ。
本当にうまく行くと思ったのかしら、“
自分に付き従った少年兵たちを、ただいたずらに脱走させてその働きを無駄にしたエムの事を、スコールはそう皮肉る。
エムはただ俯いて黙るだけだった。
度重なる拷問により、その反抗的な精神は疲弊し、今では自分達大人に怯えるだけの、何処にでもいる少女に成り下がっていた。
「エム。貴方は本当に強くて、優秀な人材だわ」
その言葉に、エムはピクっと反応した。
その反応を見逃さなかったスコールはゆっくりと言葉を続けた。
「私達の目が行き届いていない所でも、必死にISの訓練をして、力を付けていたのは知っている。他の少年兵たちよりも先んじて任務に赴き、まもなくして私の部隊に配属された。私は貴女の事を買っていた」
こちらに表情を見せず、俯いたままのエム。
実際は何を考えているのかというと――――
――――ほら、またそうやってお前達は都合のいい言葉で私達子供を欺く。自分達のいいように駒にしようとする。肉親を失ったにもかかわらずこれじゃあ、最早滑稽だな。
エムは度かなる拷問で精神を疲弊させるフリをしながら、あろうことか内心で未だに自分に都合のいい言葉を聞かせようとするスコールを嘲笑っていた。
「だから、こんな事をするのが信じられないの。確かに、ここに連れてこられたころの貴女の私達に対する態度は最悪だった。それこそ猛獣の檻に放り込んだ方がいいと思うくらいに。監視用のナノマシンを入れてからも、貴女が現在のように私達に従うようになるまで結構な時間もかかった」
まるで昔を懐かしむか老人のようにその時の事を振り返るスコール。
「だから、教えて欲しいのよ。どのようにしてナノマシンの監視すらもすり抜けて、少年兵たちを扇動したのか……」
目の光を閉ざし、スコールはエムに問うた。
どのようにしてナノマシンの監視をすり抜けたのか、どのようにして少年兵たちを諭したのか、そこにレインの死亡事故は果たしてどのように関係しているのか。
大体は想像が付くものの、レインに関してだけは、このエムの口からでなければ聞くことは出来ない。
「お前達は……」
やがて、エムは口を開いた。
「お前達に従えば、姉さんに会わせてくれるって……」
怯えた様子を見せながらも、はっきりとした抗議の意を乗せて、エムという少女は言った。
「そうね。だけど、それは今じゃない」
確かに、そんな約束もしたな、とスコールは言う。
だが、彼女と少女を会わせてあげられるのはまだ先の事であり、今では現状不可能な事。だが、自分達に従っていればいずれ少女が姉に出会える事は必然だった。
それでも、少女はその約束が信用できなかったのか、はたまた待ち切れなかったのか。
「みんな戻って来た……お前たちに、連れ戻されて……私だけじゃない……みんな、帰りたがっていたのに……」
エムが、怯えたようにすすり泣く。
そこにはもう在りし日の少年兵たちの王であった少女の姿はなく、完全に怒った大人達に対して怯える子供であった。
「子供たちは完全な監視下に置いた。武器も全部取り上げた。蹶起はもう不可能よ。これからあの子たちは今までよりもずっと厳しい躾と訓練を強要されるようになるわね。……貴女のせいで……」
「ッ、それでもッ……どうしてもみんな、帰りたいって……」
『貴女のせい』という言葉にビクリと肩を震わせ、言い訳をする少女。もはや今までの態度など見る影もないように見えた。
少女の言葉を聞き、スコールはゆっくりと頷いて納得した。
脱走した子供たちは、皆それぞれ自分の故郷に向かったか、故郷に向かう途中で迷子になったかのどちらかだった。
仲間思いであるこの少女は、故郷に帰りたがった子供達を、何とかして返してあげたかったのだろうか。
「お家が恋しかった、ただそれだけなのね?」
確認を取るように、スコールはエムの顔を除いて問い詰める。
一見子供にやさしく聞いているように見えるが、実際はその肩に置かれた手には途轍もない力がこもっており、少女の痛みを伴わせた。
「ッ、……うん」
痛みに耐えながらも、エムは素直に頷いた。
それを聞いたスコールはさっそくもう一つの質問をしようとした。
スコール・ミューゼルにとっては、ここから本題だ。何をどのようにして、どのような手段でレインを事故に見せかけて葬ったのか。
体裁的に管理責任者は退任させたが、彼が悪くないことぐらいはスコールもオータムも知っている。
それを聞こうとした時―――――
「フ、フフフ……」
そんな、自分の発言を鵜呑みにするスコールを嘲笑うかのように、エムは笑いだしていた。
先ほどのような、気弱い少女とは一転して、またスコールやオータムが知るいつもの悪童がそこにいた。
「部隊の将軍、
外へ出したのは、決してただ故郷に帰すためだけではないと、そう語るエム。
エムは彼らを故郷へ帰すと同時、彼らの報復心も満たさせようとしていたのだ。自分と同じ大人達に対する恨みを持つ彼らに共感し、エムは復讐の機会を与えていた。
突如、部屋が揺れ動き、振動が鳴り響く。
「ッ!?」
その音は徐々に大きく、強くなっていく、スコールも、オータムも異変を感じとり、辺りを見回した。
そんな彼女らにお構いなく、エムは笑いながらさらに続けた。
「だから言ったのさ。これが最後になるから悔いは残すなって」
「……最後?」、と訝しげに問うスコールにお構いなく、エムは告白し続ける。
まるで勝者の余裕を見せるように、勝利の告白を。
「連れ戻されたら覚悟を決めろって」
そして、揺れはやがて衝撃と、音は小さな物から轟音へと変わる。
間違いない、これは異常事態だと、スコールとオータムは冷や汗を流し、少女の方を睨み付ける。
「この世界中が敵になる!! ハハハハッ、アハハハハハハハッ!!」
揺れが強くなると共に、その歓喜の笑い声も高くなってゆく。
そして――――
エムの背後の奥にあった壁が、凄まじい爆発音を立てて、突き破られた。
「「ッ!?」」
その衝撃と瓦礫の数々が、スコール、エム、そしてガラス側の向こうで二人の様子を見ていたオータムにさえ襲い掛かる。
瓦礫に突き破られたガラスの破片をもろに受け、オータムは血だらけのまま転倒してしまう。それでも、何とか致命傷だけは避けた。
一方、その衝撃をモロに受けてしまったスコールは部屋の角まで体を吹き飛ばされ、壁に頭を直撃させ、その薄れてゆく意識を必死に保とうと踏ん張っていた。
そんな二人の様子を嘲笑いながら、飛んできた瓦礫により拘束から解放されたエムは瓦礫と共に飛んできたISスーツを掴み取り、1秒たらずで着替え終わり、煙の中から出てきた鋼鉄の腕に飛び乗った。
「私は貴様らとは違う!」
ひれ伏す二人を見下しながら、そう言い捨てるエムの体に、煙の奥から出てきた十数本のコードがエムのISスーツのブラグに接続されていく。
「私は自分の足で姉さんを葬りに行く。お前達にもう用はない」
この力を手に入れた今、態々お前達に従ってやる義理もないと、エムは遠回しにそう言った。
言い放つと同時、エムの身体は巨人の
「こんの……待ちやがれぇッ、くそ餓鬼ィッ!!!!!」
何とか意識を取り戻したオータムは全身に突き刺さったガラス片の痛みを我慢しながら、煙の中へ消えていったエムを追う。スコールもまた混濁する意識から回復し、オータムを更に追う。
煙の中を走り抜け、晴天の空が見えたと同時、眼下の二人を見下ろす巨人がいた。先ほど壁が突き破られたのも、この巨人の仕業だったのだ
「試作型……エクスカリバー……」
呆然とするように、隣のスコールが呟く。
エムは既にその試作型エクスカリバーと呼ばれた巨人のコックピットに乗っているようで、その姿は見えなかった。
呆然とする二人に更に追い打ちをかけるかのように、建物の下から大型の輸送ヘリが現れた。
ヘリのパイロットは隣の助手席に座っている少年兵に銃を突き付けられており、更に此処からも運転席の背後から突き付けられた銃口が見えた。
大型ヘリが旋回すると同時、その窓から大勢の少年兵たちが二人に手を振っていた。
「あの、餓鬼どもッ……!!」
狼狽えるオータム。
巨人が旋回し終わると同時、まだ閉じていないハッチの奥には展開したISを身に纏っている少女までもが何人かいた。
今まで、ISを奪ってきた組織が、今度はISを奪われたのだ。
ヘリのハッチが閉じられ、巨人と共に去ってゆく。
まるで負け犬である自分達を嘲笑い、その勝利に酔うかのように、巨人はスコール達の方を向いたまま、ヘリを引き連れて基地から飛び去って行った。
取り残される二人。
ようやく、二人は悟った。
――――自分達は、嵌められたのだ。
二人は、エムは6人の少年兵たちの脱走を“陽動”にし、その隙に他の大勢の少年兵たちによる蹶起を企てていたのだと思っていた。
だが、実際は違う。
蹶起そのものが、“陽動”に過ぎなかったのだ。
全ては自分が試作型エクスカリバーに乗り込んで、仲間の少年兵たちと一緒に脱出をするための、陽動に過ぎなかったのだ。
何故、エムがあの巨人を動かせているのかは分からない。
だが、仮に搭乗していない状態でもあの巨人を動かせるというのであれば、全てが腑に落ちる。
――――レインの、死亡事故についても。
全てに筋が通った。
あの巨人こそが、エムが持ち帰らせた試作型エクスカリバーこそが、遠くにいるエムの意志により操作され、機材を落下させてレインを葬ったのだ。
だが、今更分かった所で全てが遅すぎた。
その真実に気付いたボロボロの二人は、去ってゆく巨人を見ながら、そのじわじわと染みて来る敗北感に打ちひしがれるしかなかった。
◇
今日ほど、気分が昂った事はないだろう。
巨人、試作型エクスカリバーのコックピットの中でエムは、いやマドカは、未だに歓喜の笑みを浮かべていた。
勝った。
そう勝ったのだ。
自分はとうとう、あの大人達に勝つことができた!
見下ろした時の、二人のあの呆然とした表情は忘れられる筈がない。あの二人の敗北感に塗れた表情は最高だった!
――――勝った! ついに勝った! 私達は自由になったんだ!
『うん。エムは自由。私も嬉しい』
そんなエムを微笑ましい娘でも見るかのような口調で、巨人のコア人格はエムの脳内に語り掛けた。なまじ今は自分の
――――ああ、本当に間抜けな奴等だった! 少年兵たちに目が眩んで、勝手に動き出したお前への対処が遅れて、その隙にあいつ等に武器もISも奪われて、無惨に殺されて行って、ああ、そうだ! 『大人達』にもああしてやりたかった!
『あの子たちも、頑張った』
――――ああ。お前も、アイツ等もよくやってくれた。
『私に関しては、エムがうごかしただけだと思うけれど』
――――だが、お前がいなければそれもできなかった。今にして思うよ。あの任務で、お前と出会えてよかった。
『私も、エムと出会えて、嬉しかった』
自分に会えてよかったと言って来る主に、コア人格もそう返した。
自分と同じ、いやそれ以上の報復心を持つ者。それでいて、未登録ゆえ姉妹たちと話せず、孤独な時間を過ごしてきた自分を救い出してくれたマドカは、コア人格にとっては掛け替えのない存在となっていた。
「聞こえるか、ヴァン?」
マドカは隣のヘリに乗っている一人の少年兵に通信で話しかけた。
『何、マ――じゃなくてエム』
「マドカでいい。大人達に呼ばれるのは癪だが、お前達ならギリギリ我慢できる。そういう約束の筈だ」
『で、でも、君はその名前が嫌いだったんじゃ……』
「仲間に気を遣われるのは更に御免だ。我慢してやるから、そう呼べ」
『わ、分かった。それで、これからどうするの? マドカ』
「お前達は予定通り、例の地点に向かえ。私は一旦お前達と別れて、これからドイツへ向かう。後で、例の地点で合流しよう」
『……何しに行くの?』
「新しい“兄弟達”を迎えに行く」
◇
――――それから数週間が立った、亡国機業支部基地の司令室。
「オータム。エムの逃亡先がについて情報が手には入ったわ」
少年兵たちの9割以上が脱走し、大勢の大人達が犠牲になったあの事件。
その事件により意気消沈していた大人達、その中の一人であったオータムがスコールにより司令室に呼び出され、突如として放たれたその言葉に、オータムの顔つきは変わった。
「……一体何処に行きやがった」
「特定はまだ先だけど、脱走に使われたヘリのパイロットが色々話してくれた」
「それで?」
「試作型エクスカリバーとヘリはこの基地から離れた後、海上でそれぞれ別の方角に向かったそうよ。ヘリは真っ直ぐにアフリカ大陸に向かい、海岸線を超えて80キロほど離れた内陸に入った所で燃料が尽きた。少年兵たちはパイロットをダクトやテープでシートに縛り付け、そのまま去っていった」
「去った、だと?」
「ええ。メディックが発見した時には、脱水症状で死ぬ寸前だったそうよ。おまけに傍には自決用の拳銃までもが添えられていた」
「……悪趣味だな」
脱水症状で苦しみ続けるくらいならば、いっそのこと楽に死にたいと思わせ、その手段を懐に置いていきながらも、縛り付けられた体ではどうしようもなかったという。
マドカは、あのヘリにパイロットに最後まで生き地獄を味合わせるつもりだったのだ。
「それで、試作型エクスカリバー、いやあの餓鬼は何処に?」
「そうね、ここからが重要よ。試作型エクスカリバーはあの後、ドイツへと向かい、表向きでは廃棄された筈の軍事研究所を襲撃、そこで処分予定であった
「……仲間を増やしやがったのか、しかもドイツの遺伝子強化体……」
そう、ドイツの遺伝子強化体計画は、元はと言えば織斑計画のデータがドイツに渡って実践されたもの。
それによって生まれた彼らは、同じく織斑計画によって生まれたマドカからしてみれば兄弟も同然だろう。
「その後、試作型エクスカリバーは研究所に留まり、そこから決勝戦の始まり寸前であった第二回モンド・グロッソ大会の会場に向けて、主砲による砲撃を行った」
「……なんだと? いや、そういう事か」
そうだ、あの少女は自分の
「ええ。だからこそ私たちは早めにあの子の動向を突き止める事ができた。会場の混乱に乗じた試作型エクスカリバーは、そのまま織斑千冬の弟を拉致。どこかへ飛び去って行ったそうよ」
「なッ!? ブリュンヒルデの弟、織斑一夏をか!?」
「ええ、おそらく、仲間の合流地点へ行ったものと思われるわ」
「あの餓鬼……本気で世界を敵に回す気かよ!?」
全世界が注目する第二回モンド・グロッソ大会の襲撃。しかもそれに使ったのは、イギリスがその存在を消し去りたがり、しかもアメリカが猛烈に欲しがった禁忌の兵器。
それが、混乱の中とは言え、その世界が注目する舞台の中で目撃されてしまった。
「ドイツ軍も巨人が飛び去った方角を基に、巨人の在処を探っているそうよ。ドイツだけじゃない、世界中が巨人を求めて捜索し始めている」
「……」
そのあまりにも馬鹿げた行為に、オータムは出し抜かれた怒りよりも先に、呆れて項垂れてしまった。
『この世界中が敵になる!』
あの時、あの少女は高々にそう宣言した。確かに、あのような兵器を手にする事は同時に、世界を敵に回す事と同義と捉えてもおかしくはない。だがあろうことかあの少女は、自分から嬉々としてそれを行ったのだ。
もはや子供の反抗期なんていう可愛いというレベルで済む話ではない。
亡国機業という人でなしの大人達の集団から見ても、あの少女は尚狂っていた。
「そして、たった今ドイツに潜らせた諜報班が入った。ドイツ政府にある脅迫メッセージが届けられたそうよ」
「……内容は?」
「『織斑一夏の身柄は此方が預かった。今から我々の要求を呑まなければ、先と比べ物にならない砲撃を其方へ食らわせる。多くの死人が出るだろう。そうなりたくなければ、おとなしく我々の要求を呑む事だ。
我々の要求は、織斑千冬の遺体だ』、だそうよ」
織斑千冬……すなわち前回のモンド・グロッソ大会に日本代表として参加し、見事優勝してブリュンヒルデの座に輝いた世界最強。
そして、マドカという少女の恨みの原点であり、彼女のオリジナルである、織斑計画の産物。
「試作型エクスカリバーの使用と、織斑一夏の身柄を引き換えにして、世界最強の遺体を寄越せってか……幼稚にも程があんだろうよ」
「決着を付けるつもりなのでしょうね、自分の
ドイツ政府に関しては、突き付けられた要求だけではない。
自分達の負の遺産である遺伝子強化体の存在が外に漏れる心配があるのだ。彼らこそ躍起になって、織斑千冬と協力して彼らの居場所を特定しようとするだろう。
「試作型エクスカリバーとヘリが向かった方角を基に、ウチの諜報班が捜索を絞り込んでいるわ。特定も最早時間の問題。だけど、もう一つ気がかりな事がある」
「気がかり?」
「近辺の村で『中空を行く巨人の目撃談』を聞きまわっている連中がいるらしいわ」
「まさか……」
自分達と同じように、試作型エクスカリバーの存在を早くから知り、早期行動に移せる国といえば、思い当たるのは試作型エクスカリバーを共同開発したアメリカとイギリスだが、エクスカリバーの件で懲りているイギリスは積極性に欠ける。だとすれば、イギリスと違いなおも懲りずにエクスカリバーを求め続ける国。思い当たるのは一つしかない。
「そう。おそらくアメリカの特殊部隊、『
けれど、とスコールは続ける。
「アメリカだけじゃないわ。多くの国の特殊部隊が、いずれ彼らの居場所を特定するのも時間の問題。多くの国の部隊が、事前に手も取り合わずに、一つの地点に集まる。おそらくISも導入されるでしょう。
間違いなく、『白騎士事件』以上の戦争になる」
アラスカ条約上、ISの使用は禁止されている。
だが、その了解を先に破って来た謎の集団がいるのだ。戸惑いもなく、自分達もISを持ち込むに決まっている。
「私達に与えられた任務は二つ。私達亡国機業の情報漏洩を防ぐ事。そして――――首謀者であるエムの抹殺よ」
Operation” Kingdom of flies”……start
蠅の王国編、スタートです。
TPPのイーライって実際子供たちにどんな呼び名を使わせていたんでしょうね。マサ村落にいた頃はホワイトマンバで呼ばせていたようですけれど、蠅の王国ではまたホワイトマンバに戻ったんでしょうかねえ……?
どんな展開をお望み?
-
マドカの身体のまま復讐完遂
-
フォックス・・・・・・ダァイ
-
からの他人の身体を乗っ取って復活
-
クロエと百合百合