もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら 作:ナスの森
何も見えない、深い闇の中でその者達は生まれた。
薄暗い試験管の中で生まれ、自分達が普通の存在でない事を知らされ、自分達を生み出した大人達の言う通りの命令を実行してきた。
――――
彼らはそう呼ばれた。
彼の最高の人類を生み出す計画、通称織斑計画のデータをドイツに渡って実践した結果生み出された
元となった計画と同じく、優れた人類を生み出さんが為に生み出された彼らの中には、しかして自然ではなく人工的に生み出されたが為に、『失敗作』という烙印を押されるものが多くいた。
今もこうして、生まれた時と変わらない薄暗い場所で、己の処分を待ち続ける銀髪の少女もその一人である。
彼女に名前などは存在しない。
代わりに与えられたのは、「遺伝子強化試験体C‐0037」という記号のみ。
人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生み出された。
ただ戦いのためだけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。
『今日から君の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ』
初めて、大人達から名前を付けられた。
所詮識別コードでしかない筈なのに、ただ番号の付いた記号で呼ばれるよりも、何故だか昂揚した。
それは一般に名前を持つ、自分達とは違う普通の生まれの子供達に対する憧れだったのか、それとも未だ知らぬ父性への飢えなのか。
だが、何処となく、大人達に認められた。そんな気がしたのだ。
名前を与えられた少女はより一層訓練に勤しみ、努力し、大人達の役に立ちたいと思った。しかし、大人達はそんな少女に死刑宣告にも等しい決定を下した。
『残念だ。君はもうラウラ・ボーデヴィッヒではない』
――――え?
『君はラウラ・ボーデヴィッヒにはなれかった。その名を背負うのに相応しい個体が新たに生まれた。君は、失敗作だ』
失敗作、そう言われた途端、僅かな熱を帯びていた筈の心が、一気に絶対零度へと落ちた。血流も凍り付き、目は焦点が合わなくなり、筋肉組織に僅かな電気信号も通さない程に、呆然と佇んでしまった。
『さらばだ、遺伝子強化試験体C‐0036。君は実に惜しかった』
とても本心から言っているとは思えない言葉を押し付けられたまま、大人達に連れていかれた少女は、この表向きは廃棄されたドイツの軍事研究所で処分を待つ身であった。
いつ廃棄される時がくるのかは知らされていない、いや大人達にとっては知らせる必要などなかったのだろう。
だが、それを理解する事は出来ても、いや理解できていたからこそ到底受け入れる事は出来なかった。
(……どうして?)
光の届かない部屋の中で、少女はすすり泣く。
(頑張ったのに、どうして……)
少女はラウラの名にふさわしくあるよう、その与えられた遺伝子を存分に振るい、相応の成果を残してきたつもりだった。
その結果がこんな末路だなんて、到底受け入れられるものじゃなかった。
だが、どんなに嘆いたところで現実は変わらない。こうして自分がもうじき処分される。
いつ処分されるのかは分からないが、ラウラという名を剥奪された時点で、自分は既に死んでいたのだ。
どんなに泣こうが、喚こうが、ラウラでなくなった時点で自分はもう死んでいるのだ。
その名前を付けられた時に感じた温かみは、自分が抱いた
自分に変わって新たにラウラと名付けられた遺伝子強化体C‐0037も、自分のようになるのだろうか。もしかしたらその彼女も既にラウラという名を剥奪されて、自分とは別の部屋で処分を待っている身かもしれない。
だが、そんな事すらもうどうでもいい。
自分は選ばれなかったのだ、生まれながらにして敗者として運命付けられた。ただそれだけの事だ。
だから、もうどうでもいい。
生まれた時から、私の世界はずっと暗闇だったのだ。名前という幻の光をチラつかされ、ずっとそれを追わされ続けてきた哀れな子ウサギ。
自由などない。大人達の気分次第で自分達はいくらでも生み出され、その分だけ誰の目に知られる事もなく闇に葬られる。
光をまったく通さない密室にて、少女以外の、その他数名の遺伝子強化体たちが皆、部屋の隅でガタガタと体を震わせていた。
皆死ぬのが怖いのだ。
人としての人権が与えられず、所詮兵器としてしか見られぬ運命である事を理解していながらも、それでも生きる者として死ぬのは恐かった。
ここに来てからもうしばらく経つ少女は、そんな同類たちを見やり、最初は自分もそんな感じだったなと他人事のように虚空を見上げた。
彼らの気持ちは痛いほどに分かる。
自分もそうだからだ。
だが、もうどうしようもないではないか。
名前という光を見つけ、それに縋るように努力してきたのに、あいつらはそんな事をお構いなしに、私に無責任に名前を付けておきながら、無責任にその名前を奪った。
努力とは、決して報われるものではない。
そもそも、兵器として造られた私達に努力という概念など、本来ならば存在してはならないのだ。
兵器は兵器、努力が才能を、精神が性能を超えられる訳がない。
だから、もう何をしても無駄。
幸いなのは、決して孤独に終わるわけではないというだけ。
こうして大人達に処分されるであろうという恐怖を仲間たちと共有しつつ、死ぬことができるのだから。
長く暗闇にいると、僅かな小さい光ですら拾えるようになってくるという話を聞いた事があるが、自分は大小の光は愚か
もう、自分という存在がどうでもよくなった。
憧れる存在もいない、欲しい名前もない。
故に、焦がれる光などありはしない。
この闇の中で、せめてもの救いとして仲間と共に死ねるのだと、そう思っていた時だった。
突如として、轟音が鳴り響いた。
周りの仲間たちはついに自分達が処分される日が来たのかと怯え、泣き叫んだが、一方で銀髪の少女は別の意味で驚いていた。
悲鳴が聞こえるのだ。
仲間たちの悲鳴ではない、大人達の悲鳴だ。
仲間たちが処分される音ではなく、大人達が消し去られていく音。
轟音は更に大きくなり、戦闘訓練を受けてきた遺伝子強化体の少女は、その音だけ外で起こっている事が戦闘ではなく、ただひたすらの蹂躙である事を察知した。
他の仲間たちもその違和感に気付いたようだ。
そして、少女も、そして仲間たちも、全員が確信した。
――――この研究所は今、襲撃を受けているのだ。
とてつもない力を持った何かによって、外の大人達が次々とやられていくのだ。
「一体、何が……?」
やがて、巨大な足音のようなものが聞こえてくる。
そして――――
自分達のいた部屋の壁が、突如として破壊された。
『ッ!?』
今度こそ、今まで絶望のあまり表情を変えてこなかった銀髪の少女の顔に、驚愕の表情が浮き上がる。他の仲間たちについては言わずもがな、破壊された壁の外から、強烈な光が差し込んでくる。
(あれ、は……!?)
久々の光を浴びるせいだろうか、いつもよりも眩しく感じる。
いや、違う。
物理的に眩しいのではない。
光が、光が見えるのだ。
焦がれるような、光が。
銀髪の少女は即座に立ち上がり、崩れた壁から外の風景を覗いた。
周りの仲間たちも、それに続いて恐る恐る外を覗く。
そこには、大量の大人達の屍と、その屍たちの中心にいる、西洋の騎士のような風貌をした巨人がいた。
それを見た銀髪の少女は、ソレに目を奪われた。
他の部屋にいた仲間たちも、壊された壁から次々とその巨人を覗き込む。
どうやらあの巨人は、自分達遺伝子強化体が閉じ込められている部屋の壁全てを壊していたようだ。
(あれは、IS……?)
あのような巨人サイズのISなど見た事がないが、なんとなく『白騎士事件』で有名になった白騎士を彷彿とさせる見た目であった。
しかし、同じ西洋の騎士の見た目でも、その風貌はまったく違った。
巨大な剣を背中に背負った、西洋騎士の巨人。
そこには銀髪の少女がまったく見た事のない、焦がれるような光が放たれていた。
「あれは、何?」
何故、私にそのような光を見せつけて来るの?
もう焦がれないと、決して追い求めないと誓った筈なのに……どうしてそんな追い求めたくなる光をアレは放っているのだ!?
アレは、アレは一体……。
そんな戸惑いを抱いていたら、巨人の胸の部分にあったハッチが開き、コックピットの中から人影らしきものが現れた。
驚いた事に、現れた人影は自分達とそう年の変わらなさそうな少女だった。
しかし、その少女を見た遺伝子強化体全員が、あの少女が只者でないという事を本能で悟る。だが不思議と、恐怖を抱かせるものではなかった。
巨人の中から出てきた黒髪の少女は、壁が崩れた部屋の中から自分を覗き込む遺伝子強化体たちを見渡し、大声で呼びかけた。
「兄弟達よ!!」
兄弟――――あの黒髪の少女は、自分達の事をそう表現した。
何故だろう、見た事がない筈なのに、不思議とその言葉が腑に落ちてしまう。
それくらいに、あの黒髪の少女には不思議な魅力があった。その存在感に、誰もが目を奪われていた。
「私はこの日をずっと待っていた! お前達と会えるこの日を!」
力強く握った拳を掲げ、黒髪の少女は嬉しそうに天を見上げる。
「喜べ兄弟達! ここの大人達はたった今片付けた。お前達は自由だ!」
自由、その言葉を、誰一人として実感するものはいなかった。
当たり前だ。
見ず知らずの人間に兄弟と言われ、更には自由だと言われても困惑するだけだ。
「私はお前達だ! 合成された遺伝子配列から作為的に作り出された歪な生き物! 身勝手な大人に生み出され、身勝手な大人達に散々弄られた!
そうだ……私達は生まれながらにしてその遺伝子に呪いを込められた!」
だが次の瞬間、彼らが少女の言葉に抱いたのは困惑ではなく、共感だった。
冷たい鉄の子宮で生まれた。遺伝子配合に気を配り、遺伝子の海から作り出された。兵器として利用される事だけを強要され、望んだ通りの性能に少しでも及ばなかったが為に大人達から見捨てられた存在。
それが自分達だった。
もし自分達が普通の人間として生まれていれば、と考えれば、この遺伝子は最早呪いとしか考えられない。
「故にこそ、大人達は自分達が勝手に生み出した私達を、無責任にあってはならないものと比喩し、私達を生み出した責任も取らないまま塵のごとく闇に葬ろうとする! 理不尽に生み出した私達の存在を、奴らは、時代は受け入れてくれない!
だが、お前達は本当にそれでいいのか!? 身勝手に生み出しておきながら、その負債を生み出した私達に押し付ける大人達に目にモノを見せずに終わって良いのか!?」
終わって良い筈がない、と多くの者が心の中で叫んだ。
だが、それを叫んだところでどうなるわけではなかった。
だからいつの間に、ソレを口にするのをやめ、心の中に押し込めてきた。
だが、巨人のコックピットから出てきたあの黒髪の少女は、もうそんな必要はないのだと言わんばかりに彼らに呼びかける。
「私達がどれだけ叫ぼうが、時代は、国家は、思想は、私達を受け入れなどしない! 生み出した責任を生み出された私達に押し付け、奴等は私達を葬りにやってくる!
そんな私達が生き残るにはどうすればいいか? 作るしかない! 私達だけの居場所を! 私達だけの国を! 大人達のいない、思想にも捕らわれない、私達の
声高にして、少女は彼らの心に訴えかける。
「兄弟同士は子を成さない、それにも関わらず助け合うのは何故だか知っているか? 同種の遺伝子を後世に伝えられる確率が高くなるからだ! 私達の遺伝子を、生み出した奴等は一つ残らず根絶やしにしようとするだろう!
兄弟達よ、今こそ手を取り合い立ち上がるべきだ!」
助かりたいのならば、生き残りたいのならば、滅さんとかかる大人達を全員殺すしかない。その為には力が必要だ。
その力を手にするために、自分達だけの居場所を作るべきだ。
「さあ兄弟達! 既に新しい仲間達がお前達を待っている! 生の渇望がある者は、今ここに私の元へ集え!」
再び握りこぶしを上へ掲げる黒髪の少女。
暫しの沈黙の内、遺伝子強化体たちは恐る恐る、といった足取りで、崩れた壁の奥からやってくる。
次々と、少女の駆る巨人の元へと集ってゆく。
「さあ兄弟たちよ、共に行こう」
そんな様子を見ていた、かつてラウラになれなかった銀髪の少女もまた、ゆっくりと暗闇の中から出る。
見上げた先には、焦がれる程の光がある。
かつて彼女が焦がれた幻の光などではない、確かな光があった。
それは天啓であり、同時に悪魔の囁きであるように聞こえた。
――――それでも……。
「私達は自由だ!」
――――付いて行ってみよう、この光に。
かつてラウラになれかった少女は、仲間たちと共に、自分達を兄弟と呼ぶこの少女に付いて行く決心を固めた。
◇
その日、世界は衝撃的な事実をこの目に焼き付けた。
第二回モンド・グロッソ大会――――ISの第二世代機が世界各国で台頭してきた今、おそらく
ISのコアはその数が限られている。新しい世代機を開発するには、既存のコアを初期化して作り直さなければならない。
故に、その己の相棒との最後の時間を、彼女達は全力で振り絞り、競い合った。
そしてその日も終末を迎え、とうとう決勝戦当日となった日――――突如として、空から極大のレーザー攻撃が降り注いだのだ。
明らかにISのものよりも強力なソレは、会場一面を紅蓮の炎で包んでいき、決勝直前で熱気立っていたのが嘘であるかのように、悲鳴の連鎖が響き渡った。
紅蓮の炎と煙で包まれる会場。
最早試合どころではなく、逃げ惑う人々。
緊急で駈けつけた消防隊員たちにより犠牲は最小限に抑える事ができたものの、おかげで第二回モンド・グロッソ大会の決勝戦は中止。
観客が待ちに待ち望んでいた『日本代表 織斑千冬 対 イタリア代表 アリーシャ・ジョセスターフ』は当然中止。まるで今まで戦い、勝ち残り、はたまた敗れ去っていた
戦乙女たちとて、せっかく自分達を敗北に追い込んだ者同士の決勝戦であるにも関わらず、まるで今までの戦いを含めてそれらを丸ごと踏みにじられたような気分に陥っただろう。
だがその事件は、決勝戦出場予定だった
――――弟の、織斑一夏が行方不明になったのだ。
その報せを聞いた織斑千冬は居ても立っても居られず、ISを使っての観客の避難を完了させた直後に会場中を己の愛機である暮桜のスラスターで駈け廻ったが、弟の影は何一つとしてなかった。
途方に暮れた千冬はドイツ軍に協力を要請。
その調査の結果、避難民の一人であった女性から気になる証言が見つかった。
――――煙でよく分からなかったが、背中に剣を背負った巨人らしき影が見えた気がする、と。
この後、その中に浮く巨人の目撃談が十数件に見つかり、一夏の誘拐事件と関係があるのかと思われたその時――――ドイツ政府に、ある脅迫メッセージが届いた。
『織斑一夏の身柄は此方が預かった。
今から我々の言う要求を呑まなければ、先とは比べ物にならない程の砲撃を其方へ行う。無論、人質の命もない。
我々の要求はただ一つ 織斑千冬の遺体だ』
そのメッセージを受け取った政府は、至急ドイツ軍を通じて千冬にその事を連絡した。
意地悪な要求にも程がある内容だった。
此方は向こうの居場所を知らず、しかも要求を呑まなければ先ほど会場を襲ったレーザー砲撃とは比べ物にならない程の砲撃を行うとのこと。
しかもその要求は織斑一夏の身柄と引き換えに、織斑千冬の遺体を寄越せとのことだった。
しかもドイツ政府にとっての凶報はそれだけではなかった。
つい先ほど、表向きは破棄した軍事研究所が巨人の襲撃に合い、大量の
つまり、モンド・グロッソ会場に向けて砲撃を放ち織斑一夏を攫った犯人と、軍事研究所を襲った犯人は同一人物。
犯人は、要求を呑まなければ遠回しに自分達の暗部である遺伝子強化体計画を表沙汰にするとも言っているのだ。
しかも要求が要求なだけに、一歩間違えれば日本政府との関係すら危うくなってしまう。
焦燥に駆られたドイツ政府はドイツ軍に命じ、織斑千冬と協力して犯人の居場所の特定を依頼した。
なりふり構っている場合ではない。
自国領の危機、自国の暗部が暴かれる危機、他国との関係悪化の危機、それら三重の危機にドイツは今晒されている。
織斑千冬と、ドイツ軍による犯人の捜索が始まろうとしていた。
◇
諜報班の調べにより、ついに亡国機業はマドカたちの居場所を突き止める事ができた。スコールはさっそくオータムとその他の部下達をブリーフィングルームに呼び、モニター画面を使って作戦の詳細を説明していた。
「ついにあの子の居場所が分かったわ。基地から脱走した少年兵たち、研究所から脱走した遺伝子強化体たちを乗せたヘリ、そしてモンド・グロッソ会場を襲撃して織斑一夏を攫った試作型エクスカリバーは、中部アフリカの塩湖に浮かぶ島で合流、彼らはそこを拠点としている」
そう、全ては最初から計画されていたものだったのだ。
決行日を第二回モンド・グロッソ大会の決勝日に、全ては織斑一夏を攫い、織斑千冬を誘い出して、決着を付ける為。
「あの島には現在、様々な暗部が犇めいているわ。一つは私達に繋がる情報を持つ少年兵たち、イギリスとアメリカが裏で共同開発した試作型エクスカリバーという禁忌、ドイツの遺伝子強化体、そして例の計画の産物である織斑一夏とエム……いえ、織斑マドカ」
スコールはエムの呼び名を訂正し、ハッキリと、強調するようにあの少女自身が忌み嫌う名を呼ぶ。もはやあの少女は亡国機業の一員ではない。態々気を遣ってコードネームで呼んでやる必要もない。だが、一部の者にはそれは逆効果であったようだ。
席に座っていたイヴが、ビクっとその名前に反応し、途端に委縮し始めた。マドカに手も足も出ずに完敗したトラウマが残っているのだろう。
イヴだけではない。この基地の大人達のほとんどが子供不信か、子供恐怖症に陥っていた。基地の少年兵たちの9割以上がマドカの蹶起に参加し、多くの仲間たちを殺され、武器もISも奪われた。唯一、ここ亡国機業に純粋な恩義を抱いて蹶起に参加せずに残った僅かばかりの少年兵たちに対しても怯えを隠さない程である。
それに対して溜息を吐きつつも、スコールは説明を続けた。
「そう、あの子は名実共に世界を敵に回した事になる。それと、あの島周辺を捜索していた諜報班の何人かが息を引き取ったわ。現地に来ていた
死因は、細胞壊死」
『ッ!?』
その言葉に、誰もが驚愕して顔を上げる。
「倒れた諜報班のメンバーの共通点は、ガスマスクをしていなかった。つまり、あの島には人間に対して有毒な物質が空中に蔓延している」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
話しを聞いていたスタッフの一人が慌てて立ち上がり、スコールに問い詰めた。
「その有毒な物質とは何ですか!? もしそうであるとしたら、アイツ等だって無事じゃないんじゃあ……」
「おい座れ。スコールの話はまだ終わってねえぞ」
隣にいたオータムが立ち上がったスタッフを宥め、席に座らせる。
続けてくれと、オータムはスコールに促した。
「そしてその有毒物質を分析した結果、ある事が分かったわ。これを見て頂戴」
スコールがモニターの画面を切り替える。
そこには、イギリスの山頂部でマドカとあの暴走した巨人、試作型エクスカリバーによる死闘が繰り広げられている場面が写っていた。
スコールがマドカに試作型エクスカリバーの回収をサポートしていた時のモニター映像だ。
「映像当時の環境記録を分析した結果、この戦場でも、同じ物質が試作型エクスカリバーを中心に蔓延している事が分かったわ。
おそらくは操縦者の意志をBT兵装に伝える為の触媒、かつBTエネルギーの元となる物質……BT粒子」
「で、ですが……我々の諜報班がイギリスから持ち帰った情報によれば、BT粒子にそんな作用は見当たらないと……」
「
『ッ!?』
察して、それを口にしたオータムの言葉に、全員が硬直する。
BT兵装は操縦者のイメージに反応して動く兵器。その触媒となるBT粒子は、試作型エクスカリバーから発せられるソレは、操縦者であるマドカの『大人達に対する憎しみから来るイメージ』を具現化させ、それを単一仕様能力として発現させた。
「そう、今や試作型エクスカリバーから発せられるBT粒子は、大人達に対する大量破壊兵器と化した。ちなみにこれは、島周辺で確認された物質の拡大映像よ」
モニター画面を切り替えると、そこには眩い光を放つ蠅のような形状の物体があった。
「これは……蠅?」
「ええ。正確にはBT粒子そのものが大人達を駆逐するのではなく、多量のBT粒子が集まってこのような蠅の姿を形取り、疑似的なナノマシンとなって大人達の体内に入り込み、“感染”する」
その恐ろしさに、大人達はただ呆然とするだけであった。
単一仕様能力が発現するのは通常は第二形態に移行してからだ。少女の試作型エクスカリバーの搭乗時間から計算して、二次移行に至れるとはとても思えない。
つまり、最低でも一次移行でこの単一仕様能力を発現したという事になる。ここまでくると、末恐ろしいなんてものじゃなかった。
「マドカたちはこれを使って島から大人達を追い出し、子供達の王国を築き上げた。まるで『蠅の王』よ。彼らは豚の首の代わりに試作型エクスカリバーを祭り上げ、蠅の代わりにこのようなBTナノマシンを沸かせている。
さしずめ、『蠅の王国』とでも名付けるべきかしら」
故に、現地に赴くにはガスマスクを装備、もしくは体内にナノマシン抑制剤を投与してから行くのが望ましい。
アメリカの
亡国機業も例外ではない。
「彼らは織斑一夏の身柄と試作型エクスカリバーの使用と引き換えに、ドイツ政府にこう要求している。……要求は『織斑千冬の遺体』だとね」
そのあまりにも命知らずな要求に、誰もが息を飲む。そんな要求などまず不可能。これは要求でもなければ、脅迫でもない。言うなればそれは織斑千冬に対する、宣戦布告と同義であった。モンドグロッソの二連覇を潰し、その世界最強に対しての宣戦布告であった。
「……一つ、質問していいですか?」
挙手をし、スコールに問いかけたのはイヴだった。
「何かしら?」
「先の、マドカが巨人奪還任務に赴いた時の映像と、砲撃を受けるモンド・グロッソ会場の映像を見せて頂けませんか? 同時で構いません」
イヴの要望通りに、スコールはその二つの映像を同時にモニターに映した。
同時に、イヴは疑問を口にした。
「その……此方の映像では、主砲のレーザー攻撃は真っ直ぐに空に飛んでいる筈なのに……何故モンド・グロッソ会場の空から、主砲のレーザーが降り注ぐのでしょうか? 主砲はドイツの軍事研究所の地上から発射された筈……それなのに、何で……」
イヴの疑問を聞いた周りも、その不自然さに気付いた。
試作型エクスカリバーの奪還任務で、暴走した試作型エクスカリバーがマドカに向けて発射した主砲レーザーは真っ直ぐに蒼穹を撃ちぬき、大きな雲群に大きな風穴を開けている。
もしこの映像のように、軍事研究所から会場に向けて発射したのなら、その極大レーザーの射線上にある山々や町なども巻き込まれている筈なのだ。
しかし、実際、巨人の主砲から放たれた極大レーザーは空から降り注ぎ、会場だけを焼き払った。
全員が息を飲み、スコールの回答を待つ。
スコールは、イヴのその察しの良さに関心した。これも説明するつもりだったが、先にイヴが疑問として投げかけてきてくれた。
その、あまりにも最悪な答えを、スコールはスゥ、と息を吸ってから答えた。
「おそらく……BT兵器の高稼働時に可能な
まるで先制核攻撃の恐怖の再来のようだと、誰もが思った事だろう。
あのような威力のレーザー砲撃の弾道を、意のまま操ることができるという恐ろしさ。
もはや、試作型エクスカリバーは開発された当初とは別物になっている。
稀代の報復心と稀代のBT適正を持つマドカが操縦者になった事により、兵器として使い物にならぬと捨てられた頃とは違い、大人達に対する大量破壊兵器と化し、いつどこからでも好きな場所にアレ程の威力の砲撃を撃ち込める殺戮兵器と化した。
直接戦闘ではビットと巨大な剣による圧倒的戦闘能力を誇り、距離を取れば主砲に変形した剣から放たれる、弾道を自在に曲げられるレーザー砲撃の餌食となる。
最早完成機エクスカリバーの脅威すらも上回る
――――無理だ……勝てない。
多くの者達が項垂れ、早くも諦めようとする。
世界を敵に回したといえばまだマシに取れるが、正確には違う。
イギリス、アメリカ、ドイツは、実際は島に蔓延る己の暗部が外に漏れるのを恐れて、マドカ側の勢力は愚か、単純にモンド・グロッソでの横槍に怒った他の国から派遣されてきた部隊にも銃を向ける事だろう。
実際は、三つ巴はおろか、四つ巴すら生ぬるい混戦に陥る事は確実だった。
しかも白騎士事件とは違い、戦場となるのは海上ではなく地上。
その被害も白騎士事件とは比べ物にならない位の甚大なものになるはずだ。
――――おそらく、この戦いに勝者など存在しない。
一番最初に特定に漕ぎつけるのはおそらくアメリカ、時点でドイツ。この時点でもう三つ巴だ。お互いの暗部の漏洩を恐れ、互いの事情も知らぬまま削り合う。
しかも、戦場となる場所は、国連からもれっきとした国として認可されている国の地域だ。表向きな国際問題にも発展する。
最悪、世界が割れてもおかしくはない。
勝者はおらず、敗者しか残らない。
いくら少年兵たちからの情報漏洩を防ぐのが目的であるため、態々その戦いに首を突っ込もうと思う程、ここの大人達はバカではなかった。
結局、スコールとオータム、この二人を除いて誰一人としてこの任務に参加する意志を見せるものはいなかった。
二人は、ソレを止めようなどとは到底思わなかった。
……そもそも、実の姪を監視役として送り出し、逆に生贄として利用され、少年兵たちの反乱を起こされてしまった責任の一端は、スコールにある。
それを言うのであれば、そもそも最初にスコールに
今回の一件で、スコールは亡国機業内での立場がかなり危うくなっていたのだ。
スカルフェイスが見たら喜びそうな光景だぁ……(しみじみ
ラウラになれなかった銀髪の少女、一体、『何エ・何ニクル』なんですかね(すっとぼけ)
どんな展開をお望み?
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マドカの身体のまま復讐完遂
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フォックス・・・・・・ダァイ
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からの他人の身体を乗っ取って復活
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クロエと百合百合