もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら 作:ナスの森
蠅の集る豚の生首を一瞬にして回り込み、愛用の山刀で大人の女性へと少女は斬りかかる。子供離れした身体能力、子供離れした素早さ、子供離れした迷いのなさからくるその動きは、さながら訓練をうけた軍人そのものの凄みがあった。
「ッ!?」
何とか余裕を装っていたが、僅かに見開かれた大人の女性の目から、それは相当の動揺が読み取れた。その事に対して少女は若干の優越感を感じながらも、女性の命をすぐに断ってやらんと、その喉元を掻っ切った。
……かのように見えた。
「へっ」
だが、彼女とてたまたまここに来れただけの大人ではない。大人の女性――――オータムは少女のマチェットの刃を寸での所で受け止め、カウンターを見舞う。
しかし、それよりも少女の行動は早かった。受け止められるや否や、一瞬にして反撃の一撃を予測していた少女は迷わずマチェットを手放し、船中を駆け回る。
この瞬間、オータムは少女をただの“子供”と認識するのをやめた。
(この餓鬼……一瞬で私の反撃を予測して退きやがった。先ほどの動きといい、それだけじゃねえ、この年で自分の得物を簡単に手放す判断をしやがるとは……)
武器を持つ者と持たぬ者では持つ者の方が有利だ。しかし、目の前の少女は、ここで武器を手放さなかったら、自分は即座に反撃されると予想し、獲物を手放したのだ。少なくとも、武器を持ち、訓練を施されただけの子供ができる判断ではない。この少女は間違いなく、戦場という修羅場で生きてきた子供なのだ。
少女の方も、オータムをただの大人という認識から外した。
先ほどの油断と動揺で一撃で仕留められると思っていたが、冷静に対処された。一瞬判断が遅れていれば、『大人』と『子供』の差故、反撃を食らう事になっただろう。この村で葬って来た大人たちとは一味違うという認識を持ちつつも、少女はその事実に歯ぎしりした。
油断を一先ず捨て去り、物陰からオータムに向けて火炎瓶を投げつける。死角から投げたにも関わらず、当たる直前に跳ねのけられ火炎瓶は船の壁の一部を燃やすにとどまった。火炎瓶が向かってきた先をオータムが見た頃には、少女の姿はない。
また別の物陰に一瞬で移動し、壁を音もなく蹴って三次元的に移動してはオータムの動きを、反応を観察する。
そして。
「刺す!」
まったく迷いのない、子供とは思えぬ殺意を少女はその刺突に乗せる。
斜線状に尖った鉄パイプの先端がオータムの身体に突き刺さろうとする直前、オータムは横に回避する事で刺突を避け、少女を足払いで転倒させようとする。
が。
先ほどのようには行かんと言わんばかりに、少女は避けられた鉄パイプを持ちかえ、勢いよく床に差して体を浮かせて回避。そのまま鉄パイプを足掛けとして利用し、オータムの後頭部を踏みつけつつ、飛び越えた。
体の小さい子供が、一瞬にして大の大人の身体を飛び越え、後ろに回り込む。……それが、どれだけ異常な事か。
「てめ……ッ!?」
たかが子供ごときに自分が踏み台にされた事が癪に障ったのか、激昂しかけるオータムであったが、そのまえに少女の飛び膝蹴りがオータムの鳩尾を打つ。ガハッ、と息を吐きだし、後退するオータム。子供離れした、並の軍人すら凌駕する程の脚力による跳躍から放たれた膝蹴りは、女性であるオータムの身体に強烈な衝撃を与えた。
が、それだけでは終わらない。オータムが怯んだ一瞬の隙を付き、少女は即座に床に突き刺さっていた山刀を手に取り、斬りかかる。
「調子に、乗んじゃねえっ!」
ついに怒りを露わにするオータム。その様子を、少女は内心で愉快気に嘲笑った。
これだ。大人を屈服させるこの感覚。
ああ、今目の前で無様を晒しているコイツのように、自分を創ったあの大人たちにもこのような醜態を晒させたかった。
そんな少女の鬱憤を、オータムは今ぶつけられていた。
一歩――その動作すらもが見切れぬ程――でオータムとの距離を詰める。負けじとナイフを抜いて反撃しようとするオータムであるが。もう遅い。
先ほどのダメージが抜けきっていない状態での攻撃など遅るるに足らず、ましてや少女は既にオータムの動きを見切っていた。
獲物を付け狙う獣のような
勝敗は決した。
突如、オータムにその太刀筋が到達した途端、その刃がポッキリと折れるまでは、そう思っていた。
「なっ!?」
「……チっ、遊びは終わりだ」
突如として折れた刃に動揺する少女。オータムが何かした様子もない。
知らずの内にカウンターを取られた訳でもない。いや、もしカウンターであるのなら攻撃は少女そのものに向かっている筈。
今のは――――そう、まるでオータムの身に包まれている“何か”が、触れた瞬間に刃を溶かしたような……。
その“何か”の正体を悟った、少女。すぐさまオータムから距離を取る。距離にして七メートルを一歩で後退した。
「チっ、あと少しで捕まえられたのによォ……!」
再度舌打ちをするオータム。しかし――――その姿は異様だった。彼女のようなサイズの人間が身に纏うにはあまりにも大きすぎるパワードスーツ。彼女自身の手の他に、まるで歪に付け足されたかのような巨大な八本の
そのシルエットはまさしく蜘蛛。
そう、ISだ。
先ほどマチェットの刃が折れたのは、彼女が展開したIS『絶対防御』により焼き切れてしまったのだ。触れたその瞬間に。しかもあの瞬間、オータムはISの装甲を展開せずに
先ほど少女がいた場所には、蜘蛛の巣のような形状の白い糸が、オータムのIS『アラクネ』から放たれていた。
彼女の言う通り、後一歩を遅ければ少女はこの身を捕らわれていた事だろう。
「よくも、餓鬼の分際でこのオレにISを使わせてくれたなぁ……」
笑いながらオータムは言うが、その瞳は笑っていない。その眼は、屈辱のあまり怒っていた。生身では、目の前の子供には敵わないという事実が、こんな子供に対してISを持ち出さなければならないという現実が。
もしここに自分がISを持ち込んでいなければどうなっていたか……それら全ての要素がオータムを屈辱のあまり激昂させていた。
「ここからは、一方的な蹂躙だぁ!」
言って。オータムは八本の装甲脚の先からハッチのようなものが開かれる。そこから覗き込んだのは、銃口。
それを理解する前に、少女の身体は動いていた。
八本のレーザーを少女を一点に集中するのではなく、一本を少女のいる位置へ、もう七つの銃口は少女の回避先を予測しての散弾攻撃。
しかし、少女はそれよりも早く、疾く避けていた。それが攻撃だと理解する前に、本能が、身体を動かしていた。
体を複雑な形状に捻ったままの回避。それま見事に同時に放たれた八本のレーザーを避け切った。
強力なISにより放たれたレーザーはそのまま船体を貫通し、全体に衝撃が迸り、船体が揺れる。
元より打ち捨てられていた廃船、先ほどの攻撃を後数回続けられれば、船体はまたたくまに崩壊。少女とオータムはそのまま下敷きになってしまう。
しかし、元よりISの纏っているオータムには関係のない事。対して、いくら強かろうが少女は生身。
今から船から飛び出した所で、逃げ切れる可能性もなく、ただでさえ不可能な勝利は更に遠ざかっていく。
少女の判断は早かった。
船内から外に出る。駆け回る。
「逃げても無駄なんだよ!」
瞬間、アラクネの装甲脚が壁を突き破り、少女に襲い掛かる。
少しばかり、右肩が掠り、抉られたかのような跡が残る。掠っただけなのにも関わらず、その衝撃は鍛えた大の大人ですら死にかねないにも関わらず、少女はその痛みに耐えて走った。
このままでは負ける。
そもそも、ISを展開された時点で、ここまで時間がかかる筈もない。相手は自分を散々弄んだ後に仕留めるつもりなのだ。
それを察した少女は、瞳に怒りの炎を灯す。
負ける。このままでは絶対に。
それでも。
「まだだ!」
気に入らない。大人というだけで、アレを身に纏って遊ぶあの女が、自分が有利になった途端、また自分を餓鬼と侮り弄ぶ所が。
「まだ終わっていない!」
どうしようもなく気に入らない。
突き破って出てきた装甲脚は引っ込まれ、今度は船内から全方向にレーザーが乱射される。壁を貫通し、その被害は周囲にも及んだ。
次々と船体を貫いて周囲にまき散らされるレーザーに、少女に付き従っていた少年兵たちが悲鳴を上げながら逃げていく。
臆病者め、と内心で罵倒しつつも少女はそんな彼らを責めはしなかった。
何故なら『王』である自分がこの女を倒せば、彼らがこの『大人』に怯える必要もなくなる。
仲間たちが大人たちにひれ伏し、言いなりになるなど御免被る。
船体に空いた穴を足掛けに、一瞬で船の頂上へ少女はよじ登る。その動作は1秒の半分未満にすら至らない速さ。
しかし、壁に空いた穴から覗かれた少女の影をISのハイパーセンサーが見切っていない筈もなく、少女の足下からレーザーが貫通する。
が、それを読んでいた少女はレーザーが放たれる直前に既にその軌道からズレ、そのレーザーが貫通した穴に体をねじ込ませる。
瞬間、先ほどみた巨大な蜘蛛のISが目下に映る。天井を勢いよく蹴り、少女はオータムの懐に飛び込んだ。
その長すぎる装甲脚は、懐に潜り込んだ小さな獲物を討つには適さず。
「っ!?」
更に、レーザーによる奇襲を避けて一瞬で懐に潜り込んだ少女に対する動揺が一瞬の隙を生み。
少女は、元いた『大人たち』の所からこっそりくすねてきたソレを、《アラクネ》に取り付けた。
「なっ、それは――――!?」
ISのマスクによりその表情は見えないが、明らかな驚愕の声を出すオータム。
取り付けられたソレを、急いで引きはがそうとするが、遅い。
電流が、迸る。
「ガ、嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああアァァァっ!」
光に包まれた、その瞬間。
オータムと《アラクネ》は、分断された。
そして同時に、この村を、国を、象徴する城であった廃船が瓦礫となって崩れ落ちる。世界有数の兵器であるISの攻撃を内部から受け続ければこうなるのは自明の理。
だが、それも元よりISを纏うオータムには関係のない事だった。
だが、先ほどが少女が取り付けた何か……『
人に戻った途端、その瓦礫がオータムに襲い掛かった。
ISを引きはがされた衝撃で身動きが取れないオータム。
一方、身軽な身のこなしで降ってくる瓦礫を足場にして回避する少女。
負けた。
ISが。
生身の人間、ソレも子供に。
「クッソがあああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
最初の瓦礫がオータムの身体に落ちたと同時、その一瞬にして体の感覚を取り戻したオータムは屈辱に叫びながら、瓦礫を払い退けて。脱出する。
しかし、一歩逃げ遅れたオータムは瓦礫によるダメージを脱出する途中に何度も受けてしまい、未だ腕に少しダメージを負った程度の少女とは大違いな傷を負っていた。
「がッ!?」
少女は、オータムに時間を与えるつもりはないのか、思い切りオータムを蹴り飛ばす。再び瓦礫と衝突するオータム。
グぅ、とうめき声が聞こえる。
いい気味だ、と少女は笑い、更にオータムをタコ殴りにする。
やがて再び山刀を手に取り、トドメを刺そうとして――――
ニヤリ、とオータムの口が力なく歪んだ気がした。
「ッ!?」
それと同時、少女の背後から、駆動音を響かせながら高速で迫ってくる物体があった。
それに対応しようとする少女であったが。オータムに気を取られていたばかりに反応が遅れてしまう。
その存在を認識した瞬間、少女の身体は既に放たれた
「嘘だ……!」
信じられないものを見るかのように、少女はソレを見る。
彼女を捕らえたのは、先ほどオータムから引きはがされた筈の《アラクネ》だった。主という騎手を失い、動く事がないと思われていたソレはあろうことか、まるで主にはこれ以上触れさせないと言わんばかりに、少女を拘束した。
「こ、の……放せ!!」
蜘蛛の巣を引っ張られ、大の字の姿を晒してしまう少女。
「テメエ……の負けだよ、ガキ」
オータムがそう宣言した瞬間……少女の身体を強烈な電撃が迸り、少女はそのまま気絶した。
その日、彼女は王ではなくなった。
彼女が囚われ、連れ去られていくのを目撃した子供たちは一斉に逃げていく。
例えその隊長を連れていた大人も満身創痍の姿であるにも関わらず、この地域ではそういう出で立ちは珍しくないのがオータムにとっては幸いだったのか、その事を遠目から見ただけでは分かるはずもなく、子供たちは自分達の隊長を取り戻そうという気概すら起こらず、逃げていった。
王を失った事により、狼たちは、瞬く間に彷徨う羊へと堕落した。
その日、少女は戦場での名前を失った。
その日、少女は王ではなくなった。
どんな展開をお望み?
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マドカの身体のまま復讐完遂
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フォックス・・・・・・ダァイ
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からの他人の身体を乗っ取って復活
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クロエと百合百合