もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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赤城加賀掘りが終わったので投稿です


遺伝子の呪い

 空でのISや戦闘機による戦いが白熱する一方、地上でも泥沼と化した戦場が広がっていた。

 次々と島に突入していく多国の歩兵たち。

 彼らの多くは自分たちの名誉あるモンド・グロッソ大会の中止を余儀なくされた怒りから派遣された多国の軍の中には、自分たちの暗部の漏洩を防ぐために派遣されてきた軍も存在し、彼らの攻撃は子供たちに向けてだけではとどまらず、ともに島に乗り込んできた他国の軍にも向けられていた。

 アメリカ、イギリス、ドイツ、ルクーゼンブルク公国……アメリカは試作型エクスカリバーを未登録コアごと手に入れんと、イギリスは試作型エクスカリバーの存在を何としても闇に葬らんと、ドイツは何としても他国に自身が生み出した遺伝子強化体の存在を多国に漏らしてはならないと、ルクーゼンブルクは自国が大量に所有する未登録のコアの存在を他国に漏らさんと。

 第二回モンド・グロッソ大会を滅茶苦茶にせしめた巨悪を打倒すなどという建前とは裏腹に、こういった国の存在のおかげで、本来少年少女たちの敵となる筈だった『世界』は最早一つではなくなっていた。

 他国の軍から攻撃を受けたという事実、それが無数の疑心暗鬼を仰ぎ、本来ならば敵対する理由は必要のない国同士の軍隊すら銃を向け合おう。

 これだけならば、誰か聡明な者がこの状況に一早く気付き、何とか対処し、誰が敵で誰が味方かをハッキリさせようとするかもしれないが、その判断すらも鈍らせるものが、この戦場には散らばっていた。

 それは。

 

「う、うぁ……く、苦しい……」

 

「おい……まさか、さっきの流れ弾でガスマスクが故障したのか!?」

 

 突如として苦しみだしたドイツ軍の兵士が、このアフリカの自然豊かな地面に倒れ込み。もがき苦しんでいた。

 隣の兵士が急いで駆け寄り、新調のガスマスクを司令部に要請しようとするが、間に合わない。

 仲間を助けんと無線機を手に取った兵士の頭を、一発の銃弾が貫いた。

 木陰に潜んでいた少年兵が撃った小銃の弾が、兵士の頭へと命中した。

 

 そう、こんな少年兵の気配すらも察知できぬ程に、彼ら大人の兵士たちの判断力を鈍らせている要因……それは、この島中に蔓延している毒素だ。

 原因不明の毒素。強いて判明している事があるとすれば、それは大人達に多大な脅威を齎し、そして子供達には無害であるという事だけ。

 そう、この地は最早子供達の王国。

 ここに侵入してくる大人達は、ナノマシン抗体を投与されたものや、ガスマスクと防護服を着用した者でなければ例外なく、あの空を舞う巨人からばら撒かれるBTナノマシンにより、体内から細胞を食われ、分解され、壊死していく。

 

 それらが分かっているからこそ、少なくとも今判明している絶対敵(少年兵)たちがそのアドヴァンテージを獲得していると分かっているからこそ、彼ら大人達は冷静な判断力を鈍らせていた。

 死の恐怖が、常に自分達の周囲に蔓延しているという恐怖が、そして敵があの少年兵たちだけではないという事実が、この極限状態を作り出していた。

 

 そう、世界は今、割れようとしていた。

 

 多くの暗部が蔓延り、大人達を殺す毒素が蔓延し、本来ならばアラスカ条約によって禁止されている筈のISの兵器運用すらもが成されているこの極限状態が、まさか一人の子供によって作り出された惨状である事を、誰が想像できようか。

 敵は巨悪だけではなく、自分達大人自身の醜悪さすらものが敵なのだ。

 

 先を進めばそこにあるのは混沌。

 しかも、この戦場とされている場所は、本来ISやここに持ち込まれた暗部、そして襲撃されたモンド・グロッソとは何の縁もない、それでいながら国連から一つの国として認可されている土地の一つなのだ。

 何の関係もない国で、少年兵たちと、各国の特殊部隊、それらのほとんどが真の事情を知らぬまま、この国の正規軍の目の届く前でこうして殺し合っている。

 

 戦いが終結した所で、誰一人として得るものがない戦いなのだ。

 ここの戦いに意義を見出している者達がいるのだとすれば、それはおそらく――――。

 

「大人だぁッ!!」

「大人達だぁッ!」

「やっちゃえッ!!」

 

 今まで大人達に対して積もり積もった怨念をぶつける機会を得た、少年兵や遺伝子強化体たちだけであろう。

 彼らはただただこのひと時を待っていたのだ。大人達と戦争し、大人達を殺し、自分達の王国の建国の日を、武を以て示すこの日を、その狂乱の時を待ち続けていたのだ。

 子供であるが故の浅慮、だがそれ故に彼らは大人達にとっての脅威になり得た。

 そも、大人達にとって自分達が倒すべき絶対敵が子供達であったという事自体が想定外の出来事だったのだ。

 第二回モンド・グロッソの会場を襲撃し、中止に追いやり、あまつさえ開催国の政府に世界最強の遺体を要求して見せる程の肝力を持った者達が、こんなに小さいとは思わなかったのだ。

 彼らは何も知らず、何の覚悟もないままこの子供達の王国に足を踏み入れてしまっていた。子供を殺す覚悟も、子供に殺される覚悟も持ち合わせぬまま。

 故に、モンド・グロッソを妨害した絶対敵から目を背け、そこには彼ら大人にとっての都合のいい敵がいたのだ。

 理由は分からないが、明確な敵意を掲げて此方に銃を向けて来る、自分達と同じ大人の部隊もまた敵としてこの戦場にいたのだ。

 根が善良な大人達にとっての都合のいい敵は、同じ大人達だった。

 

 そんな大人達同士の争いに、漁夫の利を仕掛けない少年兵たちではなかった。

 装甲車に乗り込み、遠くから小銃を連射して大人達を鉢の巣にしていく。戦場において屠るべき敵から目を逸らした末路がどうであるかは、語るまでもない。

 大人達は子供達を殺す事に僅かばかりでも抵抗を覚えるが、少年兵たちにはそれがなかった。

 ただ、王の命令のままに狂乱の時を楽しんでいた。

 

『殺せ! 大人達を殺せ!』

 

 王からの命令が下る。

 彼らに大人達など必要なかった。彼らには王がいた。

 同じ子供でありながら、どの大人よりも優れた能力を持つ王が、彼らにはいるのだ。

 

 銃声が飛び交う島のジャングルの中、一機のIS、かつて亡国機業のオータムの専用機として運用されていた、〈アラクネ〉と呼ばれるISが大人達の部隊を蹂躙していた。

 装甲の一部である、顔面を覆うマスクには六つの複眼らしき模様が描かれ、本体の手とは他に、八つの装甲脚が取り付けられた、蜘蛛のような形状の大型IS。

 顔の見えない搭乗者の後ろから伸びている髪の色は、かつての搭乗者のものである栗毛色ではなく、光を反射し刃物の如く煌めく銀髪。

 

「フ、フフフ……」

 

 複眼模様のマスクの下で、銀髪の少女は興奮のあまり笑いを抑えきれなかった。

 アラクネを展開した少女の眼下には、無数の大人達の屍が積み重なっている。少女に名前を与え、そして理不尽に奪っていった大人達が、今の自分の下に倒れて無様にその生を終えたという事実が、少女の今まで抑えていた感情を爆発させんとしていた。

 

「フ、アハハハ!!」

 

 マスクの下で、その黒い眼球の中でひと際目立った黄金の瞳が開かれ、少女は嗤った。

 ああ、何という昂揚だろうか。これ程の思いと感情が自分の中で渦巻いていたなんて思いもしなかった!!

 合成された遺伝子配合から作り出されたいびつな生き物、決して日を浴びる事のない怪物(ビースト)

 故に、大人達は自分達の存在を日の目に出す事はなかった。自分達で生み出しておきながら、存在してはいけないものと、失敗作という烙印を押し付けて、此方の意志など無視して処分しようとまでした。

 大人達は無責任だ。自分達を処分する事を己の責任だと法螺を吹き、更にはその責任を取る己に対して陶酔する。それが大人という生き物なのだと、少女が崇拝する王はそういった。

 

 ああ、正にその通りだと、少女は思った。

 

 故に、世界中の大人は駆逐されなければならない。

 自分達兄弟は散々その身勝手な大人達から色々な仕打ちを受けたのだ。自分達が大人達にそれをやり返してもバチなど当たらない。

 そうだ。

 お前達は、大人達はこの世界にいらない!

 

「私達に、貴方達は必要ない!」

 

 自分に砲口を向けてきた戦車部隊を片づけ、死体が埋もれた鉄くずの上に立ち、少女は叫んだ。

 

「私達の世界に、あのお方の世界に、お前達はいらない!!」

 

 そうだ、自分にもう大人達は必要ない。

 自分に戦闘訓練を叩きこむ大人達も、名前を与えてくれる大人達もいらない。

 少女には王がいる。

 自分に、『クロエ・クロニクル』と名付けてくれた王がいるのだ

 だが、自分の名前は決まっていても、あのお方の名前はまだ決まっていない。

 

『私は、私の原点を駆逐し、初めて自分に名前を付ける。だから、それまで待っていろ』

 

 そう名前だ。己の存在意義、己の存在理由。

 あのお方は自分にそれを与えてくださったのに、あのお方にはまだそれがない。この戦いが、あのお方の名前を決めるための戦いだというのならば、勝利を献上しなければならない!

 

「ま、待ってくれ……」

 

「ゆ、許してくれ……!!」

 

 辛うじて生き残っていたのか、鉄くずの中から二人程の大人が出てきた。

 銃を捨て、こちらに降参の意思表示を示していた。

 彼らの精神はもうボロボロだった。

 訳も分からず自分を攻撃してくる他国の軍隊、そして子供達を相手に戦争をしなければならないという事実。

 極めつけに、この息苦しいガスマスクを取れば、自分達は即座に辺りに蔓延した謎の毒素によって命を奪われるというこの極限状況が、彼らの精神をこれ以上にない程追い詰められていた。

 

 そんな大人達の命乞いを、クロエは鼻で笑った。

 あまりにも、滑稽すぎて。

 

 助けて、許して、殺さないで。

 

「そんな言葉すら吐けずに、処分されていった兄弟達が、今まで何人いた事か……貴方達にそんな言葉を言う資格なんてない!!!」

 

 アラクネの装甲脚に取り付けられたブレードで一振り、それだけで二人の大人の身体は真っ二つになり、宙を舞った。

 

「アハハハッ、貴方たちには分からないッ! 私達はそんな言葉を吐く事すら許されなかった! そんなお前達大人があろうことかそんな言葉を吐くなんて――――」

 

 絶対に、許すものか。

 

 お前達は名前を与えられた、己の存在意義があった、日の目を見る事が出来た、理不尽な状況に対して嘆く自由もあった。

 戦場においては誰もが平等だ。戦場は不平等だと嘆く輩は多いが、自分達にとっては戦場こそが唯一平等を感じられる場所。そのように、大人達は自分達を造った筈なのに、その所業を見て見ぬふりをして受け入れない。

 戦場という何よりも平等を感じ取れる場所で、それ以上の平等を享受してきた者がその戦場で不平等を嘆くなど、おこがましいにも程がある!

 

 泣くように嗤うクロエの頭上から、更に大人達の部隊が降ってくる。

 先よりも殺意を感じさせる装備。

 アラクネを自国に取り返さんと迫る米国の特殊部隊、名も無き部隊(アンネームド)。この戦いにおいて、おそらく一番試作型エクスカリバーに拘っているであろう部隊。

 

「大人達は、殺す」

 

 私達は、造られた怪物(ビースト)

 

 世界が私達を受けいれいないというのであれば、私達を受け入れてくれる、必要としてくれる混沌の世界を築き上げる。

 真の平等のために!

 

 全ては、私に名前を与えて下さったあの方に、名前を付ける為に。

 

 

 他の場所でも、少年兵たちは暴れまわっていた。

 戦いに生ける兵器として造られ、戦う事を強要されてきた遺伝子強化体たち。アフリカな理不尽な自然の中で、大人達から理不尽な仕打ちを受けてきた少年兵たち。

 あらゆる戦いに適応し、圧倒せしめる遺伝子強化体たちと、アフリカの大自然で生きてきた少年兵たちの相性は、この地においては抜群な相性を誇った。

 

 彼らは酔いしれていた。

 辺りに蔓延した毒素により弱っていく大人達、そして空より振ってくる、王からの支援攻撃。

 彼らは試作型エクスカリバーによりもたらされる力を、自分達の物と錯覚し、狂うように弾丸をばら撒きながら、大人達に抗う戦士という己に自己陶酔していた。

 

 彼らは最早少年兵ですらなかった。

 死を恐れず、大人達を殺す事に快楽を見出す怪物(ビースト)と化していたのだった。

 

 

     ◇

 

 

「こんな物かっ!? もっと来るがいい! そして殺されろ! 見てるか姉さん!?」

 

 最早言葉にすらなっていない興奮の声を上げ、マドカは試作型エクスカリバーの中で何処かに潜んでいるであろう姉に呼びかけた。

 返事は勿論帰ってこない。

 だが、その存在をマドカは肌で感じ取っていた。

 同じ遺伝子を持つが故のつながりか、理屈は分からないが、同じ舞台に自分達姉妹が戦っているという事実に、マドカは更に胸を高鳴らなせた

 

 次々と試作型エクスカリバーに撃墜されていく戦闘機。

 いくつの国の部隊を落としていったかは数えるのも億劫だった。

 そんな快勝を続ける、マドカが駆る試作型エクスカリバーに新たなる機影の群が更に近付いてきた。

 

「ふん、次から次へと……!」

 

 コックピットの中で口角を歪めたマドカは、拡散レーザーで次々と戦闘機を落としていくが、その戦闘機からパラシュートで降下した兵士たちが次々とISを展開し、試作型エクスカリバーへと襲い掛かった。

 そのISの数は20は軽く超えてきた。

 

「未登録コア……なるほど、ルクーゼンブルクまで出張ってくるとはな! 面白い!」

 

 彼らも切羽詰まっているという事か。

 これ以上馬脚を露すのもリスクであろうに、未登録コアを搭載したISを使ってでも、自分を止めたいようだ。

 

『そこの機体のパイロット! 直ちに降りろ!』

 

 戦闘にいたルクーゼンブルク公国のISパイロットが自分に呼びかける。

 戦場のど真ん中で敵に声を呼びかけるとは、呑気な連中だ。

 

『その機体のISコアは元はといえば我が国の所有物だ! 直地にその機体を我らに譲れ!』

 

 

 

 

――――という事だが、答えはどうだ?

『いやだ。絶対に行きたくない。あいつらは、英国の連中より質が悪いから』

――――そうか、ならば。

 

 

 

 

 一応のため、自身が駆る巨人のコアに問いかけたマドカであったが、コア人格はソレを拒否した。

 口角を釣り上げたマドカは、その答えを代弁するかのように、ルクーゼンブルクのIS部隊に向けて剣を振り下ろした。

 拒否の答えと受け取った、ルクーゼンブルクIS部隊は、そんな攻撃など予想していたといわんばかりに、一斉に散開してその剣を交わした。

 

「ほぅ」

 

 感心するマドカ。

 どうやら今までの奴等とは違うようだ。

 散開したIS部隊の動きをマドカは敢えて見守った。

 

 さあ、一体何を仕掛けて来る?

 力の差は歴然、この巨人を前に、あいつ等は一体どのような手を撃ってくるのだ?

 

 まるで王座に佇む王のような余裕さを醸し出しす試作型エクスカリバーの周りを、彼らは最高速で飛び始めた。

 その連携は完璧、その動きの精度はマドカの目から見ても悪くはなかった。

 そして、彼らはアクションを仕掛けた。

 

「これは……」

 

 気が付けば、試作型エクスカリバーの周囲にワイヤーが張り巡らされていた。

 ただのワイヤーではない。

 ISのエネルギーシールドを阻害する電磁波が流れるワイヤーが、試作型エクスカリバーの周囲を取り囲んでいた。

 そして。

 

『捕えろ!』

 

 一瞬の間も許さぬ速度で、ワイヤーを張り巡らせたIS部隊が各自に張ったワイヤーを引き、試作型エクスカリバーを捕えんとする。

 ワイヤーの包囲網が一斉に縮まり、試作型エクスカリバーを捕えようとする直前。

 

「ふッ」

 

 マドカは、そのコックピットの中で薄ら笑いを浮かべた。

 そして。

 

『何っ!?』

 

 彼らが捕えたのは巨人ではなく、巨人が持っていた(エクスカリバー)の方であった。

 あの一瞬の反撃すらも許さないタイミングで、マドカはその巨人の剣を包囲網の内の一本のワイヤーに引っ掛け、振るう事でむりやり突破口を作り、即座に剣を手放して、剣だけを彼らに捕えさせた。

 

 しかも、ISのハイパーセンサーすらも見切れないスピードで、その巨体を動かし、スラスターすらも使用しないでその芸当をやってみせた。

 

「方法としては悪くない。だが、あまりにもお粗末だなぁ!!」

 

 ワイヤーに捕えられた剣の柄を再び掴み、マドカはワイヤーを射出しているIS部隊ごと、その刀身を振り回した。

 

『グぅッ!?』

 

「餞別だ。受け取れッ!!」

 

 空に投げ捨てられたIS部隊に向け、マドカは試作型エクスカリバーの肩から数十発の小型ミサイルを放った。

 

『撃ち落とせェッ!』

 

 射出したワイヤーを切り離したIS部隊は、一斉に武装を構えてミサイルに向けて弾丸を連射するがそれが当たる事はない。

 彼らの狙いは粗雑な訳では決してなかった。

 

『何故だッ、何故撃ち落とせん!?』

 

 本来ならば、標的だけを意識して追尾する筈のミサイルが、自身を撃ち落とさんとする弾丸すらも避けながら、IS部隊に迫った。

 マドカが放ったミサイルはただのミサイルなどではない。

 いうなれば、ビットそのものがミサイルの役割を放つ、ミサイルビットならぬ、BTミサイル。

 マドカは数十発以上もの小型ミサイルの軌道を、その一つ一つを精密に操っていたのだ。

 さっきまでは拡散レーザーの弾の一発一発すらも偏光射撃で制御してみせたマドカにしてみればこれぐらいの事は朝飯前だった。

 

『ッ、各機、回避ッ!!』

 

 これ以上は無駄弾になると悟った隊長は部隊に回避するよう呼びかけるが、そんな隊長の英断すらもマドカは嘲笑った。

 

「残念だな。ソイツ(ミサイル)は囮だ」

 

 回避行動を取るIS部隊にマイクロミサイルは、避けられたその直前、命中していないにも関わらず、一斉に爆発し、その煙がIS部隊の視界を一気に覆った。

 ミサイルは囮に過ぎなかった。

 マドカは自身が操るミサイル一つ一つに、更に偏光射撃による拡散レーザーを放ち、さらにそれらのレーザー一発一発を制御しながら、命中させた。

 

 視界を煙で覆われ、混乱したIS部隊に向け、マドカは(エクスカリバー)を背中にマウントし、砲撃モードに切り替える。

 そして、刀身から砲身へと姿を変えたエクスカリバーの砲撃により、IS部隊は悲鳴も上げる間もなく霧散していった。

 明らかにオーバーキルであったが、それだけでは終わらなかった。

 放たれたレーザー砲撃はルクーゼンブルクIS部隊を焼き尽くすだけでは飽き足らず、その軌道を次々と変え、島の上空を飛びまわる戦闘機やIS部隊を次々と薙ぎ払っていく。

 

 砲撃を終えた試作型エクスカリバーは1秒たらずで、その砲身を刀身へと戻し、再びその剣を翳し、マドカは笑った。

 

――――一歩リードだな、姉さん。

 

 あんたがこうしている間にも、次々と犠牲者は増えるぞ?

 お前の遺伝子が発端で起こったこの戦争は、お前が私の前に現れなければ更に激化するぞ?

 早く出てこなければ、お前が作り変えたこの世界は終わり、私が望む世界が誕生するぞ?

 

 そうなれば、お前は敗北だ。

 お前は私に敗北する。

 

 そうなりたくないならば、早く出てくるといい!

 

 

     ◇

 

 

 あの光景、どこかで見覚えがあると、織斑千冬はそう思った。

 アリーシャと共に島の樹海に身を潜め、次々と葬られていく兵士や少年兵たちの断末魔を聞きながら、千冬は暮桜のハイパーセンサーだけを起動し、その戦いを見ていた。

 いや見てしまっていた。

 

「あ、ああ……」

 

 あまりにも、悍ましかった。

 圧倒的な力を持つ一体の巨人が、その巨大な騎士の姿をしたISが、次々と戦闘機やISを葬っていく。『白騎士事件』とは違う。

 ミサイルなんかじゃない、あそこには皆人が乗り、そして操縦しているのだ。

 

 悍ましい、アレは何だ?

 あれほど悍ましい物など見た事ない筈なのに、何故見覚えがあるのだ!?

 何故私は、アレに対して既視感を感じているのだ!?

 

 あの巨人に乗っているのは、小さい頃の自分と瓜二つの姿をした少女。

 まるでかつての白騎士の如く、己の遺伝子に込められた呪いを省みず、その遺伝子の力だけを都合よく振り回していたあの頃の自分によく似て――――

 

 

 

 

 

 自分に、よく似て――――

 

 

 

 

 

「……あ……」

 

 そして、ようやく気付いた。

 どうして見覚えがあるのか。

 どうしてソレを今まで悍ましいと感じていなかったのか。

 

「アレは……私じゃないか……」

 

 身勝手な理由で世界を変えようとした自分。

 あの巨人は、あの時の自分と何ら変わりなかった。

 

 白騎士事件の映像は、束のハッキングによって全世界の映像に垂れ流された。ソレは世界に大きな影響を与え、世界は瞬く間に変わった。

 ――――ISには、女しか乗れない。

 それに追い打ちするように、束の口から世界へ発信されたその事実。

 それだけで、世界は変わった。

 

 どうして、今まで気付かなかった?

 どうして、客観的に見る機会が訪れるまで、ソレに気付かなかった?

 

 あれ程の悍ましい行為を、かつての自分も行っていたという事実。

 そして、その行為を今度は自分の妹が行っているという衝撃。

 

 まるで、自分達の遺伝子にそうなるように刻まれているのだといわんばかりに、織斑千冬は過去の醜い己を、皮肉にも妹が再現するという形で見せつけられていた。

 

 『白騎士』事件と何が違う? 死人が出なかったから違わない?

 

 そんなの、ただの言い訳でしかないじゃないか。

 あの妹は、かつての自分とまったく違わない。自分は、あの妹と何にも変わりはしない。

 

 自分勝手な理由で世界を変えようとする愚か者。

 千冬が変えた世界を、今度は千冬の妹が自分勝手な理由でまた変えようとしている。

 

――――逃れられないのか? 私達は、この呪われた遺伝子から逃れられないとでもいうのか!?

 

 逃れたと思っていた。

 だけど、全然変わって何ていなかった。

 何処まで言っても、自分達兄弟は、いびつで、醜いものなのだと。

 

 その事実を、千冬は見せつけられていた。

 

「あ……ぁ……そんなぁ……」

 

 ようやく、千冬は自覚した。

 呪われた運命を身勝手に妹に押し付けた自分。

 その妹は、かつて己が行った所業と同じ事をしている。

 世界はまた、変わろうとしている。

 

 千冬が作り変えた世界よりも、もっと醜い世界へなろうとしている。

 

 自分が元凶となった呪いは、様々な形で連鎖していく。

 

 その日、織斑千冬は初めて、己の罪を本当の意味で自覚した。

 

 

     ◇

 

 

 亡国機業の本部。

 支部基地が子供達の蹶起により壊滅し、スコール達は現在そこにいた。

 幹部同士の会議を終えたスコールが、会議室から出てきた。

 

「スコール!」

 

 体中に包帯を巻いたオータムが、心配そうな様子でスコールに駆け寄る。

 見るからに、スコールは憔ていた。

 

「……オータム」

 

 オータムの姿を見たスコールが今にでもオータムに縋るかのような様子でオータムの名を呼ぶが、それはいけないと思ったのかすぐに何時もの調子に立ち戻った。

 

「オータム、上層部はついにマドカを排除する決断を下したわ」

 

「ああ。だがスコール、その……」

 

「ええ。私のミスが招いた事だから仕方ないけれど、今回の事件で私の立場はかなり危うくなるわ。何等かの形で責任を取らなければ、私も、貴女も、どうなるか分からない。……ごめんなさい、オータム」

 

 真剣な表情で、スコールはオータムに頭を下げた。

 全ては、あの子供達の蹶起を許してしまったスコールの失態だった。

 上層部はそのスコールをきつく責めた。

 

 亡国機業の幹部、それも実働部隊の隊長ともあろうものが、一人の子供を制御しきれず、今回のような事態を招いた。

 どのような原因や理由はあれど、その責任を取るのに最もふさわしい立場にいるのはスコールだった。

 

「謝るなよスコール。私だって――」

「違うのよオータム」

 

 自分だって、あの餓鬼を舐めていたから、お前だけのせいじゃないと言おうとしたオータム。

 しかし、そのオータムの言葉をスコールは遮った。

 

「私は、あの子に余計な感情を抱き過ぎていた。……こうなる前にとっとと処分しておけばよかったのに、私はソレをしなかった」

「スコール……」

 

 俯くスコールに何も言えなくなるオータム。

 

「幸いな事に、上層部はこれ以上にない、責任を取る手段を私に与えてきた」

「……それは?」

「エクスカリバーの使用権を渡されたわ」

「ッ!?」

 

 エクスカリバー――その言葉にオータムは戦慄を覚え、思わず肩を震え上がらせた。

 暴走した聖剣には、真の聖剣をぶつければいいという事なのだろうか。

 

「オータム。今回の件は非常にデリケートよ。私達にとっても、そして世界各国にとっても」

「……それは一体?」

「今戦場となっている場所は、国連がれっきとした国として認可されている地域。そこに少年兵たちというイレギュラーと、書類にない特殊部隊や、各国の正規軍が、あの国の正規軍の目の届くところで、堂々と意味のない戦争を繰り広げている。

 世界は、一人の子供の思うままのものに変わろうとしている。世界を憎む、あの子によって」

「……一部の国が自国の暗部の漏洩を恐れて、餓鬼どもは愚か他の国の部隊にすら攻撃を仕掛ける……確かに世界が割れてもおかしくない状況だな。しかも各国がこぞってアラスカ条約に反してISを兵器投入している」

「それだけならばまだ問題ないわ。先に向こうがISを使って仕掛けた戦争。言い訳ぐらいは効く。だけど、問題はソレをまったく関係のない国で、了承も得ずにソレを行い、戦争にまで発展させた所よ。しかも、少年兵たちは先にISの単一仕様能力を以て、その国の一部の住民をはじき出して勝手に占領した。当国がその事実を知る前に、各国の部隊がこぞってその地域を戦場にしてしまった。……言い訳は、最早効かなくなる」

 

 どちらが先に仕掛けたかなどもう関係ない。

 一部の国が自国の暗部の漏洩を防ぐという醜悪な理由でルールを破った事により、世界は一人の少女の望むものに変わろうとしている。

 

「影響は各国だけじゃない。ルクーゼンブルク公国すらもがこの戦いに関わった事で、事の発端が私達亡国機業にもある事が露呈する。

 あの子が望む世界は、一見私達亡国機業が望むものと一致しているように思えるけれど、だからといってその望みが叶えられれば、私達も終わる。

 だから、上層部は決めたのよ」

 

「……何をだ」

 

「上層部は現在、各国の首脳に呼び掛けて、事の事態の重さを理解させる事に尽力しているわ。そして、私にある役目を言い渡した。

 エクスカリバーの力を以て、全ての痕跡を薙ぎ払えと」

 

「ッ!? それって――――」

 

「ええ、あの地を焼く。戦場となった痕跡も、あの島に蔓延るBTナノマシンも、ISが兵器投入された痕跡も、全て」

 

 試作型エクスカリバーを巡り、引き起こされた戦いを、完成型エクスカリバーの砲撃によって終止符を打つ。

 それが上層部の出した答えなのだった。

 

「それでも大きな禍根は残るでしょうね。既に全てを隠しきるには手遅れな状況まで来ている。けれど、これしか方法はないわ」

 

「……そうか」

 

 項垂れるオータム。

 最早、『白騎士事件』など目じゃない。

 世界に衝撃を与えるには留まらない、大きな禍根まで残す。最悪、新たな戦争に発展してもおかしくない。

 ISの存在が揺らぐ可能性だってある。いや、十中八九揺らぐであろう。

 ISとまったく無関係な国の土地で、ISを用いた戦争を招いたとあっては、確実にISに反対する声が世界各国で続出する。

 そうなって、ようやく最善と言えるのが今の状況なのだ。

 

「……オータム。私は、これからエクスカリバーの制御室へ向かうわ。暫くは、一緒にいられない」

 

「ッ、スコール、分かった……」

 

 暗に、しばらく一人にしてくれという空気を醸し出すスコールに、オータムは無力感に苛まれながらもそれを了承した。

 二人は通路で分かれ、スコールはエクスカリバーの制御室へと向かった。

 

 やがて、向かう途中でスコールは立ち止まり。

 

ドンッ!

 

 不意に、その通路の壁に向かって拳を思い切り叩きつけた。

 サイボーグであるが故、拳からの出血は一切なく、逆に叩きつけられた壁が思い切り凹んでいた。

 しばらく拳を壁に凹ませたまま、スコールは荒くなった息を整え。

 

「ホントっ……忌々しい子ッ!!」

 

 まるで、今まで溜めていた感情を爆発させるかのように、叫んだ。

 周囲に人影はない故、その叫びを聞き届けたのはスコール本人のみであるが、もし周りに人がいればあまりの剣幕に退いてしまう程の迫力があった。

 

 

 悔しさのあまり、スコールは拳に力を込め、壁を更に奥深くまで凹ませた。

 唯一の肉親すら失い、幻肢痛に苛まれる日々。

 その幻肢痛を再発させ、スコールをここまで苛立たせた本人は現在、世界を敵に回して大暴れしている。

 

 思い出すのは、あの言葉。

 

『私は貴様らとは違う!!』

 

 あの日、マドカはそう言って自分達の元から去っていった。

 

『織斑マドカは自分の出生の真実を知ってしまった。クローンとして生み出された自分の運命を呪い、身勝手な大人を恨み、自らのオリジナルである織斑千冬に憎悪した』

 

 マドカを初めてエムとして迎え入れた日、彼女の底知れない憎悪をその肌で感じたスコールは、意識もしない内にマドカという少女に入れ込んでしまった。

 故に、教え込もうとした。

 今のままでは貴女は生き残れない、怒りのままに生きていても鎮まらないと、故に忍べと。機会を待てと。もっと、貴女を貶めた大人達と同じ位に醜くなれと、そうしなければ目的も果たせないと。

 

『ようはお前達も、非力な子供でしかなかったんだ』

 

 だがマドカは、そんなスコールの予想の斜め上を行った。

 自分はお前達とは違うのだと、あまつさえそんな大人であるスコールから逆に肉親すらも奪い、見事にスコールの腹の中から蹶起してみせた。

 

――――お前ではこうはなれまい。

――――非力な子供でしかなかったお前達と、この私と一緒にするな。

 

 マドカから直接そう言われた訳でもないが、それでもマドカの在り方にスコールは否が応でも己の弱さだけを惨めに噛みしめる事しかできなくなっていた。

 身勝手な大人達に全てを決めつけられたマドカを、スコールはまだ子供だった頃の自分と無意識に重ねてしまっていた。故に、あの大人達と同じように、首輪をつけて身を以て教え込もうとまでして、マドカはスコールのソレすらも跳ねのけて、その世界から飛び出した。

 

 一瞬でも、あの姿に焦がれてしまっていた。

 あの頃の自分も、彼女のように強ければ、大人達に蹶起できる能力と力があれば。

 

 それなのに、それなのに――――何故世界を敵に回す暴挙に出たのだ!

 

 試作型エクスカリバーを手土産に、どこかの組織や国に亡命して自身や仲間の生命を確保すればいいものを、何故よりによって世界を敵に回すという無謀な事をしたのだ!?

 

 あの時、私にはできなかった選択肢を持っておきながら、何故敢えてその道を突き進むのだ!?

 貴方の戦いは本来ならば私達への蹶起だけで既に終わっている筈なのに、何故、どうして!?

 私からレインを奪うだけでは飽き足らず、なぜこうも見せつけて来る!?

 

 

 今となっては、貴女の存在全てが、不愉快だ。

 

「……消してやるわ」

 

 あれほどの能力がありながら、あえてバカな選択をしたあの悪童に、最後の指導をしてやろうと。

 自分達に対する蹶起を成功するだけで、それだけで満足するべきだったのだと。

 

「消してやる。貴女の存在全てを否定する。精々、敗北の時が来るまで王様気分を楽しんでいるといいわ」

 

 

――――貴女の全てを、貴女が築き上げた王国も、貴女が望む世界も、全て、粉々にしてやるわ。

 

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合
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