もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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怪物

 水面に墜落していった戦闘機や戦闘ヘリ(ガンシップ)から漏れた燃料によって、先の綺麗な水が瞬く間に汚染されていった湖の真ん中に浮かぶ中島。

 島に墜落した戦闘機の翼などは身を隠すためのバリケードに利用され、火薬の煙、鉛の臭いを以てその大自然を犯し尽くす。

 各国から派遣された部隊の大人達はそんな自分達の罪にすら気付かず、ただただ訳も分からぬまま大人同士で意味のない殺し合いを演じていた。

 自分達が何故この戦場に派遣されたのか、そんな意識は既に彼らの中にない。彼らにとっての本当の敵は誰なのか、それを語れる程の余裕を持つ者は既にいなかった。

 そんな混沌とした地獄を、空で次々と戦闘機やミサイルを落としながら見下ろし嘲笑う巨人を見上げ、アリーシャは呟いた。

 

「まったく、クソガキってもんじゃないさネ、あれは」

 

 いうなれば、あれは悪魔か。

 いいや、アレは悪魔ではない。あれは人間だ。人間の子。人間という怪物(ビースト)だ。

 知能のない怪物であればどれだけよかった事か。少女の仲間である子供達は、自分達が大人達から簡単に攻撃を受けない事をいいことに、そんな大人達の抗えない良心をドブに捨てるが如く、無慈悲に銃弾を浴びせるのだ。

 だからとて、子供達にまったく犠牲者がいない訳ではない。流れ弾はどうしようもなく当たり、それで命を落とす子供達も少なくはなかった。

 だが、元よりそんな認識できぬ恐怖に対して短慮な子供達がそんな事を恐れる事もなく、彼らはただ大人達と戦う戦士としての己に酔っていた。

 

 何たることか。あの少女は、自分は愚か引き連れた仲間の子供達すら同類の怪物に変えてしまった。

 あまりにも浅慮、だがそれ故に作り上げられた地獄。

 いや、それだけではない。

 周りの暴れまわる子供達が先の言ったような浅慮なのに対して、あの巨人を駆り暴れまわる少女だけはその類ではないのだ。

 

「意図してこの地獄を作り上げた……カ。ハハハ、滑稽じゃないカ。イタリアの戦乙女(ヴァルキリー)ともあろうものが、まんまとあのメスガキの思うがままにこの地獄に招かれたってかイ?」

 

 自分達の神聖な決闘場(モンド・グロッソ)を滅茶苦茶にされた怒り。アリーシャは、その怒りを己の意志として捉えたまま真っ直ぐにこの地獄の中に飛び込んでしまったのだ。……それこそが、あの少女の思うままであるのだと気付かずに。

 思えば、到底おかしな話なのだ。

 政府に世界最強の遺体という大袈裟な要求をしておきながら、自分達の居場所は知らせないという、一見穴だらけのように見える脅し。

 だが、違うのだ。あれは、他にあの巨人を欲しがる国と、ドイツ国を同じ土俵に立たせるために、あえて居場所を知らせなかった。

 出来る限り、自力でやらせる事でドイツ軍が到着するタイミングを他の国の軍と同じにしたのだ。

 居場所を知らせなかった所で、自分達がいつでも領土に向かってあのレーザー攻撃を仕掛けられる事は既に砲撃されたモンド・グロッソの件で証明済み。

 世界の注目の的であるモンド・グロッソ会場を砲撃の的に晒された以上、ドイツ政府は何が何でも居場所を特定せざるを得ない。

 

 そこまでの考えを巡らせる事のできる子供が、果たして浅慮であると言えるだろうか?

 敵を1つの勢力に限定せず、このような幾つ巴の状況を意図的に作り上げた。

 

 そうだ、自分はまさしく道化(ピエロ)だった。

 あの少女と織斑千冬の会話を偶然盗み聞きしてしまい、アリーシャは衝撃的な真実をこの際聞き流すと共に、少女の意図を理解してしまった。

 自分達戦乙女(ヴァルキリー)はまんまとあの少女のシナリオに乗せられてしまった。少女が敵対する筈だった『世界』が割れるという、そのシナリオの道化の一端を担わされてしまった。

 モンド・グロッソ大会を滅茶苦茶にされた怒りのままこの島に来たアリーシャを待っていたのは、自分が憎むべきであろう敵からの洗礼ではなく、まったく関係ない他国の軍からの銃撃だったのだ。

 無論、アリーシャは敵対するものには容赦なくその軍に対して報復してしまい、そして島の中心部にたどり着き、あの姉妹の会話を聞いて、犯人である少女の意図を悟り、さっそくアリーシャは己の行いを後悔した。

 他国軍に報復した自分、その浅はかさ、まんまと少女の意図に乗せられていた自分に。

 

 だが、それでも少女の王国も長くは続かないだろう。

 この戦いに少女が勝った所で、少女についていくであろう子供達は一体何人残ろうか。民と臣下を失った王は最早王ではない。

 ただ孤独な一匹の狼。いや、そもそも少女の本質はまさしくソレなのだろう。王の器はあっても、根っこのソレは一人で我が道をゆく一匹の狼だ。いや、王とはそもそもそういう物なのかもしれぬと、アリーシャはふと思った。

 遠目から一目で少女のその本質を見抜いたアリーシャは、木陰に腰を下ろしながら、空を埋め尽くすミサイルと弾丸の嵐を見上げた。

 

「難儀な事になったネ。そう思うだろう、ブリュンヒルデ?」

 

「……」

 

 一緒にこの安全地帯に身を潜めている千冬に、アリーシャは声をかけた。が、しかし千冬は無言の返事を返すばかり。先まで弟を取り返さんと躍起になっていた彼女は今では見る影もなく、ただ地面に俯いているばかりだ。

 ――――おいおい、かなり精神的に参っちまってるみたいだネ。こりゃあ。

 あんな顔が同じだけの他人の言葉、真に受けるものではないかと思うが、とアリーシャは口ずさもうとして、押し黙った。それは自分が言うべき言葉ではないからだ。……それを彼女に言ってくれる大人が周りにいるかと問われれば事実否なのであるが、それをアリーシャが知る術はなかった。

 

 

     ◇

 

 

 数えるのも億劫になる程のデータ数が移されたモニター画面に囲まれながら、スコールは鬼のような形相でコンソールのキーボードに指を打ち続けていた。直接自分の意志で聖剣を御せる向こうとは違い、こちらが御するのはエクスカリバーそのものではなく、あくまでそこに搭載されている操縦者の脳の電気信号。

 その電気信号を元に今のエクスカリバーのコンディションを随時チェックし、砲撃体勢に移行する準備を進める。

 本来ならば複数人で進めねばならぬ作業を、スコールは黙々と一人でこなしていた。上は彼女に一人として助手や助っ人を差し出す判断を下さなかった。この事態を招いたのは、あの悪童を制御できなかったスコールの責任であり、上はその責任をスコールに背負わせる腹づもりだった。

 それは皮肉にも、スコールにとっては有難い決断であった。今のこんな自分の姿を、誰かに見られたくない。今まで忘れようとすらしていた弱い自分が、他者に曝け出されるのを、いやそんな自分自身を思い出す事すらスコールには苦痛で仕方なかった。

 

 ズキッ

 

 不意に、失くした筈の身体が幻肢痛により痛んだ。この幻肢痛から逃れる術を、スコールは今度こそ失ってしまった。こんな醜い自分を見られる事を恐れ、オータムすら無意識に突き放してしまう始末。思い知ってしまうのだ、もう二度と子供を生めなくなってしまった自分。姪であるレインすらその能力を過信したがために、そこに付け込まれて蹶起のための生贄として利用され、使い捨てられてしまった。

 オータムといると、どうしても自覚せざるを得ないのだ。

 

 同性の恋人を作る事で、その幻肢痛から逃れる事を選んでいた自分に。

 

 かつて、自分の人生の全てを滅茶苦茶にした大人達の顔を、スコールは未だに忘れていない。しかし、自分もいつの間にかのその大人達の仲間入りを果たしていた。

 今度はその子供(自分)を使う側の大人になって、自分もまたあの大人達と同じような事をしていくのだろうと諦観していた矢先、その憶測は裏切られた。

 自分が使うであろう子供達の中に一匹、悪童が紛れ込んだ。

 

 そして、その悪童に全てが覆されてしまった。

 

 今は廃棄されしプロジェクト・モザイカ――通称、織斑計画。その織斑計画の最高傑作たる織斑千冬に対する対抗馬として捉えた、忘れ去られしもう一つの個体――織斑マドカ。

 しかし所詮は失敗作――首輪を付けるのには容易く、あの織斑千冬の弱点を探るためだけの道具として生かす価値しかないのだと、亡国企業は高をくくっていた。

 だが、その直後思い知らされる事となる。

 失敗作であるが故の――その執念深さを、成功作である事を引き換えに手にしたあの童の狡猾さを。その憎しみという感情の深さを。

 ある意味では織斑千冬すらも凌駕する、その(スネーク)の如き執念深さと狡猾さを、大人達は完全に侮っていたのだ。

 ソレを間近で見たスコールやオータムも決して例外には漏れず、監視用ナノマシンという、ある意味では一番大人達の油断を誘う玩具も原因の一端を担った。

 さらには近々、対象象の体の血液に定期的に投与する類の物では無く、対象の中枢神経に直接投与し、永続的に対象を監視し、監視時間が自身の制限時間や対象の生活習慣によって左右される事の無いタイプの監視用ナノマシンが開発されるという話もあったため、尚更スコールも含めた大人達のマドカに対する油断に拍車をかけただろう。

 

 そして、最も侮ってはいけなかったのは、子供であるが故の、その感情の爆発力。

 感情では戦場は左右できぬが、もしその感情を力に変える玩具があればどうなるか――答えは一目瞭然、スコールがのぞき込むモニターの画面にその答えは示されていた。

 

 大剣(エクスカリバー)を担いし巨人を駆る少女。ソレを用いて世界を敵に回した忌まわしき子供。

 己が世に受け入れられる存在ではないと知りつつも、いや知っているからこそ、世界を変えようと反逆している少女。少女と同じような存在の者達が自分たちが誇れるアイデンティティを確立する事のできる国家の樹立、ソレを目指して世界を敵に回した愚かな少女。

 

 世界を敵に回したものは滅ぼされなくてはならない、子どもだけでは国は成り立たない――大人であれば自覚できるが故に無視せざるを得ないその矛盾を、その子供心で無視しながら突き進む少女の姿が、スコールには殊更疎ましく、羨ましく映った。

 

「邪魔……なのよ……これ以上、見せつけるな……!!」

 

 最早遺伝子などの問題ではない、単純に器が違ったのだ。

 あの時、大人達に対して何もできなかった自分と、あのモニターの向こうで暴れ回る少女では、多くの同志からのカリスマを集めて彼らの王で在れる。

 

 ……だが、所詮は子供だ。

 どう器が大きかろうと、どう力を誇示付けようと、初戦は知恵の浅い子供の考えだ。

 いずれあの少年少女達は瓦解する。例え世界を敵に回さずとも、一人の子供が王を続けるのは限界があるのだ。

 

 だから、せめて自分の手でソレを思い知らせてやりたい……スコールの中の思考は最早それしかなかった。大人達に抗うマドカに惹かれた子供達と同じように、彼女も形は違えどその在り方に影響されたのか、その精神は完全にあの時の子供に戻っている。

 大人達に対して一矢も報いることができなかったあの子供の頃の自分が、あの少女に対してどうしようもない劣等感をスコールに抱かせているのだ。

 

「消えろっ!消えろっ!消えろっ!消えろっ!」

 

 まるで自分で無いようだと、スコールは思った。いや、これこそが自分なのだ。今まで幻肢痛から逃げていたからそう思うだけで、今のように癇癪を起こしながらコンソールを弄る醜い姿こそが、本当のスコール・ミューゼルなのかもしれないと。

 ならば、尚更この衝動とはおさらばしなければならない。

 こんな姿、とてもではないがオータムに見せられた物では無い。コレが終わったら、今度こそこの幻肢痛、昔の己とさようならをしよう。

 オータムと一緒にいる己こそを、本当の自分としよう……そんな思いすらもが、結局は幻肢痛からの逃避であるとも気づかぬまま……。

 

 ――エクスカリバー……エネルギー充填率80%を突破……発射可能領域へと達しました。

 

 コンソールからのCPU音声によるアナウンスを聞き取り、スコールは再びモニターの向こうの世界を凝視する。

 地上も空も漏れなく戦場……地獄と化した中東の湖の中島にて広がる戦禍の煙が舞い上がる世界の空にて、スコールの目標は未だに癇癪を起こした子供のまま暴れている。

 西洋の騎士を象った巨人を駆り、周囲の大人達にその憎悪を叩き付けている。既にその被害は人名にはとどまらず墜落した戦闘機から漏れ出るオイルが僅かながら自然豊かの湖の水を汚していく。緑は燃えてゆき、そこには炭と焦土が広がる世界と化していく。

 そんな状態になったにも関わらず未だにアソコを国であると少女は謳うのだから、その度胸にはいっそ笑いすらこみ上げてくる。……だが、それも今日で終わりだ。

 

「消えなさい」

 

 太陽の光からエネルギーを吸い取った真・エクスカリバーの主砲が、蠅の国へと向けられる。

 これで終わりだ。

 聖剣をシンボルに樹立した国家は、聖剣の一撃を持って終焉を迎える。

 

 ――エクスカリバー……充填率100%。発射まで5……4……3……2……1……。

 

「発射」

 

 聖剣の光が、彼の地へと降り注ぐ。

 無慈悲に、冷酷に、偽物の威光を掲げる愚者に、真の威光を見せつけんと、真の聖剣の一撃が振り下ろされた。

 少女の駆る試作型エクスカリバーの主砲の規格すらも上回る極太のレーザーが(そら)から蒼穹を貫き、蠅の王国へと降り注ぐ。

 

 その威光を、スコールは嗜虐的な笑みを浮かべて眺めた。

 ――さあ、終わりなさい。後悔する暇も無く、貴女が憎む兄弟達と、貴女に付いていった兄弟達もろとも焼かれなさい!!

 そんな怨念の籠もった光を放つエクスカリバー。

 

 しかし、またしてもスコールは思い知らされる事となった。

 所詮、虎の威(エクスカリバー)を借り受けただけの自分と、虎の威そのものと化した少女との違いを。

 その器の違いを、またしても見せつけられる事となった。

 

「なっ……」

 

 そのあまりの光景に、最早唖然とする他なかった。

 奇跡とはまさにこの事か、いやそれともこれはあの少女の執念が成した神技なのか。

 まるで自分のような矮小な憎悪など、あの少女の憎悪には到底届かないのだと言わんばかりに、その技は成された。

 

 スコールがモニターを通して見た光景――ソレは、スコールの放ったエクスカリバーのレーザーごと、自身もまた放った主砲のレーザーの弾道を逸らしている巨人の姿だった。

 

 

     ◇

 

 

「これが世界を敵に回すという事か……存外楽な物だなぁ! 貴様もそう思うだろう、姉さん!?」

 

 次々と重なっていく屍と残骸の山を見下ろし、マドカは笑いながらどこかに隠れているであろう姉へと問いかける。

 

「確かにこれは楽しい!! あんたが白騎士として暴れ回ったのも頷ける!! やはり私たちは姉妹だ!!」

 

 自身もまた同じ悦びを味わえたことに、あの姉と同じ体験をしているという事実に、マドカは嬉しく、それでいて何処か憎々しく語る。

 やはり血は争えないのだ。

 今更血のつながりを確認するまでもなく、自分たちはこの殺戮の運命が刻み込まれた同じ血を共有しているのだと。

 ――誰も、生まれ持った運命に逆らうことはできないのだ。

 さて……我が愛おしき姉は一体いつ出てくるのだろうか?

 テントの場所に織斑一夏の生体反応はまだ残っている。あの状況でドイツ軍が人命救助をしている余裕などある筈もなし、ソレは当たり前の事なのだが……。

 

「……逃げたか……いや、あの女が弟を捨てて逃げる者か……」

 

 自身に向かってきたモンド・グロッソの戦乙女の一人が駆るISを剣で落としながら、マドカは呟く。忌々しく己の遺伝子に刻まれた運命を自分に押しつけたクソ姉であるが、だからといってあの女がその運命から逃れられたわけではない。

 白騎士事件こそその証拠だ。犠牲者ゼロなどという偽善事を謳うつもりだろうが、今の世の惨状を見ても本心からそう思えるのであれば余程の頭お花畑だ。

 自身と同じ血を引く者に限ってソレはないと、そう断じたその時だった。

 

『……マドカ、上!』

 

 不意に、脳内に響く相棒(コア人格)の声。

 その声に意識を引き戻され、マドカはハイパーセンサーを通じて、自身の上――正確には自身の駆る巨人の頭上の空から、とてつもない密度の高エネルギー反応があるのが確認できた。

 その光は――あの試作型エクスカリバーの主砲を受ける前に見たモノと同じ物で……。

 

「まさかッ……!!?」

 

 これまで余裕の様子で大人達を蹴散らしてきたマドカは、初めてここで焦燥の声を上げる。

 馬鹿か……頭お花畑だったのはむしろ自分の方では無いか、とマドカは先ほどの己を恥じる。

 この試作型エクスカリバーの、こいつの妹の存在を忘れてはいけなかった。この試作型エクスカリバーのコア人格が羨み、IS本来の本懐である宇宙進出を果たした唯一のIS。

 それでありながらやはり兵器としての宿命を逃れられる事ができず、搭載された少女と共に今は亡国企業の傀儡に成り下がった禁忌の兵器が。

 

「完成型エクスカリバー……!!」

 

 その名を叫ぶ。

 ソレと同時、モング・グロッソを襲った試作型エクスカリバーの主砲のモノとは比べものにならない程の目映い閃光が、この島目がけて降り注ぐ。

 この島は愚か、その周囲の湖や山々すらも飲み込み兼ねぬ程の巨大な閃光。これが着弾すれば被害はマドカ一人で済むモノではない。

 地上で戦っている子供達も、ソレらと戦っている大人達も、この国の土地も、皆あの閃光に飲み込まれてしまうだろう。

 

「ふざけるな……」

 

 呟いたマドカは、不意に試作型エクスカリバーの大剣を背中にマウントし、砲撃モードに変える。背中にマウントされた大剣がその刀身を展開させ、一本の砲身が覗き込む。

 

「こんな所でクソ大人達と心中するなど……あって溜まるかかあああぁぁぁぁああぁぁーッ!!!!」

 

 太陽のエネルギーを収束させた光に対して、マドカもまたその砲身に感情の光をため込む。精神感応性質であるBT粒子が、まるでマドカの憎悪に呼応するようにその砲身に収束していく。

 そして。

 

――プロト・エクスカリバー、発射!!

 

 絶対的な威光を持って降り注ぐ閃光に対し、圧倒的な個による力を持って放たれた閃光がぶつかる。

 しかし、皮肉にも拮抗しているとは言い難い。

 むしろ、その威力も密度も、そして精度も、圧倒的に完成型の放った向こうの方が勝っている。

 元より試作型、踏み台にされた個体に過ぎない。

 

 しかし、そんな理屈は、マドカに通用しない。

 そういう理屈をねじ曲げてこそ、織斑なのである。

 

「……ぐ……ぅあああああッ、ああッ、いッ!!」

 

 全身の神経が焼かれるように熱くなった。

 身体に直接生体接続されたこの体は、IS本体が受けたダメージや負荷が本人にも勿論降り注ぐ。

 今までは他ならぬマドカの戦闘センスによってこれまで大人達をほぼ無傷で撃退する事が出来たが、こと今回だけは力業のみに頼らなければならない。

 それでも、元々の性能の違いからか力業のみではどうにでもならないのが現状だった。

 

 それでも、少女は、成し遂げてしまうのだった。

 

「まだだ……まだ終わっていないッ!!!」

 

 そして、奇跡は起きた。

 常人ならば誰もがひれ伏せ、屈してしまうであろう理を前にして少女はソレを成し遂げた。その理を文字通り()()()()()

 

 偏向制御射撃(フレキシブル)

 

 曲がれ、ただそう念じた。

 

 その瞬間、試作型エクスカリバーの主砲から伸びていたレーザーの軌道が曲がり、ソレと正面からぶつかっていた完成型エクスカリバーのレーザーもまたソレに道連れになるかのように、()()()()

 合体した二つのレーザーはそのまま海の彼方へと飛んでいき、国すらも飲み込むほどの巨大な水しぶきを巻き上げた。

 

 遙か彼方にあったにも関わらず、その巨大な水しぶきはこの中島からも肉眼でハッキリと目視できる程であり、もしアレがこの島に着弾していたらどうなっていたかは想像するに難くない。

 だが、マドカは成し遂げた。

 その奇跡を、偉業を。

 

 同時に、世界は恐怖した。

 このレベルの災害を降り注がす脅威が、この巨人とは別にいる事に。何より、その災害を海の彼方へ受け流す怪物の存在に。

 

 エクスカリバーという両名の禁忌の兵器が生み出すその脅威に、ただただ恐怖した。

 世界はそのもう一つの脅威の存在に怯えつつも、今の目の前にそびえ立つ脅威、この巨人に立ち向かう他なかった。

 

「ハァ……ハァ……やってくれたな。スコール……!!」

 

 見るまでも、感じるまでも無く、マドカはハイパーセンサーを通じて見上げられる空を見て、その名を呼んだ。

 実際に完成型エクスカリバーを発射したのかは誰かはもう分からない。

 それでも亡国企業=スコールの図式が頭の中で成り立っているマドカからしてみれば、あの宙から放たれたレーザーの主犯はスコールに他ならなかった。

 

「そうか……姪だけではまだまだ足りないようだな!!」

 

 言って、マドカは再び試作型エクスカリバーの主砲にその光を収束させる。

 操縦者本人の感情エネルギーを弾とする主砲の装填速度は、太陽の光からわざわざエネルギーを充填する完成型のソレよりも遙かに早い。

 

「そら、お返しだッ!!」

 

 極太のレーザーが再び、蒼穹に向かって撃ち放たれた。

 

 

     ◇

 

 

 スコールは、戦慄した。

 お返しにと、あの青い星から放たれたレーザーが、完成型エクスカリバーのエネルギーシールドに命中し、少なくない損傷を被ってしまった。

 だからこそ思い知ってしまうのだ。

 最早、この完成型エクスカリバー単体ですら、試作型エクスカリバーを、いやあの怪物(ビースト)を止める事は叶わないのだ。

 元よりそれは分かっていたことだ。いくら主砲の威力や精度が勝ろうが、あのマドカという稀代なるBT適正を持つ操縦者により、試作型エクスカリバーはあのレベルのレーザー砲撃を自由自在に曲げ、操ることができる。

 もし、コチラが操る完成型エクスカリバーに搭載されている少女にも自我があるのならば、こちらも同じような芸当が不可能ではないのだろうが、それは少女自身の意思に委ねられてしまうので、どの道スコールの意思ではどうにもならない。

 

 何たることか。

 あれが、織斑計画の産物。

 いや、織斑マドカという戦場の申し子の持つ執念の贈り物だとでも言うのだろうか?

 

(あの娘、狂ってるの!?)

 

 人の歴史において時に誕生する厄種としかよびようのない人間達がいる。

 彼らはしばしば、運命の皮肉か、それとも持って生まれた強い意志が現実をねじ曲げたか。悪運、というだけでは説明のつかない起きてはいけない奇跡をおこしてみせることがある。

 

 今、少年兵や遺伝子強化体の子供達を率いて世界を敵に回しているマドカ。あの少女はそんな人物かどうかは自分には分からないが。

 それでも……。

 

(いくら砲撃を曲げられるからと言って……此方が放った砲撃ごと曲げるなんて……)

 

 どうかしている、そう思わざるを得ない。

 何たる事だ。

 自分たちはどうしてあのような規格外の少女を……あろう事か織斑千冬より格下だと捉えてしまっていた?

 精々が織斑千冬の二番漸じの作品でしかないと、だからこそ制御できると高を括って、その結果とんでもない事になってしまったではないか。

 

 最早、スコール一人の憎悪と完成型エクスカリバー一つで何とかできるものではない。

 認めたくなくとも、今度こそスコールは認めざるを得ない。

 

 どう足掻こうが、スコール・ミューゼルという器はこれから一切、織斑マドカに及ぶことは無いのだと。無力な子供だったまま成長した自分如きが、あの質の悪いプライドを持った悪童に敵う筈なのないのだと。

 巫山戯るな。手段がどうとはいえ、まだ弟を守るという動機で白騎士事件を起こしたブリュンヒルデの方がまだ可愛げがあるではないか。

 

 あれは、そんな物では無い。

 自分では、どうあってもアレだけは止めることはできない。

 

 バンッ!

 

 その事実をようやく受け入れたスコールは悔しさの余りコンソールに両手を叩き付ける。かろうじて理性は保っていたのか、コンソールの機器が凹むという事態は起こらなかった。

 

 自分では勝てない……その事実を受け入れたスコールの頭は、スコール自身でも不思議なくらいに昇っていた血が引いていった。

 今は、いかにあの災害を葬るか……ソレを熟考するのみである。

 この劣等感から逃れられる訳では無いにせよ、今自分がやるべき事の優先順位が付けられるくらいには冷静さを取り戻した。

 

(かくなる上は……)

 

 スコールは考える。

 完成型エクスカリバーの主砲では仕留めることはできないにせよ、足止めできる事は分かった。

 ならば……もうこれしかない。

 正真正銘、世界をあの娘の敵にするしかない。

 勿論、自分も含めて。

 

(まさか、こんな事になるなんてね……)

 

 自分が思いついた手に、スコールは思わず自嘲した。

 

(織斑千冬への対抗馬としてあの娘を捕らえた筈であったのに、まさかあの娘への対抗馬として織斑千冬に協力を仰ぐ……なんて皮肉よ)

 

 思わず、そんな事を思いついてしまった自分に対してスコールは嘲笑うしかない。

 だが、もうこれしかない。

 あのクソガキを止めるには、あの悪童を仕留めるには、もうこれしかないと断ずる。

 愛しの弟が戦場の何処かで未だに行方不明なのだ、断る理由はあるまい。

 

 そう判断したスコールはコンソールの無線を……織斑千冬のIS〈暮桜〉へと繋いだ。

 

 

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合
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