もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら 作:ナスの森
自分が自分ではない、という感覚はこの上なく厭なものだった。
最初、物心がついた時、目の前にいた大人たちは『お前は選ばれし者だ』と言った。どのような意味なのかは分からなかったが、その時は少なくとも悪い気持ちはしていなかった。
自分にはほかの人間にはない、少なくとも選ばれるだけのナニカを持っているのだと、そのような優越感も多少はあった。
事実、少女は優秀だった。高度な知能指数をたたき出し、大人たちの指導と教育、そして戦闘訓練により他の大人たち顔負けの性能を少女は発揮した。
扱える言語は7か国語にも及び、あらゆる知識を大人たちから叩き込まれ、少女はそれをあたかも掃除機のごとく吸い込んでいった。
だが、いつからだろうか。
自分が所詮、
昔から少女は感じていた。
自分は他の奴等とは違う。普通じゃない。自分は特別な存在なのだと思っていた。
――――だけど、それはこんな意味ではないし、別段“特別”という訳ではなかったんだ。
いつからか、少女は己の“出生”を知ってしまった。
『織斑計画』
そう呼ばれた物の産物であると知った。
少女に親と呼べる人物はいない。
事あるごとに住処を転々と移され、その度に彼女を育てる人物も変った。そこにまともな愛情などある筈がない。
それでも、そういうものなのだと、少女は疑問に思わなかった。
だが、『大人達』はそんな彼女にとっての日常すら、壊した。
ある日、自分は、自分が物心がついた時に最初に出会った大人達に呼び戻された。何も疑問に思わなかった。いつものように、また居場所を変えられ、そこでまた違う大人から別のものを叩きこまれる。
ただそれだけだと思っていた。
だが、“ソレ”は明らかに違った。
こっちだ、と白衣を着た大人達に連れてこられたのは、どうみても怪しげなベッドが設置されている部屋だった。
明らかに横になっても気持ちよくなさそうな、毛布一つもない金属製のベッド。そのベッドの上に寝かされ、怪しげな機械を取り付けられる。
一体何をされるんだ、という疑問は起きなかった。
基本的に、大人達が少女の前で心から笑って見せたことはない。同時に、何か嫌な事をさせられたわけでもなく、嫌な顔もされた事はなかった。
彼らはただただ作業の機械のように、少女に技術や知識を叩きこむ。今回もソレの類なのだと思っていた。
やがて機械による検査が終わったのか、少女はベッドから立ち上がる。しかし、そこには少女の知らない大人達の表情があった。
それが、失望の表情であったことを、少女はまだ知らなかった。
『馬鹿な……彼女以上に、徹底的に仕込んだ筈なのに、適正が及ばないだと……!?』
『十分な体作りも行ったはずだ。それなのに、何故?』
困惑、失望……少女が知らないソレを、大人達は少女に向ける。
今度ばかり、少女は内心で戸惑った。
――――“適正”、“及ばない”……一体何を言っているのだ?
明らかに今までの大人達と違う対応。今まで休む間もなく、異常な環境での自由のないな生活こそ送ってきたが、それでもこんな対応をされてしまうのは初めてだ。
そして今度は、大人達が自分を余所にある人物について話を始めた。
『織斑千冬』……自分と同じ字名を持つその人物は、その大人達が作り上げた中でも“最高傑作”だという話だった。
大人達は自分を“人”とは見ていない……それは薄々分かっていた。だが、初めて聞くのその人物に、自分も困惑を覚えた。
そして、大人達は、自分にある人物の顔写真が入ったペンダントを自分に渡してきた。
その顔写真を、ゆっくりと覗き込んだ。
自分と、同じ顔の人物の写真を。
衝撃が、走った気がした。
ショックを受ける傍ら、大人達はそんな自分にお構いなく話を続けた。
お前はこの人物を再現するために生まれたのだと。その自分と同じ顔をした人物は自分達の『最高の人類を作る計画』の中で、最高傑作なのだと。
その最高傑作と、その最高傑作のデータを元に作った『最高の遺伝子を世に広めるための種を持つ弟』が姿を消し、自分はその“スペア”なのだと。
実際にスペアだと直接言われた訳ではない。だが、大人達はひたすらこの人物に追いつくように頑張れと言った。
決して『超えろ』とは言われなかった。ただ追いつけとだけ言われた。
私は選ばれていた……だけど『特別』なんかではなかった。
私は『私』などではなかった。
決して超える事の出来ないオリジナルのクローン。それが自分の正体だった。
その時、初めて自分の中に『反抗心』という物が生まれた。
最高傑作を手放した今、『大人達』に最高の人類を作る気概は最早ないのだと悟った。その最高傑作の『再現』を作るだけで、大人達は満足しようとしていた。
故に自分は決して自分になる事は許されず、敗北する事が運命付けられれているのだと悟った。
以降、その『大人達』の所で自分は縛り付けられ、その『
体を弄られ、ひたすら実験の対象にさせられた。
長い長い地獄のような一日が終わる度、自分はペンダントの写真の顔を見つめ、その人物を呪うようになった。
――――お前の所為だ。
『大人達』の顔を思い出し、ギリっと歯を食い締める。理不尽な非難をぶつけて来る『大人達』は、いつしか自分に勝手な同情まで押し付ける来るようになった。
今までの事が嘘のように、自分に対して何もしてこなかったかのような、ただただ同情。その同情の原因が自分達にあるなどという自覚がまったくないかのような、そんな目線だ。
――――お前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為だお前の所為オマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダ。
私のような
私と同じ『遺伝子』を持っていながら、なぜお前は『自由』で、『私』はこんなにも『自由』じゃないのだ!!
私から光の部分を奪い去っていった女。
――――憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!
結局、自分もオリジナルと同じように『大人達』の所を抜け出しても、『自由』を手に入れることは終ぞなかった。
嗚呼
――――誰も
永遠に、ただそれがとてつもなく、全てが憎らしい。
意識が浮上する。
知らない天上だった……いや、知っている物とよく似ている天上だった。朧げな意識の中、手足を動かそうとしてみたが、動かない。
手足を金具で固定されているようだった。
――――『
だったら次は逃げ出すだけに留まらない……この拘束が解けた瞬間全員殺してやる。
「目を覚ましたか?」
以外にも、そこにいた大人は白衣を来ておらず、代わりに軍隊を思わせる隊服を身に纏っていた。
どうやら、自分は『自由』にはなれないらしい。所詮、あの村での王様気分も束の間であった。
「此方医療班。回収した子供が目覚めた」
『――――』
部屋の隅にあった受話器を取り、男が自分の目覚めを報告した。
「分かりました。此方へ連れて行きます」
受話器を元に戻し、大人は目の覚めた少女に振り返る。
対する少女は、敵意の込めた眼をその大人に向けていた。
それを見た大人はハァ、とため息を吐く。さすがに自分を攫ってきた大人達に対してこんな子供が不信感を抱くのも無理はないか、とその程度の認識でいた。
この組織の中ではまだまともだった男は、『子供』である少女に対して、『良き大人』としてとりあえず振舞う事にした。
「さあ、スコール様が待っている。話はそれからだ」
そう言って、男が少女の手足を縛る金具を外したその途端――――男は、ドアに向かって投げ飛ばされ、男の身体はドアごと部屋の中から吹き飛ばされた。
◇
『亡国機業』と呼ばれる組織が持つ基地の事情聴取室。
そこで二人の女性がソファーに座って話し合っていた。
一人は女性の名はオータム――――先日、アフリカの村を根城にしていた子供たちと、そのリーダーである少女と戦い、苦戦を強いられながらも少女を捉える事に成功した人物である。
「手酷くやられたわね、オータム」
「……それはもういいだろう、スコール」
からかう様な笑みで言うスコール。気まずそうに顔を向けるオータム。
今だズキズキと体中が痛む。
オータムの身体には所々に包帯が巻かれており、本来ならばここで安静にしてなければいけない所だが、そもそも彼女はジッとしていられない性分な人間のためか、とにかく自分を痛めつけた子供の顔を見なければ気が済まない、というのが本人の談なのだが。
(顔を見たらむしろ、余計に貴女の怒りに火が付くと思うのだけれど)
そう、このオータムという自分の
相手が子供であった事が原因だろう。
「あの餓鬼……次は容赦しねえ!」
「はいはい、とにかく、あの子を見ても今は当たらないようにして頂戴。オータム、私はせっかく手に入った人材を失いたくはないけれど……それ以上に、貴女に怪我をしてほしくないのよ、だから今はやめて頂戴?」
「スコールッ……分かったよ……」
渋々っといった感じで怒りを抑えるオータム。
「それよりも貴女が捉えたあの子供……面白いとは思わないかしら?」
「……?」
「『
「そんなの……ウチじゃあ珍しい事じゃないだろう、スコール」
「まあ聞きなさい。あの村には元々、反政府ゲリラが駐屯していた。しかし、ある時期を境に大人達は次々と姿を消していった。結果、村には大人達が攫い、訓練を強いた筈の子供たちだけが残った」
「よくある話だよ。スコールの命令で私はあの村に行ったんだ。だがあの餓鬼連中……銃の扱いだけは妙にうまかった。そこいらの大人兵士より余程精度が高い物だったぞ」
「そう……本題はそこなのよ、オータム」
「?」
首を傾げるオータム。
その点にこそ、あの子供の凄さが垣間見えると言えた。
「私もモニターしていたから分かるけど、あの子供たちの銃の射撃制度。どう見ても反政府ゲリラごときが仕込めるレベルのものではなかった。それを仕込んだものが他にいるとすれば……」
「『白黒狼《モノクロ》』……あのクソガキがそれを仕組んだって事か」
「そうとしか考えられないわ。子供離れした統率力、子供離れした行動力、子供離れした身体能力、子供離れした戦闘能力。大人達が消え、途方に暮れる子供たちの前に、彼女は現れた。まるで
更にね、子供たちに戦闘訓練を敷いていた反政府ゲリラ、元々アフリカにも蔓延り始めていた女尊男卑の反対派が結成した組織だったそうよ。これが何を意味するのか分かるかしら、オータム?」
「反政府ゲリラ共は勿論、その反女尊男卑の思想を埋め込もうとする。女は悪だ、という認識を子供たちに埋め込まない筈がない」
「そう。事実、そこの反政府ゲリラ達は戦闘訓練よりもその点を重視していたみたい。勿論、それを叩きこまれた子供たちもそれに倣う。……それなのに、女であったその子供は、そんなの知った事かと言わんばかりに子供たちのトップに立った。……女であるにも関わらず、そんな認識すら忘却の彼方に帰す程のカリスマ性を発揮した。面白いと思わないかしら?」
「……」
俯いて、オータムは考える。恋人であるスコールが自分を差し置いて、何処とも知れない子供に対してそんな表情をするのは気に食わないが、それは置いておくことにした。あの子供を回収した時、その姿を見た子供たちは一目散に逃げていった。
まるで心の拠り所を失い、戦意を喪失したかのように。彼らの世界は、それこそ少女で占めていたのだ。彼らの
オータムもまた満身創痍であるにも関わらず、その自分に少女がやられたという事実が、子供たちに多大なるショックを与えたようだった。
過ぎた統率力は、逆に言えばそれさえ失えば後は散り散りになっていく。
「そして、今回、彼女の顔を直接見て、確信したわ」
「ああ……若かりし頃の織斑千冬と瓜二つの顔……スコールの言っていた“例の計画”により生み出された人間……だったか?」
「彼女、自分のオリジナル……“織斑千冬”に御執心なようだし、この憎悪を利用してやれば……」
その時だった。
『スコール様! スコール様!!』
何やら慌てた様子で、部下からの放送が入る。
一体何なのだと、スコールとオータムはそちらに耳を傾ける。
『目覚めたばかりの“例の子供”が暴れて……何とかスコール様の所へ連行しようとしたのですが、数人で取り押さえても返り討ちに……どうか増援の許可を……!!』
この時、二人は知らなかった。
自分達が捕えた子供が、どれだけの“
どんな展開をお望み?
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マドカの身体のまま復讐完遂
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フォックス・・・・・・ダァイ
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からの他人の身体を乗っ取って復活
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クロエと百合百合