もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら 作:ナスの森
自分を取り押さえんとする大人達を次々となぎ倒していく中、少女はある恐怖に駆られていた。それは決して大人たちに対する恐怖ではない。自分を生み出した身勝手な大人達を恨む少女は、その矛先を他の大人にも向ける程に、『大人』という、『子供』にとって隷属すべき種族を嫌悪している少女が、大人達に怯える事などありはしない。
今もこうして、自分よりずっと体の大きい人達は、こうして自分に歯が立たない。だが、少女は分かっていた。
自分がまた『自由』ではなくなった事を。あの村落において、少女は確かに『王』だった。恐れられるべき『
子供たちが隷属すべき『大人達』を排除し、子供たちは少女の軍隊となった。
――――ここに大人達はいらない。
――――私達はもう『大人達』に隷属する『子供』じゃない。私達はここで私達の国を作る。
自分の声に耳を傾けた子供たちは、自分を救世主の如く崇め、そして自分の言葉に賛同した。
本当に馬鹿な奴等だと思う。少女に従っていた子供たちは、自分達が『大人』にされたことと、同じ事を繰り返していた。だが、そんな自分の部下達を、少女は確かに愛おしく感じていた。
大人達から付けられた名前で呼び合う事無く、自分を始めとした『白黒狼《モノクロ》』といった、自分達で決めた二つ名で呼び合う。
そこには自分が『大人達』の所にいた頃の窮屈感も、束縛感も一切なかった。そこには確かに『自由』があった。ハイテクな機器が揃う窮屈な施設とは違う、アフリカの危険溢れる雄大な自然の中で、その中で『王』であれた。
そんな自分に付き従ってくれる愛しき狼たちは確かに、少女の友愛の対象であった。
だが、また『自由』を奪われた。
何処とも知れない、ISまで持ち出して、自分をここに連れてきた大人達。
恐怖が蘇った。
――――戻るのか、自分は?
――――
そんなもの、まっぴら御免だった。
ここの大人達が自分に何をさせているのか、それが分かる訳ではない。だが、これだけは分かる。あの大人達の目、自分が元居た『大人達』とは種類こそ違えど、それは自分という『子供』に対しての隷属を求めるものに相違なかった。
少女が一番に嫌悪すべきその眼に対して、少女がこうして抵抗するのは、必然であったといえる。
少女は自分という存在を嫌う。本来なら『子供』という弱者である筈の自分が、子供でありながらこうして大人達に対して対抗できるのは、それは彼女が最も呪う己の『遺伝子』があってこそだった。
その遺伝子の元は、『自分』ではない。つまるところ、こうして大人達に抵抗できている『自分』は『自分』ではない。どこまでいっても、ここまでの短い人生の間で、彼女が唯一己のアイデンティティーとして誇る事が出来たのは、彼女があの村落で『王』であった時だったのだ。
だが、今は敢えてこの『遺伝子』に従うとしよう。
ここの大人達をぶちのめして、また自由が手に入るのであれば、それは必要経費である。だがそんな割り切りとは裏腹に、そんな自分に対する呪い故彼女の怒りと鬱憤は尚溜まり続けた。
世界中を探せど、少女ほど己自身を呪う人間はいないだろう。彼女は周りも、己自身も、己に付きまとう運命さえも、全てを呪っていた。
世界に対しての、どうしようもない程の『報復心』を抱えていた。
今もほら、こうして報復すべき大人がやってきた。
「そこまでよ、お嬢さん」
気絶する大人達の山の上に立っていた少女の前に、金髪の女性が現れる。
そう、大人だ。『女性』というのは少女にとって、『大人達』の括りの中でも更に質の悪い人種であった。己のように呪われた遺伝子を持つわけでもないのに、余所から与えられた力を、いや、自分の力ではないにも関わらず、男たちを奴隷として扱う。いいや、『自由』を手に入れておきながら結局は己の呪われた遺伝子に救われている
「子供とはいえ、少々お痛が過ぎるわよ、お嬢さん?」
「……」
『子供』……その言葉を聞いた途端、少女は拳に力が入りそうなのを何とか抑える。しかし、その敵意が一層深まった視線が金髪の女性を射抜く。
しかし、ソイツはそんなものに怖気づくことなく、自分に歩み寄ってくる。
後退はしない。腰を低くし、拳を構える。
そして――――
気付いた時には、少女は女性の懐へと迫っていた。
常人では到底間に合わぬ反応。
音もなく、息もなく、無拍子に放たれたその一撃は、女性に手痛い一撃を与える……筈だった。
瞬間、鋼鉄のような感触と共に、少女の拳に痛みが走る。
「っ!?」
「あら、これでおしまい?」
女性は、何もしていなかった。
急所を狙った筈だった。なのにこの感触……少女はすぐにこの女性が何者なのか検討を付ける。
(こいつの身体……まさか……!?)
思い立った少女は即座に女性から距離を取り、倒れている大人達から物を漁り取る、やがてそれらを女性に向かって投げつける。
あらあら、と女性は子供を手をかざしてソレらを防ぐ。
普通に見れば、ただ大人と子供がじゃれているような光景にしか見えないが、実際は少女は普通の大人ならとっくに骨が折れる程の力で投げているのだ。
それにも関わらず、女性はまったく痛がる素振りをしない。
――――まだだ! まだ終わっていない!
これまでの人生で何回と口にしたか数えきれない台詞を内心で叫んで己を奮い立たせ、少女は倒れていく大人達から漁った物を、壁や天井を足場にしながら、女性に向けて投げていく。女性の攻撃を回避し、子供離れした身体能力を持って、わずかに感じられる感触を頼りに、女性の
そこか。
先ほどから、女性が特に守る事に重視している部位、あそここそがあの女の生身だと断定した少女は、壁を蹴り、女性へ肉薄する。
狙うは生身の部分、その一点。
しかし、生身の部分を悟られた事に気付いていた女性が、ソレに対してカウンターを取る事は容易かった。鋼鉄の打撃により、少女を襲い。少女は床に叩きつけられた。
「……っ」
「これで悲鳴を上げないなんて、大したものね。さすがは『織斑』の名を冠する者と言った所かしら。ねえ、『織斑マドカ』」
「っ! その名で呼ぶなっ」
その名を呼ばれたと同時、少女はこれまでの痛みが嘘であるのように、床に伏した己の身体を刎ねらせ、再び立つ。
大人達に対する隷属の証であるその名は、彼女が最も意味嫌う物の一つ。
もう殺す。
自分を子供と言い放つばかりか、あろうことか『その名』で呼んだ。
音もなく殺す。そして地獄で後悔させる。
そう決心した少女は、再び女性の生身を狙って攻撃する。先の攻撃で判明した生身の部分は一つではない。
それらしき感触を残した部分はあった。
ならば其方を狙って――――!?
「残念。授業はおしまいよ」
ふと、首筋と背中に感じた感触。
……麻酔銃の弾が、首筋に3本、背中には4本も刺さっていた。
「あ……」
ぐらぁ、と視界が薄れ始める。
しかし、少女は睡眠の境界線に至る事はなかった。
最早言う事を聞かなくなった体、それでも、未だ辛うじて動く腕で身体を引きずり、女性へ手を伸ばす。
……その眼力は、未だに衰えておらず。
そのあまりにも異常なしぶとさに、さしもの女性も目を見開いていた。
(……何なのよ、この子……)
いくら『例の計画』の産物だからとて、大人なら一発で眠りの世界へ沈める筈の麻酔弾を、子供なら下手したら一発で即死する筈のソレを、首筋に3本、背中に4本受けて、それでもなお動こうとするこの少女の執念に、女性は思わず舌を巻かざるを得なかった。
少女の出自を知る故、金髪の女性・スコールはこの少女が己の境遇を嫌い、どうしようもない程の憎しみを抱えている事は予想が付いていたが、まさかこれほどとは思いもしなかった。
先の見せた戦闘能力も、その身に流れる『織斑の血』だけでは決してない。彼女は決して負けを認めない。決して諦めない、その喉元に食らいつくまでは決して止まろうとはしないのだ。
もう一発、少女の額に麻酔弾が刺さる。
それがトドメとなり、少女はようやく眠った。
「……これは、本当に子供扱いしてはいけないようね……」
勿論、精神的な意味ではなく、物理的な意味で。
彼女の精神は正に『子供』だった。癇癪を起こす『子供』のそれだった。だが、それだけでは言い表せないナニカがこの少女にはある。
未だに動きそうな雰囲気を放ちながら倒れている少女を見ながら、スコールは麻酔銃を持った増援たちに彼女を執務室へ連れていくように命じた。……上からの命令で、
確信はないが、この少女、後数十分もしない内にまた目覚めそうだと、スコールは天上を仰いだ。
◇
基地中の兵士たちがこぞって一人の少女を捕らえる為に奮闘したという異常事態の後、それが嘘であるかのように静かになった基地の執務室にて、スコールはソファーで寝ている一人の少女見つめる。
何を隠そう、この少女こそこの基地中の大人達を返り討ちにし、更にはこのスコールの手さえも煩わせた張本人である。
……さっきまで暴れていたのが嘘であるのように、少女は安らかに眠っていた。こうしてみればただの何処にでもいる少女なのだが、その内に潜む獣をスコールは知っている。それは勿論、彼女の恋人であるオータムも同様だ。
腰に法螺貝を下げながら、腹に手を当てて寝ているその姿はさながら不遜な子供そのものである。
この少女、自覚しているのかどうかは知らないが、自分と戦っている時も、あんな激しい動きを見せておきながらこの法螺貝を手放す事は決してなかった。
自分はまだ敗北していない。自分はお前達の奴隷じゃない。自分はまだあの村落の『王』なのだと、頑なに敗北を認めない少女のプライドの高さが伺えた。
オータムの話では、彼女が根城にしていた村落に打ち捨てられていた木造の廃船、そこにある王座に蠅の集る豚の生首を奉っていたとかなんとか。
「まるで『蠅の王』ね」
其漂流物の物語を思い出し、スコールは溜息を吐く。子供たちがずっとこの法螺貝を持つ少女に従っていたあたり、あの作品のように子供たちの間で分裂するような事は最後まで起こらなかったようだ。当然といえば当然、何故なら子供たちの中で圧倒的指導力を持っていたのはこの少女ただ一人。この少女だけが飛びぬけて能力があって、それ故に子供たちは彼女に従った。あの作品のように、皆を引っ張れるリーダーシップを持つ子供が二人もいた訳ではなかった。故に、最後まで分裂は起こらなかったようである。
「……ん……?」
(……もう目を覚ましたの?)
本当に数十分もしない内に目を覚ます少女に、スコールは最早呆れる。正に恐るべき子供、というべきなのか。彼女を教育してきた大人達は、彼女にこれほどの能力を叩きこんでおきながら、むざむざと逃がしたというのか。自分達の最高傑作に逃げられた経験があるのにも関わらず逃がしてしまったのは、単に彼らが成長しない『大人』であるが故か、それともこの少女の底知れない反抗心が成せた技なのかは検討が付かない。……おそらく後者なのだろうが。
「っ!」
目を覚ました少女は、スコールの顔を見るや否や、また飛び掛かって来た。さっき麻酔銃を7本も撃たれたばかりだというのに、何処にそんな体力があるのか。
やはり、
「ッ!?」
少女の蹴りがスコールの生身の部分を蹴りぬく直前、それは寸止めされた。少女の意志に関係なく、その蹴りは停止、スコールの生身に到達する事はなかった。
スコールは更に少女の体内に打ち込んだナノマシンを操作し、少女を床に伏す。
「ガッ!? あ、あぁ、ぎぃっ!?」
体内のナノマシンが少女の身体を蝕む、普通なら動く事すらままならないというのに、それでも必死に手足を動かして抵抗している少女の姿にスコールはまたもや呆れた。
……少し、スコールはナノマシンによる身体抑制を下げ、少女に話しかけた。
「落ち着きなさい」
体の自由がある程度戻った途端、少女はまたスコールを殺意の目で睨み付ける。それに構わず、スコールは続けた。
「悪いけど、あなたの身体に監視用のナノマシンを打ち込ませてもらったわ。下手に動けば、私は簡単に貴女の命を奪える。この意味――――分かるわよね?」
「……っ」
少々ドスの聞いた声で脅すように、スコールは言う。さすがに下手に動いては己の命が危ないと分かっては、この少女も下手な抵抗はできないようだ。
だけどね、とスコールは続ける。
「それは同時に、喜んでもいい事よ。少なくとも、私達は貴女をただの子供として扱うのをやめた。そう扱うには、貴女はあまりにも危険すぎる」
少々皮肉を込めすぎかしら、と思い少女の目を見て見ればその眼は敵意を萎めるどころか、むしろ膨らませている。扱いがどうあれ自分達大人に隷属させられるというのが耐えがたい苦痛だと言わんばかりだ。
……いや、それでも大人しくなっただけまだいいというべきか。
とりあえず抵抗する素振りを見せなくなった少女を見て、スコールはようやく少女のナノマシン抑制を解除した。
一応の自由を得た少女は、手首を振っては体の具合を確認し、立ち上がってスコールに反抗的な目線を送る……が、それだけだった。
スコールはソファに座る。そして少女に向かい側のソファーに座るように指を差し示す。
渋々と言った感じで少女もまた向かい側のソファー……に行かずに、その奥のソファーに、両腕を後ろに回して、偉そうな姿勢で座った。
ここにオータムがいれば、間違いなく「この餓鬼っ!」と叫んで殴りかかっていた所であろう。……ISがない状態では先のスタッフたちと同じように返り討ちにあうのが関の山であろうが、こちらに監視用ナノマシンという切り札がある。
故に、少女がみせるその不遜な態度はせめてもの反抗心と、スコールは受け取る事にした。
「それで、どうかしら? ここに来た感想は」
「……最悪だ」
「あら……少なくとも、貴女がいた場所よりはマシな筈よ」
「殺すっ」
「口が悪いわね。まったく……」
この少女、一言目には殺すだの刺すだの、明らかにこの年頃の女の子が発言していいような言葉をさも当たり前であるかのように連発するようだ。
どうやら目の前のお嬢さんは前振りは好きじゃないらしい、と認識を改め、スコールは単刀直入に用件を言った。
「単刀直入に言うわ。私達は貴女をこの組織へ迎え入れるために連れてきた。“子供”としてではなく、組織の“一員”としてね」
「……」
「けれどまあ、何方にせよ貴女の嫌う隷属である事に変わりはないでしょう。だから、私達と取引をしましょう」
「何をっ」
スコールを睨みながら、マドカは急かす。ここまでの仕打ちをしておいて取引も糞もあるかと、とその眼は雄弁に語っている。それでも逆らう事ができないと分かっている以上、今はスコールの言葉を聞くしかないのが少女の現状だ。
「私達『亡国機業』にはある目的がある。その目的の障害には、『織斑千冬』の存在が邪魔になる」
「っ、織斑、千冬……!!」
目に見えて、少女の目に宿っていた憎悪がさらに増幅していくのを、スコールは感じた。やはり、オリジナルである織斑千冬に対し、並々ならぬ執着を抱いている様子だった。それは恨みか、歪んだ愛情か、どちらとも取れた。
「故に、ここは私からの最大限の譲歩よ。貴女の復讐したい相手、織斑千冬を殺す事ができたら、その時点で貴女を『自由』にしてあげる。何処で何をしようが、貴女の好きにしていい」
組織としては、織斑千冬を排除した後も、できればこの織斑マドカを抱えたい所ではあるが、いくらか譲歩しないとこの少女、監視用ナノマシンで脅してもうんともすんとも言いそうになかった。
故に、スコールは譲歩する事にした。
「この組織で貴女の目的を達成……そうすればここから出て行ってもいい。勿論、その条件で貴女が私達に従っている限りは、最大限の援助も送りましょう。ISの専用機も提供してあげられる。……どうかしら?」
「……ふん」
今だ反抗的な態度は抜けない、がある程度落ち着いたのか、少女……織斑マドカはゆっくりと部屋から出て行こうとする。
ここで反抗してこない当たり、ある程度は従うつもりになったようだ。
「待ちなさい」
その背中をスコールは呼び止める。
「貴女にコードネームを付けるわ。これからは、ここでは『エム』と名乗りなさい」
「……エム」
「そう、エム。貴女の戦場での新しい名前よ」
しばらく間を置いた後、少女は拳を握りしめて、勢いよくスコールの方へ振り向いて睨み付けた。
「貴様……!」
エム……スコールが名づけたその名前の意味を分かってしまった少女は、また先でやりあった時の同じ位の敵意をスコールに向けた。
……自分でも、意地の悪いことはしたとスコールは自覚していた。
『
エム……その名前は少女にとって2つの相反する意味を内包しているのだ。少女にとっては複雑であることこの上ない名前なのである。
チッ、と舌打ちしながら、少女『エム』は部屋から出て行く。
服の背中にある『NEVER BE GAME OVER』と書かれた文字が、スコールには印象的だった。
どんな展開をお望み?
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マドカの身体のまま復讐完遂
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フォックス・・・・・・ダァイ
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からの他人の身体を乗っ取って復活
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クロエと百合百合