もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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第6話

 果てしない戦場跡の広がる荒野。

 そこには、ボロボロな状態で大きな岩の影に凭れ掛かっている自分がいた。

 手足は思うように動かせず、力を入れる事すらままならない。華奢なボディラインを曝け出すISスーツは、所々が破けてその痛んだ素肌が露出しており、見るに堪えない状態だった。

 

 そんな無様な敗者となった己を見下す、もう一つの影。

 いや、それは光だった。

 決して届く事のない光。

 むしろ、『影』なのは自分の方だった。

 

 故に憎悪した。

 故に嫌悪した。

 故に羨んだ。

 

 

 故に、殺したいと思った相手。

 

 

 それが今、ボロボロで無惨な状態の自分を見下していた。

 顔を見上げる。

 届く事のない、見れば目があまりの眩しさ(憎しみ)で見えなくなってしまうくらいの、『光』がそこにあった。

 『影』たる運命を定められた己では、決して届かない『光』が、己を見下していた。

 

「ク、ククク……」

 

 (自分)は笑う。

 全てを、己自身すらも嘲笑う、力無い皮肉気な笑いが零れた。

 

「私は、『大人達』に作られた、失敗作だ」

 

 いつしか『大人達』から同情と共に押された『失敗作』という烙印。始めは期待だった、それはやがて失望に変わり、ついには惨めな同情とまでに変貌した。

 そう、同情だけだ。

 『大人達』は、己を失敗作として作った責任を取ろうとはしてくれなかった。

 

「運命は、全て決まっている……私は、負ける……」

 

 何故なら、生まれながらに敗北しているから。

 決して光に勝てない『影』として生まれたから、決して届かない模造品として生まれたから。超えるのが無理なら、せめて『再現』しようと『大人達』はまた自分を弄りまわしてきたにも関わらず、また繰り返した。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前だ……お前のせいだ……!!」

 

 どうして自分がこんな所にいるのかは分からない。どうして奴がこんな場所にいて、自分を見下ろしているのかも分からない。

 そもそも、どのようにしてこのような状況になったかすら、自分には分からなかった。

 だが、己の憎むべき相手が目の前にいるのであれば、そんな思考など破棄して、ただ己の思いの丈をぶつけるしか考え浮かぶ他なかった。

 

「私は、私じゃない……おまえのコピー……だ……」

 

 この肌も、足も、手も、顔も、髪も、すべてお前という『光』から捻りだされた、絞りカスだ

 故に。

 

「姉さんを超え、姉さんを殺す……お前を殺す! 『大人達』を全部殺す! この世界を全て滅ぼしてやる!!!」

 

 動かせぬ筈の身体を前に押し出し、『光』を睨む。精一杯の力で遠吠える。近くにいる筈なのに、ずっと遠い存在である、届かぬ『光』に必死に届かせようと、力を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、『光』は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな。お前は失敗作だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひどく、残酷な笑みで『影』をそう言い捨てた。

 今まで『大人達』から幾度となく言われて来たその言葉は、実際の『光』から放たれれると、まるで天と地の差があるくらいのショックが襲った。

 

 

「あ――――」

 

 

 その言葉は、『影』の心を、完膚なきまでに壊した。

 パリン、と心のガラスが割れ、今までため込んできた憎悪の泥が溢れ出て来る、涙と共に。

 

 

「失敗作は失敗作らしく、成功作(わたし)の踏み台になればいい」

 

 

 

 『光』(幻影)はそう言い放つと同時、己に背を向け、去ってゆく。

 

「ま、て」

 

 手を伸ばす。

 縋るかのように、その手を伸ばす。

 届いたことはない、届く事も叶わない、その背中に必死に追いすがらんと手を伸ばすが、『光』の背中は離れていく一方であった。

 

「待て!! まだだッ、まだ終わっていなぁい!!!!」

 

 『光』の背中が離れていくと同時、空から溢れんばかりの光の奔流が『影』を襲った。触れる事は許さんと言わんばかりに。

 その『影』を照らし、最早『影』である事すら許さないと言わんばかりに、『影』はその身を降り注いだ光に焼かれていく。

 

「が、ああ嗚呼嗚呼ああああああああああああああああッッ!!!」

 

 皮膚が焼けこげ剥がれ落ち、肉は焼かれて、骨さえもが溶かされる。

 そんな光の熱地獄の中で、少女はなおも『光』を追いかけ続けた。

 

 

 ――――コロシテヤル。

 

殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺したやる(ころ)してやる凝ろしてやる(ころ)してやる(ころ)してやる(ころ)してやる(ころ)してやる!!!

 

 

 少女の身が完全に消滅するまで、その呪詛は続いた。

 

 

 

 

「――――ッ!?」

 

 ハッ、と飛び起きる。

 体中を迸る冷や汗、安定しない息、躍動する血管、昂る感情、己の中の全てが安定していなかった。

 

「くそッ」

 

 いても立ってもいられずにベッドの布を蹴り、布団の中から飛び出す。

 寝巻を乱暴に放り投げ、華奢でありながらも鍛えられた幼き女体が露わになる。タオルで汗を拭きとり、乱暴な足取りで鏡へと向かった。

 

 ――――あの女に、敗北する夢を見た。

 

 自分はあの女に会った事などない一度としてない。そもそもあの女は自分の存在を知っているかどうかすら怪しい。いや、知りはしないだろう。逃げた己に変わって、劣った運命を押し付けられる存在がいるなど、あの女は思いもしないだろう。

 

「ッ」

 

 亡国機業(ここ)に連れてこられて以来、自分は再び大人という存在に隷属する子供に逆戻りした。自分と同じように、先に逃げたあの女は、今や世界に崇められるブリュンヒルデとして崇められているにも関わらず。

 自分は今日も、あの女の『影』であり続ける。

 

「……」

 

 不意に、己の頬をナイフで切り裂いた。真っ赤な血が溢れ出ており、あの女によく似た顔がその血で染まってゆく。

 己の(オリジナル)によく似た顔を傷つける事で、このイラつきを安らげようとしたが、一向に収まる気配もない。

 

 故に、あの女によく似た顔が映った鏡を、少女は叩き割った。

 後で清掃員に何を言われようが知った事ではない。朝起きる度に(あの女)の顔を映す鏡を見るくらいならば、早々に叩き割ってしまった方がいい。

 でなければ、憎しみでどうにかなってしまいそうだった。

 

「まだ……まだ終わっていない……」

 

 ゆっくりと叩き割った鏡から拳を引き抜き、呪詛のように呟く少女。

 まずはこの基地から脱出をする。そのためにはこの監視用ナノマシンを何とかする方法を考え、かつ手駒を集めなければならない。

 今の自分に、それだけの力はない。

 故に、少女は力を蓄えなければならなかった。

 

 いつしか起こす、蜂起(けっき)のために。

 

 その日から、基地内におけるマドカの横暴っぷりは暫くナリを潜める事となった。

 

 

     ◇

 

 

 ルクーゼンブルク共和国。

 東欧の地にある小国だが、ISコアの材料となる時結晶が採掘される唯一の国という、今時代においての圧倒的アドヴァンテージを得て急速に発展した国。未だに王政という古い統治体系を維持している数少ない国でもある。

 だが、そんな国にも、いやそんな国だからこそ闇がある。

 

 故に、その闇の部分の象徴たる要人がこうしてテロ組織に拉致され、脅迫されるのも因果応報といえた。

 

「それで、我々に協力する気になりましたか? ルクーゼンブルク共和国の大臣さん?」

 

 マドカが起こした子供達の武装蜂起による混乱であっさりと捉えられたルクーゼンブルクの大臣が目覚めた時には、既に回転ベッドの上で手足を拘束させられた状態となっていた。

 身ぐるみを全てはがされ、こうして二人の女性の前で生まれたままの姿を晒す羽目となってしまった。

 大臣の身体は既に体中が傷だらけであり、精神もとうに限界を迎えていた。

 

「ふ、ふざけるな! 誰がお前達のような……ギャアァッ!!」

 

「“お前達のような”だと? 自分の今までの所業を母ちゃんに見て貰ってから言うんだなぁオッサンよォ!!?」

 

 イチモツを踏みつぶしながらオータムは楽しそうな表情で大臣に罵倒する。スコールもまたそんな楽しそうな恋人を見てクスリと笑い、再び大臣の方へ向き合う。

 

「残念ですね、大臣さん? 貴方は私達と同類の畜生。これを御覧ください、証拠は既に押さえてあるの。ここにね」

 

 そう言って、スコールは大臣に見えるように、床に資料や写真の数々をばら撒く。消去された筈の裏取引履歴。中東の別荘での少年兵育成写真。さらには別荘が大臣の秘密の所有物である事を裏付ける資料。

 ……全てが、大臣のルクーゼンブルクでの社会的地位を脅かす物証であった。

 

「こ、これは……」

 

「そう、貴方の首の皮を断ち切る証拠の数々。もっと面白い物もあります」

 

 言って、スコールは手元の端末を置き、再生される。

 それを見た大臣の顔をもっと青くなった。

 

「本来ならここまで必要ないのだけれどね、あの子が少年兵たちに武装蜂起を起こさせる際に記録した映像よ。相当貴方にお怒りだったようね、あの子は」

 

 あの子、という単語に大臣は苦しげながらも訝しげな表情を見せる。

 まさか、思い、その疑問を口にした。

 

「まさか……この映像を取って、更に……」

 

「はい。この映像を取ったのも、貴方が持っていた少年兵たちに武装蜂起を起こさせたのも、私達が貴方の別荘に潜入させた子供の仕業でございます。それも12かそこらの少女が、です」

 

 映像に映った少年兵たち自身から語られた、これまでの仕打ち。やれ自分達は駒なんかじゃない。やれ自分達はもうお前には従わないなどの意志表明も混じったソレを、大臣は聞かされた。

 ――――生意気な餓鬼どもめ……!!

 そう思いながらも、その映像を取り、さらに映像に映っていた子供達に武装蜂起を起こさせたのが、この子供達と何ら変わらない少女という事実が、それ以上に大臣の胸を抉っていた。

 

「そ、そんな……!!」

 

「言っただろうがよ、()()だと。テメエのようなチンケな野郎の所に餓鬼を送る私達と、餓鬼達に鉱石を掘らせるは愚か戦闘訓練まで強いるテメエと何処がちげえんだ。えぇ!?」

 

「や、やめ……ギャアアアアアアアアアアアアアアァッッ!!!!!」

 

 回転ベッドに高圧電流を流され、大臣は更に悲鳴を上げる。

 更には生命の危機が迫った事によりイチモツが反り勃ち、更にその様子を二人の女性から蔑むような目で見られ、大臣の身体と精神は更なる苦痛へ追いやられる。

 

「ま、大臣さんに吐く気がないなら仕方がないわね。これらの証拠、匿名でルクーゼンブルク公国の国王に届けて――――」

 

「ま、待て!! やめてくれ! それだけは、それだけはやめてええええええええええええええええぇッ!!!!!」

 

 凄まじい高圧電流による痛みに悲鳴を上げながらも、それだけは勘弁してくれと言わんばかりに、大声でそれを制止する。

 ……瞬間、高圧電流を止み、再び大臣は痛みから解放される。

 この痛みから解放された時の安らぎが、大臣に訪れた。

 

「ハァ、ハァ……」

 

「では、私達に協力をしてくれる。……という事でよろしいですね、大臣?」

 

「わ、分かった! 協力する! 私が所有する時結晶(タイム・クリスタル)、及び登録外のコア、そちらに提供する事を約束する!! だから……!!」

 

「……交渉、成立ですね。オータム、下ろしてあげなさい」

 

「はいよ」

 

 回転ベッドが降ろされ、オータムは解放された大臣の手を思い切り引っ張り、回転ベッドから乱暴に引き摺り出した。

 女性とは思えない力で床に叩きつけられ、その衝撃による痛みが大臣を襲うが、既に悲鳴を上げる余力すら残っておらず、ウッ、とうめき声を上げるだけだった。

 

「へっ」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべたオータムはそのまま大臣の腹を踏みつけ、耳元で囁いた。

 

「変な真似しやがったら、その瞬間から証拠をお前の国にばら撒く。いいか、世界にじゃない。()()()()()()

 

 この意味分かるな、と問うオータム。大臣は、顔を何度も上下に振って涙目で頷いた。

 この世界に大臣の不正をばら撒いたところで、いくら周辺の国がルクーゼンブルク公国を攻め立てても、篠ノ之束とIS関連で直接的な関わりを持ち、未登録のISコアを多く所持する国が相手では例え世界であっても分が悪い。

 故に、ルクーゼンブルク国内にのみその証拠をばら撒きばどうなるか。世界的な紛争が起こらないため、民衆のヘイトは大臣一人に集中する。

 最早死刑どころでは済まさない、ルクーゼンブルク国でも最大の刑罰が受け渡されるだろう。

 その意味が分からない程、大臣はバカではなかった。

 時結晶の不正な横領、少年兵を使っての時結晶の採掘、公国では十分の極刑に当たる罪だった。

 

「まあ、俺達が保障できるのはあくまでお前の身柄のみ、だがな……」

 

 気絶した大臣に、その言葉はもう聞こえていなかった。

 

 オータムは察していた。

 スコールは証拠を国にばら撒かないといったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 本当に脅迫するべき相手は、大臣如きではないのだ。

 

 

     ◇

 

 

 亡国機業の基地の少年兵たちの居住区にて、少年兵ヴァンは、また凝りもせずにかの少女……マドカを探していた。

 理由は彼女に謝るためだ。

 あれほど彼女は自分をコードネームで呼んでくれと言っていたにも関わらず、自分はあろうことかマドカと呼んでしまった。

 彼女が己の本名を如何に嫌っているかを知ることは出来ないが、それでも彼女の逆鱗に触れてしまった。その逆鱗を味わったのは、自分ではなく、喧嘩を仲裁しに来てくれたコードネーム持ちの大人であったが、その大人ですら成す術もなく彼女に敗北した。

 その姿に憧憬を覚えつつも、ヴァンは彼女に謝る為に居住区を走り回っていた。

 まずは彼女の住む一人部屋を訪れたが、そこに彼女の姿はなく、ただ乱暴に叩き割られた鏡しかなかった。

 部屋も幾分か荒れており、他人に荒らされたのか、それとも彼女自身が荒れたのか、おそらく後者を予想したヴァンは、とにかく大急ぎでマドカを探し回った。

 

 やがて屋内で彼女を見つける事は適わず、普段は誰も寄り付かない居住区のベランダへ足を運び……そこに彼女の姿はあった。

 

 法螺貝を腰に下げ、背中に豚の似顔絵と『NEVER BE GAME OVER』という文字が書かれた黒いコートを羽織ったその背中は、えらく印象的だった。

 

 その背中が、とてつもない負のナニカを背負っているように見えて、しかしその大きさに圧倒されて、思わずヴァンは物陰に隠れてそれを眺めていたのだが。

 

「おい」

 

 不意に、彼女の方から口が開かれた。

 

「そこに隠れているのは分かっている。出てこい」

 

 流暢な英語。他の少年兵に比べて英語が苦手なヴァンでも分かる、簡単な英語で彼女は此方に出てくるように促していた。

 殺気こそ感じないが、声音でなんとなく不機嫌なのが感じ取れた。いや、彼女がこの基地の大人達に対して不機嫌なのは見慣れているが、それを自分に向けられるのは未だに慣れない。

 それでも……この間よりは幾分かマシだった。

 

 バレタ事に驚きつつ、恐る恐る、ヴァンは、物陰から姿を現した。

 

『……お前か』

 

 それを見た少女の怒気が、少しだけ和らいだのを、ヴァンは感じ取った。ヴァンを見た途端に言語を英語からキコン語に変えてきた。これが彼女の忌み嫌う大人であればまた話は違ったであろうが、少なくとも、彼女が忌み嫌う大人達に比べれば自分はまだ彼女に嫌われていない事を悟り、ヴァンは少しだけ安堵する。

 

『マ……エム、その……この間は……』

 

 再び本名を言いかけてハッとなったヴァンは慌ててコードネームに呼びかえ、昨日の事について言い淀んだ。

 うまい言葉が見つからない。そもそも、ヴァン自身が謝ろうと思った相手など久しくいなかったため、どのように謝罪していいのか見当もつかなかった。目の前の少女も己自身の事をあまり語らない事がそれを助長させていた。

 

 しばらく言い淀み、両者の間に沈黙が走る。

 

 やがて、その沈黙を破ったのはマドカの方だった。

 

『お前は、どうしてそうやって大人達に従っていられる?』

 

『……え?』

 

 不意に、そう聞かれてヴァンは困惑してしまった。

 いつもは自分に興味なさげだった少女が、今回は真剣な目で自分に問いかけてきたのだ。そもそも自分はこの少女に謝罪をしに来たはずなのに、謝罪する前にこんな事を聞かれては困惑もした。

 

『お前にとって、ここ(亡国機業)は何だ?』

 

『……?』

 

『自分と同じように大人達に従っている子供達を見て、お前はどう思う?』

 

『それは……』

 

 ヴァンは答えられなかった。突然の質問という事でもあるが、何よりヴァン自身がその問いに対する答えを持ち合わせていなかった。

 それを察したマドカは何処となく口を歪め、更に問い詰める。

 

『この間、私がスコールに反抗した途端に、あの無様な姿を晒してどう思った?』

 

『……ッ』

 

 それを聞かれた途端に、ヴァンの頭に様々な答えが過った。

 『もうやめてくれ』だとか、『どうしてそんなに反抗するのだと思った』だとかそんな答えだったが、どうにも目の前の少女が求めている答えと違った気がした。

 

 そして……ある結論に思い当たり……その答えを、言わなかった。否、()()()()()()

 

『自分も将来コードネームを持ったら、あのような目に合わされるかもしれない?』

 

『……ッ!?』

 

 いつまでも言わないヴァンの心などお見通しなのか、その言葉は正にヴァンにとって図星だった。

 そう、ヴァンは初めて、ここの大人達に疑念を抱いたのだ。あの時、何故あんな風に彼女を苦しめる必要があったのか。何故もっと穏便な方法で彼女を止めないのだとか。

 そもそも……彼女をあんな風に苦しめるのにどのような手段を用いたのか……ここの大人達は彼女にどのような処置を施したのだ……思い浮かぶ疑問は数々あった。

 

『ふん……まあいい』

 

 ヴァンの図星を突かれたような表情で少女は満足したのか、少女はそのままヴァンを通り過ぎて屋内に入っていく。

 

『監視用ナノマシンのバッテリーが残り少ないタイミングでお前と逢えて良かった』

 

『え……?』

 

 意味の分からないマドカの言葉に、ヴァンは更に困惑する。

 

『もしお前がここの大人達を信用できなくなった時は、私に言え。そうすれば来るべき時協力してもらう。そうすれば、私の事を()()()()()()()()()

 

『ッ!!』

 

 その言葉は、ひどく魅力的で、同時に危険な誘惑だった。

 間違いない。この少女は間違いなくここの大人達にたいしてナニカを企てている。この少女は危険なのだと、脳が警告する。

 ……同時に、この少女と肩を並べられるという、己の夢見た状況を夢想してしまう。ヴァンは自分がコードネーム持ちになる事で、この少女と肩を並べたいと夢見てきたが、少女が望む形でそれをかなえられるのであれば猶更だと思ってしまった。

 

 そうだ。

 そもそもヴァンがこの少女に惹かれた理由――――それこそ大人達顔負けの能力を持ち、自分と同じ年でありながら戦士として戦場に出ているからであり、その少女と肩を並べたいと夢見てしまったからだ。

 子供ながらの単純な動機だが、それでもどうしようもないくらいにヴァンはこの少女に惹かれていたのだから。

 

 彼女は自分の本名を嫌い、自分から名乗りもしなければ、他の子供を本名で呼ぶ事も嫌う。その理由はヴァンには分からない。

 

 ――――それでも、この少女と本当の名前で呼び合えたら……それはどれだけ……。

 

 気が付けば、少女の姿は既になかった。

 少女が何処に何しにいったかは、未だにコードネームを持たないヴァンには分からなかった。

 




久々の投稿です。

ニコ動とかでよく『オセロットって実は内心でリキッド見下してたろ」っていうコメント見る度にモヤモヤする作者です。

……いや違うだろう、リキッドになり切ったのはむしろオセロットなりのリキッドへの敬意だろう、最後だってソリッドと殴り合った後のFOXDIEでの死亡だし、演技はおろか死因までリキッドに準じていただろう……とか色々言いたくなってしまう。

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合

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