もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら 作:ナスの森
2XXX年。
東欧の小国、ルクーゼンブルク公国。
今や世を騒がすISのコアの原材料である
その地下室で亡国機業の幹部と国王による交渉(というよりは脅迫)が行われている頃、エムことマドカはとある王城の子供部屋にいた。
子供部屋とはいっても、豪華な装飾と子供部屋を思わせない教本の本が無数に立ち並ぶ本棚が設置されているのなど、普通の子供部屋でないことぐらいは明白だった。
――――自分がいたような、あんな真っ白な空間などではない。『大人達』がいた所とは正反対の場所だ。
何も知らない子供がこのような派手な部屋に押し込められる感覚、それについて想像を巡らせつつも、エムはその子供部屋の壁に腕を組んで寄り掛かり、目を瞑って暇を潰していた。
自分に、一方的に話しかけて来る、次期第七王女を余所に。
「エムとやら、この字は何と読むのだ! 日本語は文字が色々ありすぎて分からん!」
自分よりも二つ下の次期王女が、何故自分のような何処とも知れぬ小娘が護衛に来ている事に気に留めずに話しかけて来るその姿は、如何ともしがたい滑稽っぷりであった。この小娘自身ではなく、この王国そのものに対して、エムはそう思った。
「ここの部分、ジブリルに聞いても、あやつもさっぱりだったようじゃ。エムとやら、お主なら分かるか!?」
目をキラキラさせながら勢いよく身を乗り出して聞いて来る、ルクーゼンブルク次期第七王女のアイリス・トワイライト・ルクーゼンブルク。いつも自分の護衛に付いている筈のジブリルがいない事に疑問など抱かず、今はただ自分と同年代の子供(エムの方が二つ上であるが)が自分の部屋にいるという事実に興奮を抑えきれないようであった。……同年代の友達がいなかった故の寂しさがあるのだと、同じく子供であったエムに察する事はできなかったが。
「それで、分かるのか、分からんのか、どっちなのじゃ!?」
……髪の色や肌の色、顔立ちからして自分がこの国の者でない事くらいは分からないものか。それに構わずこのアイリスという次期王女は容赦なく自分に母国語のマシンガンを放ってくる。
一応、『大人達』からルクーゼンブルクの言語は頭に叩き込まれているため、エムも現地人と遜色ないレベルでルクーゼンブルク語を操る事ができるが、エムはあくまでこのアイリスという少女を護衛という名目で『監視』しているに過ぎない。
普段は彼女を護衛している筈の近衛騎士団もおらず、ただエム一人が彼女の傍にいる。
そう――――彼女自身は知らないが、アイリス・トワイライト・ルクーゼンブルクは今、交渉の人質になっているのだった。
◇
ルクーゼンブルク公国の王城の地下。そこにてある交渉が行われていた。
一人の国王と、そして一人の黒服の男による、お互い、質素な木製のテーブルで対等に向かい合っての対談。
否、交渉は明らかに王女にとって不利な内容だった。
国王の眼前にいる黒服の男――――『
過去、現在に至るまでの不正。特に時結晶の中東闇市場における横領は、判明したのが過去の時点ならばそれ程問題視されないだろうが、ISの登場によって時結晶の需要と価値が大幅に上がった現在では違う。
国王もそれを見越して、こういった事には厳重な注意を引き、これらの不正は全部取り止めたつもりだった。細かい内偵捜査の末、証拠とともに全て消したつもりだった。
……にも関わらず、一部の私腹を肥やさんとする役人は未だにこのような事を続けていたのだ。むしろ、内容的にはエスカレートすらしていたのである。
「それで、交渉に乗ってくれますかな……ルクーゼンブルク第六王女どの?」
「……ッ」
丁寧な声音で語り掛けて来る幹部に対し、王女は顔を顰める。
(父と母が亡き後に……またもやこのような事をする不届き者が……!!)
拳を握りしめる若き第六王女。
今すぐにでもこの不正を行った要人を極刑にしたい思いに刈られるが、それはできなかった。ここまで細かい証拠があるにも関わらず、その下手人本人を明かすようなものが一切出ていない。此方に意図的に見せぬようにしているかのように……。
王女にはすぐ分かった……おそらく下手人は、目の前の男が所属する組織が匿っている……いや、此方を脅す材料をより細かく洗い出す為に拷問し、代わりに身の安全を保障したのか。
下手人は、自らのルクーゼンブルク内での地位を失いたくがないために、自らの悪行を晒すは愚か、この国すらも売ったのだ。……どことも知らぬ、この王城の何処かにいる役人によって。
大方の事情を察した第六王女は、その事に怒りを覚えた。一国の王として、そして何より一人の人間として。
そして今、自分すらもがそれをタネとして脅迫に屈さなければならぬ状況となっていた。
「大人しく要求を呑まなければ……次期第七王女、いや、貴女の大切な妹がどうなるか……」
男は端末を此方に突き付け、その映像を見せる。
そこには王城に用意された子供部屋の中に、自分の妹……アイリスの姿と、ソレを監視する一つの影がある。アイリスより二つ上くらいの子供。もし彼らが送って来た刺客でなければ、すぐにでもアイリスの遊び相手として招き入れたいくらいの年齢ではあった。年も自分達キョウダイと比べてもアイリスに近く、更には同性である。
こんな状況でもなければ、間違いなく王女はその少女をアイリスの同性の遊び相手として招き入れたかった。
だが、あの少女の目を見て、それは叶わぬ夢なのだと思った。
少女の目は……映像越しでもただの子供がする目ではなかった。ウチの近衛騎士団に勝るとも劣らない凄みを感じさせ、他者を寄せ付けない剣呑さと、それでいて何処か他者を惹き付けるような存在感を放つあの少女。
僅かに、皮肉気に歪められた口元は、一体何に対して嘲笑っているのか……とにかく、背丈と雰囲気が圧倒的に食い違っている。
そんな印象を王女は、アイリスの傍にいる少女に対して抱いた。
「あの子は、関係ありませんっ」
「ならば、我々の要求を呑むべきだ。さもなくば、あの少女の凶刃が、貴女の妹君の胸を貫く事となる」
「――――ッ」
下衆が、と叫ぼうとして何とか耐える。
絶対に、許せない。
この男も、自らの保身のためにこの国を売った下手人も、アイリスを人質に取る卑劣さも、そしてあのような年端も行かない少女に手を染めさせようとするこの組織も、そして……何より自らの部下の不正を見抜けなかった己自身に対して。
自分達7人キョウダイの父と母は、末っ子であるアイリスを生んだ直後にこの世を去った。
まだ幼きアイリスを政界に巻き込まんと、自分を含む6人のキョウダイは亡き父と母に変わってこの国を引っ張って行こうと尽力した。
いずれはアイリスも国を背負う運命にある。ならばせめてその背中を見せてやろうと努力したのに、結局は父と母に及ぶ事もなかった。いくら末っ子を政界に巻き込まんと力尽くしても、そもそも残りの6人のキョウダイたち自体、このルクーゼンブルク公国を背負うにはあまりにも若すぎた。
その結果が、これだった。
不甲斐ない。あまりにも不甲斐なさすぎる。
「おっと、貴女方の誇る近衛騎士団を乗り込ませようとは考えぬ事だ。その瞬間、私は彼女に貴女の妹の抹殺命令を下さなければならない」
どうやら外で騎士団を張り込ませている事すら向こうにはお見通しのようだった。アイリスを見張っている黒衣の少女にも隙はなく、何より眼前の男はそんな少女を子供扱いはしていなかった。
「それで、ご回答の程は如何に?」
自分に、選択肢はない。
そんな事はハナから分かっているにもかかわらず、王女はテーブルの下で拳を握りながら葛藤した。
政治的な面で見れば、正直に言ってしまえばアイリスという次期第七王女の替えはいくらでも効いた。父と母の血を次いで生まれた子供達は自分とアイリスを除いても五人いる。だが、それでも妹を愛する姉としてならば、話しは全くの別である。
そんな事など、あってはならない。
「……分かり、ました」
そして、ついに王女は折れた。折れてしまった。
結局は、彼女もこの国を売った役人と同じ。同じ道を歩む羽目となってしまった。その悔しさから涙が出そうになるが、必死に堪える。
これ以上、国はおろか自分個人という弱みまでこの男に見せるわけには行かない。
「其方への、時結晶、および未登録ISコアの定期的な提供を、約束します。ですから、妹とこれらの証拠は――――」
「ええ。これで貴女方の国は何の問題も抱える事はなくなった。我々も未登録のISコアを手に入れる事ができる。お互いに有益な取引となった」
どの口がほざくのだ、と内心で悪態を付く。
最初から此方に選択肢などなかったではないか。
結局、最初の下手人を裁く事すら許されず、
「それと、ISコア及び時結晶の提供においては、我々が捕えた貴女方の要人を通して行わせてもらう。つまり、貴女方が不用意にあの男を処刑すれば」
「はい。我々はこの件に関しては詮索いたしません。我々自身はあくまで見なかったことにする。これでいいですね?」
「さすがはルクーゼンブルク第6王女。聡明で、話しが早くて助かります」
どう見ても皮肉にしか聞こえないその言葉に屈辱を感じながらも、王女は耐えた。普段ならばこれくらいの言葉では彼女の精神が傷つくことはないが、今回に限っては違った。そもそも、自分も知らない国の不正を他者に暴かれたその時点で、彼女はもうこの交渉の場に立てるような精神状態ではなかった。
妹を人質に取られ、こうして騎士団を動かす事すらできない。
最初から自分達には不利な取引だった。
「用は、それだけですか?」
「はい。これで我々の用事は終わりました。交渉は成功し、妹君もそちらへ返すと、彼女にも伝えましょう。では、これにて」
そう言って、男は席から立つと同時。未だ席に座っている王女に一つお辞儀をした後、数人の護衛とともに影の中へと消えていった。
追手を差し向ける事も考えたが、妹の命を考えればまだそれは得策ではない。少なくとも、妹の安全が保障できるまでは、此方から動く事は許されない。
やがて男の背中が見えなくなったと同時、王女の身体はブルブルと震えだす。
己の不甲斐なさに対する憤慨と、それとこの国のこれからに対する不安。
時代は移りゆく。ISの登場により男女の立場は逆転し、女尊男卑の時代が訪れた。それも時代の移り変わりだ。
その恩恵にあやかって、自分も女の身でありながら王女に付く事ができたし、ISの登場により我が国の時結晶の価値が開発者に目を付けられ、そのおかげで急速な発展を遂げる事ができた。
だが、それがあまりにも歪な形であったのだと、王女は今更になって気付いた。
限りある、世界的に見るとあまりにも数の少ないISコア。その中で唯一篠ノ之束の恩恵により正規登録以外のISコアとその技術提供を受ける事ができた我が国。
それ故、繁栄と共にその闇もまた助長する羽目となった。
ただ希少価値のあるだけだった
ルクーゼンブルク公国は繁栄した。しかし、それは同時に抱えていた闇を助長させるという代償を得る事になってしまった。
軍事的優位が圧倒的にあった。だが、居場所の分からない敵に対してはその効力は薄く、裏で根を張るように行動する組織の前では無力だった。
その慢心故、ISが世に蔓延る前からの国の暗部と向き合う事すら、何処か、本質的な部分で放棄していたのだ。だからこそ、その隠したつもりの尻尾を、闇の組織に掴まされる羽目になってしまった。
ISによる恩恵を一番に受けた国であるからこその、時代と人の変化は、国における絶対的アドヴァンテージを得ると共に、最大の隙を作ってしまった。
「ア……アァ……」
涙が零れる。
その闇に対処しきれなかった自分、それ故闇の組織に付け込まれる事となった我が国。
ルクーゼンブルク公国は父と母の時代よりも発展はしていたが、その歪さはより増した。そしてそこから目を背けていた。
これでは、亡き父と母に合わせる顔も、愛する妹を守る資格すらない、王女でもないただの愚か者でしかないではないか。
「ごめんなさい……」
王女は……否、少女は泣き続ける。
「ごめんなさい、父上、母上……ごめんさない……」
ひたすらに、亡き父と母に謝り続けた。
己の本音をぶちまけられる筈のキョウダイたちにすらその姿を見せず、こうして人目の付かない所で泣き続けた。
◇
時は打って変わって、また王城の子供部屋。
アイリスはいつまでもエムが相手をしてくれない事に凹んでしまい、涙を流しながら教本を一人で呼んでいた。
何もまったく相手をしなかった訳ではない、彼女の言葉に合わせてエムもルクーゼンブルク語でアイリスの質問にはある程度答え、ある程度の相槌も取りはしたが、育ってきた環境がまったくの正反対である二人の子供が同じ空間に居座っても、普通の子供達のような空気が出来る訳などなかった。
大人達から
子供特有の機敏ですら相互理解する事は難しく、アイリスはエムの持つ豊富な知識を大人達から
『大人達』から叩き込まれたエムは、大人達から何かを与えられる事すらも嫌った。大人という種族を致命的にまで嫌っているエムに、アイリスが歩み寄ることなど出来る訳もなかったのだ。
「エ、エム……」
「……」
アイリスの望む、真っ当な友人同士の関係を気付く事はもう不可能なのだと、アイリス自身も朧気ながら理解していた。
それでも、諦めきれなかった。
教本では駄目なのかと思い、本棚の下段から絵本を取り出し、再びアイリスはトテトテと壁に寄り添っているエムの方へ掛け迫る。
一緒に読もうよ、と縋るような思いでアイリスはエムの目を窺う。
エムはアイリスから目を逸らし、遠回しに拒絶の意を示した。大人達から与えられたソレを自分が読むなど、冗談じゃないとでも言った風に。
エムの拒絶の意志は今度こそ、アイリスにもハッキリと伝わった。
「う……うゥ……」
しゅん、と顔を俯かせ、アイリスはエムに背を向けてトボトボと絵本を床に置き、一人で読み始めた。
何故だろうか、いつもは一人で読むだけでも十分夢を見て楽しい筈なのに、ちっとも楽しくはなかった。
そんな、アイリスにとっての気まずい時間がしばらう続いた後。
エムの持っていた端末に連絡が入る。端末を手に取り、内容を確認する。
“交渉は成功した。至急そこから脱出せよ”
忌々しい大人からの、新たな任務が下される。
もうここに自分がいる必要はない。
後は、ここの部屋の外に張り込んでいる騎士団から逃げおおせるだけでいい。
「時間だ」
「……え?」
突然意味の分からない事を口にするエム、アイリスは思わず振り向いて困惑する。アイリスは大人ではない。
同じ子供としてせめてもの、エムなりの別れの言葉であると、アイリスは理解できなかった。
困惑するアイリスの傍を通り過ぎ、エムは王城の窓を開き、窓際に足を乗せる。
「ど、何処へいくのじゃ!? もう少し……」
ここで窓から去っていくこと自体に疑問を抱かないことぐらいに、子供心が追い詰められていたアイリスは慌ててエムを引き留めようとしたが、その言葉が言い終える事は終ぞなかった。
『皆の者!! 乗り込めえぇ!!』
部屋の外から聞き覚えのある声による号令と共に、ドアが力強く開かれ、大勢の騎士たちがアイリスの子供部屋に乗り込んできた。
交渉が成功し、同時にアイリスはもう人質ではなくなった。迅速な連絡によりそれを知った騎士団たちは一斉に乗り込んできたのだ。
せめて、アイリスを直接人質に取った下手人を処刑するために。
部屋に入って来た騎士団は早急にアイリスを確保し、同時に開かれた窓から白の外を覗き見る。
既に、下手人の影はなかった。
「くそ……逃げられたッ……」
敵の逃走を許してしまった事に悪態を付きつつも、男の騎士は窓を閉じて、無事だったアイリスの方へ振り向く。
そこには……
「ジブリル……ひぐっ、ジブリルッ……うえぇええんッ!!」
近衛騎士団の団長である女性騎士、ジブリルに泣きつく次期第七王女、アイリスの姿があった。
周りの騎士たちはアイリスの無事に安堵すると同時、怖かっただろうとアイリスを同情の目で見る。人質という恐怖を味わったが故に、アイリスは最も信頼する部下たるジブリルに泣きついているのだと。
周りの騎士はそう思っていた。
しかし……。
「大丈夫です、アイリス様。もう……アイ、リス様……?」
今だ泣きじゃくるアイリスを抱きしめる中、ジブリルだけがその違和感に気付いた。長年最も信頼する騎士団長としてアイリスを護衛してきた身だからこそ分かる、その違和感。
アイリスは、恐怖で怯えて泣き、安心を得る為に自分の胸の中で泣いている訳ではない。
アイリスは、悲しみのあまりに泣き、それを慰めてほしくて自分の胸の中に飛び込んでいるのだと。
その違和感の正体を一瞬で理解したジブリルは、ふと窓の外を見やる。
自らの敬愛する次期王女を怯えさせるのではなく、このように悲しませた下手人の姿を、幻視しながら。
◇
一機のヘリが、ルクーゼンブルク公国から背を向けて飛び去って行く。
そのヘリの中で、一人の男が側面の席に座りながら携帯で連絡を取り、一人の少女が中央の席に腕を組んで居座っている。
噂通りの娘だ、とため息を吐きつつも、男は携帯で上層部と連絡を取っていた。
「ええ、交渉は成功。女王陛下はこの取引に応じてくれるそうです」
「はい。さっそく二つのISコアをウチに提供してくれるそうです。ええ、はい。承知しております。一つはイギリス政府へ、もう一つはオルコット家へ。時期は……分かりました。さっそく取り掛かり次第、後はスコールに一任します」
「アラスカ条約でISの兵器運用が禁止されている今、本格的な兵器としてISを作るならばコアネットワークから独立した未登録のコアが必須。イギリスとアメリカは喉から手が出る程欲しいでしょう。全ては計画通り。はい、ではまた……」
通話を切る。
ヘリは一旦、亡国機業のとある支部の基地で少女を降ろし、一旦燃料補給を終えた後に、男を別の支部の基地へと帰した。
やっとエクスカリバーへの伏線を作ることができた……蠅の王国まで……後何話かかるんだろう?
どんな展開をお望み?
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マドカの身体のまま復讐完遂
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フォックス・・・・・・ダァイ
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からの他人の身体を乗っ取って復活
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クロエと百合百合