もし織斑マドカがリキッド・スネークみたいな奴だったら   作:ナスの森

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全貌

 事は順調に進んでいた。

 まずは不正を働いているルクーゼンブルク大臣が秘密裏に所有する中東の別荘から大臣を拉致し、拷問の末にその証拠を入手。

 その証拠でルクーゼンブルク公国第6王女を脅し、無事時結晶と未登録のISコアの提供させる約束を取り付ける事ができた。

 さっそく二つ提供を受けた亡国機業は、一つをイギリス政府に、もう一つをイギリスの上級貴族であるオルコット家に秘密裏に流す事を画策した。

 

 現在、イギリスはアメリカと共同であるISの開発に取り掛かっていた。

 無論、ただのISでない事は極秘であるからも分かる通りである。

 

 ISの名は、『エクスカリバー』と言った。

 かつてブリテンを統率していたアーサー王の使っていた名剣の名にちなんでつけられたそのISの形状は、文字通りの『剣』であった。

 表向きは人工の攻撃衛星(無論それすらもが極秘)、だがその実態はISコアを搭載した攻撃衛星である。

 つまり、このISの開発・研究は明らかにIS委員会の取り決め、およびアラスカ条約から反したものであるため、開発・研究自体を進める事はできても、コア・ネットワークを介してコアを認識する機器でその存在を察知されてしまえば瞬く間に計画は頓挫、開発を推し進めている両国もその権威を失墜させる事は明白であった。

 アメリカは元から持っていた世界的な権威を、イギリスは今始まったばかりの『イグニッション・プラン』における地位を著しく損失してしまうであろうことは間違いない。

 故に、両国は開発に着手する事こそできたものの、それはやはりある程度のレベルで止まってしまう

 いくら仮想空間上での実験で成功を重ねようと、現実で試せばどうなるか分かった物ではない。何の試行実験も重ねないで現実でいきなり成功に嗅ぎつける代物を作れたとして、そこで自国のコアを使えば必ず、早い段階でバレる。アラスカ条約に反した両国は、その権威を失墜する羽目になる。

 

 既にいくつかの実験段階をクリアしていた彼らは、ようやくエクスカリバーの試作機を作り出す事に成功していた。

 しかしそれはコア抜きの、外見の装甲と武装のみの話だ。その装甲(うつわ)に相応しいコア(心臓)操縦者(脳みそ)がなければ、何の意味も成さない。

 しかも、操縦者そのものに対しても稀代の適正が求められた。

 

 まず、この試作機とは違い、完成予定の本機はISコアとの完全なる生体融合適正に加えて、より高いBT適正までもが求められる。

 ここでいうBT適正とは、BT兵装……つまりは操縦者の脳による遠隔操作武装を扱うのにその操縦者がどれだけ適しているかを示す指標であり、エクスカリバーを操縦者()足り得る者に相応のBT適正がなければこの計画は途端に頓挫する。

 

 まるで出来の悪い、ピースの足りないパズルを延々と解き続ける悪夢のような作業だと、研究者たちは思った事だろう。

 

 しかも、()()()()()()()、本機のエクスカリバーはそもそも()()()()()()。その名の通り、巨大な剣の形をした攻撃衛星だ。

 手足などは不要。

 しかし、一般的なISの装甲は手足のパーツがあって成り立っている。そこにはある程度の人の動きの感覚を非搭乗時と違えないための措置――いや、そもそもISの定義は宇宙での活動を可能とするパワード・スーツなのだ。

 これでは操縦者はもはや操縦者とは呼べない、ただ搭載するだけの脳に過ぎない。

 ……話を戻そう、要するに人の身体を動かす感覚でエクスカリバーを操る事は決して不可能。それにそもそもの話、アメリカと英国はこのエクスカリバーを兵器として運用する事を想定しているため、操縦者はただの搭載パーツに過ぎない。

 故に、脳が命令するのではなく、()()()()()()()

 脳に電気信号チップを埋め込み、意識のない操縦者の脳から命令信号を送らせ、操縦者ではない、第三者の手によってソレを運用する。

 それが完成機エクスカリバーの開発目的なのだ。

 

 まずは試作型が開発された。

 本機とは違い、エクスカリバーそのものではなく、エクスカリバーの機能を搭載した武装を巨大の人型ISに搭載させたものであり、その巨人の持つ巨大な剣こそが、エクスカリバーという衛星砲の役割を担う物だった。

 つまり、その武装そのものが試作型エクスカリバーそのものと言えた。無論、エネルギーは本体であるISのコアから引っ張ってくるものなのであるが。

 他にも本機エクスカリバーに搭載予定の試作段階のBT兵器とその他多数の補助武装をIS本体は備えており、本機とはまた別の意味での兵器運用が期待されていた。

 また、本機はあくまで試作型であるためISコアと生体同期した人間が搭乗する事を想定しておらず、あくまで装甲内部のパーツであるISコアと操縦者をISコアと繋がっているコードを操縦者の専用ISスーツに取り付けられたプラグに接続する事によって疑似的に生体同期するタイプであるため、理論上ではただBT適正を持っているだけのISパイロットでも操ることができる仕様になっているのだ。

 しかし、先でも述べたように、あくまで出来上がったのは装甲(うつわ)と武装だけ。

 

 だが、とある闇ルートで未登録のISコアを入手した事で、彼らの研究はまた進んだ。まずはその手に入れた未登録のISコアをさっそく試作型エクスカリバーに搭載し、ある程度のBT適正を持つテストパイロットに操縦させた。

 結果、あくまで疑似的な生体同期でしかないソレは、操縦者に多大な負担を強いる者であり、さらには試験的に搭載したBT兵器は操縦者の脳信号に過剰に反応し、暴走する始末。中には操縦者の意志は愚か操縦者の感情のみにすら反応し、IS本体そのものが暴走する事態に至り、こうして試作型は失敗作として放置される事となった。

 

 結果、そのテストパイロットは廃人寸前までに追い込まれたが、肝心の武装である主砲の威力は見事、目標とする衛星砲と同等であると判断され、ある程度の成功とみなされ、ようやく完全機の開発に取り掛かる事になった。

 

 だが、そこでまた次の問題が発生する。

 幸運にも彼らは、とあるスラム街で驚異的なBT適正を持つ子供を見つけ出す事に成功。しかも都合のいい事にその少女は重い心臓病を患っており、ISとの生体同期手術を施す口実も丁度良く出来上がった。

 無事に身体改造を成功させ、生命維持ポッドに眠らせ、後は空いた心臓に未登録ISコアを埋めるだけであった。

 しかし、いよいよ完全機の開発に取り掛かる直前、研究機関に保存されていた少女の身体を、何者かが持ち去ってしまったのだ。

 

 彼らは焦り、途方に暮れた。

 何時、誰が、何処に、その少女を持ち去ったのか、見当も付かなかった。

 

 

「そう、彼らは慌てたでしょうね」

 

 貸し切りとなったホテルの上層階で夜景を楽しみながら、スコールはゆっくりとグラスを置く。

 

「せっかく、亡国機業(私達)が流した未登録のコアを手にしたにも関わらず、肝心の適合者を手放してしまったのだから」

 

 カップの紅茶を少量啜り、ソーサーに置く。

 オータムが隣に座り、夢中でスコールの話を聞き、エムは反抗的な目でスコールを睨みつつも彼女の話を聞くしかなかった。

 

「そう、ここまでもまた私達が用意したシナリオ。まずはイギリス政府に未登録のISコアを流し、エクスカリバーの研究をある程度進めさせる。同時に……オルコット夫妻が探し求めるエクシア・カリバーンの情報を、彼らが探る情報網の中にそれとなく混ぜ込み、掴ませた」

 

「だが、その時のエクシアはまだISとの生体同期での手術を完了していなく、言わば下地を敷いた段階に過ぎなかった。故に、オルコット夫妻自身もまた彼女の心臓病を治療するための、未登録のISコアが必要になる」

 

「そこでエム、今回もまた貴方に手伝わせてもらったわけ。貴方がオルコット宅の警備員を全員眠らせてくれたおかげで、私は易々とオルコット夫妻に交渉を持ち込む事に成功した」

 

「金と引き換えに、彼らはよろこんで二つ目の未登録コアの提供を受けてくれたわ。これで、未登録コアの一つは政府のIS研究機関に、もう一つの未登録コアはオルコット夫妻に渡った」

 

 後は分かるでしょう?

 スコールは顔を振り向き、オータムとエムに問う。

 オータムはそのスコールの優美な姿に目を輝かせ、エムはただスコールの話を聞くたびにその敵意を孕ませるだけであった。

 エムがスコールに敵意を向ける理由は明確――この件もまた、汚い大人達が何の罪もない子供を玩具のように弄ぶ物語だからだ。

 二人の姉妹に起こった悲劇により、一人は実験体として弄ばれ、もう一人は失った妹を求めて大人達に利用される道を選び、まったく無関係だったもう一人の娘も大人の汚い世界に片足を突っ込む結末となってしまう、この物語を、エムはどうしようもなく憎んでいた。

 その物語を操る汚い大人達の一人、いや二人が、目の前にいるのだ。

 ついこの間までアフリカの村落で少年兵を率いていたエムからしてみれば、とてつもなく不愉快な話だった。

 

 さて、その物語とは?

 

 その結末は、亡国機業という反社会的テロ組織からもたらされたISコアを手に取ってしまった、オルコット夫妻の最期を持って語ろう。

 

 

 

 

 様々なオルコット家の関係者が集まる欧州横断鉄道を走る列車。その中央の車両に、オルコット夫妻は座っていた。

 二人の気分は、ついこの間見つかった自分達の拾った娘の妹、エクシア・ブランケットの事について言い争っていた時よりもはるかに軽くなっていた。この間までの言い合いが嘘であるかのように、二人の眼には希望が満ちており、二人の頭の中もまた同じ光景が浮かんでいた。

 ――――自分達、娘のセシリア、チェルシー、その妹のエクシア。五人がテーブルの食卓で向き合い、何処にでもいる家族のように、一緒に食事をする光景。

 ――――セシリア、チェルシー、エクシアを机に座らせた状態で並べて、それぞれにオルコット家における役目や教育を施している光景。

 ――――セシリアが妻の跡を継ぎ、チェルシーとエクシアがその補佐を務めている光景。

 それらは皆、二人の仲で思い浮かべる将来のオルコット家の未来像だった。

 例え、どんな形であっても、これでようやく自分達は家族であり続ける事ができる。

 セシリアが生まれた。チェルシーを拾った。チェルシーの悩みと過去を打ち明けられ、数年の苦労の末に上の奴等から彼女の妹であるエクシアを奪い返す事に成功した。

 エクシアのこれからについても目途が立った。

 

「本当に、色々あったな」

 

「……ええ、そうね。こういうのも何だけど、あの人に……スコールに感謝しないと」

 

「そうだな。でなければエクシアだけでなく、僕達も」

 

 もしかしたら、別れる羽目になっていたかもしれない。

 テロリストと取引する事になるとは思わなかったが、それでも何とかエクシアを助ける目途が出来た。

 助けるだけなら出来たが、今後の保証が皆無であった状態であったがオルコット夫妻にとっては渡りに船だった。

 登録済みのコアではエクシアも、自分達も危ない事を悟り、コア・ネットワークを介した探知機の検知されない未登録のコアを使う事でそれを解決できたのだ。

 手術も無事成功し、今彼女は隣の車両の寝室ですやすやと眠っている。生体とISコアとの同調率も正常値を維持、このままならば無事目を覚まし、彼女に外の、光の当たる世界を見せてあげる事ができる。

 何より、姉のチェルシーと再会させる事ができる。

 家族として迎え入れる事ができる。

 オルコット夫妻の、数年の苦労はようやく報われたのだ。

 

「……貴女には、謝らなければいけないわね」

 

「何だよ、それば僕だって……」

 

 お互いに目を逸らし、両者は気まずそうに笑った。

 あの夜での白熱した言い合い、それはもうすさまじい物だった。スコールの介入がなければ自分達はエクシアの事など忘れて互いを罵倒しあい、取り返しの付かない所まできていただろう。

 例えテロリストであったとしても、今だけは彼女に感謝の念を抱かざるを得ない。本来、政府に貢献する貴族として、テロリストと取引するのはどう考えても許されない事であるが、それ以前に政府に逸材として目を付けられているエクシアを奪うという敵対行為を既にしている身としては、そのような想いも若干ではあったが薄かった。

 

「ごめんなさい。貴方の方が正しかった。未登録のISコアを使うなんて発想に思い至らずに、このままだと私はただあの子に、エクシアに無駄死にをさせるだけだった……それに……また貴方の事を労働階級風情だと見下して……嫌だ、私、あの時から全然変わってないじゃない……」

 

 後悔しながら妻はこれまでの事を思い出す。

 二人の出会いは最初こそ最悪と言っていい物だった。

 お互い雇い主と労働者、そういう関係だった。そして、雇い主はその雇用者の能力に目を付けて、最終的には自分の傍に置いた。

 やれこんな私の傍に入れる事を光栄に思いなさいだの、平民風情が貴族たる私に意見をするなだの、散々だったと言っていいだろう。

 だが、目の前の男は自分のその発言に耐えながらも、最終的にはそんな自分を受け止め、諭し、変えてくれた。

 

「僕の方こそ、ごめん」

 

 今度は夫かが頭を下げた。

 

「僕の方こそ考え無しだった。オルコット家の所有するISコアとはいえ、不用意にイギリスのISコアを使ってしまえばどうなるか……それでオルコット家がどうなるかなんて、考えてもいなかった。僕は、チェルシーとエクシアを再会させて、君とセシリア、五人で一緒に過ごす未来しか考えていなかった。他の事なんてちっとも気にして何ていなかった……未登録のISコアの話なんて出ていなければ、僕はとんでもない過ちを犯す所だった」

 

 本当に能天気で救えない馬鹿野郎だよ、と夫は自嘲した。いや、それだけじゃない。自分は一瞬でもコアと生体融合したエクシアを『将来、やがて来るであろう戦いにおいてセシリアの力にしよう』などと考えていた。

 そうだ、自分は妻が言っていた、エクシアを兵器として利用しようとした大人達と同類だった。知らずの内に、夫もエクシアを利用しようとする悪い大人になる所だったのだ。

 

「違うわ」

 

 そんな独白をする夫の言葉を、妻は否定した。

 

「仮に登録済みのコアを使うとしたら、どんな形であれエクシアが使い物になるという事をアピールしなければならない。他ならぬエクシアがこのオルコット家を居場所とできるように、他ならぬエクシアのために。貴方は、その先の事もちゃんと考えていた。それなのに私は……私は……オルコット家の限界などと言い訳して……」

 

「分かった……もういい。この話はやめよう! もっと建設的な話をしよう」

 

「ふふ、そうね」

 

 あの夜での言い合いと同じくこれ以上続けると収拾が付かなくなる事を両者は悟り、今度は屈託のない笑顔で笑い合った。

 昔から自分達はこうだった。夫も、普段は当主である妻の顔を立てて、表では彼女に引け目を感じていたが、いざこういう重要な話になる度に両者は互いに譲らずに衝突する事が多々あった。

 結局の所、自分達はあの頃から変われていない……変わっていないのだ。

 

 お互いにそのような認識をすると同時に、頭の中を切り替える。

 

 そう、これからの話をしなければならない。

 まだバレていないとはいえ、オルコット家は既に政府に対しての敵対行動を取ってしまった。名誉あるオルコット家、とりわけ今代の当主である妻は、様々な会社を経営しては、様々なプロジェクトを打ち立てて大成功を収め、オルコット家を更なる高見に昇華させた。

 そんなオルコット夫妻の今回の所業が国内に洩れれば、たちまちイギリスの政界はおろか、業界にまで影響が及ぶだろう。

 それだけは避けなければならない。

 それはまるで今も尚自らの所業を隠匿し続ける政府と何ら変わりはないが、それでも、そんな汚い大人のやり口を使ってでも、しなければならない。

 

「まず、エクシアのコアについては一先ず安全と見ていいだろう。それからは――――」

 

 夫が口を開こうとした、その時――――

 

 彼らの世界は、横転(断絶)した。

 

 

     ◇

 

 

 その日、多くのオルコット家の関係者を乗せた欧州横断鉄道列車が横転した。

 死傷者が百人を超える大事件となり、この事件はイギリス中で報道された。

 原因は未だに不明。

 その事故によりオルコット家の関係者の死傷者多数、オルコット夫妻の死亡も確認された。

 一度は陰謀説が囁かれたが、警察は報道陣に向かって、事故の状況を説明し、その線をあっさりと否定した。

 

 ……ただ一つ、寝台車両の寝室にて、一人の少女らしきDNAの痕跡が確認された事を除いていては。

 警察はそのDNAの元々の持ち主を調べたが、少なくともイギリス国内のどの人間とも一致はせず、捜査は難航し、警察は世論の混乱を防ぐ為にその事をマスコミに開示する事はなかった。

 

 

     ◇

 

 

「ええ、分かるはずないないでしょうとも。何故ならそれは戸籍上は存在しない筈の人間。それも政府が過去に攫った少女のDNAとなれば、政府は警察に心当たりを問われても答える筈がない。何故なら、その少女は今も自分達の手元に置いてあるのだから」

 

 そう、オルコット家の政府への敵対行動を、政府が、いやイギリス諜報部(SIS)が見逃す程甘くはなかった。

 オルコット夫妻が亡国機業から未登録のISコアを齎されたという情報を入手し、彼らより先回りをし、オルコット一族の関係者だけが乗る欧州横断鉄道列車を事故に見せかけて転倒させ、エクシア・カリバーンを奪い返す事に成功した。

 

「そうさせるために、態と私達は痕跡を残した。SISはオルコット家と私達の取引情報を掴めるように。結果、イギリス二重の意味で得をしたわ。

 結果的には自分達の手元には未登録のISコアが二つも。しかも既に一つは自分達の当初の目的だった『エクシア・カリバーンとISコアとの生体同期』に使われている状態。態々自分達で手術する必要もなく、探知を潜り抜ける事ができるISコアを手に入れ、更にはエクシア・カリバーンを取り戻せた事により、アメリカに対してようやく行き詰った研究・開発の再開を宣言できる。アメリカの資金援助と技術支援も再び取り付ける事に成功し、こうして完成機エクスカリバーの開発の目途が完璧に立った」

 

「今頃、イギリスとアメリカは完成機の開発にいそしんでいる頃でしょうね。もう一つの未登録コアの存在により、試作機のデータも取る事に成功した。

 無事、エクスカリバーは開発されるでしょうね。()()()()()()()()()

 

「ルクーゼンブルク公国から頂いた二つの未登録コアには、ある仕掛けをしておいたわ。機動したその途端、いつでも制御を私達に移す事ができるように、ね……」

 

 紅茶を飲み干し、再びソーサーにカップを置くスコール。

 これが、今回の事件の全容だった。

 これで、いつの日か亡国機業は、完成したエクスカリバーを横から掠めとる事になるだろう。

 その時が、楽しみだ、とスコールは笑った。

 

「それにしてもよ、上もよくそんな事を思い付よなぁスコール。アイツら、まさか私達の掌の上で踊っているとも知らず、必死に条約回避に手段まで漕ぎつけて兵器開発とは、ご苦労な事だぜ、まったく。

 いずれ横から掠め取られる事も知らずによ」

 

「……という事よ。理解したかしら、エム?」

 

 言って、スコールはエムの方を一瞥。

 エム自身、憎い程に理解している事はスコールも承知の上だった。

 その上で聞いたのだ。いや、思い知らせたかったのかもしれない。

 

 ――――これが、大人のやり方だと。

 

 いずれ貴女もいつまでも無鉄砲な子供ではいられなくなる。癇癪を起すだけの子供のままでは生きてはいけないのだ。

 頭を使う生き方を、お前は覚えなくてはいかないのだと、スコールは遠回しにそう諭したつもりだった。

 

「……」

 

 無言のままだが、その眼に籠る敵意が尚膨れ上がっているのをスコールは感じた。

 それを見たスコールはハァ、とため息を吐く。

 

「勘違いしているようだから言うわよエム。今回、確かに私達は貴女と同じ年の子供を弄ぶ物語を作り上げた。貴方が最も嫌う、その物語(サーガ)をね。

 けれど、忘れない事ね。今回、貴方もまたその『私達(大人)』の一人である事を。この物語を作るのに手を貸した、子供を弄んだ加害者の一人である事を忘れない事よ」

 

「……チッ」

 

 舌打ちが漏れる。

 常人がその瞳に射抜かれれば、それだけで殺されてしまいそうだ。

 それくらいに、少女に瞳に映る大人達に対する憎しみは尚膨れ上がっていた。

 

「学習しなさい。貴方は非力な子供でしかない。弄ぶ側に回りたいなら、力を付けて、その上で大人になりなさい。

 そうしなければ私達に生きる道は――――」

 

「もういい、分かった」

 

 スコールの言葉を遮り、珍しくエムが口を開いた。

 珍しく自分から口を開いたエムに興味が湧いたスコールは、身体ごとエムの方に向ける。

 この物語を目の当たりにしたこの子は今更、自分にどのような減らず口を叩いて来るのかと期待したその時。

 

 

「用は貴様らも、()()()()()()()()()()()()()()。だからそんな風になった。そう言いたいのだろう?」

 

 

 その発言は、あまりにも予想外で。

 いつものような子供じみた文句が連発されると思っていた筈なのに、その言葉は――――グサリと、まるで脳天に刃物を刺されるかのように、その思考を断ち切られた。

 

 

 そして、しばらくたった後。

 

 

「――――おい」

 

 

 まず口を開いたのはオータムだった。

 腰からナイフを抜き、刃先をエムの首筋に当てた。

 

 

「もう一遍言ってみろ、餓鬼」

 

 

 刃物を押し当てて脅すオータムであったが。

 エムはそれに押される事なく、そんなオータムを嘲笑うかのように、鼻で笑った。

 いつも皮肉気に歪められたその口元は、今度こそこの世界や大人達ではなく、自分達(スコールとオータム)にむけて嘲笑っていた。

 まるで、憐れむかのように。

 

 

 

「そうかい。言い残す事がねえんなら――――」

 

「やめなさい、オータム」

 

 そこに、スコールが制止をかけた。

 何故だ、とオータムは視線でスコールの方を追うが、そこでオータムも気付いた。

 

 スコールの目も、笑っていなかった。

 

 まるで今すぐにでもこの餓鬼を葬ってやりたいのを、必死に我慢しているようだった。

 

「その子には、どうせ何もできはしないわ」

 

「それでも、スコールッ」

 

 納得できない、とオータムはスコールに食いついた。

 この餓鬼は今言ってはならない事を言った。

 スコールを、自分の愛しい人物の事を何も分かっていない癖して、あろう事か弱い子供でしかなかったと言い放った。

 それも、嘲笑いながらだ。

 そんな事、許容できるか。

 

「ほら、ここにおいで、オータム」

 

 言って、スコールはスカートを捲る。

 美しい美肌の《生足》が露わになり、オータムの目線をくぎ付けにする。

 オータムは、もう先ほどのエムの発言などどうでもいいように、その魅力的で、煽情的な姿に目を奪われてしまった。

 

「ス、スコール……!」

 

「ほら、いつもの貴女に戻って。綺麗な顔が台無しよ」

 

 その言葉に、オータムは顔を赤らめ、顔を俯けた。

 ああ、その言葉は反則だ。

 もう、さっきの事なんて、どうでもよくなってくるじゃないか。

 

「最近ご無沙汰で、中々休まらなかったの。……だから、抱いて」

 

「スコール……」

 

 上目遣いでそうお願いしてくるスコールの誘惑を断ることはできず、オータムはスコールの隣に座り、スコールの身体を抱いた。

 

(下らない。下らないな)

 

 完全に二人の世界に入ってしまったスコールとオータムを再度嘲笑い、エムは部屋のドアへと向かう。

 同性愛――――大凡遺伝子に固執しているマドカにとってみれば、それは度し難いものだった。女同士では子を成せないのに、同種の遺伝子を持つキョウダイという訳でもないのに、何故あそこまで愛し合うのか。

 

 いや、単にあれは逃げているだけだ、とエムは結論付けた。

 

 スコールと直接戦い、その感触を肌で感じ取ったからこそ分かるエムであった。

 表面上、普通に触っただけでは普通の人間の感触と遜色ないが、スコールは間違いなくサイボーグだ。

 体の生身のパーツは機械に置き換えられ、その脳みそが本来己の身体でない筈の鋼鉄の身体を動かしている。

 

 そう、スコールはもう子供を産めない。

 

 男と子を成せない。愛し合う事もできない。

 故に、オータムという男らしい女性にしがみつき、甘え、慰めてもらって、その事実から逃避している。

 オータムでさえ、スコールの正体に気付いている様子はない。……薄々と勘づいてはおろうが。

 

 そう結論付けたエムは、もうここには用はないと言わんばかりに部屋から去って……取手に手をかける直前、視線を感じて振り向いた。

 視線の主はスコールだった。

 オータムに体を抱かれている状態で、鋭い眼光の視線だけをエムに向けていた。

 

 ――――貴女もいずれ、こうなる。大人になってしまえば分かるわ。

 

 そう言われているような気がしたエムは、それに気にした風もなくドアの方へ振り返り、心の中でその視線に返答した。

 

 ――――私は、貴様らとは違う。

 

 心の中でそう言い残したエムは、部屋から出ていい、自室へと向かった。

 

 

 

 




原作でイギリス政府がセシリアの両親が死んだ列車事故に関わっている描写はありませんが、チェルシー曰く、原因が「エクシアのコアは亡国機業からもたらされたものだったから」と説明しているので、どう考えても政府の関係者だろうという結論しか出ませんでした。

エクスカリバーの件といい、IS世界のイギリスって真っ黒すぎる……

どんな展開をお望み?

  • マドカの身体のまま復讐完遂
  • フォックス・・・・・・ダァイ
  • からの他人の身体を乗っ取って復活
  • クロエと百合百合
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