季節は春から夏の間。この時期にやるものと言えば、そう。
「体育祭だー!!」
突如あげたその声は、家中に響き渡ったと同時に、彼女の気持ちを掻き立てた。
彼女は日々、運動をしている。そのせいか、体育科目は大抵得意だ。主に、陸上系のスポーツが好みで、彼女の友人に「陸上競技部」を進められていたらしい。だが、彼女は断った、言うまでもなく。
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彼女が年に一度の体育祭を楽しみにしている理由には、幾つかの理由が存在していた。1つは、当然の如く、体育関連のものであるから。そして、もう1つ、彼女には計画をしていたものがあった。
「ふふふ…絶対食べさせてやる…!」
そう、彼女は彼に、自分の食べた料理を食べて欲しかったのだ。
数日前、同クラスの「初音」は手作りの料理を彼に食べさせた。パンだけでは栄養バランスが崩れるから、といった理由だ。だがしかし、問題はそこではなかった。
彼は食べなかったのだ、彼女の料理を。同クラスの、しかも同じ性別の人から料理を食べているのにも関わらず、彼女の料理は決して食べない。果たしてなぜなのだろうか。彼女はその理由を、知る由もなかった。
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「今日は体育祭の事を決める日…楽しみだなあ。」
そう呟きながら、いつもの通学路を歩み、学校へと足を進める。彼女の生活の一部と化した、毎朝彼と会うというものは、生活の一部とはいえ、楽しみの一つでもあった。
彼を来るのを待っていると、いつも通りの曲がり角からノコノコとやってくる。今日はいつもより少し遅かったのである。
「どうしたの、今日。遅かったじゃん。」
「少し忘れ物をした。」
彼が忘れ物をするのはなかなかに珍しいことだ。だが、紲星あかりとは違い、自分でそれに気づくことが出来ている。ちゃんとした性格に、彼女は関心をした。
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待ちに待った6限。そこに何があるかと言うと、授業科目は「総合」である。この時間を先生は利用し、体育祭のことについて皆と話し合う。今日から始まるそれに、彼女は心を燃やしていた。
「皆さん、聞いてください。」
担任の東北先生が口を開く。すると、皆は口を一斉に閉じる。
「皆さんは、
東北先生は机をバン、と叩き、いえー!と興奮した口調で盛り上がった。先生が騒ぎ出すと、他の生徒も次々に騒ぎ立てる。先生は、生徒からかなり気に入られており、とても優しい先生なので人気が出るのも当然なのだ。
彼女もまた、騒ぎ立てたうちの一人であった。しかし、不意に横を見る。そこには、つまらなさそうな顔をした、糸口の顔があった。
「イヤなの?」
「苦手だからな、こういうの。」
そう質問に答えると、彼は伏せて顔を隠した。よっぽど彼女に顔を見られるのが嫌なのか、はたまた別の事情がその顔に隠されているのか。その答案は、教科書、辞書にも書かれていない。
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「はあ…。」
彼は長いため息をつく。やはり、体育祭という行事が憎たらしいのだろうか。
今日は一人で帰っている。彼女は用事があるからと言い、先に走って帰ってしまったのだ。彼は渋々、自己中心的な奴だ、と心の中で思い、その言葉はひっそりと隠しておいた。
そんな彼の様子を少し遠くから見ているものがた。それは、
「糸口君。だよね?」
振り向くとそこには、「歴史部」の先輩、「弦巻マキ」先輩が後ろに着いてきていた。思わず彼はびっくりして、咄嗟の反応が出てしまった。
「なんですか…吃驚しました。」
「あはは、ごめんごめん。」
「まあ構わないですけど…。要件があるのでしたら手短にお願いします。」
「まあまあ、そう固いこと言わないで。」
そういうと弦巻は、早歩きをし、彼の隣へと移動した。
体格差がある2人。その差は10cm以上にも及んでいる。そんな2人が、少しずつ夕焼けが出て来ている初め、歩行速度を合わせて帰宅しているのである。
「そういえばさ、さっきため息していたでしょ。」
糸口は無言で頷く。あまり察されたくない事実を今、彼女に知り渡れられようとしているのだから、当然のことなのかもしれない。
「体育祭関連のことじゃないの?」
「そうですが。」
やっぱり、と弦巻は呟く。その時の彼には、この発言の意味は判らなかった。しかし、次の言葉でその意味は正体を現す。
「いやー、ゆかりんも体育祭嫌いだからさ…。」
「えっ。」
あの結月先輩が、あの運動神経の良いと言われている結月先輩が体育祭を嫌っているとのことなのだから、驚くほかない。
糸口は疑問を生じた。果たしてそれは何故なのか、それを問い詰めようとすると、どうやら口封じをされているらしく、手にできる情報はそこで幕を閉じたのであった。
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弦巻と別れた糸口は、いつもの十字路で曲がった。学校でもあまり合わなかった彼女の姿はそこにはなく、いつもより静けさが感じられた。何処と無く不自然な感じがしてたまらない、そう思っている糸口に、
「こんばんは。」
と、声をかける者がいた。そう、その人物は…。