「こんばんは。」
糸口に声をかける一人の人物。
日が沈んできて、そろそろ夜になろうとしている時間帯に、夜のお決まりの挨拶をかける人物がいた。無論、それが誰だかは糸口本人が一番知っている。
「なんだ、こんな時間に。」
「ちょっと会いたくて。」
不思議な意味を込めたかの様な言葉を発する彼女は、にへっと笑うと、ゆったりと糸口に近づき歩き始めた。
2人の影が夕焼けに照らし出され、近づいていく。ひとつの影は微動だにせず、じっと様子を伺い、もうひとつは歩いている。ふたつの影が近づいてくる中、それをじっと見つめるもうふたつの影がそこにあった。
「やっぱりあの二人、デキてんじゃん…!」
「しー!マキさん、気づかれますよ…!」
その正体は結月ゆかりと、弦巻マキ。
どうやら、二人の関係性が気になり、連絡を受けた結月ゆかりは弦巻マキと集合し、2人の様子を見つめていたようだ。
その様子に気づいていない紲星あかりは、
「ねえ、一緒に帰らない?」
と言う。だが、糸口は恐らく否定するであろう。彼は彼なりの事情がある。それも断然承知の上で、紲星あかりは誘ったのだ。
「糸口君、チャンスですよ…!」
結月ゆかりは遠くで応援をしている。コソコソ隠れながら2人の恋愛事情を見るのも悪くないと悟った結月ゆかりは、これから毎日見続けてみよう、と思った。
が、しかし。
▪️
「なんで、こうなってるんですか…。」
「さあ…ゆかりんのせいじゃない…?」
「お二人方です。」
結局最初からバレバレだったのである。
二人はコソコソと隠れていたつもりだったのだが、生憎弦巻マキの髪の色が黄色なのもあり、それが目立ってしまった様だ。バレてしまった時に彼女は、あー、結んでおけば良かった〜、と言っていた。
今、こうして
「これがウワサのパンケーキですか〜。」
「みてみてゆかりん!美味しそうー!!」
二人はパンケーキを見て、子供みたくはしゃいでいる。先輩たちのそういった所も可愛い、と思う紲星あかりはふいに糸口の方を見る。糸口はそっぽを向き、窓どうしの自分と睨めっこをしている。
「マキさんマキさん!はい、あーん。」
「あーん。」
結月ゆかりから受け取ったパンケーキを弦巻マキは口にする。味を噛み締めながらモグモグと食べる弦巻マキには、とても愛嬌があり、もうひとつの部活の活動中の時と正反対の表情をしていた。そういえば、と結月ゆかりは呟くと、糸口の方を見る。糸口は結月ゆかりに顔を向け、結月ゆかりが言霊を造るまで待ち待機していた。
「糸口君とあかりちゃんって、どういう関係なんですか?」
にやにやとしながら二人はの事情を聞くと、紲星あかりはボッと煙を上げ、顔を夕焼け色に染めた。
「ただの友達です。」
冷静に答える糸口に対し、何かを
「付き合っているんじゃないの?」
「違います。そんな関係じゃないです。」
へぇ〜、と関心をあげる弦巻マキだったが、未だに疑っている結月ゆかりは、本当に?本当に?と何度も問いつめる。その度、糸口ははい、と答えるしかない中、紲星あかりはずっとその状態だった。
▪️
月光に照らされた道を歩く二人。そのシルエットは家の塀に映し出され、隣を歩いているため、ひとつに重なっていた。
特になんの会話もない。今日のカフェの感想や、あの二人についての話題もない。ただただ夜道を無言で切り裂く二人はいつもの十字路に着き、その場に立ち止まった。
「じゃあね。霧夜君。」
「…ああ、また明日な。」
別れを告げ、それぞれの家へと向かって歩を進める。街灯が所々にあり、その度、彼の影がシルエットとなり、再び消える。その繰り返し。糸口は無言でただただ歩き、家に向かって歩いていく。
一方で紲星あかりは、ゆっくりと歩き、俯きながら歩いている。
「はぁ〜…何も喋れなかった…。」
ため息を着き一言呟くと、顔を上げ、頑張るぞ、と意気込み、走り出した。彼女の銀色にたなびく髪がゆらゆらと揺れ、それは月明かりによって、さらに銀色を増し輝いていた。
んーーーおわりーーーー!!!!(?)