紲星あかりと別れを告げ、家に帰る糸口。彼が行先は家ではなく、近くのコンビニだった。
自動ドアが開き、いらっしゃいませー。と掛け声と共に、入室時の音が流れる。そんな音には一切興味はなく、スタスタと店内の奥へと入っていく。
「今日は疲れた…。弁当にでもするか…。」
料理をするのは嫌いではない、がしかし、今日は疲れている。好みではない体育祭のことを決め、オマケに紲星あかりにカフェにまで連れていかれた。さっさと夕食を済ませ、お風呂に浸かり睡眠を取りたいと思った彼は、その頭が回る前にレジへと並び、会計を済ませていた。
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「ただいま。」
誰もいない部屋に響き渡る声、その発生元は糸口だった。
暗い廊下の灯火をつけ、当たりが見渡せる状態になる。靴を脱ぎスタスタと歩き、自室へと向かう。戸を開け荷物を置き、机の前にある椅子に座り、一息ついた。
「はぁ…。」
最近、調子が出ないのだ。体育祭の事を決めてからなのかは分かりもしないが、糸口の体調は良くはない。その事もあってか、食欲すら湧かず、ただただぼーっとしている時間が多くなっている。兎にも角にも、今夜は夕食をとろうと考えた彼は、先程購入した品をリビングへと運んだ。
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「ご馳走様でした。」
そう言うと、空になった弁当箱をゴミ箱に捨てる。ガサッと音を立てゴミ箱に入った弁当箱は役割を果たし、焼却炉にて処分されるのであろう。きっとそうだ。
夕食を食べ終わった彼は、お風呂に入る事にした。今日一日の疲れを
プルルルル・・・プルルルル・・・
携帯が音を立て、震えている。これは恐らく、電話であろう。この時間にアラーム等は設定していないし、本来ならなるはずの無い音楽なのだから。
「はい。」
糸口は何も考えずに応答する。相手が誰であろうと関係も無しに。
「あ、糸口君?」
「…結月先輩…?」
電話の相手は紲星あかりでは無く、「歴史部」の部長「結月ゆかり」であった。電話番号を教えていないにも関わらず、何故結月ゆかりが自分の携帯に電話をかけれているのかに違和感を抱く。がしかし、その時の彼にとってはそんなことはどうでもよかった。
「で、なんですか?疲れているんで早く寝たいんですが。」
「まぁまぁそう言わず。少し部活のことについて話そうよ。」
「部活…歴史部についてですか…?」
うん、と答える結月ゆかりはペラペラと喋り出す。相槌を打つ糸口だったが、その内容は一向に頭に記憶されない。だが、そんなことは結月ゆかりが知るわけがない。その一方的な彼女の言霊は、糸口に届くことはなく、1時間が経過した。
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「…以上です。分かりましたか?」
「途中から結月先輩の自慢話だったじゃないですか。」
「そっ、そんなことないです!兎に角、明後日、明後日ですからね!部室に来てくださいよ!」
「分かりました。」
「それでは、ぐっない〜。」
「おやすみなさい。」
トゥルン、という音がして電話が途切れる。その時の部屋の様子は静寂で、先程まで聞こえていた女性の声は当然ながらも、そこには無い。その空間のベッドの上に座り込む彼は、そのままパタリと倒れ、朝を迎えることにした。
が。
プルルルル・・・プルルルル・・・
再び電話がかかってきた。もう就寝前だと言うのに、忙しいことこの上ない。既に消していた部屋の明の電源を入れ、部屋中に光を与える。震えている電話を手に取り、電話の応答に出る。
「霧夜君?起きてる?」
「起きてるから出たんだろうが。」
その相手は紲星あかり。紲星あかりはこの間も夜に電話を押しかけてき、さらにその時は用が無いのにも関わらず電話をしてきた。その出来事を経験しているからか、若干糸口は警戒気味だった。
「また用がないのに電話をしてきたんじゃないんだろうな。」
「ち、違う違う!今度はちゃんと用が~~。」
紲星あかりが喋っている最中に、そうか。と呟きパタリとベッドに再び倒れる。今回は用があって話しかけてきたので、要件なしに電話をかけてきてはいないのだという安堵と共に、これからまた会話をしなければならないという嫌悪に包まれ、彼はその一夜を過ごしたのであった。
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「こんばんは。」
「こんばんは。」
現在の時刻は夜21時。夜中に糸口霧夜に電話をかけた紲星あかりは、見事外へと誘い出すことに成功した。これから何をしようかと考えながらいつもの十字路へ向かっていた紲星あかりは、とあるひとつのことを思いついたのだ。考察中の紲星あかりに対し、糸口霧夜は未だに疑問を抱いていた。勿論それはこれから何をするかだ。用があると言われ外に出て、いつもの場所へ集合と言うものだから、仕方なく出てきたのだ。
「それじゃあ、行こっか。」
「行くって、何処に。」
「着いてきて!」
何もわからずじまいのまま、糸口霧夜は言われるがままに着いて行った。これから観るモノが、心に残るひとつの物になろうとも知らずに。