あれから数日、俺は皆と距離を置いて過ごしていた。理由は、オルクス・バトラー。死神と呼ばれた男。俺が殺したかった男だ。
あいつが生きているとなると狙われるのは師匠か俺だ。そして,師匠は今どこにいるのかわからない。だから、あいつは俺を狙ってくる。
「空君、今日うちでお茶会するんだけど来ない?」
「悪いすずか、今日も予定があるんだ」
いつ来るかもわからない相手にすずかたちを巻き込むわけにはいかない。
「空君、最近何かあった?」
「いや、何も」
「・・・・・・もし何かあったら言ってね?力になるから」
そう言ってすずかは立ち去った。ああ、完全に気を使わせてる。ダメだな、俺は。
サイド:藍莉
どうも空さんにオルクス・バトラーの話をしてから彼の様子がおかしい。次の日から私たちと距離を置くようになった。
空さんのあの反応、彼とオルクス・バトラーとの間には何かある、私はそう確信している。
「空君、今日もダメだって」
「そうですか」
今、すずかさんにお願いしてお茶会に誘ってみたけどやはり断られた。推測としては二人の間に何か因縁があり、空さんは私たちを巻き込まないようにしている。
「(私たちを大事にしてくれるのはありがたいですけど、ムカつきますね)」
半分は何も言ってくれない空さんに、もう半分は頼られるほどの力がない自分に。
「どうする?」
「では、空さん抜きで私たちだけで楽しみましょうか」
私は切り替えて、笑顔で言った。でも、心の中で考えるのは空さんの事。
「(あの二人を会わせてはいけない気がします。会わせたら何か嫌な予感が)」
私は空さんとオルクス、二人を会わせないようにしようと決めました。
サイドアウト
さて、どうしようか。俺は今拉致られて拘束されている。誰にだって?そりゃあ、
「空さんにはしばらくここにいてもらいます」
藍莉にだ。
「藍莉、俺はマゾじゃないぞ?」
「そうなんですか?」
え、なんで真顔なの!?
「まあ、それはさておき、空さん」
「ん?」
いきなり真面目になったな。
「オルクス・バトラーの件が片付くまでここにいてください」
「は?」
「心配しなくても大丈夫です。衣食住は保証します」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「なんですか?私の部屋では不満ですか?」
藍莉の部屋、だとっ。く、どうりでさっきから甘い匂いが!
「どうです?悪くないでしょう」
悪くない、むしろいい!だが!
「藍莉、悪いがそれはできない」
「何故です?」
「あいつは俺が殺さないといけないからだ」
「・・・・・・やはり、オルクス・バトラーと何かあったんですね?」
その言葉に俺はハッとした。
「誘導尋問とは卑怯な!」
「人聞きの悪いことを言わないでください、これでも結構心配してるんですよ?」
いや、心配してる奴は鎌を向けて一緒に来いなんて言わないから。
「それ程本気だと思ってください」
前々から思ってたけどなんで地の文がわかるの!?
「空さんは顔に出やすいんですよ」
またしてもっ(;゚Д゚)!
「そんなことは今はどうでもいいです」
よくない!俺にとっては死活問題だ!
「嫌な予感がするんです。空さんとオルクス・バトラーを会わせたら何か悪いことが起こるような」
その時の藍莉の顔は本当に俺のことを心配してくれている、そんな顔だった。
「・・・・・・悪い藍莉、それでも俺は」
あいつと戦わなければならない。
「・・・・・・理由を聞いても、いいですか?」
「つまらない話だぞ?」
「それでもいいです、聞かせてください」
ジッと藍莉は俺の目を見た。その目はいつものからかうような目ではなく、真剣な目だった。
「はぁ、只のエゴだよ」
「エゴ?」
俺は話した。過去の出来事を。
五年前。
俺は、俺たちは世界を旅していた。俺、師匠、茜、そして俺の兄弟子。
「せやっ」
「はあっ」
―――カンッ
木刀がぶつかり合う音が響く。場所は何処かの森。綺麗な緑の中、近くには川が流れているのか水の流れる音がする。そんな中、二人の少年が木刀を持って打ち合っていた。一人は黒髪の小柄な少年、もう一人は茶髪で黒髪の少年より背が大きい。
「二人とも頑張ってー」
二人の少し離れた場所には、少年たちより幼い少女が岩を椅子にして座っていた。
「「・・・・・・・・・」」
二人の少年は木刀を構えながら、相手の動きを見る。
風が吹き、木の葉が二人の間に舞う。そして、葉が地面に着いた瞬間―――
「「はぁあああっ」」
二人は駆け出し、木刀を振り下ろす。
―――カンッ
木刀が一本、宙に舞った。
「空、今日はここまでにしよう」
木刀を持っていた茶髪の少年が空と呼ばれた黒髪の少年に言った。
「はぁ、今日も大地には勝てなかったな」
空はため息をつきながら地面に座り込んだ。
「いや、今回は危なかった。身長の差でなんとか勝てた」
「ああー、俺にももう少し身長があればなー」
「だいじょうぶだよ、おにいちゃんもすぐおおきくなるよっ」
そばに来ていた少女が空に笑顔で言った。
「もうっ、茜は良い子だなっ」
空は茜を抱き寄せてくしゃくしゃと頭を撫でる。
「あう、おにいちゃん、くすぐったい」
そう言いながらも気持ち良さそうに目を細める茜。
「ほら二人とも、ジャレあってそろそろ戻るぞ」
「むぅ、だいちにいさん、じゃましないで」
「邪魔って・・・・・・」
「はっはっ、大地も茜には勝てないな」
「お前だってそうだろ」
言い合いながら空は茜を立たせて、自分も立つ。その際、頭を撫でられるのが止められた茜は不服そうにしていた。
「ほら、膨れてないで行くぞ」
空は茜の手を引いて歩き出した。
三人は傍から見れば仲の良い兄弟のようだ。しかし実際は三人とも血の繋がりはない。それぞれ、孤児で三人とも師匠に拾われたのだ。そして、三人は師匠に剣術や格闘術を教わっている。
「師匠、戻りましたよ」
三人が少し歩くと古くなった小屋があり、大地はその中にいる人物に声をかけた。この小屋はもうボロボロで使われてなかったものを雨風を凌げるくらいに修復して使っている。
「そうか」
中にいたのは女性。黒髪を後ろで一束にまとめ、和風の服装をしている女性だった。
「今、夕餉を作ります」
大地が木ノ実や魚を取り出すと、綺麗に切り始めた。ちなみにこの四人の旅での食事は、基本的に大地か空が交代で作る。師匠曰く修行の一環だそうだ。ちなみに茜は小さいのでお手伝い程度しかできないが、手伝うのは空の時だけである。
「ししょーっ、みてみてっ」
大地が夕飯を作っている間、空は横になり、茜は師匠に駆け寄った。茜が見せているのは花で作った冠だ。暇なときにでも作ったのだろう。
「ほう、これは上手くできているな」
普段、厳しい師匠も茜にはやはり甘い。茜が見せた花冠を見ながら、茜の頭を撫でている。
「(普段とは全然違うな。あの鬼はどこに行ったのやら)」
「空、お前の修行を倍にしてやろうか?」
「け、結構です!」
そういえば、昔から思ったことを読まれていた気がする。
「ほら、もうすぐできるから場所を空けろ」
大地が持ってきたのは、木ノ実のスープと焼いた魚だった。木ノ実は茜でも食べやすいように小さく切られている。
それを四人はいただきますと言って食べ始めた。
「食べながらでもいいから聞け」
食べていると師匠が口を開いた。
「最近、この辺で死神が現れている」
「死神?」
空たちは首を傾げる。
「そう、ただの強者狩りの奴だが、時には無関係の人間も殺すという凶悪な男だ」
「じゃあ俺が―――「お前たちはそいつに会ったら迷わず逃げろ」」
師匠は空の言葉を遮って忠告、いや命令した。
「いいな」
「「はい」」
「ちぇ」
大地と茜は素直に返事をしたが、空は納得していないようだった。
それから数日後のこと。空と大地は近くの街で賞金稼ぎをしていた。旅には先立つものも必要である。その資金を二人は賞金首を捕まえて稼いでいた。子供が何をと言うかもしれないが、師匠に育てられた二人はそこらの魔導師や戦士に負けなかった。師匠は金など必要ないと言っていたが、子供が三人いるのでちゃんとした食事や服は必要だった。今回も今までと同じ様に賞金首を捕まえて、賞金をもらってきたところだ。
「結構稼げたな」
「あんな奴捕まえただけでこんなに賞金がもらえるなんてなあ」
大地と空は街を歩きながら賞金を手に買い物をしていた。今回捕まえたのは兵士上がりの連続殺人犯で、これまでに十人ほど殺害している。ただ、二人にとっては兵士上がりだろうが、師匠の修行に比べたらどうということはなかった。
「今日は思ったより稼げたから、茜にお土産買ってってやろう」
「そうだな、茜も喜ぶ」
二人は賞金を手に茜に何を買おうか悩みながら街を歩いた。
―――これが、不幸な出会いを招くとも知らずに・・・・・・
空「俺の過去の話なんてつまらないのに」
藍「第一声がそれですか。でも、みなさんはオルクス・バトラーとの因縁は気になると思いますよ?」
空「それより、今回の藍莉は大胆だな」
藍「あ、話を逸らしましたね。まあ、それだけ心配しているということで」
空「でも、アレはちょっとビビった。放課後に会った瞬間に鎌を突きつけられて一緒に来てください、さもないとあなたを殺して私も死にます、だもんな」
藍「それほど空さんを心配したということですよ」
空「心配、なのか?俺はヤンデレを想像したぞ」
藍「ご所望ならそうしますけど?」
空「俺はそのままの藍莉が好きだ」
藍「ありがとうございます、では今回の一言をどうぞ」
空「話変わるの早っ。じゃあ、今回の一言」
「管理局のバカヤロォオオオオッ!!!」
藍「ああ、ホント管理局はほとんどがバカですよね」
空「じゃあ、次は藍莉」
藍「はい、ではいきます」
「昔の茜さん、可愛いです」
空「そうだろう、あの頃は師匠も大地も可愛がってたからな」
藍「それに空さんのことをおにいちゃんと呼んでましたしね」
空「妹の鏡だよあいつは。昔から―――ブツブツブツ」
藍「あー、他にも聞きたいことがあったんですけど、自分の世界に入っちゃったみたいですね。仕方ないので今日はここまでにしましょう。では、またお会いしましょう」