それから大地と空は街の露店を見て周り、茜へのお土産を選んでいた。
「中々良いのがないなー」
「そもそも何を買うんだ?」
「それは・・・・・・何にする?」
「空、考えなしは直した方がいいぞ」
大地はため息をつきながら言う。
「じゃあ大地は何かあるんだな」
「ん、あれはどうだ?」
大地が指差したのは指輪やネックレスなどのアクセサリー店だった。
「いや、茜にはまだ早いだろ(ーー;)」
確かに、あの店にあるのは大人っぽいものばかりで子供が付けるにはまだ早かった。
「大地はもう少し子供っぽくなった方がいいと思う」
「俺は子供っぽいと思うが」
「考え方の話だ」
自分の身体を見ながら子供っぽいという大地に、空は呆れながら言った。
「お」
空が何気無く周囲を見るととある店が目に止まった。
「おっちゃん、これいくら?」
空はその店に近づき、店主に聞いた。
「ん?500ガルだ」
「じゃあこれ一つ」
そう言って空は懐から500ガル出して店主に渡した。
「彼女にプレゼントかい?」
物を受け取ると店主が話しかけてきた。
「いや、妹にだ」
「ほぅ、今時珍しい兄貴もいたもんだ」
「そうか?」
「おう、大事にしろよ」
「当然!d(^_^o)」
「それと気をつけろよ。最近この辺に死神が出るんだってよ」
店主の言葉に空はピクッと反応する。
「なあ、死神ってそんなにやばいのか?」
「やばいってもんじゃねえ、ありゃあ化け物だ。昔、管理局が奴を捕まえようと百人のAランク以上の局員を送り込んだが、全滅したって話だよ。管理局の今の人手不足は死神のせいなんだよ」
「へえー、そんなにやばいのか」
「おう、だから奴を見かけたら迷わず逃げろよ」
「ん、そうするよ、じゃあな」
空は店主と会話を終えると大地のところに戻った。
「何を買ったんだ?」
「ああ、これだ」テテテテッテテー
空が見せたのは髪飾りだった。花のデザインで子供がつけていても違和感がない物だった。
「ついでに死神の話も聞いてきた」
二人は街の出口に向かいながら歩いた。
「何か面白い話でも聞けたか?」
「とりあえずやばいやつだっていうのはわかった」
「まあ、師匠が俺たちに逃げろって命令するくらいだからな」
「んー、戦ってみたいな」
「止めておけ、俺にも勝てないんだから死神に勝てるはずないだろう」
「ぐぬぬ、言い返せないのが悔しい(T ^ T)」
「死神を見かけたら迷わず逃げる。向こうから来たら俺が時間を稼ぐからお前は逃げろ」
「は?」
「俺に構わず先に行け」
「いや、態々死亡フラグ立てなくていいから!てか、俺が残るからお前が逃げろよ」
「馬鹿か、お前が残ったところで時間稼ぎにもならないだろ」
「それはお前も同じだろっ」
「俺はお前より強い」
「最近は身長差でしか負けてないっ」
「いいからお前は黙って―――」
―――ゾクッ
二人の背筋にもの凄い寒気がした。二人が言い合っているうちにいつのまにか待ちの外に出ていた。
それだけならまだいい。どうせこのまま帰るだけだ。言い合っていたとしても問題はない。
「なんだこの悪寒はっ」
「っ」
二人が感じたのはとてつもない悪寒。本能が死を警告しているような危機感。
「ほう、俺の存在を危険と感じたか」
声がする。だが振り向けない。振り向いてはいけない気がした。そして漂ってくる異臭。そして―――
―――ゾワッ
「「っ」」
放たれた殺気に二人はその場から飛び退いた。
「子供にしては中々だな。常人ならその場で気絶しているところだ」
「「・・・・・・・・・」」
二人は息を飲んだ。見てしまった、一人の大男を。死神を。それは死そのものを感じさせる存在で、二人は全身から冷や汗が止まらなかった。その男は二メートルはあるだろう大男で、白髪で碧眼だった。白と黒を基調とした服を纏い、身体は筋肉質で丸太のように太い腕で掴まれたら一溜まりもないだろう。
「子供でもこいつよりは楽しめそうだ」
大男が地面に放り投げたのは絶命した人間。顔の表情は恐怖したまま、まるで人形のように貼り付けられている。
「こいつは賞金をかけられている割には俺の渇きを満たせなかったが、思わぬ拾い物をしたな」
「「・・・・・・・・・」」
空と大地はアイコンタクトを取ると死神を見る。
「戦士に男も女も、大人も子供も関係ない。お前たちは俺の渇きを満たせるか!」
「「ッ」」
二人は同時に別々の方向へ跳んだ。
「逃げるぞっ」
「ああっ」
二人はそのまま駆け出した。
「逃げるだと?ふざけるなぁあああっ」
死神が叫んだ瞬間、死神を中心に衝撃波が発せられる。
「うっ」
「ぐっ」
大地と空もその衝撃波に全身がビリビリと痺れた。
その時、二人は後悔した。茜へのお土産をもっと早く決めていれば、言い合いをせずに真っ直ぐ帰っていればこの死神に会わずにすんだ。
「貴様らも戦士なら逃げずに戦え!」
「く、ま、負けるとわかってて誰が戦うか!」
恐怖する中、空はなんとか声を上げた。
「確かに勝てない相手に逃げるのは一つの手だ。だが!俺相手に逃げるという選択肢はない!」
「なんつー自分勝手なやつだっ」
「全くだ。行けるか?」
「ああ、どっちにしても逃げられないだろうしな」
二人は死神からは逃げられないということを察していた。今ある選択肢は二つ、このままあっさり殺されるか足掻くかだ。選択肢が二つなら二人の選択は決まっている。
「空」
「ああ」
大地と空は剣を抜き頷きあうと二人は左右に分かれ、死神に斬りかかった。
「うぉおおおっ」
「はぁあああっ」
二人は一瞬で距離を詰める。並の相手ならそれで勝負がつくであろうが、死神は焦りもせず、ただ、笑った。
「そうだ!それでこそ戦士だ!」
死神はおそらくアームドデバイスであろう大剣を出すと大きな円を描いて振り抜いた。
「ぐっ」
「がっ」
その大剣で二人は弾き飛ばされた。
「なんて馬鹿力だっ」
「身の丈程ある大剣を片手で振り回すのか」
「どうした、その程度か!」
「今ので刃が欠けたぞ」
「俺もだ。さて、どうする」
あの大剣で空と大地が持っている剣の刃が一撃で欠けた。
「次あの剣を食らったら剣は折れるな」
「最悪死ぬ」
二人は何か逃げる策がないか必死で考えた。その時
―――パキッ
と木の枝が折れる音がした。音がした方を見る。そこには、
「茜っ」
二人の帰りが遅いので迎えに来たのだろう、幼い少女茜がいた。
「逃げろ茜!」
空は叫ぶが茜は動かない、いや、動けない。その顔が恐怖に染まって足が震えている。当然だ、空と大地だって、立って斬りかかったのは奇跡に近い。それを二人より幼い、まだまともな修行に入っていない少女がどうして耐えられるか。
「なんだ、お前たちの知り合いか?」
死神は俺たちを見る。
「「・・・・・・・・・」」
「そうか、なら―――」
死神がニヤリと笑う。その時、空はある言葉を思い出した。
―――『死神は無関係な人間も殺す』
そして、死神の強者に対する強い執着。そんな奴が無関係な人間を殺す理由。
「茜ぇえええっ!!」
その答えにすぐにたどり着いた空は叫び、駆ける。
「死ねぇえええっ!」
斬撃が茜の方へ向かっていく。
「が、はっ」
しかし、斬撃は茜ではなく空が受けた。
「お、にい、ちゃん?」
「だ、だいじょ、ぶか?」
ドサリと空が倒れる。死神が無関係な人間を殺す理由。それは、
―――強者を本気にさせる為である。
もちろん他にも理由があるだろうが、空はその答えに行き着いてしまったのだ。
「おにいちゃんっ」
茜の悲痛な叫び声が響く。茜は空に駆け寄りその身体を揺らす。
「おにいちゃんっ、おにいちゃんっ」
「貴様ぁああっ」
大地は死神に斬りかかった。しかしそれも怒りに任せた攻撃で、それが通るはずもなかった。いつも冷静な大地が声を荒げ、怒りに任せて斬る。それは空も茜も見たことがない光景だった。
「ふん」
「ぐっ」
たった一振りで吹き飛ばされる大地。大地は自分の無力さを呪った。どうして−−−
「どうしていつも俺はっ、肝心な時に弱いんだ!」
大地の叫びとともに大地は光に包まれた。魔法の光とも違うそれは−−−
「気の光だと?」
「だい、ち」
「おにいちゃんっ」
「面白い!ハハハハハハハッ、もっと俺を楽しませろ!」
「行くぞっ」
大地は駆け、斬りかかる。
ガキンッと金属同士がぶつかる音がする。
「フハハハハハハッ、いいぞ!もっとだ!もっと楽しませろ!」
「はぁあああっ」
一合、二合と剣を打ち合っていく。
「どうした!もう終わりか!」
何合も打ち合っているうちに大地の体力も落ちて来た。いくら修行をしているとはいえ、体力の差は歴然だった。
「子供にしては良くやった方か」
「はぁはぁはぁ」
「楽しませてもらった礼だ、受け取れ」
死神が始めて構えをとった。
「く、そぉおおっ」
大地は叫びながら斬りかかった。
「はぁああああああああああっっっ!!!!!」
空間をも震わせる雄叫びを上げ、死神は大剣を突き出した。その速さは目にも留まらぬ速さで空も大地もその剣速は見えなかった。
「だめぇえええええっ!!!」
茜が叫ぶが大剣は吸い込まれるように大地の胸へ突きつけられた。
「が、はっ」
「ほう」
―――はずだった。
「まだ動けたか、小僧」
「そ、ら」
大剣が大地の胸に突きつけられる瞬間、空は体当たりで大剣に自分の剣をぶつけて軌道を逸らしたのだ。
しかし、軌道を逸らして即死を免れただけで、大怪我には違いなかった。大地は右肩を、空は横腹を切られた。
「はぁはぁ」
「おにいちゃんっ」
「そ、ら、にげ、ろ」
「・・・・・・・・・」
その時の空は最早意識なんてほとんどなかった。ただ、兄弟子を、家族を守らねばと思ったのだ。そして、ここからは空の記憶はない。後に茜に聞いた話だ。
「面白い!お前たちは本当に俺を楽しませてくれるな!俺の目に狂いはなかった!」
死神は空に対して大剣を振り上げた。
「これも今だけの至福と考えると残念でたまらん!」
そして、大剣を空へと振り下ろした。
―――ザシュッ
肉の切れた音がした。だが、
「なんだ、と?」
斬られたのは空ではなく、死神だった。斬ったのはもちろん空だ。
「バカな!いつの間に!」
死神は胴と大剣を持っていた右腕を深く斬られ、大剣を手放してしまった。それとほぼ同時に空はドサリと倒れた。
「フフフフフッ、ハハハハハハハハッ!いい!実にいいぞ!」
死神は笑いながら左手で大剣を拾う。
「この俺に傷をつける奴がいようとは!お前で三人目だ!だが、これで終わりだ!」
「やめ、ろっ」
「だめ!やめて!」
二人の叫びを無視して死神は空に止めを刺そうとした。
「やれやれ、遅れてしまったか」
そこに一つの声が響いた。
「誰だ」
「私か?私はこの子達の保護者だ」
「保護者だと?そうか、お前がこいつらを鍛えたのか!」
「そうだ。茜、もう大丈夫、心配いらない」
「ししょー」
「ならば、こいつらよりも強いんだな!ああ、今日の俺はついてるぞ!」
「その腕でやる気か?」
「この程度、何の問題もない!」
「そうか、なら遠慮なく斬らせてもらうぞ。私の子供を恐がらせ、大怪我をさせたのだからな」
「行くぞ!」
斬りかかってくる死神に師匠は冷静に日本刀を抜き、
「がはっ」
斬った。
「バカなっ」
斬られた死神は信じられないという風に倒れた。太刀筋は見えていた。だが、身体がそれに追いつかなかった。
「お前がその疲労と怪我がなければもう少し持ったかもしれないな」
「バカなっ、俺がその小僧との戦いで体力を消耗していただとっ」
そう、気を解放した大地との戦いで、死神は知らず識らずのうちに体力をけずられていったのだ。その上での空の切り傷である。
「そうだ、あまり私の弟子を甘く見るなよ?まあ、どちらにしろお前では私には勝てんがな」
「なん、だと?・・・・・・待て、貴様のその剣、そして、変わった服装、まさか貴様、剣神か!」
「・・・・・・・・・」
「そうか!貴様があの剣神か!最期の相手が貴様とは俺は余程恵まれている!」
「ならば、その歓喜に満たされながら死ぬといい」
師匠は死神に背を向けると倒れた空と大地を持ち上げた。死神はそのまま放っておいても死ぬ。だから、師匠は止めを刺さなかった。
「行くぞ茜」
「あ」
そして茜は二人を担いだ師匠の後を追うのだった。
過去編は以上です。
話的にはまだ少し続きます。