「それからどうなったんですか?」
テーブルを挟んで対面に座っていた藍莉が続きを促す。
「それから、ね。それから俺はこの通り一命を取り留め、兄弟子は・・・・・・」
俺は一呼吸置いてその先を言った。
「二度と剣を握れなくなった。正確には利き腕が使えなくなった」
「・・・・・・・・・」
「剣士にとって利き腕は命とも言える。それを失った大地はそのまま剣をやめた」
「なぜです?義手にすればまだ剣を握れたんじゃないですか?五年前と言ってもそれなりのものはあったはずです」
「確かに義手にすれば剣は握れる。でもな藍莉、剣士にとって自分の腕は生命線なんだ。義手にしたところで今までのように剣は振るえないんだ」
「空さん・・・・・・」
「それに、無理な気の使い方をした後遺症も残って激しい運動もできないんだ」
「そうでしたか、すみません余計な事を」
「いや、大丈夫」
俺は一息つく。
「話は終わりだ」
「・・・・・・空さんは剣士生命が断たれた兄弟子さんの仇を取るために、オルクス・バトラーと戦うと言うんですね?」
「そうだ」
「・・・・・・・・・」
「藍莉、心配してくれるのはありがたいが俺は行かせてもらう」
そう言って俺は拘束を解いて立ち上がった。
「なっ」
藍莉は拘束を解いた俺を見て驚いた。
「ごめんな」
「そら、さん・・・・・・」
俺はそのまま藍莉気絶させて家を出た。
藍莉を気絶させて外に出た俺は人気のない森の中にいた。
「はあ、あんなことして、嫌われたな俺」
心配して拘束までして俺を守ろうとしてくれた藍莉に、気絶させて逃げてきたんだから仕方ないと思う。
「まあ、生き残れる可能性も低いしな」
当時の死神の実力があの時のままなら、今の俺の方が上だろう。しかし、あの頃の奴は本気ではなかった。それを考えると互角か、奴が上か・・・・・・。
「刺し違えたら茜の奴も泣くんだろうなあ」
目を閉じると浮かぶのは大事な義妹の笑顔。そして、ここに来て出会った人たちの顔。
「これが正しいことじゃないってのはわかってる。でも、誰かが死神を殺さなきゃいけないんだ」
と、人の気配がした。四人、いや五人だ。
「こんなところになにしに来たんだ?」
そこにいたのは、
「空くんを止めに来たよ」
「ソラ、この件から手を引いて」
「オルクス・バトラーのことはウチらに任せといて」
「空お願いだ、死神に会うのはやめて欲しい」
「空、止まらないなら力づくでも止めさせてもらうよ」
バリアジャケットを纏ったなのは、フェイト、はやて、リインフォースアインス、竜馬。
「勢揃いか」
俺は苦笑するしかなかった。
「空くんには悪いけど藍莉ちゃんとの話は聞かせてもらったよ」
「盗み聞きとは感心しないな」
「それは悪いと思ってる、でも!」
なのはは決意した目で空を見た。
「なのは」
その目は何があっても空を止める、そんな目だ。
「非魔導師相手にAAAランク以上の魔導師が五人か」
「ソラを止めるならこれくらいしないとできそうに無いから」
「俺には魔法は効かないぞ?」
「わかってる」
フェイトは斧型のデバイスを構える。それを合図に全員がデバイスを構えた。
「お前たちは俺の実力を甘く見てるな」
空は鞘に入ったままの剣を出した。
「抜かないのか?」
「竜馬、この剣に非殺傷なんてものはない」
「そうか」
「そっちが有利と思うなよ?剣が抜けなくても鞘に納めたままでも戦えるし、俺には体術もある」
「・・・・・・・・・」
恐らく図星だったのだろう、竜馬は沈黙した。
「空・・・・・・」
アインスは悲しげな目で空を見る。
「・・・・・・あの時と同じ目か」ボソッ
「え?」
「お前らに構ってる暇はない!行くぞっ」
空は五人との距離を詰めた。
「っ、ディバインバスター!」
近づくとなのはが砲撃を打ってきた。
「うおっ」
いきなり視界がピンク一色になり、横に飛び退く。砲撃が通った後には抉れた地面と消滅した木々だった。
「おいなのは!普通の人間がお前の砲撃喰らったらシャレになんねえぞ!」
「にゃっ、そ、そんなことないよ!」
「自覚なしか、砲撃魔王めっ」
「そ、そこまで言う!?」
「随分余裕だねソラ!」
「とっ」
背後からフェイトが斬りかかって来た。空は彼女の斧型デバイスを鞘に入った剣で受け止める。
「早いな」
「それが私のスタイルだからね」
「でも足りないな」
「わかってるよ」
「おっと」
空は気配を感じその場から飛んだ。
「やっぱり空には通じないか」
そこには槍を振り抜いた竜馬がいた。
「危ねえな」
「でも、これで終わりやで?行くでアインス!」
「はい」
「「ディアボリックエディション!!」」
はやてとアインスの殲滅魔法が空を襲う。
「だから効かねえ、ってこっちが狙いか」
殲滅魔法はただの目くらまし。本命は―――
「だが甘い!」
左右からフェイトと竜馬が斬りかかる。空は剣を消してそれを対処する。
「流水」
空はフェイトのデバイスを掴むと流れるように魔法をチャージしているなのはに向かって投げた。
「きゃあっ」
「ぐっ」
二人はぶつかり、気絶。次に竜馬の槍を掴んで背後に回り込み、掌を竜馬の背中に当てた。これ、全部空中でやってるんだぜ?
「掌破!」
「ぐはっ」
衝撃ではやての方に吹っ飛ぶ竜馬。二人は激突して地面に落ちていく。まあ、バリアジャケット着てるから大丈夫だろう。
「はぁあっ」
「おっと」
殴りかかって来たのはアインス。上から来たのでそのまま地面に叩きつけられた。飛べないって不便(T . T)
「ってー」
「君は何者なんだ」
アインスのパンチを喰らって普通に起き上がった空を見て、彼女は驚いていた。
「ただのしがない剣士だよ」
「ただの剣士が私の拳を受けて平然としてられるはずがない」
「手加減しただろ?」
「・・・・・・・・・」
「優しいなル―――アインスは」
危ない危ない。危うくアインスを昔の名前で呼ぶところだった。
「君は今なんて―――「避けろ!」え?」
「ぐっ」
アインスは何かを言いかけたが、空が飛びついたことで言葉が途切れた。
「な、何をっ」
突然のことで驚くアインスだったが、空の背中から血が流れているのを見ると絶句した。
「空!大丈夫か!?」
「これくらい、どうってことはない」
空は体を起こすと剣を抜いた。
「そんなことより、皆を連れて逃げろ」
「何を言ってるんだっ」
「いいから。竜馬、起きてんるんだろ?そいつらを連れていけ、まだ死にたくないだろ?」
「空、何を言ってるんだ?」
竜馬は気絶したフリを解くと、空に問いかけた。
「説明してる暇はない、奴が離れてるうちに早くしろ!」
竜馬に叫んだ空はアインスに視線を向けた。
「アインスお前も早く―――
―――ゾクッ―――
っ!?」
「「!?」」
空の言葉が途切れ、その瞬間に三人は異質な気配を感じた。
「来たか」
竜馬とアインスにはおそらく初めての、そして、空にとっては二度目の死という気配だった。
「やっと見つけたぞ」
暗い森の奥から一つの人影が現れた。
「会いたかったぞ、小僧」
暗闇でもニヤリと笑うのが感じられた。竜馬とアインスは言葉をなくしてただ立ち尽くしている。
「ああ」
空は冷や汗を垂らしながらも答えた。
「俺も会いたかったぜ―――
―――死神―――」
二人の因果が再び交わった。