ようこそ適当主義者のいる教室へ   作:キルルトン

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第1巻
バス事件


 突然だが、みんなは『自分がなんのために生きているのか』考えた事があるか?

 だれにも必要されなくなったときか?

 社会の使い捨てゴマであると感じるときか?

 毎日同じことの繰り返しに虚しさを感じるときか?

 誰にも自分の気持ちが理解されないときか?

 辛いことばかりで幸せが来るのか疑問に思うとき?

 それとも、将来に不安を感じたときか?

 俺は違う。俺は………だれかのために生きていた時に考えた。

 

 

 

 

 

 

 因みに話が大きく変わるが、バスの中で優雅に座っていると近くに転ぶんじゃないかと思われるほどフラフラしているお婆さんがいたらどうしますか?

 何故こんな質問するかと言うと、今、目の前で起きているからだ。

 正確に言うと、俺の目の前ではなく少し離れたところにいる老婆だし優雅に座っているのも俺じゃなく結構ガタイの良い高校生の男だ。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのよ席を譲ってあげようって思わないの?」

 そこへ、OL風の女性が少年の前に立ち注意していた。

 

「フッ、実にクレイジーな質問だね、レディー。何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい?どこにも理由がない」

 少年はニヤリと笑って、OLの文句を一蹴した。

 

「君が座っているのは優先席よ。お年寄りに譲るのは当然でしょう?」

「理解に苦しむねぇ。優先席は優先席であって、法的な義務はどこにも存在しない。この場を動くかどうか、それは今現在この席を有している私が判断する事なのだよ。若者だから席を譲る?ははは、実にナンセンスな考え方だ。もちろん、私は健康な若者だ。立つこともそこまで苦にしてはいない。だが立てば、座るよりも無駄な体力を消耗するのは明らかだろう?何故そんな無益で無意味なことを私がしなければならない?チップを出してくれるというなら、考えてやらないこともないがね」

 この軽い挑発からOLの怒りのボルテージが上がっていった。

 

「それが目上の人に対する態度!?」

「目上?君や老婆が私よりも長い人生を送っていることは一目瞭然だ。目上とは年上ではなく、立場が上の者をさすのだよ。それに君も私の年上とはいえ、随分と生意気で図々しいではないか」

「なっ……あなたは高校生でしょう!?大人の言うことは素直に聞きなさい!」

「あ、あの、もういいですから……」

 ばあさんの方もこれ以上ことを荒立てるのは望ましくないのか、怒り始めたOLをなだめる。この場合の一番の被害者ってあのばあさんだよな。これでもし席を譲ってもらっても正直言って座りずらいだろうしな。

 

「どうやら君よりも老婆の方が物わかりが良いようだ。いやはや、まだまだ日本社会も捨てたものじゃないね。残りの余生を存分に謳歌したまえ」

 無駄に爽やかなスマイルで言い放ち、少年はOLと老婆から視線を外した。

 にしても、あの男随分と上から目線だな傲慢の塊じゃねえか。

 

 正直、此処まで一貫して自分の主張を貫く奴はそうそういない。

 見て見ぬ振りをするならまだしも、言われてもなお席を譲らないのは普通の人にはできないだろう。

 OLが必死に涙を堪えているとそこへ、思いがけない救いの手が差し伸べられた。

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 現れたのは、あの傲慢男と同じ制服を着たとても可愛らしい少女だ。

 

「レディーに続いてプリティーガールか。どうやら、今日の私には女性運があるらしい」

「おばあさん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってもらえないかな?余計なお世話かもしれないけど、社会貢献にもなると思うの」

「社会貢献か。なるほどねえ。だが、生憎と私は社会貢献活動に興味がないんだ。私は自分自身が良ければそれでいいと思っている」

 俺からすれば社会貢献も自分自身のためにやっていると思うが………例えば教室でクラスに馴染めず1人寂しく机に突っ伏しているボッチがいるとしよう。そのボッチにクラスの人気者が話しかければどうなるかボッチはクラスに馴染むきっかけができた。これは学校という社会からしてみれば社会貢献活動と言えるだろう。さあ、この瞬間、クラスの人気者はこの後、クラスメイトたちからどう思われるでしょうか?きっと、『あんな陰キャにも優しくするなんて〇〇くん素敵』とさらに人気が上がるだろう。

 要するに社会貢献とは、自身の人柄の良さを周囲に知らしめるために行うものである。もちろん、単純に良いことしたなあという自己満足のためにしているとも言える。

 そのことを考えるとあのプリティーガールさんはどっちの理由で動いたのだろうか。

 

「それとプリティーガール、先ほどから君らは私を責め立てているようだが、他の一般座席に座っている者はどうだ?本当に老人のためを思っているのなら、優先席かそうでないかの違いは些細なものだと思うがね」

 傲慢男の反論と態度を見ら限り彼を言葉で丸め込むのは不可能だろう。少女もそう考えたのか、今度は傲慢男以外の人達にお願いをした。

 

「………あの、誰かお婆さんの為に席を譲ってくれませんか。お願いします」

 ここで、誰かが「譲ります」と言えば一件落着で終わる。

 しかし、そんな簡単なことが起きないのが現実だ。何故なら、人間とは怠け者だからだ。きっと、誰かがやってくれるだろうと他力本願な考えをしてしまう。それはそうと………あの子、知り合いに似てんな〜。なんて言ったっけあいつ。

 

 それにしても、あの金髪の奴はもう関係ないと言わんばかりにイヤホンから爆音ダダ漏れで音楽を聴いている。

 

 ………………よし、くだらないこと思い付いた。

 

「なぁ、俺の席で良いなら代わるぞ。ちょっと遠いけど大丈夫か?」

 プリティーガールさんたちに聞こえるように少し声を張り上げて言った。

 それを聞いてプリティーガールさんは「ありがとうございますっ!」と満面の笑みで頭を下げた。老婆も何度も感謝していた。良いよ、良いよ、そんなのどうでもいいよ。

 

「よく席を代わってあげたね、ボーイ。ただ、私としてはもう少し早く代わってくれていたらよかったと思うがね」

 目の前に移動してきた俺に傲慢男は礼なのか文句なのかわからないことを言った。

 ただ、俺にとっては好都合だ。どうやって関われば良いか思いつかなかったからな。

 

「まぁ、その理由は3つぐらいあるかな。1つは、距離。俺の座ってた席は最後尾から1つ前だったからな。そこまで歩いて行くのは疲れるだろ。2つ目はお婆さんの降りるタイミング。もし、次のバス停で降りるならかえって迷惑だからな。そして、最大の理由の3つ目は……俺が乗り物酔いするからだ。バスとか立って乗ってたらはっきり言って吐くと思う」

 そう言い放ち、顔色を悪くする。

 

「そうか、なら私の視界から消えてくれたまえ。私は、醜いものが嫌いでね」

「断る」

 傲慢男が申付けるがすぐさまそれを否定する。

 

「俺がどこに立とうが俺の勝手だ。だが安心しろ、俺も全力で我慢する。………まぁ、もし吐いてお前にかかったら謝るよ。制服にかかったなら、クリーニング代も払うつもりだ」

 ゲロをかけられたくないなら席譲れという雰囲気を滲み出す。

 さっきまで、梃子でも動こうとしないこいつも自分に害が来ると分かれば席を譲るのか?

 それとも、ひっかけられるのを覚悟に譲らないから?

 考えているのか数秒間、口を閉じている傲慢男は口を開いた。

 

「ハーハハハハハ!」

 突然、高らかに笑い出した。

 

「……どうかしたか?」

「いや何、中々ユニークな事を考えたねぇ。いいだろう、アブノーマルボーイ。特別に私の横に座らせてあげよう」

 さっきまで優雅に座っていた傲慢男は横にズレ、優先席にあと1人座れる程度のスペースをつくった。

 なるほど、妥協するのか。

 

「それじゃあ……遠慮なく」

 俺が優先席に座ると周りの人たちも俺たちから視線を落とした。

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