これは、Dクラスがクラスポイント0を宣告された日からテスト勉強に励んでいる間に起きていた。俺、新道輝によるちょっとした事件である。
5月1日の放課後。オレは早速、明日香に電話をかける。
『もしもし〜! 輝! さっそく掛けてきたね。まさか、今年のDクラスはポイントを全く残さないとは、流石に驚いたね〜』
随分と意気揚々と喋るな。
「そこに関しては驚かれても仕方ない。さっそくで悪いが、頼みたいことがある」
『なになに? なんでも言ってみ。ポイント以外なら、何でも貸してあげるよ』
「いや、借りたいものはない。2、3年の情報をできる限り教えてくれ」
『…………え? どゆこと?」
流暢に喋ると思ってたらいきなり聞き返しって。
「どーも、こうも。ちょっと、面白い暇つぶしを思いついただけだ」
俺はその概要を余すとこなく明日香に説明した。
「あっははは!! 滅茶苦茶なこと考えたね! でも、それにのる人いるかな〜?」
「問題ない。のるように誘導するし、のらなかったら残念ってだけだ。俺が被る被害はない」
「へぇー。それじゃあさ、ネット掲示板を見なよ」
「掲示板?」
「学校が製作したアプリなんだけど、その中にランキング用の掲示板があるんだ。正確性は保証しないけど、どうかな」
「ああ。助かる」
なんでもいい、今はとにかく多くの情報が欲しい。真偽は後でやれば済む。
俺は明日香に礼を言うとすぐに電話を切り、明日香の言っていた掲示板を開いた。
最初に画面に表示されたのは、交流掲示板とランキングが出てくる。すぐに俺は、ランキングの方をタップするとかなりの量のランキングが表示された。
『カッコいいランキング』『かわいいランキング』『根暗そうランキング』『お金持ちランキング』といったよくあるやつや、『気持ち悪いランキング』『退学して欲しいランキング』のような問題がありそうなやつまで様々ある。
その中から俺は試しに『退学して欲しいランキング』をタップした。俺、何位に入ってるかな〜。
すると、画面はは現3年、現2年、現1年と表示された。学年別にランキングされてるのか。2、3年も気になるが1年の方見ようと。
現1年の表示をタップする。今度表示されたのは上にデカデカと『退学して欲しいランキング 1年の部』と出てきた。その下に1位から順に並べてある。
そして、映えある1位は……
「…………有栖かよ」
俺の高校初の友達、坂柳 有栖だった。
何やったんだよ、あいつ。
「2位は……同立のやつが多いな」
というか、殆どが同立だ。これって、単純に使われてないだけか。つまらん。
その後、俺は様々なランキングを見、コメントを見た。
5月初日から1週間が経った日の金曜日の放課後。この日までに俺がやったことはランキングを調べたり、知りたいことを明日香に聞いたり、必要なものを買いに行くだけだった。
まあ、そのおかげで色々とわかったことがあるし。
必要なものは揃った。必要な情報も揃った。あとは俺の口の悪さに期待しよう。
とりあえず今は元気よく叫ぼう。
「頼もーーー!!!」
俺はバスケ部が練習をしている体育館全域に響き渡るほどの声を上げた。
その為、さっきまで練習に勤しんでいた連中も少し休んでいた連中も全員が俺の方は顔を向けた。
「見ない顔だが、1年か?」
そう言って向かってくるのはバスケ部の部長の……確か
「ああ。1年Dクラスの新道輝だ」
「入部希望か?」
そう考えるよな、普通。
だが違う
「いえいえ、そんな訳ないじゃないっスか〜〜───」
そして、嫌味な笑みを目一杯浮かべて、バスケ部の部員全員の逆鱗に触れる言葉を言い放った。
「───誰がこんな負け犬の集団に入るかよ」
『──────っ!!』
空気が変わった。さっきまでの異物が入った困惑とは違い。単純な敵対心……いや、殺意とも言って差し支えない感情が蔓延している。
「───そうか。それなら、さっさと出て行け。練習の邪魔だ」
「くっはは。練習って……なんの練習だよ。万年、予選落ちの連中が」
これは事実だ。と言っても1回戦負けとかでなくベスト4とかの結果を残している。ま、結局予選落ちだと片付けれる話だけど……
「あいにくと今年は1年に良い生徒が入ってきたからな、いい結果を残せそうだ。だから、さっさと此処から消えろ!」
後半が少し強い口調になっているけどキレてはいない。聞いてた通り、保守的だね。それに加えて、沸点は高く、感情の制御も出来ていて。流石の一言だよ。
「石倉。あんた、なんでバスケ部に入ってんの?」
「先輩には敬語を使え」
「質問に答えてくださいよ〜。セ〜ンパイ」
「………………」
あらあら。ちゃんと敬語(笑)を使ったのに一層苛立ってるな。
「それに答える義務はない。これ以上、居座るつもりなら───」
「Aクラスの堀北 学に泣きつく、か?」
石倉の言葉を遮り答えた。
「堀北は生徒会長を務めている。お前のような、問題児を対処するのは奴の務めだ」
「あ、そう。そんなことより、石倉センパイがバスケ部にいる理由。俺なりに考えたの聞いてみますか?」
これ以上関わるのが無駄と判断したのか、石倉は踵を返して俺から離れようとした。
「Aクラスに上がらないという事実からの現実逃避。じゃないですか?」
静まる体育館の中で俺の声がこだまする。その発言に石倉も歩みを止めた。
「帯に短し襷に長しってことわざを知ってますか? まるで、センパイを表しているみたいですね」
「……どういう意味だ?」
「Bクラスのリーダーをして、尚且つバスケ部の部長も兼任するがどちらもいい成績を残せず、中途半端な結果しか残せていない。つまり───あんたが、バスケ部に情熱を注いでいるのはリーダーとしての不甲斐なさから目を背けるためだけだろ」
「…………」
俺の口撃に石倉が沈黙すると1人の部員が声を上げた。
「───お前、いい加減にしろよ」
……釣れた! 俺はニヤつく顔をあえて見せつけた。
「はぁ。何言ってんの、俺はただ事実を言ってるだけなんだけど」
「何が事実だ!! お前は、部長がどれだけ努力してきたか知らないだろ!!」
ああ、知らない。だがそんな事知ったこっちゃない。だって
「結果の伴ってない努力なんか無意味だろ。この世は『結果』が全てだ。過程など結果が伴っていなければただの言い訳に過ぎない」
俺の言葉にさっき部員がえらい剣幕で俺を睨む。
いいねぇ。いい感じに血が上ってるね。
「じゃあ、こうしよう。今からプライベートポイントを賭けてゲームをしよう」
「ゲーム……だと?」
突然の俺の提案に部員は警戒心を剥き出しで、聞き返してきた。
「そう、ルールは簡単。俺は自分の持っている全てのプライベートポイント10万ポイントを賭ける。そっちは俺と同じ量のプライベートポイントを賭けてもらう。ゲームはバスケの1on1で先に2連勝した方の勝ち。勝った方には賭けたポイントが入る」
「10万……ハッ、Dクラスのお前が10万なんて持ってるのか?」
「持ってるけど。ほら」
ケータイを取り出しポイントの残高を見せた。そこには100,000prと表示されている。
因みにこれは、10万綺麗に使い切ったわけではなく。余分な分は明日香に預かってもらっているのだ。
ケータイをワイシャツの胸ポケットにしまって話を続ける。
「更に、追加で40万賭けると俺になんでも1つ言うことを聞いてやる。土下座しろっていうならしてやるし、退学しろと言うなら退学だってしてやるぜ」
「……なに」
食ってかかって来た部員が絶句した。
そんな事は気にせずに軽〜く挑発しよう。
「まぁ、たかが10万なんて、アンタからしたら端た金だし? 俺の退学だって学年違うからメリットもないし。いくら、自分たちが努力してきたバスケでの勝負でもなぁ。どうする〜? やめとく〜?」
「やるに、決まってんだろ!」
「オッケー。じゃあ、はじめよっか」
「やめろ、武光。この勝負はお前に何のメリットもないんだぞ」
「キャプテン。損得とか今は関係ないんです。俺はあいつが許せないんだ!」
石倉とさっきの部員、武光がなんかスポ根漫画のワンシーンみたいなのを行なっている。
「おい! 賭けの事、負けてからやっぱ無しとかほざくんじゃねぇぞ!」
「ああ、そっちこそ50万、ちゃんと払えよ」
この言葉を皮切りにゲームスタート。
初めはオフェンスが武光でディフェンスが俺。
武光はスタート位置で右はフェイントを入れた。それを見て俺は右側の行く手を阻んだ。それを見てニヤリと笑みを浮かべ鋭く左に切り替えてドリブルで抜き去った。
抜かれた俺は急いで武光を追いレイアップで決めに入るところでギリギリブロックするために跳び、ボールに触れることができた。放たれたボールはゴールのボードに当たりリングをくぐらずにコートに落ちた。
「くそっ!」
「これで、後は俺が決めたら俺の勝ちっスよね」
俺の挑発に武光は苦虫を潰したような顔を向ける。
2回戦目、攻守が入れ替わり俺がオフェンスでディフェンスが武光になる。
武光からボールを受け取り俺は速攻でドリブルをつき、武光を抜き去ろうとした。が、武光はそれを読んでいたらしくしっかりと俺についてきた。
少し予定とは違うが仕方ない。俺はドリブルでの突進を止めバックターンで武光を躱し、ジャンプシュートを決めた。放たれたボールは綺麗な放物線を描きゴールリングをくぐった。
「……な、なに……!?」
「はい。俺の勝ち〜。約束通り、50万寄こせや」
「…………くっそ」
そう吐き捨てて武光は携帯を取りに体育館を出た。それを見て石倉は他の部員たちを集めて何かを話し合っている。
程なくして戻ってきた武光を呼び、石倉は他の部員たちに話したことを武光にも話した。
「……ほらよ、50万だ」
「ハハハ、ありがとよ」
「おい! 次は俺と勝負しろ」
武光から50万を貰ってすぐに他のバスケ部員が勝負を挑みに来た。
「別にいいけど、いくら賭ける?」
「50万ポイント」
「!! ……へぇ〜。また、50万……良いの?」
「怖いのか?」
「いやいや、そんじゃあ……始めよっか」
そして、そのバスケ部員との勝負が始まった。結果は俺の勝利。だが、バスケ部員は悔しがることなく50万を差し出した。
「次は、俺とやれ! 賭けるポイントは50万だ」
「またか、いいぜ。じゃん、じゃん稼がせてくれよ」
そのまま、勝負は行われ……通算……19勝0敗。
俺の所持ポイント960万ポイント。常に勝ちっ放しではないが、先に2連勝すれば問題はない。
流石に疲れてはきているが……
「はぁ、はぁ……ふぅ」
「………………」
俺の状態を見て石倉はゆっくりと俺の前に立った。
「新道。次は俺の相手をしてもらう」
「はぁ……やっと、大将のご登場か……はぁ、それで、賭けるポイントは……いくらだ?」
「賭けるポイントは───」
石倉はゆっくりと賭けるポイントの額を言った。
「───お前の持っている全ポイント960万と言うことを聞かせる為の40万。合計1000万ポイントだ」
「……1000万って、そもそも持ってんの?」
俺の問いに石倉は黙って携帯の画面を見せつけた。そこには1000万をゆうに超えた額が表示されていた。
「これで気は済んだか」
「……あぁ」
その言葉を皮切りに俺は所定の位置に着く。
汗が滴り落ち、ワイシャツが肌にへばりつくのを感じながら。俺は石倉の作戦を称賛した。
「見事だよ。まるで狼の狩りを思わせるやり方だ」
狼は群れで狩りを行う。先頭の1頭が獲物を追いかけ回し、途中で別の狼と代わり今度はその狼が追い回す。そうして、体力の尽きた獲物を狩るのが狼の狩猟方法。
「本当は1万とかでやりたかったと思うけど、それじゃあ俺は乗らねぇ」
加えてプライドがそれをさせなかった。バスケ部が得意なバスケで勝負してるのに負けることを前提に考える。悪い事じゃないが、それだと俺が困る。だから散々煽って、強気に出るようにした。
「それでも、よく50万を使わせることができたな。それだけ、アンタを信頼してるって訳か」
「当たり前だ。信頼されてなければ、部長など務まらん」
「それに、クラスメイトにも信頼されているんだろ」
個人が1000万ほどのポイントを手に入れる方法は限られている。その中で一番単純なのがクラスメイトから借りる。
要はクラスの為用に、クラスメイト達からポイントを徴収しているという事だ。
これを可能にするには、預けたポイントを無断で使わないと思える信頼が必要だ。
「大切なクラスのプライベートポイント。勝手に掛け金に使って大丈夫?」
「問題ない。今のお前に負けるわけがないからな」
自信に満ちた声で言い放つ石倉に俺は内心嘲笑した。
そこまで読めているのに……
「……どうして俺がそこまで、読めると読めなかった」
「……なに?」
石倉の返しを無視してゲームを始めた。最初は石倉がオフェンスで俺がディフェンスだ。
流石、スポーツマンといったとこか、もう切り替えたよ。
だが、決着はすぐに決まった。石倉が構えに入るのと同時にボールをカットした。
「!!」
「はい。俺の勝ち。さっさと攻守交代するぞ」
気怠げながらも2回戦を始めようとする俺を石倉はただ呆然と見ていた。
馬鹿な。ありえない。きっと、最初の挑発に気を取られただけだ。二度は無い。
そう思っている限り、俺には勝てない。
2回戦目、石倉は絶対に抜かせまいと、撃たせまいと、全力のディフェンスで構える。しかし、ボールを渡された瞬間、俺は石倉が唯一警戒していない股下へボールを叩きつけた。
叩きつけた際の音と後ろから感じるボールの気配が石倉を振り向かせた。だが既にボールは反動で高く舞い上がり、そして弧を描くように落ち、ネットをくぐった。
「さて。じゃあ約束の1000万ポイント、貰おうか」
「………………」
俺の呼びかけにも答えず石倉は呆然とリングを見ていた。よほどこたえたようだが関係ない。放心状態の人を覚醒させるのなら少し刺激を加えるだけで十分だ。だが、暴力と言われたくないので俺は石倉の目の前でパン! っと手を叩いた。
「気がついたか? 気がついたならさっさと1000万ポイント渡して貰おうか」
我に返ったようで石倉は『……あぁ』っと返し、黙ってケータイを取りに行った。
しばらくして戻って来た石倉に部員たちが駆け寄っていった。
「部長。1000万もポイントを渡す必要ないですよ」
「そうですよ。そもそも、今回のは口約束なんですし」
その部員たちは有ろう事か、勝負を無かったことにしようとした。
「おいおい、おいおい、あの人ら何言ってんだ? そんなんが今更、通るわけねぇだろ」
「そっちこそ何言ってんだ? それより、俺たちから無理矢理奪ったポイントも返せよな! なぁ! みんな!」
「…………そ、そうだな」
1人の部員の返事を皮切りに続々と同調し返せコールが始まった。
わかってねぇなぁ〜。仕方ないな、教えてやるか。
そう思い、俺は胸元のポケットに入れていたケータイを取り出す。
「あぁ〜。言っとくけどこれ以上、文句言うんなら。この動画を先生辺りに見せて、強制的にポイント貰うことになるけど。いいの?」
そこに写っているのは、武光がゲームを承諾したシーンで停止してある。さらに動画の時間帯を速めて他の部員たちも了承しているとこもあるのを見せた。
「それじゃあ、もう一度言うぞ。───さっさと1000万寄越せ」
「……わかっている。元よりそのつもりだ」
周りの部員たちが唖然としている中、石倉は黙ってケータイをこちらに向ける。
程なくして俺のケータイに1000万ポイントが振り込まれた。
これで俺のプライベートポイントは『1980万ポイント』になった。
どうでしたか?
頑張って自然な展開にしてみましたが、納得できませんでしたら、ご都合主義と思って下さい。