翌日の放課後。
「勉強会に参加すべき人は、ちゃんと集まったの?」
「……櫛田が集めてくれたから、参加するんじゃないか」
「櫛田さんが、ね。彼女には勉強会に参加しないようにちゃんと伝えた?」
「伝えた」
綾小路と堀北が俺の後ろでこれから始める赤点対策の勉強会に向けての話をしている。
俺はどうしようか……眠いし寝るか。よし、寝よう。
即刻、帰って寝ることを決めた俺は帰り支度を早急に済ませ帰ろうとした。その時、教室に無機質な案内が響いた。
ピンポンパンポーン
『1年Dクラスの新道くん。至急、生徒会室までに来てください』
「……新道くん。あなた、何をしたの?」
案内にすぐに反応したのは堀北だった。
「何をしたって……多すぎて、どれで呼び出されたかんねぇよ」
「否定はしないのね」
本当は否定したいが。多分、否定しても信じてもらえる気がしないからしない。
取り敢えず、思い付く限りの呼び出される理由を考えてみた。
まず思い付くのは、昨日まで続けた授業のサボり。そして、バスケ部との勝負だが。
だが、サボりに関しては今更な気がするしバスケ部との勝負は問題ないはずだ。
だって、相手が了承したもん。
「じゃあ」
「精々、これまでの行いを悔い改めなさい」
堀北の奴、何を行ってるんだろう。俺はこのまま、寮へ帰るつもりなんだが。
それはそれで、さっきの案内放送ちょっと気にならな。
「なんで職員室じゃなくて、生徒会室なんだ」
学校の玄関前で上履きと靴を履き替え、まっすぐ寮へ帰る……はずだった。
「ちょっと待ってください」
何故か正門で携帯をいじっていた女子生徒に呼び止められた。
「今のは、俺に言ったのか?」
「はい。新道 輝君ですね」
この人……よく見たら、入部説明会で司会をしてた橘って子じゃないか。
まさか、俺がバックれるのを見越してた。
仕方ない。こうなったら……
「いいえ、違います。僕の名前は、綾小路 清隆です」
「流れるように嘘を吐かないでください!」
「ほほう。いったい何を根拠に言っているんだ?」
「これです」
そして、見せられたのは俺が女子生徒にアーンしてもらっている画像だった。
「……すみません。たった今、用事ができました。ので、そちらを優先させていただきます。という訳で、軽音楽部の部室がどこか教えてくれませんか?」
「なんで、そうなるんですか! 君が優先するのは生徒会室に行くこと一択です!」
橘先輩の言葉を無視して校舎に引き返した。
しかし、俺はすでに明日香の術中に嵌っていた。
「新道」
校舎に戻ってきた俺に真っ先に声をかけたのは本来なら生徒会室で俺を待っているはずの堀北学だった。
「あっれ〜。生徒会長さん、なんでこんな場所にいるんですか? 俺を生徒会室で待っているはずですよね」
「橘から連絡があってな。急いで来たまでだ」
「それにしては、息がだいぶ整ってますね」
「体力には自信があるからな」
多少言葉を交わしたが、そこには確かな疑問点がある。
「へー、じゃあ、あの橘って人相当メールとか打つの得意なんスね」
例え、どれだけこの生徒会長が早く動けても橘先輩の連絡の後だと下駄箱で待ち構えるのは不可能だ。
「簡単な話だ。橘が予めメールの文面を書いていたなら十分間に合うだろ」
確かに、橘先輩は最初から携帯を持っていたしいつでも生徒会長にメールは出せていた。
だがそれよりも先に
「軽音部に向かうつもりなら、今日は活動していないから仲村の居場所もわからんぞ」
こっちの考えを読んでいるかのように生徒会長は先に言葉を並べた。
そして、玄関口から橘が入ってきた。
「ここだと人の目もあるし、生徒会室の方に移動しようか」
確かに人が行き来する下駄箱で話すわけにはいかないな。
「どうぞ、粗茶ですが」
生徒会室に移り、橘書記がものすごく嫌そうな顔をしてお茶を入れた。
「……雑巾の絞り汁でも入れたか?」
「入れるわけ無いでしょ!!」
「じゃあ、鼻水でも入れたか?」
「会長! この人、酷く失礼です!!」
失礼とは、失礼だな。あれだけ、嫌そうな顔をしていたら疑うに決まってるだろ。
「新道。橘はそんな陰湿な嫌がらせをするような奴ではないぞ」
生徒会長のフォローを聞き、橘書記は「会長……」と嬉しい声を漏らす。
「だが、橘。あれだけ嫌そうな顔をしていれば警戒されるのは当たり前だ」
「……はい、すみません」
そして、注意を受け落ち込む橘書記。感情がコロコロ変わって面白いやつだな。
「では、新道。本題に入るぞ」
「ああ、早くしてくれ」
さっきまでは、移動したり、明日香のこと考えたりしてたから眠気を忘れていたけど。生徒会室に入ってから、ジッとしていたせいで再び、眠気が襲ってきた。
「単刀直入に言う。新道、生徒会に入れ」
「えっ!? せ、生徒会長……本気ですか?」
「不服か?」
「い、いえ。会長が仰るなら……」
唐突の申し出。本来なら、慌てて混乱するところだがむしろ俺は1つの回答が生まれた。
「……取り敢えず、この茶番が全部明日香の仕業って事でいいんだな」
「それだと語弊があるな。確かに仲村は関与しているが、あくまで参考としてだ」
つまり、最終判断は自分がしたって事か。まぁ、どっちにしろ俺の返事は決まってるけど。
「返答は?」
「ヤダよ。めんどくさい」
「えええっ? そんな、雑に断るぅぅ!?」
なんだか、予想以上にオーバーなリアクションをとる橘書記。だが、生徒会長は逆にわかっていたかのように顔を崩さない。
「フッ、やはりな……だが、残念ながらお前に拒否権はない」
確かに、この人が言ったのは「生徒会に入れ」という命令。最終的な俺の意思は関係ない。それでも聞いてきたのは、万が一にも俺に入る意志があるなら良しという考えか……だが
「いくらなんでも、横暴が過ぎるだろ。いち生徒の進退自由にする権利があんたにはあるのかよ」
「ない。一般的な生徒に対して強制することはできない。ただし、それは一般的な生徒に対してだ」
生徒会長は一呼吸ついて言葉を続けた。
「問題のある生徒に関してだけは、例外的に生徒会が動くことができる。心当たりがあるだろ。新道」
「無いな。まるで、無い。やっぱり横暴だ」
「あるでしょうが。バスケ部との一件が!」
俺と生徒会長との話に橘書記が口を挟む。
「はぁ。あれのどこに問題があるんだ? ポイントの賭けごとか? 脅迫まがいの恐喝か?」
「自覚あった!!」
「だがな、ポイントの賭けごとは相手も同意した上だ強要はしていない。恐喝も、向こうが駄々をこねたから下に過ぎない。何ならその時の映像持ってるから見てみるか?」
「うぐっ」
「それ以外にも、無断欠席の件が残っているぞ」
「ああ、それなら安心しろ。お前の妹のせいで、少なくとも毎日、真面目に、授業に参加するハメになった」
「……鈴音が……」
表情には出していないが意外だったのか生徒会長は僅かに言葉を漏らした。
しかし、すぐに俺の方は目を向けた。
「だが、それを素直に信用するわけにはいかないな」
「なんだよ、自分の妹が信用ならないなんてな」
「鈴音の信用度は関係ない。鈴音がやったのはおまえを授業に参加させる事だ問題を起こさせない事じゃない」
……この野郎、次いでに俺が改心したとでも思えよ。
「………………」
「………………」
しばらく、沈黙が続き俺は思った。
やっぱり、こういう展開になったか……面倒だ。これは奇しくも、昨日の堀北妹と同じ状況だ。互いの主張が正反対で互いに折れようとしない。なんの発展もなく、無駄に時間だけを浪費する状態だ。
暇だし、眠いし。どうしたものか……
「……考えを変える気はないようだな」
「……ええ。という訳で、帰ってもいいかな?」
「いや、駄目だ」
「じゃあ、どうしろってんだ」
俺の適当な投げ掛けに生徒会長は笑みを浮かべだ。
それを俺は見逃してしまった。
「そうだな……ならば、お前のやり方で決めようか」
「俺のやり方?」
「昨日のバスケ部との一件と同じだ。今から、俺とお前で勝負をする。お前が負ければ、生徒会入ってもらう。俺が負ければ、そうだな……500万ポイントをお前にやろう」
「会長! いいんですか!?」
生徒会長の言葉に橘が声を上げる。こいつも石倉と同じでクラスでポイントを徴収しているのか?
「生徒会長まで、クラスのポイントを乱用するとか大丈夫か? この学校」
「安心しろ。これは俺個人のプライベートポイントだ。金庫役は他にいる」
つまり、この学校では個人で500万ぐらいは手に入れることが可能なのか。まぁ、この人だからって可能性も十分あるな。
「あぁ……んー、確認なんだが。これで俺が勝ったら今後一切、俺を生徒会には誘わないんだよな」
「そうだ」
俺の問いに生徒会長は短く答えた。そういう事なら乗っておくか。
「いいだろう。それで、内容は? 勉強系か?」
「いいや違う。詳細な説明は勝負の場でしよう」
そう言い終え。生徒会室から出るよう促された。
「来たな、堀北」
「場所の提供、感謝する。藤巻」
生徒会長が藤巻と呼ばれる男と話している間に
「……道場?」
生徒会長によって連れられた場所は────道場だった。正直、意外だ。
「ルールは、総合格闘技を基準とする。時間は最終下校時刻まで、勝利判定はノックアウトか相手がギブアップを宣言するかとする。何か質問はあるか?」
「反則行為はなんだ?」
「総合格闘技と同じものだ。噛み付き、眼球への攻撃、口腔・鼻腔・耳腔等の開口部に指を引っ掛ける行為、局部への攻撃などだ。もう少し詳しく説明しようか」
「いや、いい」
当たり前だが、内容は熟知してるか……
「質問がないなら。そろそろ、始めたいと思うのだが……」
「ああ、そうだな。さっさと、終わらせたい」
俺がそう言うと生徒会長は制服の上着を立花に手渡して、所定の位置についた。
俺もそれに倣って上着を脱ぎ、所定の位置に着いた。
そして、審判役の位置にさっき生徒会長と話していた藤巻が着いた。
「双方、準備はいいな。では……始め!」
藤巻の号令とほぼ同時に俺は仕掛けた。
眠いし、速攻で終わらせよう。俺は姿勢を低くして生徒会長に向かって突進する。その勢いを殺さず生徒会長の溝内目掛けて鋭く蹴りを放つが────
「────ハァ!」
「……ぐっ!」
生徒会長は両腕をたたんで蹴りを受け止め、さらに後ろで飛ぶ事で威力を殺した。
一瞬、崩れたがすぐに立て直し構える。
完全に後の先だな。構えからして空手とか習ってたのかな?
「……なら」
今度は拳。鋭く、顔を……そしてワンテンポ遅れて腹を狙って突き出す。
「ぐっ……!!」
顔面への突きは防いだものの、僅かに遅れてくる腹への拳を防ぐことは無かった。
しかし、感触的に筋肉を硬らせているな。
後の先というより、攻める気がないような……
「なぁ、勝負する気あるの?」
「……ふっ。安心しろ、俺は本気だ」
それなら、攻めてきてほしい。こういう一方的なやついじめみたいで嫌いなんだよな。
一瞬だけ、審判の藤巻に目を向ける。俺と生徒会長が両方見える位置に立ち反則をしないか目を光らせている。
審判は
恐らく今の状況は生徒会長の筋書き通りのはず。この人の狙いは──────引き分け。
引き分けにしてどうなるのかわからないけど、させない方がいいのは確かだ。
これをどうにかするには、俺が勝つ以外方法はなさそうだ。
「さて……がんばりますか」
小さく呟き、三度生徒会長に攻撃を仕掛けた。
──────ピンポンパンポーン
『最終下校時刻になりました。校内に残っている生徒は速やかに下校してください。繰り返します──────』
「そこまで! この勝負、引き分けとする」
無理だった……。
徹底した防御と回避。そして、それでも当たる攻撃に耐えるタフネス。
「残念だが、引き分けのようだな」
白々しい、狙ってたくせに……
「そうだな。それじゃあ、俺は帰るから2度と誘わないでくれ」
「待て、新道」
脱いでその場に放って置いた上着を拾い上げる時、生徒会長に呼び止められた。
「なに?」
「この勝負は、引き分けになったんだ。その意味がわかるか?」
「意味? 意味なんかない。引き分けは引き分けだろ」
決着がつかず、勝ち負けが着かなかった事。
「忘れたとは言わせないぞ。『引き分けになった場合は、
「忘れたも何も今聞いたんだが……」
なるほど、勝ち目が無いから……いや、勝ち目を確かなものにするためにわざと引き分けにして嘘で無理矢理、俺を生徒会に入れる腹積りか……だが。
「残念だったな。俺は常日頃から俺の周囲をカメラやボイスレコーダーで撮っている」
生徒会長という肩書きと実績と信頼で嘘を事実にしようと思ってるようだが、そうは問屋が卸さない。こちとら、そんなもん鼻で笑わせる証拠があるんだ。
「ならば、見せて貰おう」
「いいだろう」
そう言い、ボイスレコーダーとスマホを取り出した。
しかし、何故かボイスレコーダーには今日の分が録音されていなかった。スマホの方も見てみたが此方も録画のデータを消されている。
「……やられた」
「証拠は無かったようだな。日常的に行なっていたなら、忘れていても気付き用は無いな」
あくまで、俺が録音、録画のし忘れにするつもりか。
こうなったら勝ち目が無い。
「では、500万の送金をする。端末を渡せ」
「……ほい」
生徒会長に端末を渡しそのまま、素早く送金作業を始める。
しかし、500万かぁ〜。まぁ、タダで生徒会に入るよりはマシだが……
「送金は完了した。明日の放課後から生徒会室に来るように」
そう言い残し生徒会長達は道場を去った。
「………………」
俺は無言で大の字に寝転がり……
「負けた──!!」
と叫んだ。
氏名 新道 輝(しんどう あきら)
クラス 1年D組
学籍番号 ??????????
部活動 無所属
誕生日 8月20日
学力 D
知性 C
判断力 D
身体能力 A+
協調性 E
面接官からのコメント
入試のテスト結果と面接時の態度、更には別途資料の内容から吟味しDクラスへの配属が現状適正であると判断した。
担任メモ
現状、クラスでは孤立気味ではあるが、クラス外との交流を深めている模様。なお、当初、危惧されていた問題行動は見れません。引き続き、観察を続けようと思います。