程なくして目的地にバスが到着すると、俺と同じ制服の人たちが次々と降車していく。
俺もバスを降り、まず目一杯息を吐きすぐに深呼吸した。
東京都高度育成高等学校。国主導の徹底的な指導により、就職率、進学率ともにほぼ100%という現実離れした実績を持つ、日本政府が作り上げたこれからの日本の未来を支える若者の人材育成を目的とした学校。そして、今日から俺が通う学校だ。
「すぅーはぁーすぅーはぁー…よし、行くか」
体調が元に戻ったのを実感すると俺は学校の門をくぐり教室へと向かった。
………ここは何処だ?
今、俺は学校の廊下で迷子状態にある。よくよく考えたら俺は自分のクラスが何処にあるのか知らない。なんで何も考えずに歩けていたのだろう?まぁ、俺はそう言う人間だからしょうがないけどさ。
「君、ここで何をしている?」
目的地もわからずその場で右往左往している俺に先輩?だろう男子生徒が声をかけてきた。知的なメガネが印象的だ。
「あー、いえ。ちょっと今、迷子になっていて、すみませんが1年Dクラスの教室が何処か知りませんか?」
「……その場所なら知っているが。まず、なぜ案内板を見ようとしなかったんだ?」
「忘れてました!」
俺の潔い答えに先輩は、はぁーとため息を漏らす。すみません、こんなダメな後輩で……。
「そんな事では、ここでは生き残ることはできないぞ」
そう忠告し、先輩はDクラスへの道を教えてくれた。
それにしても、生き残れないって随分物騒だな。
俺が配属されるクラス、Dクラスの教室の前まで来ると中から賑わっているのか声が聞こえる。初日にしてすでに仲良くなっている人たちがいるようだ。俺も早く馴染めるかな〜。
そんなどうでもいい事を考えながら、俺は教室のドアを開ける。
おはようと無難に挨拶をすると近くの生徒達もおはようと返してくる。
どんな奴がいるんだろう。
周りを見渡すと驚くことにバスに乗っていた傲慢男(名前を知らない)とプリティーガールさん(こっちも名前を知らない)がいた。偶然ってあるもんだなぁ。
関心するも、声をかけずに俺は自分のネームプレートが書いてある席を見つけ移動した。
後ろの席のやつは誰だろうと思い見てみると感情を表に出していないように見える男だった。そして、その隣の人は綺麗な黒髪を伸ばした少女だった。ちなみに何故か、2人とも俺のことを凝視している。
「……えーと。俺の顔に何かついてる?」
「あ、いや、すまん。なんか、ここまで偶然が重なるもんなんだって思ってて」
この話から察するにこの少年も隣の少女も同じバスに乗っていたのだろう。
「そうか。俺は
「
互いに軽い挨拶を終えると俺は綾小路の隣の席の少女に声をかけた。
「おまえはなんていう名前なの?」
「拒否してもいいかしら?」
「おい、堀き 」
「あぁ、別に構わないよ」
綾小路が少女の名前を言う前に俺は少女の言い分を了承した。
「あら、貴方は綾小路君よりも物分かりがいいようね」
「改めてよろしくな、ツンデレちゃん」
「ぷっ!」
「……今のは、私に対して言ったのよね」
少女は顔を強張らせて今言ったことを確認してきた。
「うん。名前わかんないから、あだ名で……」
「やめて」
「えー、でもー……」
「やめて」
変わらないトーンで否定する少女に俺は諦めた。
「はぁ、わかった。じゃあ、黒髪美人さんで」
「やめて」
「……クールビューティさんは?」
「やめて」
「……うーん」
「はぁ、
これ以上、変なあだ名をつけられたくないと思ったのか少女…もとい、堀北は名を名乗った。
そして、これ以上関わりたくないのか堀北は小説を読み始めた。何を読んでいるのか気になりタイトルを盗み見る。
「『罪と罰』……か。面白いよな、それ」
「………」
………無視か。まあ、最低限名前はわかったしいいだろう。それに、これ以上ちょっかい出したらタダじゃおかないオーラが出ているし。綾小路とも話したいし。
「なぁ、お前ってどう言う感じの人間なんだ?」
「そうだな、一言で言うなら事なかれ主義だ」
「事なかれ主義?ってなんだ?」
「特に趣味はないけど、何にでも興味はある。友達は沢山いらないが、ある程度あればいいと思っている。って感じのやつだ」
なるほど、要するにどっちつかずみたいな感じか
「そういう、新道はどういう人間なんだ?」
自分がどういう人間か。考えたこともなかったな。
「ふーむ、俺も特に趣味だって言えるものは少ないけど、色々と興味はある。友達は沢山いるとめんどそうだから、ちょっといればいいと思う………俺も事なかれ主義ってやつなのか?」
「いや違う」
速攻で否定された。
「なんでだよ!」
「事なかれ主義はバスの中で見ず知らずのおばあさんに席を譲らないし。ゲロ吐かれたくなかったら席を譲れみたいな脅迫もしない」
どうやら俺は事なかれ主義の定義に入っていないようだ。結構合っていると思うが……
「そうか、それじゃあ………適当主義って事にしておこう」
「なんだそれ?」
「適当主義とは、興味のあること面白そうだと思うことを率先してやるが、一度興味がなくなればそれが例え途中でもあっさりやめてしまう奴のことを言う」
「なんか、事なかれ主義と似ているが全く別物って感じだな」
綾小路の言う通り、事なかれ主義をどっちつかずの傍観者だとするなら適当主義は好きな方に着くがすぐに心変わりする感じだ。こっちの方が断然俺らしい……と思う。
その数分後、始業のチャイムが鳴り前方のドアから担任であろう女の先生が入ってきた。
「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった
前の席から資料が回ってきた。
この学校は、普通の高校とは違う点がいくつかある。まず、生徒は全員敷地内にある寮で生活すること。それだけでなく、在学中は特例を除き外部との連絡を一切禁じている事だ。一度この学校に入ったら、例え家族であっても卒業か退学になるまで会うことができない。当然、許可なく敷地から出ることは許されない。
しかし、娯楽が何もないというわけではない。生徒たちがなるべく不満を抱えないように、カラオケやカフェ、シアタールームにスーパーマーケットなどなど、生活に必要な施設から娯楽施設まで学校の敷地内にそんざいしている。まるで、この学校が一つの町として形成されているようだ。その土地面積は60万平米を超えるそうだ。
そして、この学校最大の特徴はSシステムだ。
「今から配る学生証カード。それは敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することができるものだ。いわばクレジットカードのようなものだ。ただし、現金の代わりポイントを消費することになっているので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、なんでも購入可能だ」
この学生証は学校での現金になるのか。配られた学生証を見ながら俺は思う。
このポイントで買えないものはない……か。いったいどこまで買えるのやら。
「毎月の1日に自動的にポイントは振り込まれることになっている。今回お前たちには平等に10万ポイントが支給されている。1ポイントにつき1円だ。これ以上の説明は不要だろう」
教室の中がざわついた。10万ポイント………つまり、10万円を俺たちは学校から渡されたのだ。
「額の大きさに驚いているみたいだな。この学校は実力で生徒を測る。入学したお前らにはその時点でそれだけの価値がある、と判断されたというわけだ。ポイントは支給された時点で完全にお前らの物だ。遠慮なく使え。ああ、ちなみに卒業時に現金化はできないので、取っておいてもあまり意味はいぞ。特に必要としないなら誰かに譲渡しても構わない。だが、無理やりカツアゲするような真似だけはするなよ?学校はいじめに対してだけは、敏感だ」
質問がないか聞く茶柱先生だがほとんどの生徒たちはポイントのことで頭がいっぱいのようだ。
「質問がないようだな。では良い学生生活を送ってくれ」
そう言い残し、茶柱先生は教室から退出して行く。程なくして、生徒たちは高額なお金をもらって浮き足立ち始めた。
「ねぇねぇ、帰りにいろんなお店見ていかない?買い物しようよ」
「うんっ。これだけあれば、なんでも買えるし。私この学校に入れて良かった〜」
「皆、少し話を聞いて貰ってもいいかな?」
見た感じ、如何にも好青年な雰囲気の生徒がクラスにいる人たち全員に対して言った。
「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」
生徒の大半が思いつつも口にしなかったことを発案した。彼が口火を切ったことで、迷っていた生徒たちも続々と賛成して行く。
「それじゃあ僕から自己紹介するね。僕の名前は
提案者である好青年…平田はスラスラと模範解答のような自己紹介をする。さらに定番中の定番のサッカーで爽やかフェイスに女子からの人気は急上昇するだろう。というか、すでに隣の女子とかは目がハートだ。
次に名乗りを上げたのはバスが一緒だったプリティーガールさんだった。
「じゃあ次は私だねっ。私は
みんなと仲良くなりたいなんて、ずいぶんなこと考えてるなぁ〜。このクラスに死ぬほど嫌いな人がいたらどうするんだろう?
平田と櫛田の自己紹介を皮切りに他の生徒たちも自己紹介をしていく。緊張して途中詰まってしまった子や、明らかに嘘だと分かる自己紹介をしている奴もいた。中には慣れ合う気が無いのか教室から出て行った奴らもいた。因みに堀北も同様に出て行った。
そして、次に自己紹介を始める奴は櫛田と同じく一緒のバスに乗っていた傲慢さんだ。
「私の名前は
控えめに言って傲慢さんこと高円寺の自己紹介は最悪だった。クラスじゃなく異性に対してだけに言ってるし。
そのような周りの反応も気にせず高円寺は言葉を続ける。
「それから私が不愉快と感じる行為を行った者には、容赦なく制裁を加えていくことになるだろう。その点には十分配慮したまえ」
制裁という言葉に不安に感じたのか、平田が聞き返す。
「えぇっと、高円寺くん。不愉快と感じる行為、って?」
「言葉通りの意味だよ。そうだね、例えるならアブノーマルボーイ」
パチンと指を鳴らし、高円寺は俺の方を指差した。
「今後、バスで行ったやり方はやらない事をおすすめるよ。また、私に似たようなことすれば果たして今度はどうなる事やら」
「あ、ああ。じゃあ気をつける」
いきなり、指さして。さらには、注意するなよビビるな〜。あと、全然例えになってないぞ〜。言わないけど。
「じゃあ、次は君。お願いできるかな?」
「あ、ああ。わかった」
高円寺によって注目されたからなのか自己紹介する順番が繰り上がった。
何話そうか考えていた俺の目に偶然、櫛田が映った。よし、これでいこう
「えー、先程ご紹介されました。アブノーマルボーイこと、新道 輝と言います。趣味は読書ですが、運動も割と得意です」
個人的に結構いい感じにできたと思う。少なくとも、ボッチになることはないだからこそ今から言うことが面白くなる。
「 それから、俺は小中共に転校が多かったので俺は友達をあまり必要としていない。一人寂しくしていてもどうか無視していてくれ。それじゃあ」
自ら孤独を選ぶ奴とどうやって友達になるのかな、櫛田さん。