入学式が終わった。どこの学校の入学式も大して変わらない様だ。校長だか理事長かわからないがその人からのありがたい言葉を聞き何事も無く入学式は終了した。
そして昼前。俺たちは一通り敷地内の説明を受け解散した。大半の生徒は寮に帰っているようだが、一部は早速グループを形成して遊びにいく者も見受けられた。ちなみに俺は、自己紹介でやらかした為、案の定一人でいる。まぁ、狙ってやったことだから別に後悔はないけどね。
俺はと言うと必要なものを買い揃える為、寮近くのスーパーに来ている。色々見て回るとかなり品揃えがいい。
その中、俺はあるコーナーを凝視した。
「無料……?」
手に取ってみると、賞味期限が近い品を置いているようだ。
これは、普通によくある値引きみたいなものか?それともポイントを使い果たした奴への救済か?
まぁ、そんなのどうでもいいか。今日食う分、持って帰ろう。
俺は無料コーナーから食材を持っていたカゴに入れると
「10万も貰って、いきなり無料商品を取るとは随分とケチだね」
「!」
いきなり横から文句を言われた。誰だ?と横を向くと意外な人がいた。
「久しぶり、輝」
「あ…明日香……先輩」
「先輩はいらないって」
その人は俺が中学一年の時に同じ中学校にいた先輩、
「いつから見ていたんだ?」
「んー。スーパーに入っていくあたりかな?」
てっきり、無料コーナーらへんとかだと思ったのにまさかスーパーに入る辺りとは……てゆうか人違いだったらどうするつもりだ。
「生憎と、輝を見間違えることはないよ」
「ナチュラルに人の思考を読まないでくれ」
「ふふん。それで、何でそんなケチくさいことしてるのかな?」
そう言い、話を最初の方へ戻した。
「別に………今月いっぱいは、ポイント使わずに生活してみようかな〜。と、思っただけだ」
無料食材取った時はそんな事、考えていなかったが。この方が、面白そうだし。
「ふーん」
「納得、出来ない?」
「いいや。むしろ、輝らしいなって思って」
納得してもらえたところで、俺は他に必要な無料商品を取っていった。そして、レジでお会計を済ました。全部、無料だが学生証を提示なければならなかった。
「ところでさあ。輝、クラスはどこになったの?」
寮までの帰り道、明日香が不意に俺に聞いてきた。
「Dクラスだけど……」
「へぇー、Dクラスかー。やっぱそうなるのか〜」
俺がDクラスというのを1人で納得する明日香を見て思う。
このクラス分けは意図的に仕組まれたものなのか。と。
「あ、あともう1つ聞きたいことがあるけど、いいかな?」
「俺の答えられる範囲なら」
俺の返答ににっと笑みを浮かべて聞いてきた。
「どうして、学校は生徒に高額なポイントを与えてると思う?」
「………………」
多分明日香は、その理由がわかっている。そりゃあ1年間通ってたら気づくんだろうな。それを俺がもう気づいているかどうか聞いているんだろうな。
「さあな。少なくとも、俺は散財する気は全く無いんでお気になさらず。いざって時に、無かったらヤバイんで」
「……そっか、うん。今はそれでいいと思うよ」
俺の回答にうんうんと頷き納得してくれた。
スーパーの帰り、明日香が帰る寮についた時の頼みをしてきた。
「輝、最後にもう1つ。連絡先交換しとかない?」
「イイけど」
特に断る理由がないのですんなりと連絡先を交換した。俺がこの学校に来て、初めて連絡先を交換するのがまさか明日香だとは……俺らしいと言えば俺らしいが。
明日香と連絡先を交換し、別れ俺も自分がこれから暮らす寮へと行き着く。寮…というよりも高層マンションの方が似合う外観だ。
玄関ホールにいた管理人から部屋の鍵と寮に関するマニュアルを受け取り俺は、すぐさまエレベーターの方へ向かう。エレベーターの中にはすでに1人生徒が入っていた、同じクラスの堀北だ。堀北も近づいて来ている俺に気づいたのかエレベーターのボタンを押した。位置的に堀北が押したボタンは………閉まるボタンだ………………て、おいおいおいおい!
俺は閉まるエレベーターまで駆け足で向かい閉まりきる瞬間、脚を扉に挟んで無理やり開かせ入った。
「随分とマナー違反なことをするのね」
駆け込んで来た俺に堀北は冷徹に言い放った。
しかし、
「エレベーターに乗ろうとしている奴を見てドアを閉めようとする奴にマナー云々を言われたくないな………」
俺からの返しを華麗に無視し、話しかけないでという雰囲気を漂わせている。行き先を押し、着くまで暇なので俺はさっき渡されたマニュアルを読むことにした。内容はゴミ出しの日や水の使い過ぎ、無駄な電気の使用を控えることなど、生活の基本の事柄が記載されていた。
「ガスや電気代って制限無いんだ……」
「つくづく生徒に甘い学校ね」
独り言のつもりで漏らした言葉に意外にも堀北が答えた。
意外だ。
「ここまでして、学校にはどんなメリットがあるのかしら?」
「特に無いんじゃ無いか」
「………どうこと?」
堀北の疑問に俺なりに答えてみたがどうやら堀北は理解できていないようだ。
「単純に、無料にしてないと生活できないからだ」
「全く意味がわからないわ。毎月10万も渡されていながら無料なものが無いと生活できないなんて。社会不適合者でもないんだら有り得ないわ」
「その、10万だけど……来月も貰えるのか?」
「何を言っているの?」
「高校生になったばかりの俺らに無条件で10万も入ってくると思うか?」
「………」
頭の隅っこで考えていたのだろうか堀北は押し黙る。
その状態が進み、エレベーターは俺が降りる階まで来た。
「疑問は疑問のままにしておかないほうがいいぞ」
そう言い残し、俺はエレベーターを出て、自分の部屋へと入った。
八畳ほどのワンルーム。1人で暮らすなら、十分な広さだ。部屋の中には、ベットが1つ、勉強用の机が1つ、冷蔵庫1つにクローゼット、キッチンには調理道具が完備して有り中々充実してある。
買ってきた、食材を冷蔵庫にしまい。制服のまま、ベットにダイブする。
さっきの俺の言葉、堀北の奴はどう捉えたんだろうな。堀北に言ったことを思い出しながら俺は学生証のメモ機能を使う。
俺が疑問に思えるのは今のところ3つ
高額の
意図的に分けられたクラス
そして、最大の疑問。俺が入学できたことだ
プライベートポイントは何となく予想がつくから無視するとして、どう言う意図があってクラスを分けているのか………それに、入学試験での問題の解答で合格するか?
しばらく熟考する。
「………まぁ、これは全て5月になれば分かることだし。それまでは、予定通り0ポイント生活に勤しむとするか」
翌日、最初の授業ということもあって、授業の大半は先生たちの軽い自己紹介や勉強方針などがほとんどだった。
進学校だから、頭の固い厳しそうな先生たちだと思ったら予想外なほどフレンドリーで多くの生徒が拍子抜けした。中には堂々と眠る生徒いたが先生たちは誰一人注意はしなかった。
授業を受けるか受けないかは個人の自由。ただし、それによって不利益が出ても知らん………ってとこだな。
緩んだ空気のまま昼休みになった。俺は試しに校舎内にある食堂へと向かった。俺の予想が正しかったら学食とかにも無料の物があるはずだ。
中に入り、すぐに発券機の前へ行った。目的の無料定食の山菜定食を見つけることができた。いや〜、あって良かった。もし、無かったら昼抜きになっていたよ。
2日目ということもあって、それなりに混んでいるが何とか席を確保できた。それにしても山菜定食を運んでいる時、異様に見られていたな。バレないように笑っている奴までいた。
1人寂しく、山菜定食を食べていると学生証を兼ねたケータイが鳴った。明日香からのメールだ。
『今日の放課後、体育館で部活の説明会があるから来て♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪そして出来ればうちの部に入部、頼む(>人<;)!!!』
メールを読んでいるとメール内容と同じアナウンスが流れる。
部活動か、興味は無いが暇だし行くか。
放課後、体育館に着くと予想以上に人がいた。100人近く、もしかしたら一年生全員がいるんじゃないか。
「一年生の皆さんお待たせしました。これより部活代表による入部説明会を始めます。私はこの説明会の司会を務めます、生徒会書記の
橘という先輩の下、体育館の舞台上に各部の代表者が並び立つ。その中には、明日香が居た。
これだけ人がいるなら来なくてもばれなかったんじゃ…いや、明日香なら気づきそうだ。
紹介される部活は、バスケ、野球、サッカー、陸上、弓道、柔道、水泳等のスポーツ系から茶道、美術と言った文化系と多種多様な部活が紹介される。
そして、ついに明日香の番が来た。壇上に上がり明日香は部の紹介を始める。
「あたしは軽音楽部で部長をやっている仲村って言います。読んだ字の如く、軽い音楽を楽しむ部活なので初心者でも気軽にモテたいからギター始めたいみたいな感覚で来てくれてかまいません」
紹介が終わり、一年たちに一礼して明日香は壇上から降りた。
軽音か……やっぱり興味がないな。音楽は好きだが、やっぱ弾くより聴く方がいいな。
一応、明日香の頼みも聞いたしもう帰ろっかな〜。
俺が帰ろうか考えているといつのまにか説明も最後の1人になっていた。
「……あの人は、確か……」
舞台上に立っていたのは、昨日迷子になっていた俺を助けてくれた上級生だ。
「カンペ持ってないんですかー?」
1人の生徒のヤジが飛び、場内は笑いに包まれる。しかし上級生は微動だにしない。
そのうち、体育館の中の弛緩した空気は徐々に、徐々に張り詰めていった。
壇上の先輩も監視役の先生も注意をしていないのに誰も一言も喋らない、いや、喋ってはいけないと思わせるような雰囲気の静寂が訪れた。
それを待って、壇上の先輩はゆっくりと演説を始める。
「私はこの学校で生徒会長を務める、
堀北。その苗字で俺はクラスメイトの堀北鈴音を思い出した。兄妹かなんかなのかな。
「生徒会でも、他の部活同様一般生徒から役員を募ります。立候補に必要な資格はありませんが、その場合は他の部活動への参加は禁止とします。生徒会と部活動の掛け持ちは、原則認めていません」
柔らかい口調で説明する生徒会長だが、その一言一言が肌を突き刺すように感じる。100人を超える新入生を黙らせる風格。面白い奴がいるもんだなぁ。それにしても長ったらしい話を聞くと眠くなるなぁ〜。
「ふぁぁ〜〜」
やべっ、あくびしちゃった。誰も聞いてないよな。
「それから、生徒会は半端な気持ちでの立候補者は必要としていない。もしもそのような気持ちで立候補した場合、当選することはおろか、この学校に汚点を残すことになることを理解してもらいたい。この学校の生徒会は、それだけの権利と使命が学校から認められている。この事を理解できる者のみ、歓迎しよう」
気づいてないのか淀みなく演説を終えると、生徒会長は舞台を降り体育館を出て行った。
そして、司会の橘が説明会終了を告げるまで、誰1人として口を開くことがなかった。