5月1日、プライベートポイントの支給日だ。俺が思うことはただ1つのこと。それを思いながらゆっくり学生証を見る。
「………変動なし……か」
最悪の展開だ。まあいいや、それでも10万ポイントあるし0ポイント生活にも慣れているし問題ないだろ。さっさと学校へ向かうとするか。
始業のチャイムが鳴り程なくして、茶柱先生がやって来た。その手にはポスターを入れる筒を持ちその表情はいつにも増して険しいものだった。
「これより朝のホームルームを始める。が、その前に質問はあるか? 気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ?」
茶柱先生がそう言うと、数人の生徒がすぐさま挙手した。
「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれてなかったんですけど、毎月1日に支給されるんじゃなかったんですか?」
「本堂、前に説明しただろ、その通りだ。ポイントは毎月1日に振り込まれる。今月も問題なく振り込まれていることは確認されている」
「え、でも……。振り込まれてなかったよな?」
本堂や既に気づいている山内たちに顔を向けた。池、他数名の生徒は気づいていなかったらしく驚いていた。
「……お前らは本当に愚かな生徒たちだな」
「愚か?っすか?」
「座れ、本堂。二度は言わん」
「さ、佐枝ちゃん先生?」
おそらく初めて聞く、茶柱先生の厳しい口調に気圧され本堂はズルっと椅子に収まった。
「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけが忘れられたという可能性もない。理解したか?」
「いや、わかったかって言われても。実際振り込まれてないわけだし……」
茶柱先生の説明を聞いてそれでも本堂は戸惑いながらも、不満げな様子を見せる。
はぁー、やっぱりクラス単位でポイントが振り分けられるのか。残念、残念。
「ははは、なるほど。そういうことだねティーチャー。理解出来たよ」
高円寺が声高らかに、笑った。そして足を机に乗せ、あいも変わらず偉そうな態度で本堂を指さす。
「簡単なことさ、私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった、ということだよ」
「はぁ?なんでだよ。毎月10万ポイント振り込まれるはずだろ」
「私はそう聞いた覚えはないがね。君もそうだろ?シャイニングボーイ」
ここで俺に振るなよ。あとなんだよシャイニングボーイって恥ずかしすぎるぞ!輝だからか!輝きだからか!?
「そうだな。ポイントは振り込まれるが毎月10万とは言ってなかった。それにDクラスの授業態度は最悪の一言に尽きる支給されるポイントがなくなるのは当然だな。あと、シャイニングボーイとか恥ずかしい呼び名をつけるな」
「新道の言う通りだ。遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。ひと月で随分とやらかしたもんだ。この学校では、クラスの成績がポイントに反映される。その結果お前たちは振り込まれるはずだった10万ポイント全て吐き出した。それだけのことだ。入学式の日に直接説明したはずだ。この学校は実力で生徒を測ると。そしてお前たちは今回、0という評価を受けた。それだけに過ぎない」
98回の遅刻と欠席って、まだ授業なんて120回ぐらいしかやってないぞ。そう考えるとケータイや私語の391回もすごいな。
「茶柱先生。僕らはそんな話、説明を受けた覚えはありません……」
「なんだ。お前らは説明されなければ理解できないのか」
「当たり前です。説明さえしてもらえていれば、皆遅刻や私語などしなかったはずです」
「それは不思議な話だな平田。遅刻や授業中に私語はしないことは当たり前のことだろ。小中学校で教わったはずだ」
「そ、それは……」
「現におまえを含め少数の生徒は真面目に授業を受けていただろう。全員が当たり前のことを当たり前にこなしていたらいいだけのことだったんだ。そうすれば、少なくともポイントが0になることはなかった。全部お前らの自己責任だ」
それなら真面目に授業を受けていた生徒たちの為にも集団ではなく個人にして欲しかったです。
「それに高校1年に上がったばかりのお前らが、毎月10万も使わせてもらえると本気で思っていたのか? 優秀な人材教育を目的とするこの学校で? ありえないだろ、常識で考えて。なぜ疑問を疑問のまま放置しておく」
以前、俺が堀北に言ったこととほとんど変わらない。それを聞いて平田は悔しそうな姿を見せるが、すぐに先生の目を見た。
「せめてポイントの増減の詳細を教えてください……」
「それはできない相談だ。詳細な査定の内容は、教えられないことになっている。企業の人事考課と同じだ。しかし、そうだな……。一つだけいいことを教えてやろう」
薄い笑みを浮かべ茶柱先生はクラス全員に言い放つ。
「これから先、遅刻や私語を改め……仮に今月マイナスを0に抑えたとしても、ポイントは減らないが増えることはない。つまり来月も振り込まれるポイントは0ということだ。裏を返せば、どれだけ遅刻や欠席をしても関係ない。どうだ、覚えておいて損はないぞ?」
確かにマイナスにならないのはいい情報だ。ただ、裏を返した情報は今必要じゃない。遅刻や私語を改める気持ちが削がれてしまう。
話の途中だがチャイムが鳴り、ホームルームの時間が終わる。
「どうやら無駄話が過ぎたようだ。本題に移るぞ」
手にしていた筒から白い厚手の紙を取り出し、黒板に張り付けた。
そこには、AからDクラスの名前とその横に、最大4桁の数字が書かれていた。1000ポイントが10万のプライベートポイントになるのか。下のクラスから見るとDクラスは0ポイント。Cクラスは490ポイント。Bクラスは650ポイント。Aクラスが940ポイント。落差に差はあるが全クラスがポイントを落としているな。
それに、AからDまで綺麗に並んでるな。
「お前たちはこの1か月、学校で好き勝手な生活をしてきた。学校側はそれを否定するつもりもない。ただ、それらが自分たちにツケが回って来るだけのこと。得たものをどう使おうがお前たちの自由だ。ポイントの使用に関してもそうだ。事実、その点に関しては制限をかけなかっただろう」
「なんでここまでクラスのポイントに差があるんですか」
平田があまりに綺麗にポイント差が開いてることに気が付いたようだ。
「段々理解してきたか?お前たちがなぜDクラスに選ばれたか」
「そんなの適当じゃないんですか?」
「クラス分けってそんなもんだよね?」
各々、生徒たちは友人と顔を見合わせている。
「この学校では、優秀な生徒たちの順にクラス分けがされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラスへ。駄目な生徒はDクラスへ。つまりお前たちは、最悪の不良品だということだ」
大手集団塾とかによくある制度だな。優秀な人材の近くにダメな人材がいたせいで秀才がダメになってしまうなんてよくある話だ。
「だかな、1か月ですべてのポイントを吐き出したのは史上初だ。逆に感心した、立派立派」
茶柱先生のわざとらしい拍手が教室に響く。
「このポイントが0である限り、僕たちはずっと0ポイントのままということですね?」
「ああ。だが安心しろ、ポイントがなくてもこの学校では生活できるようになっている。死にはしない。そうだろ、新道」
「なんでまた、俺に振るんですか?」
流行ってるの?ねぇ、流行ってるの俺に振るの
「とぼけるな、おまえのこの1ヶ月間の行動は知っている。なかなか面白かったぞ」
「別に面白いことなんてしてませんよ。暇だから、0ポイントで生活できるか試して見ただけですから」
「そうだな。そして、おまえは今ピンピンしている。それはポイントが無くても生活できる証明となっている」
そうだ。生活に支障はなかった。ポイントの掛かるものは一切買わず、娯楽施設を使用しない。修行僧かと思える禁欲生活に耐えれるのなら問題は一切ない。
「俺たちはこれからずっと他のクラスの奴らに馬鹿にされるってことかよ!」
ガンっと須藤は苛立ちを込めて机を蹴る。
「何だ、お前にも人の評価を気にする気があったんだな。なら、頑張って上のクラスに上がれるようするんだな」
「あ?」
「クラスのポイントは金と連動してるだけじゃない。このポイントの数値がそのままクラスのランクに反映されるということだ」
つまり、俺たちがCクラスになるには現状で491ポイント手に入れるか1ポイント手に入れてCクラスのポイントを0にするかだ。
………どっちも今すぐには無理だな。
「さて、もう一つお前たちに残念な知らせがある」
追加するように黒板に一枚の紙が張り出された。そこには俺たちDクラスのクラスメイトの名前が並び、名前の横にまたしても数字が記載されている。
「この数字が何か、愚かなお前たちでもわかるだろう」
多分、この前やった小テストの結果だな。予想通り、俺は0点か。まあ、あの回答で点数が入る方が稀だし。
「先日やった小テストの結果だ。揃いも揃ってお前らは一体中学で何を勉強してきたんだ?」
一部の上位を除き、殆どの生徒は60点前後の点数だった。30点以下の生徒もちらほらいる。
「よかったな、これが本番だったら7人は退学になっていたぞ」
「た、退学?どういうことですか!?」
「なんだ、説明していなかったか?この学校では中間テストと期末テストで1科目でも赤点を取ったら即退学だ。今回のテストで言えば、32点未満の生徒たちが退学になっていたな」
あぶねぇ、赤点とったら退学ってそんな重要な話は言っておいていてほしいな。
「ふざけんなよ!退学とか冗談じゃねえよ!!」
「私に言われても困る。この学校のルールだからな」
「ティーチャーの言うように、このクラスには愚か者が多いようだね。君もそう思うだろ?シャイニングボーイ」
「0点を取った俺になぜふる………あと、シャイニングボーイをやめてくれ」
「なに、私には君がわざと0点を取ったようにしか見えなくてね」
小テストの内容はそのほとんどが簡単なものだった。いくらなんでも0点を取るのはおかしいと考えたのか。それにしても高円寺のやつ、俺のこと買いかぶりすぎだぞ。
「高円寺!どうせお前だって、赤点組だろ!」
残念ながら高円寺の点数は90点。堀北と同じ同率で1位だった。身体能力が高く頭脳明晰。これで性格がもっと良かったらAクラスに居たんだろうな。
「それからもう1つ付け加えておく。この学校は高い進学率と就職率を誇っている。恐らくお前たちも、目標とする進学先や就職先を持っていることだろう。だが世の中にそんな上手い話はない。この学校の恩恵にあやかれるのは上位のクラスだけだ」
「つまりその恩恵を受けるにはCクラス以上に上がらないといけないということですか?」
「それは違うな平田。この学校に将来の望みを叶えて貰いたければ、Aクラスに上がるしかない」
「そ、そんな……聞いてないですよそんな話!無茶苦茶だ!」
「無茶苦茶な話ではないぞ幸村。学校も優秀でない生徒たちを企業や大学に紹介するわけにはいかないからな」
堀北、高円寺同様に小テスト1位のメガネが特徴の幸村が抗議する。そんなに行きたい大学か就職先があるのか。
「みっともないねぇ。男が慌てふためく姿ほど惨めなモノは無い」
「高円寺。お前はDクラスだったことに不服はないのかよ」
「不服?なぜ不服に思う必要があるんだい」
「お前はレベルの低い落ちこぼれだと認定されて何も思わないのか!」
熱くなっていく幸村に目もくれず高円寺は爪を研ぎ続けている。
「フッ。愚問だね。学校側は、私のポテンシャルを計れなかっただけのこと。私は誰よりも自分のことを評価し、尊敬し、尊重し、偉大なる人間だと自負している。学校側がどのような判定を下そうとも私にとっては何の意味も持たないそれに私は高円寺コンツェルンの跡を継ぐことは決まっているのでね。DだろうがAだろうが些細な問題なのだよ」
高円寺の話を聞くとどことなく俺と高円寺は似ているじゃないかと思う。俺もAとかDとか気にしてないし。他人からの評価とかもうどうでも良い。自分のことは自分がよくわかっているんだから。ただ、高円寺は唯我独尊。俺の方は傍若無人といったところか。
「浮かれていた気分は払拭されたようだな。お前らの置かれた状況の過酷さを理解できたのなら、この長ったるいHRにも意味はあったかもな。中間テストまでは後3週間、まぁじっくりと熟考し、退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している」
確信している……か、そこまで言い切れることがあるのか?今のところ俺には2つぐらいしか思いつかないぞ。
次回から中間テスト編です。いったい主人公はどう言った行動とるでしょうか。