昼休み。ずっと集中して本を読んでいた、ためか周りが見えていない状態だったが、ある放送がその集中力を削いだ。
『1年Dクラスの綾小路くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』
……綾小路が呼び出されるとは、俺と同じで特に注意されるようなやつではないはずだが……
「よろしいですか」
突然、前の方から人の声が聞こえた。見てみるとそこには、銀色の髪とベレー帽が特徴的な美少女が座っていた。一体いつから居たんだ?
「やっとこちらに気づきましたね。これ以上、無視されていたら物理的な方法でアプローチをかけていました」
「物理的って、何するつもりだったんだよ」
「そうですねえ……例えば、この杖で頭をおもいっきり叩いたり……」
「暴力じゃねぇか!」
「ふふっ。冗談です。流石にそこまでのことはしませんよ」
クスクスと笑っているが、その目はかなり本気に見えるんだが……
「それで、一体俺になんか用か?」
「用というほどのことではありませんが……ただ、何故、授業にも出ずここで本を読み漁っているのか気になりまして……」
「俺が授業をサボっているの前提の話だろ。それ」
「はあ……いくらなんでもそばに山積みの本があれば、誰でもそう考えますよ」
少女が呆れた目を俺に向ける。なかなかの観察眼だな。俺の横にある10冊以上の山積みの本に気づくとは……て普通か。
「別に、ポイントが無えから授業に出なくても良いってだけだ」
「……なるほど、中々面白い考え方ですね」
「……まあな」
俺の発言にうっすら笑みを浮かべる少女に俺は軽く驚いた。いつもなら、ここはバカにするか呆れられるか説教をされるところだ。
「どうですか。お暇なら、私とゲームでもしませんか?」
「何のゲームだ」
「チェスです」
「チェス……か」
「お嫌いですか」
露骨に顔に出ていたのか少女が俺に聞いてくる
「お嫌いですね。つまらな過ぎて」
「なるほど、では面白くする為に賭けをしましょう」
「賭け?」
「はい。あなたが勝てば私の手持ちのプライベートポイントから10万ポイントを差し上げます。そして、あなたが負ければあなたの持つ全てのポイントを貰います」
俺がDクラスってのにはもう気づいているようだな10万ポイント持ってるのは流石に分からないだろうから、なめられてるか、ゲームをさせようとしてるか……
「いいだろう。ただし、負けても泣くなよ」
「ええ。そちらこそ……」
互いに好戦的な眼で見つめ合う。
少女が持参して来たチェス盤を広げ互いに駒を並べる。
「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね」
「普通は自分から名乗るものだろ」
「それは失礼しました。私は1年のAクラスに所属しています。
「俺は1年Dクラスの新道 輝だ」
「クラスと名前だけですか?」
「何か問題でも」
「いいえ」
にこりと笑う坂柳。随分と堅苦しい喋り方だな。お嬢様なのか、こいつ。
互いに駒を並べ終えるといよいよ、ゲームスタートだ。俺が白い駒だから先攻で坂柳が黒い駒だから後攻。
「じゃあ、10万貰うぜ」
「そうなるでしょうか」
チェスとは2人で行うボードゲーム、マインドスポーツの一種である。先手・後手それぞれ6種類16個の駒を使って、敵のキングを追いつめるゲームである。チェスプレイヤーの間では、チェスはゲームであると同時に「スポーツ」でも「芸術」でも「科学」でもあるとされ、ゲームに勝つためにはこれらのセンスを総合する能力が必要であると言われている。
まぁ、俺はチェスプレイヤーでも無いし興味もすでに失せているんだが。
そうして、俺と坂柳の勝負が始まる。1手、2手と互いに淡々と淀みなく駒を運ぶ。
そして、5手、10手と重ねたところで。
「へぇ……坂柳、結構できるんだな」
「ずいぶんと、上から目線ですね。確かに現状、新道くんの方が優勢ですがこの先どうなるかわかりませんよ」
ニコニコと笑顔を保つ坂柳。まぁ、笑っているけど怒り心頭かな。
42手目、坂柳がミスをした。移動させたポーンがナイトの退路を塞いだ。しかし、これはそんなに悪い手では無い。だからこそ、このまま進めたら俺が勝つ。
「はぁ………」
勝ちの見えた勝負ほどつまらないものはない。だが、10万を差し出すのもヤダ。普通に勝ちにいくかつまらんけど。
「なに………!?」
「何をそんなに驚いているのですか?」
簡潔に言うと144手目。完全有利だった状態だったはずなのに坂柳が動かした駒によって完全に形勢を逆転された。
落ち着け、まず何手目からおかしくなった。俺は記憶を遡りどのタイミングで坂柳が仕掛けてきたのか考える。
………あの時の悪手か……だが、そこまで悪い手ではない。むしろ、並みの相手なら十二分に良い手と捉えてれる手だ。
つまり、坂柳は俺があの手を悪手と捉えるとわかっていたのか。
「随分と長く熟考されるのですね」
「……ああ。正直、なめてかかってたよ。悪かったな、流石はAクラスと言ったところか」
「構いません。私もあなたの事を最初はただのおかしな人と言う認識でしたので……」
つまり、お互い相手を最初は舐めていたが坂柳の方が先にその認識を改めただけか。
「なら……俺も本気でいかせてもらう」
「どうぞ。むしろ、そうでなくては面白くありません」
145手目。俺が駒を動かそうと手を伸ばしたその時
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴り響いた。
いつの間にか昼休みが終わりを迎えていた。ちッ、面白くなるとこだったのに。
「何を止めているのですか?」
駒から手を引き、俺に坂柳が呟く。
「5時間目が始まるぞ、行かなくていいのか?」
「逆に聞きますが。もし、新道くんが同じ立場ならどうしていますか」
これはそもそも、ポイントが残ってたらサボってねぇよ。という事を言っていい雰囲気じゃないな。真面目に答えるか
「そりゃあ、もちろん……サボるに決まってる。ポイントが減ろうが知った事じゃねえ。こんな面白い勝負の途中で授業があるからここまでとか絶対やだね」
「ええ。私も同じ理由です」
「はは。それじゃあ遠慮なく続けようか」
これまでの打ち合いからチェスの技量だけなら俺と坂柳の実力はほぼ互角。こうなると勝つために必要なのは、駆け引き、読み合い、揺さぶりあいという相手の感情という不確定要素を見抜く、心理戦がキモになる。
「チェックメイト」
5時間目の時間を全て使い有栖とのチェスが終わった。
俺の勝ちだ。
「お見事でした。まさか、あの逆境状態からあんな容易く盛り返すとは……」
「それを言うなら、それを見越しての電撃戦の方もヤバかったって。危うく、王様取られるとこだったよ」
お互いが相手を称賛している中、図書館に1人の生徒が来訪した。
「ちょっと、坂柳」
「あら、真澄さん」
「有栖の知り合いか?」
「はい。部下のような者です」
へぇー、有栖はクラスメイトを部下にしているんだ。有栖らし過ぎてなんとも言えねぇ。
「輝くん、ご紹介しますね。この子は
「よろしくな、神室」
「そんなのどうでもいいから!」
俺が握手をと手を出すと神室は俺の手を叩いて有栖に詰め寄る。
「坂柳。あんた、なんで授業サボったの?ポイントが減るの知ってるでしょ」
「怒らないで下さい真澄さん。可愛い顔が台無しですよ。それと私が授業を休んだのは輝くんとチェスをしていたからです」
「………はぁ?」
有栖の説明に神室は何言ってんだこいつと言う顔を向ける。
「つまり、坂柳はこいつとチェスをする為に授業をサボったの」
「それだと少し語弊があります。正しくは、チェスをやっている途中でお昼休みが終わったので授業を休みチェスを続行させた。になります」
「………………」
これが呆れてものも言えないってやつか実際に見るのは初めてだ。
「……それで、そのチェスはもう終わったの?」
「はい。私の負けで終わりました」
「えっ……あんたが……負けたの……!?」
「ええ。僅差とは言え、負けは負けです」
有栖の言葉を聞き神室は俺の方を向いた。とりあえず、Vサインをしてみたがアホを見る目に変わっただけだ。
「本当に負けたの、アレに……?」
「あんな感じですが。能力は本物ですよ。Aクラスにいてもおかしくない程の実力です」
そこまで言ってくれるなんてうれしいなぁ〜。
「とにかく、教室に戻るよ。あんた、身体弱いんだから早めに移動しないと」
「そうですね。ですが、もう少々待ってくれますか」
神室に一礼して有栖は俺の方へ歩いてきた。
「では、輝くん。約束の10万ポイントを……」
「ああ。あれか、別にいいよ面白かったから」
面白くなく終わったなら貰っていたが、ああも面白い勝負をしてくれたんだ。10万ポイントなんかもういらない。
「そうはいきません。約束した事なんですし果たしてもらいます」
そう言い詰め寄る有栖。これが、俺がポイントを払うのを渋っているならわかる。なんでそんなに俺にポイントを渡したいんだ。
「わかった、わかった。ありがたくポイントを貰おう」
「よろしい。それと連絡先も交換しましょう。また、勝負を申し込みたいので」
「チェスでか?」
「チェスもありますが、それ以外もありますよ」
おお、なんと面白そうな誘い。
「いいね。これ、俺の連絡先だ」
「では、こちらが私の連絡先です」
有栖から10万ポイントを貰い。互いに連絡先も交換した。
「では、御機嫌よう。輝くん」
「またな、有栖」
そう言い、有栖は神室と共に図書館を去った。
有栖たちが去った後、俺は急激な空腹感に苛まれた。そういや昼飯食ってなかったな。俺はすぐに食堂に向かい。適当に定食を買い遅い昼飯を食べる。そして食事の片手間にプライベートポイントを見る。
有栖のお陰かは分からないが、プライベートポイントを増やす方法が1つ思いついた。ただ、乗って来るやつがいるかだな……まあ、なんとかなるだろ。執拗に挑発しまくれば乗って来るやつもいるだろうし。
そしてそのまま、教室には戻らず自室へと帰ることにした。