棒術使いの冒険者は角無しと呼ばれる同僚が気に食わなかった。

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ファンタジー作品は初めてですが、以前からあったアイディアを基に書いてみました。




ゴブリンスレイヤー外伝 角無しと棒術士

どんな仕事をしていてもそうなのだろうが、一人は気に食わない奴が職場にいる物だろう。当然ながら俺の場合もそうだ。貧乏貴族の四男である俺は実家の家計を助ける為冒険者をしている。獲物は堅木を削りだし、鉄心を中に通した棒。これを用いた武術で怪物やら盗賊やらを叩きのめすのが日課だ。

 

気に入らないというのは無論同じ拠点で活動する冒険者のことである。そいつが粗暴でこっちに危害を加えてくるというわけではない。世間の人にはいまいちよくわからないだろうが、そういうタイプは冒険者としては出世できないし、長生きは難しいものだ。

 

その気に入らない奴というのは周囲から「ゴブリンスレイヤー」と呼ばれる奴だ。常に安っぽい鎧を着た無口なあいつ、俺の仲間内では兜の形状から「角無し」と呼ばれるあいつが俺は気に食わなかった。その理由は二つある。

 

まず一つ目の理由は奴の鎧がやたら汚い事だ。自分でいうのもなんだが武術を教えてくれた東方出身の母の影響で俺は非常にきれい好きだ。そんな俺からするとあんな小汚く血なまぐさい鎧を常に着ているような奴はそれだけで嫌うに値した。

 

もう一つの理由は奴がゴブリンばかりを倒しているという事だ。俺としては認めたくない事だが槍使いや重戦士

といった冒険者のエースたちも奴の力を認めており、頼りにしている。そう、奴が有能な冒険者である事は間違いない。なのに奴はゴブリンなどという弱い相手しか狙わない。俺はそれが不満だった。

 

俺は力ある者ならば苦難に挑み、弱者を守るために戦うべきだと考えている。にもかかわらず奴はゴブリンだけと戦い、俺より一つ上の銀等級に登りつめ周囲の人々の信頼を勝ち得ている。(ここだけの話だが奴の周りに美女・美少女が多いのも不満だ。あんなかわいい幼馴染がいてそれ以上何が必要なのだろうか。まったく贅沢な奴である。)

 

そういうわけで俺はゴブリンスレイヤーが気に食わなかった。

 

・・・・ああ、気に食わなかったというのはそれはもう過去の話だからだ。今では俺は奴を尊敬している。

そんな依然と相反するような思いをあいつに抱くようになった理由はこれまた二つある。

 

一つはあんたも知っているだろう。以前起こった百体規模のゴブリンに対する継撃戦だ。あれに俺も一党と共に参加していたが、あれでゴブリンに対する意識が変わった。正直言って俺もゴブリンをなめていたよ。何度か倒したこともあったし、最弱の醜く女子供を襲うしかない生き物だと思っていた。だがあの戦いでは違った。あの胸糞悪い人間の盾も、ホブゴブリンにひねりつぶされた冒険者の死体も俺にゴブリンの本当の危険性を認識させるには十分過ぎる光景だった。

 

それと同時に俺のゴブリンスレイヤーに対する認識も変わった。俺は奴のやっている事が世界を救う事ではないが、尊い行いなのではないかと思うようになっていった。そしてその意識は二つ目の理由

――――――――――俺の故郷近くの村をゴブリンから救うのを手伝ってくれた事により一層強くなっていった。

 

 

 

 

 

 

俺の故郷の近くの村は俺が里帰りに到着する二週間程前からゴブリンによる略奪に悩まされていたそうだ。まだ娘が拉致されるほどの事態にはなってないものの、すでに軽傷者も出ているらしい。そうとは知らずに実家へ里帰りするついでに村に立ち寄った俺は心臓が一瞬止まるかと思ったほど驚いた。俺の脳裏にはさっき言った戦いの時の光景がまだあったからな。あんな目に家の領地の人々も俺の子供時代からの友人も、そして俺の幼馴染である村長の娘も絶対に合わせたくなかった。

 

さらに驚いた事にそこにはあのゴブリンスレイヤーもいた。どうやらのんびり旅路を進んでいた俺より一足早くゴブリン討伐の依頼を受けて、この村にたどり着いていたらしい。

 

「なあ角無し。俺も一緒に行っていいか?」

 

「何故だ。」

 

「この村は俺の故郷みたいなものなんだ。だから頼む、俺も同行させてくれ!」

 

「承知した。」

 

いつも通り不愛想にあいつは頷き俺を受け入れた。その数時間後時刻が朝方だったこともあり、装備を整えた俺たちは出発する。俺を見送りに村長の娘が見送りに来たが、礼を言いつつも危ないから家にいろと言い含めて返した。

 

「似ているな。」

 

「あいつが?誰と・・・ひょっとしてあの牧場の子か?」

 

そういえばあの牧場の娘は5年位前はあいつと同じような目を隠した髪型をしていたはずだ。短い間しか見ていなかったが、確かそうだったはずだ。

 

「そうだ。」

 

「えっ・・・いやにてないだろ。特に胸のあたりなんて全く・・・」

 

「そうなのか?」

 

「そうなのかってお前・・・・・」

 

悪いやつなのではないのだろうが、よくわからない奴だ。

 

 

 

あの忌々しいゴブリン共の巣は近くの洞窟を利用したベージックなものだった。角無しは精密な投擲で見張りを始末する。その精度は武の道に通じた俺からしても目を見張るほどのすばらしさだ。

 

「すげえ精度だな。」

 

「当たるよう練習したからな。」

 

こともなさげに角無しは言った。簡単に言うがあの精度の投擲を行うには長期に渡る修練が必要になるだろう。改めて角無しのゴブリン殺しにかける情熱が伝わってきた。

 

その後も慎重にトラップを解除しながら俺と角無しはゴブリンを殺していく。俺の扱うやや短く切り詰めた棒は狭い洞窟においては悪くない武器だったようだ。おまけに脂や血で威力が鈍ることのない棒は多数の敵を相手に知るのに適している。俺が力を込めてふるった棒が水銀めいた速度で振られ奴らの脳天や内臓を破壊していく。

 

「GORRRRRRB!!」

 

(やべ・・・・・!)

 

だが俺は順調な道のりに油断していたのだろう。棒の威力は鈍らなくても小手に付着した奴らの汚い血液で手は滑る。俺の手から棒がすっぽ抜けてしまった。好機と言わんばかりに斧を振りかぶったゴブリンが迫る。

 

(俺はこんなところで・・・死ぬのか?)

 

だが俺の脳天が斧に砕かれる前にゴブリンの脳天に小刀が突き刺さった。ゴブリンを始末し終えた角無しがまたしても針の穴を通すような精度で投擲したのだ。

 

「はあ・・・・助かったぜ」

 

「これを巻いておけ」

 

そう言って角無しは乾いた布を取り出した。どうやらこれを滑り止めにしろという事らしい。

 

「これもだ。」

 

そして角無しはもう一つ何処かぶよぶよした物を取り出した。今度は足にこれを巻けという。

 

「滑り止めは分かるが、これは何だ?何のための物なんだ?」

 

「見ろ。」

 

そういって部屋の隅に転がっていたゴブリンの死体を指さす。どうやらボスの折檻で死んだらしいそのゴブリンの死体と続く説明によって俺はどうするべきか理解した。そして俺たちは続けて洞窟を攻略していく。

 

 

 

 

「GROAAAA!!」

 

「GOOOOOOOOAAARRB !!」

 

その数十分後とうとう最後のゴブリンたちが立てこもる部屋で俺と角無しは武器をふるう。これまで通りゴブリン共はあっけなく死んでいくが、気がかりなのは奥で呪文を唱えるゴブリンシャーマンの存在だ。奴に煽られ狂奔して向かってくるゴブリンのせいでその呪文を止められない。

 

だが俺はともかく角無しにとって投擲する為の射線が開けば十分だ。一瞬の隙をついて放たれた球体がゴブリンシャーマンの顔めがけて飛ぶ。

 

「GOB!? BUUUUU・・・・・・」

 

杖ではじきつつも内部の液体がかかったことに驚いたゴブリンシャーマンだが、それが無害な水であると知ると獲物の抵抗をあざ笑い、呪文を唱え続ける。

そして奴の得意とする拡散型の電撃呪文が杖の先端から放たれようとしたが―――――

 

「GOBAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!?」

 

「間抜けが。」

 

奴の電撃が俺と角無しに放たれる事なく電撃は水を媒介に奔り、奴とその取り巻きを貫き感電死させていく。

 

そう、角無しはトーテムの存在や電撃により焼け焦げたゴブリンの死体の状況からボスは電撃の呪文を得意とするゴブリンシャーマンと判断、土器に入れた水を被せることで奴の電撃を利用したのだ。水を踏まないように気を付けていたが、万が一こちらに電撃が伝わろうとしても足元に装備した物(樹液を固めた物らしい。)により電撃が効果を発揮することはないようだ。

 

「GOB!?」

 

「OARRRRG・・・・・!!」

 

「これで21。」

 

ボスの死に動揺する残りを俺と角無しは無慈悲に掃討する。そうして俺たちは村を脅かすゴブリン共を殺しつくした。

 

 

 

 

角無しはゴブリンが討伐された事への喜びに沸く村を後にする。なんでもまだ他にも受けたゴブリン討伐の依頼があるのだという。一人村を後にしようとする奴に俺は声をかけた。

 

「・・・・・なあ角無し。お前いつもこんな事をしてるのか?」

 

「そうだ。」

 

「・・・・意外と大変なんだなゴブリン退治って。」

 

「奴らは馬鹿だが間抜けではない。そして邪悪だ。」

 

そう言う角無しの声にはどこかゴブリンに対する怒りが感じられた。その声を聴いて俺は思う。こいつはゴブリンに誰か大切な人間を奪われたのだろうか。だからゴブリンを憎み研究し、装備を整え偏執的な準備をして奴らを殺しに行くのだろうか。ゴブリンを殺す為に、自分のような人間を出さない為に――――

 

「なあ角無しちょっといいか?」

 

「何だ。」

 

「今回はその・・・・すげえ助かったよ。あの娘もこの村の人たちも俺にとって大切な人たちなんだ。だから本当に深刻な被害が出る前にゴブリンを倒せて・・・本当に良かった。だから提案があるんだが、」

 

そこで俺は一度言葉を切る。そして自分の決意を言った。

 

「最近は仲間がいるから必要ないかもしれないが・・・・もし人手が必要なら俺は可能な限り手を貸すぜ。ゴブリン退治に、さ。」

 

「その時は、頼む。」

 

そう一言言った後角無しは踵を返し、出立していった。小鬼を殺す者。ゴブリンスレイヤーとして。

 

 

 

 

 

―――――まあそんな感じかな。俺があいつを冒険者として認めた理由は。確かにあいつは魔神やらといった強敵と戦っているわけじゃない。でも毎日のようにゴブリンを倒して多くの人々を救っている尊敬すべき冒険者だ。俺は今はそう思っている。だから俺はあいつに可能な限り協力するし、その逆もまたしかりだ。まああの格好は仕事の時以外どうにかするべきだとは思うけどな。

 

 

さて、と思ったより長く話し込んじまった。俺はそろそろ行くよ。え?一党のメンバーもいないのにどこへ行くのかって?さっき話した奴、角無しとゴブリン退治に行くのさ。お、噂をすれば影だ。じゃあ行ってくるよ邪悪なゴブリン共を倒す冒険に、な。

 


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