ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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のび太の幻想郷冒険記・のび太と不思議(すぎる)風祝編更新です。
妖怪の山で魔理沙のホウキに乗せてもらいながら守矢神社を目指していたのび太、しかし魔理沙のスピードが速すぎるせいで放り出されたのび太の運命やいかに!?


探検! 妖怪の山

 守矢神社に連れてくる最中にのび太がどこかで振り落とされた、と言う事実が発覚してしまった魔理沙。

 そばにいる早苗には目もくれず、まさかの、のび太を道中のどこかで振り落として来たと言う事実に、頭を抱えながら『あああああ』と珍しく激しい動揺をしていた。

 事情を知らない早苗としては、激しく動揺する魔理沙と言う実に珍しい光景なのだからもう少し見ていたいとも思ったりしたのだけれども、このままでは埒が明かないのでひとまず魔理沙から説明を聞く事にする。

 

「まずい、どこだ!? どこにのび太を落として来たんだ!?」

「まずは落ち着いてください。落としたって、何を落っことしてきたんですか?」

「のび太だよのび太! 博麗神社に泊まってる外来人の男の子なんだが、守矢神社に行きたいって言うから連れてくるつもりだったんだよ」

「何やってるんですか!? って言うか子供を乗せたままあんなスピードで飛んでくればそれは振り落としたって不思議じゃないですよ!」

「し、仕方が無いだろう!? 夏休みの自由研究で調べたい事があるって言うから急いだ方がいいと思ったんだよ!」

「それにしても限度と言うものがありますよ!」

 

 が、これは完全に早苗の失敗だった。

 外から来た、何の力もない(と早苗は思い込んでいる。実際にはひみつ道具で空を飛び、弾幕ごっこで魔理沙を下しているのだけれども)子供をホウキに乗せて飛んできたら、途中で振り落としましたと言われて、早苗の方まで魔理沙に引きずられるようにヒートアップしてゆく。

 その様子はさながら子供の喧嘩のよう。

 早苗を追いかけるように、社殿の中から出てきた人物が二人の間に入らなかったら二人の騒ぎはもっと続いたかもしれない。

 と言っても、出てきた人物はただの人物ではないし、まず第一に人ですらない。守矢神社の風祝である早苗に神奈子様と呼ばれた人物こそ、何を隠そう洩矢神社の祭神の一柱、八坂神奈子なのだ。

 赤い衣に背負った注連縄と言う、外で見かけたら二度見どころか三度見してから、スマホを取り出す事間違いなしなこの神奈子が出てきた事で、魔理沙と早苗もお互いにアイコンタクトで一時休戦の協定を暗黙のうちに結び、それまでの喧騒はどこへやら。たちまち静かになる。

 一方、社殿から出てきた神奈子は早苗と魔理沙の姿を目にすると、二人の間に割って入るように歩み寄る。

 その様子は子供の喧嘩を叱る母親のようにも見えた。

 

「どうしたんだい早苗、急に飛び出していったと思ったら何を騒いでいるのさ? おや、白黒の魔法使いじゃないか」

「神奈子様。聞いてください大変です! 事件です!」

「あー、わかったから早苗、まず落ち着きなさい。白黒の魔法使いが今度は何をしたのよ?」

「おいおい神様、それはひどくないか?」

「あれだけ大声出しながら外で騒げば、否が応でも何かやらかしたと思うでしょう」

 

 神奈子に騒ぎの原因であると断じられ、全く信用されていない魔理沙が反論するけれども、対する神奈子は涼しい顔。

 そんな神奈子に早苗が、これまでの経緯を説明するのだった。

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

少女説明中……

 

 

 

「……で、その外から来たのび太って子をここに連れてこようとして、途中のどこかで振り落としてしまった、と」

「ああ、早く助けに行かないと危ないんだ」

 

 珍しく必死な魔理沙の表情と言葉を、神奈子も早苗も嫌と言うほど理解していた。

 ただしそれと同時に、口には出さないだけですぐ助けに行けるほど簡単な話でない事もまた、二人は重々承知していた。

 まず、一口に妖怪の山と言っても山だけでなく、その周囲に広がる山裾もまた山の一部でありおまけにそれが非常に広い。

 もちろん魔理沙が守矢神社にやって来たルート上のどこか、ではあるのだからそこを重点的に探す事になるとは言え、そのどこかにいる人っ子一人を探せと言うのはなかなかに難しい。

 落ちた場所にそのままとどまってくれれば探す側としては御の字だけれども、もし参道に出てくれればともかく森の中へと移動されたら、探すのは非常に難しくなるだろう。

 もう一つは、妖怪の山の住人たちの存在だ。

 妖怪の山には天狗や河童と言った種族が独自の文化を築いているが、それらは極めて排他的な文化を有していて万が一にも、遭難したのび太が天狗や河童たちに先に見つかった場合どんな厄介な事になるか分かったものではない。

 おまけに妖怪の山ではいたる所で、侵入者を警戒して哨戒している者たちがそこらじゅうを監視しているのだ。

 元々の数が魔理沙や早苗と言った守矢神社の面子よりも多い以上、どちらが先に見つける可能性が高いのかは言うまでもないだろう。

 

「……仕方がないな、私の方から天狗たちに見つけたら保護するよう話をつけて来よう」

「神奈子様!」

「助かる! ちなみにのび太の格好なんだが……」

「ああ、大丈夫だろう。なにしろ妖怪に山に子供が一人で入りこんでいたら天狗が気が付かない訳がない。それよりも早く伝えておかないと騒ぎになるからね。それよりも、私が天狗たちに話を付けに行くから早苗たちもすぐに動きなさい。山の中に迷い込まれたら厄介よ」

 

 そんな現状を察した神奈子が『天狗の処に行ってくる』と言い、ふわりと浮かび上がると妖怪の山の奥、天狗たちの里へと飛んで行く。

 神奈子としても、自分の神社へとやって来ようとしている人間が遭難しているのにただ指をくわえたままで何もしない、では今後の信仰にも関わってくる事を承知していた。 

 逆に言えばここでのび太の救助に一枚噛んでおけば、もしかしたらのび太がそれを知った時に守矢神社の信仰をしてくれるかもしれない。

 打算と言われればそれまでだが、彼女たち神様にとっては、どんなに強大な力を有していても信仰されなければ存在が維持できないのだ。

 当然人命救助も大事だが、それも含めて今出せる手札はできるだけ切っておく、それが神奈子の出した結論だった。

 もちろんそれだけではない。神奈子は自分が天狗に事情を説明しに行っている間に、すぐに魔理沙や早苗に対してのび太を探しに向かうように指示を出す事も忘れてはいなかった。

 こうして神奈子からの指示を受けた早苗と魔理沙もまた、守矢神社から動き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

                  * 

 

 

 

 

 

 

「う、うーん……いてててて……。ふぅ、木の枝に引っかかって助かった……。けど、どっちに行けば守矢神社なんだろう?」

 

 一方その頃、あまりの速さに魔理沙のホウキから振り落とされたのび太はと言うと振り落とされた際、直接地面に落ちるのではなく運よく一度木の枝に引っかかる事で、どうにかケガ一つないままで助かっていた。

 それはかつて『雲の王国』において、天上連邦の絶滅動物保護区で管理棟から夜に脱走を図り、遭難した時の状況にもよく似ていたけれども、あの時と違い今回は一晩夜を明かさなくていい、と言うのが大きな違いだったが。

 とは言え、場所も分からない妖怪の山の山中に一人放り出された事実に変わりはなく、木々が生い茂る深い森の中でどちらに進めばいいのか分からないと言う状況に間違いはなかった。

 それはこの幻想郷に初めてやって来た時にも似た状況だった。ならば、のび太のする事は一つしかない。

 『よいしょ、よいしょ』と木の枝から慎重に幹へと移動し、後はしがみ付きながら地面までゆっくりと降りてきたのび太は、ズボンのポケットに忍ばせていたタケコプターを取り出すと、慣れた手つきで頭にセットする。

 また、山の名前からして『妖怪の山』などと呼ばれているのだから、と念のために魔理沙と勝負した際に使ったフワフワ銃も装備する事を忘れない。

 こうして準備を終えるとタケコプターによって浮力を得たのび太の身体が浮遊感に包まれ、すぅ、と音もなく浮かび上がる。

 そのままプルプルと独特の音を響かせながら、木々の間を縫うようにゆっくりと飛び始めた。

 これは木々が生い茂りすぎて、その間を抜けるのが難しいのでどこか隙間を見つけて、森の上空に出ようと判断した上での行動だったのだけれども……のび太を探そうと言う魔理沙や早苗にとっては、のび太が当てもなく移動し始めた事によって探しにくくなってしまう事を、今ののび太には知る由もなかった。

 

「どこかで森の上に出られればいいんだけど……」

 

 そんなのび太が飛びながら周囲を注意深く見まわしてみるけれども、なかなかそう都合のいい生い茂る木々の切れ目は見つからない。

 どこまで飛んでも目の前に広がるのは爽やかな森の緑に、外の世界とは比べ物にならないくらいに(これはのび太の家が東京の住宅地と言う事もあるだろうけれども)やかましいくらいに鳴り響くセミの声。

 それはもう、博麗神社の周りで鳴いていたセミの声がまだマシに、いやあるいはジャイアンのリサイタルの方が……いや、それと同じくらいと思えるほどともなれば思わず耳をふさぎたくなるのも仕方のない事だろう。

 

「……うー、早く守矢神社に着かないかな」

 

 これ以上は聞きたくない、とうんざりした表情で飛び続けるのび太だけれども、そもそも肝心な守矢神社の場所が分かっていないのにどうやって向かうつもりなのか、のび太にツッコミを入れる者は悲しいかな、誰もいなかった。

 だが、のび太の苦労が報われたのか、あるいは守矢の神様が奇跡を起こしてくれたのかもしれない。

 なぜなら、飛んでいる木々の間の向こう側、視界の先がだんだんと明るくなってきたからだ。

 明るいと言う事は、太陽の光や空の明るささえ隠してしまうような深い森の切れ目、つまりはのび太が探していたものが近づいていると言う事。

 その明るさに誘われるように、木々や茂みをうまく避けながら向かった先に広がっていたのは……。

 

「うわぁ……」

 

 人の手の入らない、きれいな川。

 上流からとうとうと流れる透き通った水がゴロゴロと転がる岩の間を流れてゆく光景に、のび太は思わず言葉を失った。

 確かにのび太の家の近くにも川はあるにはあった。とは言え、のび太の近所で流れている河川として思い当たる多奈川や町の中を流れるどぶ川とは、目の前の清流とはまさしく雲泥の差である。

 かつて『アニマル惑星』で裏山がゴルフ場に開発される計画が持ち上がった時、反対派としてのび太のママも立ち上がった事があった。

 その時、同じように反対派として参加していた近所に住むおじさんが『若い頃には小川でアユが採れた』と口にしていたのを、様子を伺っていたのび太たちも聞いていたが、今のび太の目の前に流れる小川はまさにそんな話に聞いた事のある小川そのもの。

 おまけにいくら森の中で涼しいとはいえ、やはり時期は夏と言う事もあって朝はそれほどでなくてもだんだんと日が高くなるにつれて暑さが増してくる。

 となれば守矢神社へ向かうのは後にして、のび太が少し川遊びをしよう、とするのは自然な事だったのかもしれない。

 そうとなれば善は急げと、靴と靴下を脱いで水のかからない岸の岩の上へと乗せておき、裸足になってそっと水面へと足を入れる。

 その瞬間に、うだるような暑い空気とは裏腹にきーんと冷えた水の温度が足を伝って全身を冷ましていく感覚がのび太の身体に伝わってきた。

 

「くーっ、冷たくて気持ちいいや」

 

 背中を駆け抜ける、水の温度を堪能してからバシャバシャと水音を立てながら川の中を歩き回り、今度は魚でも捕まえるつもりなのか水の中に動く影はいないか、ときょろきょろ見回しながら獲物を探して回るのび太。

 その様子に、ここが『妖怪の山』であると言う、人間の住まう場所とは一線を画した場所なのであると言う危機感は完全に忘れ去られているらしい。

 もっとも、博麗神社で霊夢と紫がしてくれた説明の『夜は妖怪の時間、襲われて食べられても、文句は言えない。それが幻想郷のルールなのよ』と言う文句を考えれば、夜にならないうちに神社に向かい、そして博麗神社まで戻ってくれば安心と言う心づもりなのだろう。

 つまり、今ののび太の頭の中には『昼間は安心、妖怪は出てこない。夜は危ない、妖怪が出てくる』と言う構図が出来上がっていたのだ。

だから……。

 

「あ、いたっ!」

 

 水面でゆらゆらと動く何かの影を見つけて、抜き足差し足、水しぶきをできるだけ立てないようにゆっくりと動きながら、動かない水面に動くそれへと近づいて行き飛び掛かかろうと身構えたその時だった。

 

 

 

「そこの人間! ここは我らの縄張りです! 早々に立ち去りなさい!!」

「へ……? だ、誰!?」

「こら、どこを見ているんですか! 私はここです、あなたの真上ですよ!!」

「…………? あ……」

 

 

 

 セミの声しかしないはずの、そして自分以外には誰も居なかったはずの妖怪の山に凛と響く誰かの声。

 これから水面に映る影、おそらく魚だろうその獲物を捕まえてやるつもりで、飛び掛かろうとちょうど身構えていた、その格好のまま聞こえてきた声を頼りに周りに誰かがいるのかと周囲を見回しても誰も居ない、でも声だけは聞こえてくると言うこの不思議さ。

 一方で、一体何が起きたのかと、戸惑いを隠せずにいたのび太に業を煮やしたのか、あるいはもともと怒りっぽい性格なのか、謎の声の主も自分の居場所を、すなわち自分がのび太の上にいると教えてくる。

 その声に従って視線を自分の真上へと移したのび太の先にいたのは、片手に盾を持ち、もう片方の手には大きな剣を突き付けている、白い髪の女の子だった……。

 そこでのび太は気が付いた、自分が魚だと思って捕まえようとしていた水面に映る影は、自分に向けて剣を突き付けてきているあの子の影だったのだと。




のび太の前に現れた謎の女の子!
思い切り手持ちの武器を突き付けて敵意満載の謎の少女の正体は!?(ぇ
天狗に話を付ける為に向かった神奈子様、そしてのび太を探しに出かけた魔理沙に早苗は間に合うのか!?
そしてのび太は無事に守矢神社にたどり着けるのだろうか!!!

次回、タイトル未定!!
乞うご期待!!

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