ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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だいぶお待たせしてしまいすみません。
ようやくの最新話の投稿です。ちなみにその1、となっているのは前後に分ける事にしたからです。
すみません



尚、愚痴っぽくなり申し訳ありませんが冬コミの原稿にリアルの方では容赦なく上から投げつけられる増産増産おまけに他所のラインから残業応援しろとの指示……とただいま絶賛押し潰されかかっています(滝汗
この作品を読んでいただいている方の中には社会人の方もいらっしゃるかと思いますが、皆さんも他所の部署から残業頼むとか言われてもしっかりとノウ! と断れる勇気を持ちましょう。

おにいさんとの約束だ!



妖怪の山、快晴のち台風。時々ブリザード(その1)

 白狼天狗の犬走椛が、フワフワ銃でまん丸く浮かび上がってしまいながらも、どうにか取り出した呼子を吹いた事で妖怪の山のせせらぎの下、響き渡った甲高い音。

 そのあまりの音の大きさには、思わずのび太も耳を手で押さえながら目をつむってしまう程。

 魔界大冒険で、魔界星の海に生息していた人魚の歌を防ぐためにドラえもんが用意してくれた耳バンでもあれば、今すぐに貼りたいと思ったのも一瞬の事で、すぐにその音は大空に抜けるようにすぅ、と消えていった。

 

「な、なに……? 今のは……?」

「人間、哨戒天狗として長年勤めてきた私をこんな格好にしたのは見事、と言っておきます。でも、今私が吹いた笛の音を聞いた仲間が、もうすぐ駆けつける仕組みになっているのです。勝った気でいられるのも今のうちですよ」

 

 体をまんまるくしてぷかぷかと浮かぶ椛が、のび太の質問とも独り言ともとれる呟きに答えるけれども、今のその格好ではしまらない事この上ない。

 それでも『呼子の音を聞いた仲間が駆けつける』と言う椛の言葉には、これっぽっちの嘘もなかったらしい。

 辺りの木々がざわざわと音をたてたかと思うと、すぐにのび太はそれが本当なのだと思い知る事になった。

 

 

 

ジャーン! ジャーン! ジャーン!

 

 

 

「えぇっ!?」

 

 けたたましい銅鑼の音と共に、ときの声を上げながら次から次へと飛び出してくる天狗、天狗、またまた天狗。

 椛と同じ格好をした、椛の言葉を借りるなら白狼天狗が、さすまたや御用の提灯を手にしているその姿は、椛のように追い払う事が目的ではなく、捕まえる事を目的とした装備である事に果たしてのび太は気がついたのか。

 もっとも、それにのび太が気がついた所でどうしょうもないのもまた事実なのだけれども。

 なぜなら、のび太が驚きの表情でその様子を見ているわずかの間に、飛び出してきた天狗たちはのび太をぐるりと取り囲んで水も漏らさない包囲網を敷いていたのだから。

 この辺りの動きからも、飛び出してきた天狗の援軍の練度は、相当に高い事が伺えた。

 

「その者は河童と結託し、極秘に開発された発明品……もとい兵器でもって妖怪の山に謀反を起こそうとしている可能性があります! 何としても捕らえるのです!!」

「「「御用! 御用! ……ぷっ、く、くくくくく……」」」

「さぁ、不届き者をただちに……めっ、召し捕れい……っ!」

「何を笑っているのですか! このままこの子供を放っておけば、第二第三の犠牲者が出るのですよ!」

 

 椛の言葉に応じるように、その援軍がいっせいに時代劇さながらのセリフでもって手にした獲物……さすまたや剣、御用提灯を向けとくるとなれば、威圧感も相当なものになるのは間違いない。

 間違いはないはずなのだけれども、風船のように膨らんだ格好の椛、と言う援軍として駆け付けた天狗たちにとっても予想外の格好は、彼ら彼女らの笑いのツボを見事に貫いたらしく、真面目な表情や言葉の端々で笑い声が漏れてくる。

 よくよく見てみればその口元も、必死で笑いをこらえているのがよく分かった。

 

『その格好で笑うなだなんて反則だ!!』

 

 奇しくも、のび太と天狗の心が一つになった瞬間でもあった。

 となれば、そんな状況が不満で仕方がないのは、当然その笑いを提供しているまんまるな格好の椛だろう。

 『笑っている暇があれば目の前の子供を捕まえなさい』と怒気すら漂わせながら、風船のように空中に浮かんだ格好のまま、椛は語気を強めた。

 そんな恰好ではあっても流石にそこまで言われれば援軍として駆け付けた天狗も、おちおちと笑っている訳にもいかない、と誰もが気を引き締めたようでその表情からも笑いが消えてゆく。

 と言うよりも、何人かの天狗はまだ表情が引きつっている所を見ると、消えていくと言うよりも気合と根性で無理やり笑いを消していくと言った方がいいのかもしれない。

 椛の言う通り、河童と目の前の子供が結託して謀反を企んでいるかどうかの真偽はともかくとして、確かに椛本人を風船モドキにしてしまったと言う事実がある以上、捕まえて事情を聞き出す必要がある、と言うのは誰もが思ったのだろう。

 しかし、つまりこれはのび太の弁解が通じにくくなる、と言う事でもあった。

 のび太の手にしているひみつ道具が天狗たちの言う河童などと言う、のび太からしてみれば見た事もない伝説の動物が作ったものではなく、未来からやって来た青狸……もとい猫型ロボットの親友から借りてきたと言う弁解をしようにも、今目の前で自分に向けて武器を構えている天狗たちの様子を見れば、ひみつ道具の説明をする前に問答無用で捕まる可能性の方が高い……。

 それほどまでに険悪な空気がのび太と天狗たちの間には漂っていた。

 おまけにのび太のフワフワ銃では1対1の決闘ならそんじょそこらの相手なら負けない自信はあるけれども、何しろ大人数を一人で相手にするにはあまりにも不利すぎる。

 手近にいる数人はやっつける事が出来ても、一度に発射できる弾の数が六発と決まっている以上、次に発砲するための弾を込めている間にやっつけられてお終い、となる可能性の方が高いのは目に見えていた。

 

 

 

……ならば、どうするのか?

 

 

 

 出すしかない。

 この大人数を、なるべく怪我をさせないように、それでいて無力化できるようなひみつ道具を出して、少なくとも話し合いをさせてもらえる状況に持ち込む……そんな道具を一発で取り出して、捕まる前に行動に移す事。

 それがのび太の考えた、今一番有効な作戦だった。ただし、それはとても難しい事だと言う事ものび太は百も承知していた。

 その難しい事、と言う問題点は『ドラえもんがどうして自由自在に必要なひみつ道具を取り出せるのか?』と言う所に繋がっていたりする。

 実はドラえもんのゴムまりみたいな手、すなわちペタリハンドにはドラえもんの思考に合わせて道具を吸いつけると言う機能が備え付けられている。

 これによって、ドラえもんは必要な時に欲しいひみつ道具を自在に取り出すことができるのだ。

 逆に言えば、パニックになり思考が混乱している時によくドラえもんが必要なひみつ道具をなかなか取り出す事が出来ないのも、この機能とリンクしている思考回路が混乱した事でペタリハンドが本当に欲しいひみつ道具に対して反応しない、という理由があったりする。

 つまり、そんな機能も持ち合わせていないのび太が、一発でこの大人数を相手に無力化できる道具を取り出す、と言うのは日頃ついていないのび太からしてみれば至難の業、と言ってもいいだろう。

 それでも、やるしかない。

 

「………………」

 

 博麗神社の境内で、魔理沙と弾幕で勝負をした時のような緊張感に、思わずゴクリと息を呑むのび太。

 ここまで来たら、もうやるしかないのだと、なけなしの勇気を振り絞り覚悟を決める。

 後は天狗たちのスキを伺いながら、ズボンのポケットからスペアポケットを取り出し、有用なひみつ道具を掴んで取り出して、使うだけだ。

 そうと決まれば善は急げ。

 のび太は今も手にしている、椛を笑いの中心へと仕立て上げたフワフワ銃をホルスターにゆっくりとしまい、そのまま手をズボンのポケットへと動かしてスペアポケットを引っぱり出すのと、その中に手を突っ込むと言う動作をできる限り、拳銃を抜くのと同じくらいに素早い動作でやってのけた。

 しかし周りを囲まれている以上、当然ポケットの中を悠長に探し回り、最良の道具を選び抜いている余裕はない。

 突っ込んだだけで、いろいろなモノが雑多に入っているのが手に触れる事で分かる四次元空間の中の惨状に『ドラえもんポケットの中をきちんと片付けておきなよ』と内心で親友に愚痴をこぼしながら、手に触れためぼしい道具を掴んだのと、その様子に天狗たちの一人が気が付いたのはどちらが早かったのだろうか。

 

「お前、怪しいぞ! 一体何をしている!」

「「「「「!!!」」」」」

「見つかった!?」

 

 天狗の一人が声を上げると同時に、その場全員の視線が一斉にのび太の手元へと集中した。

 それは以前にも感じた事のある感覚。ただ見られているだけのはずなのに、強烈な敵意をひしひしと感じるほどの視線が持つ嫌な感覚。

 

 

 

『のび太と夢幻三剣士』

 

 

 

 かつてのび太は気ままに夢見る機を使い夢を見ていた時にひょんな事から夢幻三剣士の新作カセットを紹介され、その世界を破滅に導かんとする妖霊大帝を唯一滅ぼす事ができる白銀の剣士ノビタニヤンとして、ユミルメ王国で妖霊大帝オドロームと戦う定めを与えられる事になった。

 しかし強大な力を持ち、のび太が召喚された時点で王国の半分近くを制圧していたほどの力を持つ妖霊大帝であるオドロームとの決戦を前にして、その前準備として不死身の力を得るために伝説の竜を倒して血を浴びる事で不死身になるよう、相棒のドラえもん(この時の役名は魔法使いのドラモン)から進言され、まず妖魔たちと戦う前に竜の住処を目指す事になったのだった。

 そうした経緯から戦う事になった、口から炎を吐き、敵対する者をことごとく石に変えてしまうと言う恐ろしい能力を持った竜。

 その中で受けた、敵意に満ちた竜の視線。

 今のび太が周りの天狗たちから一斉に受けている視線は、のび太にとってはまさにそれを思い起こさせるものだった。

 その天狗たちの敵意に満ちた視線を払いのけるように、のび太はパンツもといスペアポケットから掴んだ道具を引っ張り出す。

 かつて夢幻三剣士の世界ユミルメ王国で、ノビタニヤンとして白銀の剣に導かれるままに、幾多のピンチを切り抜けたように。

 奇しくもその姿は、偶然かあるいは必然なのか、白銀の剣士が鞘から剣を引き抜く姿にそっくりだった。

 そしてスペアポケットと言う鞘から引き抜かれた、運命のひみつ道具は……。

 

「……これは!」

「な、なんだその変な葉っぱは? まさかそんな葉っぱで我々をどうにかしようと言うのか!?」

 

 天狗が変な葉っぱと言うひみつ道具。

 言われた通り、確かにどこからどう見ても大きなバナナの葉っぱにしか見えないがこう見えてもれっきとしたひみつ道具なのだ。

 

 

 

『バショー扇』

 

 

 

 それは持ち主の自由自在に、お好みの風を吹かせる事ができるという扇型の道具。

 見た目は天狗の指摘通り変な葉っぱそのものだけれども、上空に向かって風を起こせば、のび太やドラえもん、しずかたちが風に乗って宙に浮かぶことができる程度には強い風を吹かせられるし、思い切り振り下ろせばドラえもんが家で転倒した際には台風並みの強風すら巻き起こしている。

 それ以外にも、グリップの根元にあるマイクに注文を入れればのび太がイタズラしたように『真夏の熱帯の風、暑くてじっとりと湿っぽいのを』という、夏には絶対に吹いて欲しくないような風も自由自在になんでもござれ。

 まさにこれ以上ぴったりな名前はなかなか見つからない、と言う道具でありそしてこの場において、多数の相手を殺傷する事なく無力化するには、これ以上ないほどにふさわしい道具でもあった。

 

「よーし、これなら……せーのっ!!」

「させるな、かかれっ! かかれっ!」

 

 ツキの月でも飲んでいるかと錯覚するかのような、自分の幸運に感謝しつつのび太は椛以下、自分をぐるりと取り囲んでいる白狼天狗たちの集団めがけて、かけ声をあげながらバショ-扇を振りかぶる。

 子供の力であっても、思い切り振り下ろせばどれほどの力の風が吹くかは以前ドラえもんが家の中で台風を起こした時に経験済みだ。

 バショー扇を振り下ろさんとするのび太と、それをさせまいと一斉に飛び掛かってくる白狼天狗たち。

 のび太が何をしようとしているのかは理解できなくても、それを振り下ろそうとしていると言う事は間違いなく何かを仕掛けようとしている事、天狗たちの側にとってよろしくない何かが起こるであろう事は容易に理解できる。

 のび太がバショー扇を振り下ろすのが先か? 白狼天狗たちがのび太を取り押さえるのが先か?

 

 

 

「待ちなさい!!」

「…………っ?」

「へ……っ?」

 

 

 

 そんな両者の行動は、のび太と白狼天狗たちの間に割って入ったこの一声によって無理やり中断されたのだった。

 のび太は言われたままにバショー扇を振り下ろすのを止め、また一方の白狼天狗たちもこの声の主を知っているのか、先生に怒られた生徒のように動揺した表情でその動きをぴたりと止めてしまった。

 つまりは、この声の主はのび太でも、ましてやぐるりと周りを取り囲んでいる白狼天狗たちでもないと言う事。

 空中でフワフワと風船のように浮かんでいる椛も、その声はすでに聴いているので違う事はのび太にも分かる。

 

……では、一体誰が声をかけたのか? 

 

 のび太のそんな疑問に答えるように、妖怪の山からの新たな援軍なのか、今自分たちに待てと言ったに違いない人影がふわりと舞い降りた。

 ただし、人影、と言ったけれどもその姿はどう見ても人間ではない。

 昔話に出てくる天狗のような帽子に、スカート。そして何よりも目を引くのは、その背中にくっついている黒いカラスのような翼。

 のび太がついさっき、そして今も相対している白狼天狗も確かに犬っぽい耳や尻尾が付いているけれども、それ以上に今新しくやって来た妖怪は、人間よりも妖怪らしい格好をしている。

 それは鳥の顔をしていない事を別にすればバードピアに住む、グースケたち鳥人間を彷彿とさせる格好でもあった。

 もちろん翼の勇者たちの一件以来グースケたちとは会っていないし、幻想郷に来てから知り合った人や妖怪にこんな背中に黒い翼をはやした格好をした人物は誰も居ない。

 

「……えっと、お姉さんは誰ですか?」

 

 ここ幻想郷に来てから何回目なのか。

 のび太の質問が、黒い翼の妖怪へと向けられたのだった。

 




はい、ちょっと原作とのリンクを匂わせるようなキャラがさらに出現です。
白狼天狗たちは椛以外はモブ扱いなので、これからもちょこちょこ登場しては名もない十把一絡げ、になる可能性が大ですがこの新キャラ(……一体何者なのか)はこれからも話の中で絡んでくれるといいなぁ。


後、後半はタイトル通り 本日天気晴朗ナレドモ風強シ よろしく妖怪の山に嵐が吹く予定です。

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