ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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大変遅くなってしまいすみません。
そして新年あけましておめでとうございます。今回は「ドラえもん のび太の幻想郷冒険記」の新年特別の番外編と言う形になります。
そのため、位置づけとしては本編とは絡まない別の世界線あるいはまだ描かれていないこれから起こる全ての異変や冒険まで、全部終わった後の物語、そのあたりは読んでいただいた皆様の想像にお任せする形とさせて下さい。

幻想郷のお正月にどんなひみつ道具が飛び出すのでしょうか?


番外編:のび太と幻想郷のお正月

1月1日。

 

 今年もまた一年の始まりを告げる元旦がやって来た。

 この日は博麗大結界の中も外も、あるいは今も昔もお正月と言う認識は変わらない。

 子供にとってはお年玉がもらえる一年でも一度きりの貴重なチャンスだし、おおよその大人にとってもまたお盆と並んで仕事を休める骨休めの時期となる。

 けれども、逆にお正月だからこそ忙しくなる場所もあった。

 つまりは、博麗神社、守矢神社、命蓮寺と言った宗教施設がまさに、それだ。

 

 命蓮寺は人里に近いと言う事もあり人里に暮らす人々から、そして守矢神社は妖怪の山に位置すると言う事もあり、妖怪の山の天狗や河童たちから参拝や信仰を受けている。

 そして普段は参拝客が来ないと言う事で閑散としているここ博麗神社も、一年で最大の稼ぎ時を逃してなるものかと言う霊夢のたゆまぬ努力(夢想封印による近隣の妖怪の徹底駆除、ならびに河童を力ずくで脅迫し参道の整備を依頼)によって人里の人間たち、あるいは幻想郷の有力な妖怪たちが参拝に訪れると言う、普段からは見られない光景が広がっている。

 ちなみに、近隣に生息する毛玉や雑魚妖怪の殲滅に、河童に対する脅迫のどこが努力だと言うツッコミは誰もしていない。

 誰だって命は惜しいのだ。

 

 ……と、そんな人妖でにぎわう博麗神社の境内の一角に、何もないところから見慣れぬドアがぬぅ、と現れる。

 神社にそぐわない、しかも部屋も何もないただの一枚だけと言う奇妙なドアの出現に、一体何事かと周囲の人妖がドアに視線を送るが、彼ら彼女らは、さらに驚く光景を目にする事になる。

 何もない所から現れただけではなく突然その面妖なドアがガチャリ、と開き何もない所からいきなり何人もの子供……いや一人は面妖な青狸か、がぞろぞろと出てきたのだ。

 これで驚くなと言うほうが無理な話ではあるけれども、そこは幻想郷に住まう人々。

 子供たちの中に青狸がいる事で、すぐに『理屈は分からないけれども、たぶんあの妖怪が何かしたのか』程度に認識が切り替わったのか、見た当初は驚いていた人々もなあんだ、と言った風にまた気にするでもなく参拝や、おみくじを求めたり、と言った事へと戻ってゆく。

 そしてその出てきた子供たちに、博麗の巫女は懐かしそうに声をかけるのだった。

 

「あら、のび太にドラえもんじゃない。その様子だと元気にしてたみたいね。ちなみに素敵な賽銭箱はあっちよ。何ならグルメテーブルかけを置いていってくれてもいいわ」

「こんにちはー、霊夢さんも元気だったみたいですね」

 

 そう、のび太たちが今日ここへとやって来た目的は幻想郷への初詣だったのだ。

 ちなみに普段のメンバー、つまりはジャイアンにスネ夫、そしてしずかについてだが、ジャイアンとスネ夫はみすちーの屋台で手伝い兼年越しライブに臨時参加と言う事で一緒に歌う事になっている。

 ライブ参加者に死者が出ない事を祈るばかりである、と思ったのはのび太やドラえもんだけではないのは内緒だ。

 また、しずかについては、守矢神社と命蓮寺の両方から正月の手伝いを、と言うオファーが来ていたのだがさすがに一般の、何の力もない女の子を妖怪の山に送り出すのはちょっと、と言う事で今年は妙蓮寺で白蓮や一輪、星やナズーリンと言った面々とともに人里からの参拝客に対してお手伝いをしている。

 そして、実は今回出木杉君も幻想郷に来ていたのだが、彼はと言うと人里の稗田家で、幻想郷についての資料を読み漁り、また阿求や慧音と言った知識人との討論会と言う、彼にとってもまた自身の知識見聞を広めるまたとない機会にその時間を費やしていたのだった。

 これは、幻想郷の話をのび太たちから聞いた彼が「僕も行ってみたい」と、意思表示をしたことから実現した事でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チャリンチャリン』

 

 のび太の手から離れた小銭がお賽銭箱に吸い込まれるように消えてゆき、独特の音を響かせた。

 その音を聞いた霊夢がしみじみと嬉しそうに喜びの言葉を口にする。特に博麗神社の場合は、普段お賽銭箱にお賽銭が入る事がないため、こういう時でないとこの音が聞けないと言う事がとても大きいのだろう。

 そしてのび太たちも、博麗神社に滞在していた間、誰一人としてお賽銭箱にお賽銭を入れようとやって来た参拝客がいない事は身をもって知っていたのだ。

 

「はぁ~、やっぱりお賽銭の音はいつ聞いてもいいわね」

「確かに、ここのお賽銭箱にお賽銭を入れる人って見ませんでしたよね」

「うっさいわね、そう思うならもっと入れてくれたっていいんだからね」

「そんなぁ、お年玉がなくなっちゃう……ねえ、ドラえもん。そういえばさ、確かひみつ道具に『お年玉ぶくろ』ってなかったっけ?」

「お年玉ぶくろ? 確かにあるにはあるけど……あれはやめたほうがいいと思うよ? 君だって松竹梅全部試したけどろくな事にならなかったじゃない」

 

 『お賽銭をもっと寄こしてもいいのよ』目で口ほどにものを言う霊夢の視線に、お年玉を全部取られる危機を感じたらしいのび太が『お年玉』の単語で思い出した、ひみつ道具を霊夢に渡してはどうかと、傍らにいるドラえもんへと提案して見せた。

 

 

 

『お年玉ぶくろ』

 

 

 

 まさに名は体を表す、そのままのひみつ道具であるこれは、実は種類が存在しまつ・たけ・うめと三種類に別れているのだ。

 まつはなぐさめ型で、持ち主が痛い目にあったときにその度合いに合わせてお金を出してくれる(半年入院するほどの重傷を負って約1300円)。

 たけはせつやく型で、無駄を省くとその分だけお金として省いた分のお金を出してくれる(ただし、無駄遣いしすぎるとお金が消える)。

 そして最後のうめはごほうび型となっており、人に何かいいことをしてありがとう、の言葉をもらうとその時にお金を出してくれると言う形になっているのだ(ただし一回につき10円、おまけに叱られると消える)。

 

「それお年玉じゃないじゃないのよ、もらえる金額が少なすぎるわよ……」

「ですよねぇ……」

「ほら、だから言ったじゃないか。いくら霊夢さんだってそこまでの事はしないよ」

「そっかぁ、僕はてっきり霊夢さんならたけ辺りなら喜んでくれると思ったんだけど……ごめんなさい」

「いいのよ、その気持ちだけで十b………………ちょっと待って、それのまつって『持ち主が痛い目にあった時にその度合いに合わせてお金を出してくれる』のよね?」

 

 のび太から道具説明を聞いた霊夢が思わず顔をしかめる。いくら強欲の権化のような霊夢であっても、さすがにここまでコストパフォーマンスの悪いお金の稼ぎ方をしたいとは思わなかったようだ。

 せっかく霊夢が喜ぶと思ってお年玉ぶくろを提案したのび太も、霊夢の反応には思わずしゅん、とうなだれて謝ってしまう。

 が、その時霊夢は何かをひらめいたらしい。

 まつ、つまりなぐさめ型のお年玉ぶくろと言う霊夢にとっておそらくもっとも使い道のなさそうなそれについて、わざわざ確認してくる辺り一体何を思いついたのか、もちろんのび太もドラえもんも想像できるはずもない。

 何しろ、未来の世界で半年入院するほどの重傷を負って、ようやく1300円ちょっとのお金が出る、などと言うあまりにも割に合わないものを一体どう使おうと言うのか?

 しかし霊夢が何を考えているのか、まだわかっていないのび太やドラえもんにもう一つ頼みをするのだった。

 

「お願い、のび太、ドラえもん。ちょっとどこでもドアとお年玉ぶくろのまつを貸してほしいんだけど……」

「? いいですけど……ドラえもん、どこでもドアを出してよ」

「う、うん。いいけど……どこでもドア!!」

 

 どこでもドアを貸してくれと言う霊夢に、一体何に使うのかと思いながらもドラえもんはのび太がやったように、いやそれ以上にごく自然にお腹の四次元ポケットからどこでもドアを取り出して、霊夢の目の前に据え付けた。

 もちろん、壊したり幻想郷やのび太あるいはドラえもんに迷惑をかけるようなことに使うとは思っていないのだろうけれども、一体何をするのかはっきりと霊夢の口から説明がない以上、そこにはやはり少しの不安が見て取れる。

 

「ありがとう。じゃあ、ちょっと出かけてくるわ。連れてきたい子がいるのよ……天界へ!」

「天界? 天界って言ったら多分天子さんだろうけれども……」

「「ま、まさか…………」」

 

 天界へ、どこでもドアをくぐる前に霊夢が口にしたその場所。

 連れてきたい子がいると霊夢が言った以上、おそらくは天界に住んでいる誰かを連れてきたい、と言う事なのだろう。

 そして、のび太とドラえもんの記憶の中で幻想郷の天界に住んでいる人物の心当たりと言えば、比那名居天子その人以外では永江衣玖くらいしか思い当たる人物の該当者はいなかった。

 が、竜宮の使いである彼女と先ほど霊夢が確認までしてきたお年玉ぶくろ・まつの性質とはかみ合いにくいだろう。

 となれば該当する人物は天子しかいない、それに気が付いてしまったからこそ、のび太とドラえもんは思わず互いに顔を見合せたのだった。

 

 

 

 

 

 

…………………………そして、のびたとドラえもんの想像は現実のものとなる。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!! 元旦早々いきなり変な袋を渡したと思ったら一体何するのよ!!!」

「あっはっはっは! 大漁大漁! さすが天人、身体だけは丈夫ね。夢想封印の10発や20発じゃ何ともないわ」

「「………………」」

 

 どこでもドアの向こう側で、ものすごい爆発音が響いたかと思うや否や、どこでもドアから転がるように出てきたのはお年玉ぶくろ・まつを手にし、身体や服のあちこちが焦げ付くと言う、とても元日の恰好とは思えないボロボロの比那名居天子と、両手いっぱいに山のようなお金を持ちほくほく顔の霊夢だった。

 霊夢の考えはこうだ。

 お年玉ぶくろのまつが『持ち主が痛い目にあった時、その痛みに応じた額のお金を出してくれる。ただし、半年入院するような重傷を負っても1300円くらいしか出てこない』のなら、普通の人間とは違い身体がとても丈夫な天人に持たせてありったけの夢想封印を撃ち込んでやれば、もっとお金を稼げるんじゃないか? と言うものだったのだ。

 そしてその霊夢の目論見は見事に当たった事になる。

 もちろん、今のお金のために平気で夢想封印を20発も天子に撃ち込むような霊夢を、のび太とドラえもんには止めることなど出来ようはずもなかった。

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 天子を夢想封印で吹き飛ばした事でどうにかほしいだけの金額が集まったのか、ようやく天子をボロボロにするのをやめた霊夢のお神楽を、神楽殿の前に集まったのび太たち参拝客は見学していた。

 ちなみに、そのバックではドラえもんのひみつ道具『ムードもりあげ楽団』がその能力を遺憾なく発揮し、霊夢の舞う神楽の神々しさをさらに高めている。

 いや、実際には霊夢だけでなく早苗と言う、本来ならばここにはいないはずの風祝も共に舞っている事もその一因なのだろうけれども。

 これはどういうことかと言うと霊夢の頼みで、どこでもドアをフエルミラーで増やし、博麗神社の境内と命蓮寺、守矢神社の境内をつないでしまい、お正月の3が日についてのみこの3つの場所は徒歩数秒で行き来できるようにしたのだ。

 当然いきなり繋がったこの奇怪なドアの出現に命蓮寺も守矢神社も驚いたけれども、人や妖怪が時間をかけずにすぐに移動できると言う説明にすぐに快諾。

 ついでに守矢神社に至っては、それなら博麗神社の神楽殿で霊夢だけでなく守矢神社のお神楽も全部やってしまえばいいと言う話でまとまり、博麗神社はその歴史上もっとも参拝客でにぎわうと言う奇跡にも等しい事になっていた。

 そんな経緯もあって、今博麗神社でお神楽を見学しているその見学客は人間だけでなく鴉天狗に河童、おまけに命蓮寺の面々や守矢神社の面々。さらには八雲家に永遠亭のかぐや姫たちや吸血鬼のお嬢様、神霊廟の太子様たちさえも混じると言う、ドラえもんのひみつ道具がなかったなら決してみられない珍しい光景となっていた。

 

 

 

こうして、人も妖怪も幻想郷のお正月は賑やかに過ぎてゆく……。

 




『お年玉ぶくろ』
全てはここから始まりました。これ、天子に持たせて叩きのめしたら、大金持ちになれんじゃね?or天子ならいけるんじゃね?(天子推しの皆さま、ごめんなさい)

と言う形で、使い道のほとんどないであろうお年玉ぶくろを活かす使い道を幻想郷で見つけた、そんな話です。

さて、次の更新は再び夏休みの真っ最中、妖怪の山での冒険へと戻ります(季節外れも甚だしいですが)。
皆様、2018年に引き続き2019年もどうぞよろしくお願いいたします。

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